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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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80 聖なる島

 

 ノームの中ならぬっと姿を現したのはカンカさんだった。


「あ、アリソンさん、お待たせしました」


 私はカンカさんの笑顔と明るい声を聞いて、懸念が杞憂だった事を悟った。


「カンカさん、武器は用意してきましたが、随分人数が多いのですね?」

「あ、分かるんですね。実はリドル一族の話をお祖母ちゃんにしたら、絶対に会いに行くと言い張って、そうしたら戦士長のスタークも、それならお祖母ちゃんの護衛のついでに魔蛇を退治しようと言い出して、こんな大人数になってしまいました」


 私がカンカさんの説明に納得すると、カンカさんは直ぐに後ろに声をかけた。


「お祖母ちゃん、ここにリドル一族の方がいます」

「おお、本当にリドル一族が生き残っておったのか」


 するとノームの中からぬうっと、2つの顔が現れた。


「私はマーメイド族の族長アダーシェですじゃ。貴女がリドル一族の方なのですか?」

「はい、私はアリソン・リドルと言います。アンスリウムのガイア様のお世話をしています」


 私の言葉を聞いて、アダーシェの顔には理解の色が浮かんだ。


「ああ、だからアンスリウムは環境を維持しているのじゃな」

「はい、今までは私のお祖母ちゃんがガイア様のお世話をしていました。今は私ですね」


 私がそう言うと、隣のガイア様が得意そうな顔をしていた。


「カンカの話では、モステラの神獣様のお世話をしてもらえるという事でいいのじゃな?」

「はい、そのつもりです」


 私の言葉を聞いて、アダーシェさんの目は希望の光が宿っていた。


「おお、私達の海が、元の穏やかで実り多き場所に戻るのじゃな」

「それで、聖なる島への立ち入りは許可してもらえるのですか?」

「もちろんじゃ。こちらからお願いしたいくらじゃ」


 良かった。


 これでそこにモーフ様の神域があればお世話ができる。


「カンカから聞いたのじゃが、モステラのリドル一族がどうなったのか本当に知らないのかい?」

「ええ、残念ながら」

「では、其方がモステラの神獣様のお世話をしてもらったとして、後はどうなるのじゃ?」


 流石、そこに気が付きましたか。


「実はユッカの地でグロウ様のお世話もしたのですが、グロウ様からもお世話を頼まれています」

「おお、なら、この地の神獣様もお願いできるのじゃな?」


 そんな期待を込めた瞳で見つめないでくださいよ。


「グロウ様にはお住まいである神域に一瞬で移動できるリレークリスタルの設置を許可してもらいましたので、ガイア様のお世話のついでにユッカまで行けます。モーフ様からもリレークリスタルの設置許可を頂ければ出来ると思いますが、こればかりはモーフ様のお気持ち次第なのでなんとも」


 私はあくまでもモーフ様次第だという事を強調しておいた。


「モーフ様というのがモステラの神獣様なのか?」

「ええ、そう伺っております」

「では、モーフ様に設置をお願いしてもらえんかの?」


 なんだが、話が勝手にどんどん進んでいるような気がしますね。


「ちょっと待ってください。これはあくまでも貴女達が言う聖なる島にモーフ様の神域があった場合を前提にしております。そこにモーフ様の神域が無かったら何もできませんからね」

「もちろんじゃ」

「今度は私のほうだな」


 そう言ったのは、それまで族長の隣で成り行きを見守っていた男の方だった。


「私はマーメイド族の戦士長スタークだ。大人数になったのは戦闘員を連れてきたからだ。まずは、武器を渡してもらえないか?」

「あ、こちらです」


 私は用意していた武器が入った箱を差し出した。


 スタークと名乗った男は部下を呼んで、武器を配布していった。


 男達が武器を配っている間、カンカさんが口を開いた。


「アリソンさん、それでこれからの事ですが、直ぐに聖なる島に案内します。スターク達は私達の護衛だと思ってください」

「分かりました」

「待て」


 私がそう言うと、ガイア様が止めてきた。


「如何なさいましたか?」

「アリソンよ、海中には水圧というものがかかるのだ。神力で鎧を纏うように全身に神力を纏うのだ」


 私は言われた通り、全身鎧を神力で作るような感覚で全身に神力を纏ってみた。


「これでいいのでしょうか?」


 私の姿を見たガイア様は満足様に頷いた。


「うむ、上出来だ」


 そこで私は首に下げたゴーグルを見た。


 このゴーグルは神眼を隠すために用意したものだが、両目をぴったりと覆うタイプなので海中でも使える事に気が付いたのだ。


 これなら使えるわね。


 私は両目にゴーグルをつけると、海中でも呼吸が出来るマジック・アイテムを口に咥えてから差し出されたカンカさんの手を握った。


 カンカさんが私を誘うように海中の中に入って行った。


 カンカさんは陸上のぎこちない動きとは全く違い、海の中をスイスイと泳いでいた。


 海中で現れる魔魚は武器を持った男達が簡単に仕留め、偶にこちらに攻撃してくる魔魚の動きを見切って華麗に躱すその姿は文字通り水を得た魚だった。


 やがてマーメイド達は海流に乗ると、さらに速度を上げて行った。


 私も振り落とされないように、しっかりとカンカさんの手を握っていた。


 そしてしばらく海中を進んでいると、それまでまとまって泳いでいたマーメイド達が自然と2手に別れていった。


 そして私達と離れたマーメイド達の群れは、その中に族長達が居ることからどうやら里に帰るのだと分かった。


 里に戻る族長達は別れ際に私に手を振ってくれたので、私も手を振り返した。


 海流に乗った私達が海底山脈を縫って進んで行くと、カンカさんが合図を送るように握った手をちょんちょんと引っ張ったので前を見ると、海流が大きく口を開けた暗闇の中に向かっているのが見えた。


 暗闇の中は海底洞窟のようで、ごつごつとした内壁には沢山の穴があいていた。


 周囲の男達はここが危険地帯だと分かっているようで、配布された武器を手に持って周囲を警戒していた。


 するとその穴から、突然何か細長い物が噴き出した。


 その先端が上下に裂けると、裂け目からギザギザの鋭い歯が現れた。


 どうやらあれが、マーメイド達が言っていた魔蛇のようだ。


 魔蛇が先行するマーメイド族に襲い掛かかると、狙われた男はその攻撃を体をひねって避けると手に持った短刀をその頭部に突き立てた。


 だが、魔蛇は仲間が呆気なくやられたことに気後れする事も無く、あちこちの穴から次から次へと飛び出してくるとマーメイド達に襲い掛かっていた。


 先行部隊は武器を手に危なげなく戦っていたが、魔蛇の一部はカンカさんが私を引っ張っていて動きが鈍い事に気が付いたのか、こちらを狙ってやってきたのだ。


 海中で自由に動けない私はこれには流石に焦ったが、後方を守っていたマーメイド達がやって来て直ぐに対処してくれた。


 魔蛇との総力戦が続いた中、海流に乗った私達はどうやら目的地付近に到着したようで、カンカさんが泳ぐ方向を上方に変えていた。


 カンカさんが方向を変えてから魔蛇からの攻撃は嘘のようになくなっていた。


 やがて体にかかる水圧が軽くなると、海中から体が浮き上がった。


「ここには空気があるからもう大丈夫よ」


 カンカさんはそう言ったが、私にはそこが神力だまりの中のように見えた。


 そこで神眼になっている右目ではなく、左目で見るとそこが洞窟の中に出来た地底湖のような場所に見えた。


 それから口に咥えたマジック・アイテムを外して息を吸ってみると、確かにここには空気があったので、どこか地上と繋がっている空洞があると思われた。


「ほら、あそこ、あそこが聖なる島よ」


 カンカさんが指さした方向を見ると、そこには地底湖に出来た島のようで植物は無く、砂のような細かい粒で出来ているようだった。


 そしてその島の中央には石を積み上げた塔のような人工物があった。


「あの石積はカンカさん達が作ったのですか?」

「はい、あの島が満潮で海に沈んだ後に、岩を積み上げたんです」


 という事は、あの島は時間が来ると沈むんですね。


「えっと、島が沈むまでどのくらい時間があるのですか?」

「う~ん、確か12時間くらいじゃないでしょうか? あまりゆっくりはできないと思いますよ」


 マーメイド族にとってこの島が海に沈むのは大した問題ではないのでしょうが、時間という制限があるのならもう少し早く行ってほしかったです。


 私は了解の意味を込めて頷くと、マーメイド達が聖なる島と呼ぶ陸地を神眼で視た。


 するとそこにはガイア様やグロウ様よりも規模が小さい球体になった神域があるのが見えた。


「ああ、当たりね。それからここは既に神力だまりの中だから、上陸しないで待っていてくださいね」

「神力だまり?」


 カンカさんが小首を傾げたので、もう少し付け加えた。


「ああ、神獣様がお住まいになる神域の周囲に広がる空間の事ですよ」

「すると、ここにそのモーフ様という方がおられるのですね?」

「ええ、そうですね。それじゃあ、私がモーフ様のお世話をしてきます」

「ええ、お願いします」


 カンカさんは私が上陸できるように、水深が浅くなる場所まで引っ張って行ってくれた。


 そこからは足で建てるので、私1人で聖なる島に上陸した。


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