79 双子岩
「おい、アリソン起きろ、拙い事になった」
シリルの声で目を覚ますと、ろうそくの明かりの中、シリルの顔が浮かび上がっていた。
長椅子に横になっていた私は、大きく伸びをして凝り固まった筋肉をほぐしていると、カーリーがお茶を用意してくれた。
「とりあえず、頭をはっきりさせてね」
「ありがとうございます」
寝起きで喉が渇いていたので、お茶はとてもありがたかった。
そして人心地付いたところでシリルが爆弾を落としてきた。
「包囲されている」
「え?」
「どうやら漁師達が武器を商業ギルドから運んでいる時に、カラス共に後をつけられたようだ」
大部屋に入って行くと、そこでは漁師達がテーブルに広げた図面を見つめていた。
「オラシオさん、状況はどうなのですか?」
「ああ、すまないな。どうやら俺達は下手をうったらしい」
まあ、漁師達がやけにあっさりと武器を持ち帰ってくれたなあとは思っていたんだけど、やっぱり泳がされていたのですか。
私達がテーブルの上に広げられた平面図を眺めると、オラシオは指を差していった。
「連中は、ここと、ここ、それにここにも居る」
「完全に包囲されているな」
オラシオの説明を聞いてシリルがその結論を言った。
「この拠点には秘密の通路はないのでしょうか?」
カーリーがそう言うとオラシオは首を横に振った。
「そんな便利な物があれば、俺達も悩んでいないさ」
「だが、抵抗すれば怪我人、悪くすると死人が出るぞ」
シリルの指摘に皆が押し黙った。
既に敵の目的が判明している以上、この人達を私のせいで危険に晒すことはできないわね。
「カラス共の標的は私です。私が囮になってここから脱出すれば、連中もきっと後を追いかけて来るでしょう」
「よせ、それでは相手の思い通りになるだけだ」
シリルが待ったをかけるのは当然ね。
だけど、私にだって全く勝算が無い訳ではないのよ。
「ですが、ここで籠城していては全滅する危険がありますよ。それに私がまんまと逃げおおせれば、みんな助かるとは思いませんか?」
「逃げられるのですか?」
カーリーがそう聞いてきたので、私は心配させないため笑みを浮かべた。
「大丈夫です。ガイア様も助けて下さいますので」
集まっていた皆が私をじっと見つめていたが、やがて諦めたように頷いた。
「分かった。それなら、一斉に脱出して敵を分散してやろう」
「え、大丈夫なのですか?」
「あんた一人に危険を押し付ける訳にはいかん。それにこの町の裏路地は俺達の庭だ。後は何とかなるさ」
オラシオさんも後をつけられた責任を感じているようだったので、ここはその負い目を消してあげる意味も込めて協力してもらうことにした。
「分かりました。それではお願いします」
「おう、任せておけ」
オラシオさん達漁師の皆さんが笑みを浮かべて頷いていた。
そして私達は脱出計画を練る事になった。
それが済むと、私は神眼を隠すためゴーグルをつけるとブレスレットの神黄石に触れ、ガイア様を呼び出した。
「ガイア様、モーフ様の神域に行くためこの武器が必要なのです。運んでもらえますか?」
「良いだろう」
そう言うとガイア様はカンカさんに渡す武器を体の中に取り込んでいった。
「なあ、その馬、なんだか便利そうだな」
オラシオが驚いた顔でそう聞いてきた。
「これはアンスリウムのマジック・アイテムです」
「へえ、アンスリウムには便利な道具があるんだなぁ。俺も1つ欲しいくらいだ」
「ああ、残念ながらこれは非売品なのです」
私はガイア様が不快そうな顔になっているので、慌ててそう言った。
+++++
フォンシェは、自分の計略がぴったりと嵌った事に満足していた。
商業ギルドから武器を持ち帰った連中の後をつけさせて隠れ家を見つけ出すと、直ぐに全員を集めて気付かれないように包囲したのだ。
フォンシェは部下達が配置に付いたことを確認すると、中に居る連中にこの状況を知らせてやることにした。
「よし、連中に姿を見せつけてやれ」
「はっ」
部下が合図を送ると、拠点を包囲していた部下達が次々と姿を現した。
連中の反応は直ぐに現れた。
「くくく、連中、大慌てじゃないか。連中を穴倉から追い立てるぞ。火を起こせ、火矢を使うぞ」
「はっ」
穴倉で縮こまっていても、火が付けば慌てて逃げ出してくるだろう。
そして矢先に火を付けようとしたところで、連中の拠点の扉や窓が一斉に開くと、そこから顔を隠した者達が一斉に出てきたのだ。
くそっ、頭部を隠されたらどれが緑髪か分からないぞ。
それは部下達もそう思ったらしく、だれかれ構わず追いかけてはフードを剥ぎとるという行動に出たので、直ぐに現場は混とんとした状況になっていた。
それを見たフォンシェは慌てて声を張り上げた。
「あ、馬鹿、待て、ちっこい奴を捕まえるんだ。でっかい奴は全てハズレだぞ」
だが、フォンシェの声は、大混乱になった者達の耳には届かなかった。
+++++
漁師達が一斉に駆け出す中、私もその陰に隠れて脱出すると直ぐに路地裏に隠れた。
そこにはシリルとカーリーも居て、双子岩への入口までの護衛をすることになっていた。
最初は目立つからと断ったのだけど、どうしても護衛すると譲らなかったのでお願いしたのだ。
そのためガイア様を呼び出す事ができず、ロエルの路地裏をオラシオさんに作ってもらった地図を確かめた。
「方向はあっちね」
私が地図を見ながら指さすと、反対方向からカラスの声が響いた。
「居たぞ。緑髪だ」
私達はその声に背中を押されるように走り出した。
「待て、おい、捕まえろ」
地図を手にロエルの裏路地を走りながら私が先頭、その後ろをカーリー、そして最後をシリルが走りながら、裏路地になった積み上がった空き箱を引き倒してカラスが追いすがるのを妨害していた。
それでもカラス達は執念深く追いかけて来るので、双子岩へ向かう道の入口近くまで追いかけてきていた。
「シリル、カーリー、此処から先は私とガイア様だけで行きます。貴方達はカラスに捕まらないように逃げて下さいね」
「分かった。事が済んだら商業ギルドで落ち合おう」
「分かりました」
「それではアリソン、気を付けてね」
「はい、カーリーも無事逃げ伸びて下さいね」
そして2人が離れて行くのを見ながら私はブレスレットの神黄石に触れた。
「捕まえた」
後ろから声が響くと、私はそのまま路面に叩きつけられた。
「うぐっ」
「ふははは、小娘、もう逃げられないぞ」
うつ伏せで背中に乗られていては身動きが出来ないが、既にガイア様は呼び出しているので助けを求める事にした。
「ガイア様、助けて下さい」
私がそう言うと直ぐに頭上から「ぐわっ」という男の声が聞こえて来ると、直ぐに背中の重しが消えていた。
私が立ち上がると、ガイア様は不機嫌な顔になっていた。
「黒鎧の連中はいつもアリソンを虐めるのだな」
「はい、元々リドル一族を抹殺するような連中ですから。それから申し訳ございませんが、追われていますのでガイア様の背中に乗せてはもらえませんでしょうか」
「ああ、よいぞ」
「ありがとうございます」
私はガイア様の背中に乗ると、双子岩の入口に向けてガイア様に走ってもらった。
「ガイア様、ここから先はノームの中になりますので神域を展開してくださいませんか」
「よし」
そしてガイア様が展開した神域の中に入ると、そのままロエルのドライウォールからノームの中に入って行った。
追っ手が迫っている可能性を考慮して危険感知を発動したが、流石にノームの中に入るとは思っていなかったのか、追いかけて来る輝点が現れる事は無かった。
追っ手が来ないのに安心した私はガイア様に速度を緩めてもらい、崩落した場所を慎重に飛び越える事が出来た。
カンカさんとの約束の時間に余裕をもって到着したので、私はガイア様に収納した武器を出してもらい何時でも渡せるように準備しておいた。
そして約束の真夜中、私の危険感知に海の中から続々と輝点が現れた。
カンカさんが武器の運び役として2、3人は連れて来ると思っていたのだが、現れた輝点は100を超えていた。
会合時間どおりとはいえ、ノームのせいで視界が悪く、現れた輝点の数が尋常ではないので、マーメイド達に意図が分からなかった。
私は心臓が早鐘を打つ中、ガイア様の体に触れて不安をかき消そうとした。
沢山の輝点がこちらを目指して、包囲するように近づいてくる行動はどうしても不安をかきたてた。
あの数は、カンカさんが仲間の説得に失敗したという可能性もあるのだ。
私はグロウ様にも手伝ってもらおうかと思ったが、グロウ様の分身体は初見ではどうしても魔物なので、マーメイド族に敵意が無かった場合、不幸な遭遇戦になる危険があった。
ここはガイア様に頼るのが最善の選択肢ね。
「ガイア様、いざとなったら助けて下さいませ」
「ふふふ、安心するのだ。アリソンに危害を加える連中だったら私が一掃してやろう」
ガイア様の力強い言葉に勇気をもらい、この後の展開をじっと見守る事にした。
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