78 武器調達
シリルの背後から前を見ると、商業ギルドの周りに黒鎧を着た男達が居て、出入りする人達のチェックをしていた。
「誰か探しているみたいね」
「誰かって、俺達に決まっているだろう」
「そうですよ。連中の拠点に潜入して捕虜を解放したのですから、怒っていても当然ですね」
私の言葉に2人がツッコミを入れてきた。
「でも、困ったわね。あれじゃあ、武器を運び出すのが難しくなったわ」
私がそう指摘すると、2人ともその事実に気が付いて渋い顔になった。
「何とか連中の目を盗んでギルマスに連絡を取る方法は無いか?」
「私達が傍にいる事を知ってもらえたら、何とかなるんじゃないかしら?」
シリルが考えながらそう呟いたので、私がそう答えを返した。
「確かに、私達が傍に居るのを知れば、何とかして武器を外に出そうとしてくれるかもしれませんが、連中が押しかけてきているのならギルマスが対応している筈で、その機会はなさそうですよ」
カーリーはそう言って私の案を否定した。
「目的が私達なら、商業ギルドに居ないのは明白なのですから、直ぐに他の場所を探しに行くのではないでしょうか?」
私がそう指摘すると、2人もこれには頷いた。
「分かった。何処か安全な場所に潜んで、連中が離れるのを待つことにしよう」
「ああ、それならとっておきのいい場所がありますよ」
私がそう言うと、2人は互いに顔を見合わせた。
+++++
フォンシェは目の前に集合した部下達を見回した。
閘門の破壊で負傷した者やその者達を看護する者を除くと、集まったのは15人だけだった。
だが、小娘1人捕まえるのならこれで充分だろう。
「皆、良く聞け。ドン・ブラウドフットが地下牢で殺害され、そこに拘束していた人語を話す魚が逃げていた」
「「「ええっ」」」
フォンシェがそう言うと、集まった者達から動揺の声が上がった。
「我々は、指令の弔いと捕虜を奪われたと言う失態を挽回するため、その犯人を必ず捕らえなければならない」
「「「おうっ」」」
フォンシェが鼓舞する必要も無く、集まった部下達もこのことがアンスリウムにバレたらどのような罰が与えられるか知っているので、その顔は真剣だった。
「我々が捕まえるのは珍しい緑髪緑眼の小娘だ。恐らくは商業ギルドに隠れているだろう。我々は速やかに建物を包囲してから中に突入する。急げ」
「「「はいっ」」」
フォンシェが部下を率いて商業ギルドに突入すると、まだ早い時間だったのか、受付前に客は居なかった。
フォンシェは驚き顔の受付嬢の前までいった。
「お前達が殺人犯を匿っているのは分かっている。大人しく引き渡せば良し、さもなくば強引にでも中を捜索させてもらうぞ」
フォンシェがそう言って睨むと、縮み上がった受付嬢は「上司を呼んできます」といって慌てて裏に入って行った。
フォンシェにはそれが匿った犯人を逃がす行為に見えたので、部下を率いて強引に中に押し入る事にした。
「2人着いて来い、他の者は周囲の捜索を行え」
「「「はっ」」」
+++++
商業ギルドマスターアロンドラ・ベルティは、アリソン達と別れると執務室の長椅子で仮眠をとっていたところで体を揺すられて目を覚ました。
「う・・・ん、どうかしたの?」
アロンドラが寝起きの眠い目を擦ってそう言うと、受付嬢が声を上げた。
「ギルマス、大変です。アマハヴァーラ教の奴らがギルドに押しかけてきました」
「えっ、また、なの?」
「はい、何でも、司令官を殺害した犯人を引き渡せと訳の変わらない事を言っているのです」
「はあ、殺人犯?」
突然の殺人事件に慌てて飛び起きたアロンドラが急いで着替えを済ませていると、突然扉が乱暴に開けられ、そこから黒鎧を着た連中が入って来た。
「おい、緑髪の小娘は何処だ? 隠すとためにならないぞ」
「ちょっと、ここは私の私室よ。貴方達は礼儀も知らないの?」
アロンドラが相手を非難したが、黒鎧どもは冷たい顔で睨み返してきた。
「黙れ、殺人犯を匿うお前達に配慮をする必要はない」
「殺人犯って、まさか貴方達小娘に負けたとでも言うの?」
アロンドラが相手を馬鹿にするように微笑むと、黒鎧どもは顔を真っ赤にした。
「くそっ、おい、いいから部屋の中を捜索しろ」
「「はっ」」
アロンドラが非難する中、黒鎧どもは勝手に私の部屋を家探ししていった。
「居ないな」
「当たり前でしょう。これでも私は公的機関の責任者なのよ。不正に加担することは無いわよ」
そう、どっちが不正と思っているかは指摘しないけどね。
黒鎧どもが部屋から出て行くまで平然としていたアロンドラだったが、今はあの3人に現状を知らせる方法と武器をどうやって渡すか考えなければならなかった。
状況を確かめようとギルドの受付までやって来たアロンドラは、部下からアマハヴァーラ教の連中がギルド内を家宅捜索している事を教えられた。
そしてロビーにも黒鎧が居て、こちらの動向をじっと観察していた。
それはおかしな事はするなと言っているようだった。
監視が残っている中で、あからさまに動く事も出来ず困っていると、扉を開けて漁師達が釣果をもって入って来た。
「やあギルマス、今朝の獲物だ。買い取ってくれ」
台車に載っていたのは立派な槍魚だった。
「立派な槍魚ね。買い取り額に少し色を付けてあげるわ」
「おお、それはありがたい。だが、今回は武器にしてくれないか」
「え、武器?」
「ああ、使っている物が古くなってきたからな。あ、それで今回は少し短いのを頼むよ」
アロンドラは、槍魚相手にリーチの短い武器では役に立たない事を知っていたので、オラシオが何でそんな事を言っているのか疑問に思った。
だが、オラシオがそんな事を知らないはずも無いので何か理由がある筈だと考えていると、ふっと頭の中にアリソンの顔が浮かんだ。
ああ、そう言う事か。
「分かったわ。丁度、いい物があるからそれで支払うわね」
「ああ、それは助かるよ」
アロンドラは部下に指示してマーメイド族に渡すはずだった武器が入った箱を、オラシオ達が持って来た台車に載せた。
「ふう、これで取引成立ね」
「ああ、助かるよ」
アロンドラはギルドの外に出ると、オラシオ達が見えなくなるまで見送っていた。
オラシオ、その武器は必要としている人達の元にちゃんと届けてね。
+++++
私はオラシオ達の拠点で、彼らが私達のお願いを実行して帰って来るのを待っていた。
手持無沙汰だったシリルが私に話しかけてきた。
「なあ、良く、ここに来る事を思いついたな」
「私達が追われている可能性が高かったし、それにカンカさん達に引き渡す武器を確保しなければならないのなら、他の人達に頼むしかないでしょう」
「それでもあの人達が協力してくれると確信があったのですか?」
今度はカーリーが質問してきた。
「え、だって、カンカさんを助け出すのに協力してくれたでしょう。それに彼らだって私達に協力した方が自分の利益になると分かっているのだから大丈夫だと思ったの」
「まあ、確かにそうだな」
そしてしばらく待っていると、オラシオ達が台車を引いて戻って来た。
オラシオは部屋に入って来るなり親指を上げた。
「手に入れて来たぜ」
「ありがとうございました。ギルドにはまだカラスが居ましたか?」
私はお礼を言ってから、商業ギルドでの状況を聞いてみた。
「ああ、居たぜ。あいつ等俺達が火矢を放ったと気付いていないようだったぞ」
そう言うとオラシオは可笑しそうに笑みを浮かべた。
「へえ、そうなのですね」
「ああ、それから連中が探しているのは、緑髪の小娘だと言っていたぞ」
「え、私?」
「他に緑髪の小娘が居なかったらそうなんじゃないか?」
するとシリルが疑問を口にしてきた。
「アリソン、ひょっとして連中に顔を見られたのか?」
私はカラスの拠点から脱出する時に、連中が追いかけてきた時の事を思い出していた。
2人の黒鎧に追いかけられて、木陰の方に誘導してから2人の神力弾を撃って昏倒させてから脱出していたのだ。
「あ~あ、そうみたいね」
「めんどうだな。それじゃあ、夜になってから動き出すか」
「それなんだけど、追われているのは私だけみたいだし、双子岩には私だけで行って来るよ」
私がそう言うと、シリルは怪訝そうな顔になった。
「なんでそうなる?」
「私だけだったらガイア様の背中に乗せてもらえば連中を撒くのは簡単だし、崩落している道を飛び越える事も出来るから」
本当はそのまま海の中に入って行かなくてはならないが、呼吸するためのマジック・アイテムが1つしかないというのが理由だった。
「それじゃあ、私は夜に備えてひと眠りさせてもらうわ」




