111 チャンピへ
アプルッツイは整列した兵士達を前にして、気分が最高潮に達していた。
要塞司令官から命じられたのは、獣共の砦を奪取する事だった。
正妃が命じて来た内容は敵の砦を奪取して捕虜を確保し、捕虜交換として第3王子の解放を命じるというものだった。
要塞指令の命令もその方針に沿ったもので、アプルッツイが今回の作戦に成功したら昇進は確実なのだ。
それに今回は敵が備えていないところを襲い掛かる奇襲なので、成功はほぼ確実だった。
実際獣の砦に行った外交官から話を聞くと、砦の守備兵力はそれほどでは無く、門は反対側に1つ、正面は石組の城壁で防御されていて、中央には監視塔が立っているくらいのようだ。
ねらい目は早朝の交代時間直前であり、夜のうちに部隊を動かし早朝の疲れが出て注意力が散漫になっている時間帯に一気に勝負をかけるのだ。
アプルッツイは、部隊に出撃を命じた。
要塞を出るとイーゼル平原は熱流砂から流れて来る砂が巻き上げられて視界が効かなかった。
だが、部隊を誘導する先頭部隊は事前に集合地点に設置しておいた魔力ポールから発せられる魔力波を受信するマジック・アイテムを持っているので、その信号に向かって部隊を誘導していた。
この装置は元々砂流船が目的地にたどり着くための道標として開発されたものだったが、軍でも部隊の移動用として携帯型の装置を開発したのだ。
おかげで砂嵐が発生しても迷子になる事も無く、行軍する事が可能になっていた。
こうなってくると逆に砂嵐が発生しくれた方が、敵からこちらの動きが見られない分好都合でもあった。
アプルッツイが率いる軍は途中迷子になる事も無く、スケジュールどおり集合地点に到着していた。
後は時間を合わせて一気に攻め込むだけなので、気が緩んだアプルッツイは部隊に休息を命じた。
補給班が風よけのマジック・アイテムを起動すると、そこだけ無風になり、お茶を沸かすための火起こしが可能になった。
アプルッツイが座る場所には各部隊の将軍達が最終確認のために集まって来た。
将軍達がイーゼル平原の地図を広げ、砦までの侵入経路、攻め込む部隊の順番などを決めていった。
予定時間になり、アプルッツイは獣どもの砦に向けて前進を命じた。
目の前に現れた獣共の砦は、これから起こる事を何もしらないかのように静かに佇んでいた。
そして明け方の交代時間前を狙って襲撃をかけた。
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「イーゼル平原に行けばバキラの環境が元に戻るのか?」
博士は私にそう尋ねてきた。
「1つお伺いしますが、イーゼル平原に行くにはイーゼル要塞から行く事になるのでしょうか?」
「ああ、そうなるな」
「要塞を経由しない方法は無いのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
博士が怪訝そうな顔で聞き返してきたので、私は今までの理不尽を説明する事にした。
「私はこの国の貴族に請われて環境を整えるため来ました。ところが、第3王子の誘拐に加担したという嫌疑をかけられ、その挙句第3王子との人質交換用の駒としてイーゼル要塞に送られるところだったのです」
私がそう言うと博士は驚いた顔になった。
「するとイーゼル要塞への補給船に乗っていたのは、第3王子釈放の代替として送られていたのか?」
「ええ、私の意思を完全に無視して」
博士は何やら考え込んでいたが、直ぐに顔を上げた。
「整理させてくれ。バキラの環境を改善するには神獣とやらのお世話をする必要があるのじゃな?」
「はい、その通りです」
「そしてその神獣とやらはイーゼル平原に居ると」
「はい、その通りです」
今度はイザイア少年が返事を返していた。
「分かった。ちょっと待っていてくれ」
そう言って一度出て行った博士は直ぐに戻って来た。
そして床の上にバキラの地図を広げた。
私はバキラに来て初めてこの地域の地図を見ていた。
「この地に来て初めて地図を見ました。遭難した船で困っていた時、指令室に航海図は無いかと探したのですが、何処にもなかったのです」
私がそう言うと博士はにっこり笑みを浮かべた。
「私は地質学者だからな。当然国家機密も持ち出せるのだ。ああ、それから砂流船は、目的地から送られてくる魔力波を受信して方角と距離を測っているから、航路図はもっていないぞ」
え、そうだったのですか。
広げられた地図の東側にバキラ王国、西側に獣王国が色別に記載されており、その両国がぶつかる中央部分にイーゼル平原があった。
そして一番驚いたのは黄色で示された熱流砂が地図全体の6割を占めていた事だった。
「半分以上が砂漠なんですね」
「ああ、大地が砂漠化しているから、この地図も既に正確ではなくなっているがな」
東側の王国からイーゼル平原を見ると、周囲は全て砂漠になっていてあちこちに「×」印がついていた。
「この×印はなんですか?」
私が尋ねると、博士が直ぐに教えてくれた。
「ああ、それは進入禁止の印だ」
「それは砂流船で侵入出来ないという意味ですか?」
「そうだ。そこには熱砂渦があって、入り込むとそのまま飲み込まれるのだ。砂流船でも入ったら脱出はほぼ不可能なのだ」
イーゼル平原にはその「×」印が多くて通れるのは要塞がある場所とそれともう1つしかなかった。
私はそのもう1つの方を指さした。
「すると要塞を回避してイーゼル平原に入るにはここしかないのですね」
「ああ、そうなのだが」
博士の歯切れが悪くなると、その意味をイザイア少年が教えてくれた。
「そこは魔物の住処と呼ばれている危険地帯だ」
成程、その場所は魔物がうようよいるという事ね。
「その場所を調べたのは魔物が溢れる前だから、今もその状態なのかどうか分からないのだ」
ようは行ってみないと分からないという事ね。
そう言えばモーフ様がバキラの魔虫は水に弱いといっていましたね。
「モーフ様、ギーザ様の元に行くには魔物の中を押し通る必要があるのですが、撃退は可能でしょうか?」
「出来るわね。だけど、ギーザに会う前に神力をあまり使わない方がいいから、水を用意してもらえれば、私が神力を節約しながら魔物をやっつけるのに協力するわよ」
「それは助かります」
どうやら何とかなりそうね。
「あの、砂流船で魔物の住処を通れませんか?」
私がそう言うと博士もイザイア少年も啞然とした顔で私をみてきた。
「正気なのか? そこは魔物がうようよいると言ったんだぞ」
「アリソン殿、船長も行きたがらないと思うぞ」
2人に否定されてしまったが、確かに死地に飛びこめと言って、実行してくれる人なんかいないか。
そして私が困っていると、博士が質問してきた。
「そう言えば、誰かに請われてバキラに来たと言ったな。それは誰なのだ?」
「ああ、シリル・アルドリットという名前の騎士さんです」
「それは、アルドリット公爵家の者じゃないか。それならチャンピに戻って公爵家に協力を仰いだ方が話が速そうだな」
だが、私は首を横に振った。
「私達がチャンピに到着して直ぐに近衛隊に捕まったので、その後シリルがどうなったのか分かりませんし、公爵家にも挨拶に行く前だったので、先方が知っているかどうかも分かりません」
「よし、それなら私の名前で紹介状を書こう。それで公爵も会ってくれるはずだ」
私は博士の名前が公爵家にも通じるのだろうかと思っていると、イザイア少年が口を開いた。
「博士は、国家が認めた偉いお方なのだ。公爵だって無視なんかできないくらいさ」
確かに話を聞いてもらえるのなら何とかなるかもと私が考えていると、博士が手紙を書き終えて封蝋をするところだった。
「ほら、これを受け取るのだ」
手紙には封蝋の下にトナート・ダヴィアーニという署名と王立環境研究所所長と役職が記載されていた。
私が署名を確かめていると博士がイザイア少年に話していた。
「イザイア、アリソン殿を砂流船まで送るのだ。そしてイーヴォ船長にチャンピまで送るように命じるのだ」
「はい、分かりました」
私とイザイア少年は熱砂トカゲの荷馬車に乗って砂流船が停泊している場所に走っていた。




