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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
110/113

110 広がる誤解

 

 私掠船バンダル号を指揮するマッツォーラは、まさか自分が呪いを恐れて逃げて来た場所に再び行く事になるとは思っていなかった。


 本心では里に逃げ帰りたかったが、後ろに獣王が手配した救助船を従えている状況ではそれも無理だと内心深いため息をついていた。


 そんな元気がないマッツォーラに、航海長の声が聞こえて来た。


「船長、もうすぐ目的地です」

「分かった。副長、救助船に合図を送れ」

「了解」


 マッツォーラは気が進まないが指令室の天蓋を開けて天井に上ると前方に目を凝らした。


 砂嵐の中、一瞬風が止むと、そこには自分達が襲撃した船がそのまま残っていた。


 マッツォーラは天蓋を覗き込むと中に向かって号令を発した。


「よし、進路を救助船に譲れ」

「了解」


 航海長がそう叫び返すのを聞いてから、後ろの救助船に視線を移した。


 救助船が救助行動中の間、バンダル号は周囲の警戒と邪魔者が現れた場合、実力で追い払う手筈になっていた。


「見張りは周囲の警戒を厳とせよ」


 指令室に戻ったマッツォーラは、救助船が破壊された船に近づいて行くのをぼんやり眺めていた。


 すると隣に副長がやってきた。


「救助船は大丈夫でしょうか?」

「襲撃から何日経っていると思っているんだ。生き残っていたとしても衰弱していて抵抗なんてできやしないさ」


 そして作業を眺めていると、突然見張り員の怒声が降って来た。


「敵船、数1、いや2・・・3・・・4、全部で4隻です」


 それを聞いた副長が小声で聞いてきた。


「こんな所に艦隊を潜ませているなんて、連中、待ち伏せていたんじゃないでしょうか?」


 ふん、小賢しい。どうやら罠を仕掛けていたようだ。


 ここで待ち伏せているという事は、あの船にはもう誰も居ないという事は確かだろう。


「救助船に撤退を伝えろ。多勢に無勢だ、ここは撤退するぞ」


 +++++


 アプルッツイは、王都から送られてきた至急便を手にして、これで捜索隊を出せると小躍りした。


 王命を手にしたアプルッツイは、早速要塞司令官の所に行った。


「指令、王命です。行方不明になっている補給船の捜索をお願いします」

「王命だと? 補給船に王家の宝でも積まれていたのか?」

「獣共に捕まった第3王子殿下を解放のために必要な最重要品です」


 アプルッツイの言葉をじっと聞いていた司令官は、やれやれと言った感じで手を上げた。


「分かった。要塞の全戦力を出そう。捜索隊は君が指揮したまえ」

「はっ、拝命いたしました」


 そして命令書を受け取ると、それを持って要塞の艦隊司令部を訪ね、要塞の全戦力となる4隻の砂流船の出撃を命じたのだ。



 アプルッツイが指揮する4隻の艦隊は、補給船の航路に沿ってチャンピ方面に向かって航行していた。


 陣形は出来るだけ捜索範囲を広くさせるため横陣にしていた。


 各隊の間隔は目視で姿を把握できる距離を保っており、何か見つけたら光と音で知らせる事になっていた。


 通常の半分という速度に落として何一つ見逃さないように周囲を警戒しながら進む艦隊を眺めていたアプルッツイは、その圧倒的な姿にとても満足していた。


 熱流砂の中を突き進む砂流船は、何者にも負けないという圧倒的な威圧感を放っていた。


 アプルッツイは、自分が指令室に居なくても問題ないだろうと判断すると、直ぐに船長が用意してくれた部屋に戻ると、ソファにどかりと腰を下ろしてお茶を要求した。


 戦闘艦だけあって給仕は普通に当番兵だったが、それでもお茶はまともな味のものが出て来た。


 ふぅ、やはり王命は絶対だな。


 これで正妃様の覚えも良くなるだろう。後は小娘を獣共に渡して殿下を解放させれば俺は王都に戻れるだろう。


 アプルッツイはその時の王都での歓迎を思い浮かべてニヤリと笑みを浮かべた。


 やがて廊下を走る足音がこちらに向かって来ると、扉の前で止まった。


「指令、失礼します」


 そして入って来た伝令が報告した。


「遭難した補給船を見つけましたが、その周りに獣王国の船が居ます」

「なんだと。おい、急いで艦隊を集合させろ。直ぐに獣共を叩くぞ」


 アプルッツイがそう命じたが、伝令が直ぐに動かないのに懸念を示した。


「なんだ。直ぐに命令を伝えに行け」

「あの、救助活動をしているかもしれませんが?」


 アプルッツイは、要塞に来る補給船が砂賊に襲撃され皆殺しにされた事を知っていたのでその言葉に激高した。


「馬鹿か、あの連中は補給船を襲っているんだ。奴らの流儀に倣って一匹残らず熱流砂に沈めてやるんだ」


 伝令兵が慌てて部屋を出て行くのを見てから、立ち上がるとそのまま持ち込んだ衣装ケースの前まで歩いた。


 これから始めての実戦に入るのだから当然だと言わんばかりに、正装の上着を取り出すと直ぐに身に着けた。


 ここに全身鏡が無いのが残念だが、自分の姿に満足したアプルッツイはそのまま指令室に向かった。


「船長、艦隊の集合状況は?」

「はっ、2号艦、3号艦はもうじきです。一番遠い4号艦はもう少しかかりそうです」

「よし、直ぐに全艦に戦闘準備を命じるのだ」

「えっ、戦闘準備、ですか?」

「何を驚いている。我々の船を襲っている砂賊だぞ。害虫は見つけ次第、撃滅するのは当然だろう。分かったのならさっさと号令を掛けろ」

「はっ、戦闘準備」


 船長がそう言うと、その号令が伝達されていった。


 要塞所属の船流船は、戦闘用に改造されていて天井に戦闘鐘楼があり、そこから弓兵や魔法兵を配置する事が出来るようになっていた。


「敵船、補給船から離れます」


 こちらの動きを察したのか、砂賊の船が襲撃を止めて逃げ出したようだ。


 そんな事は絶対にさせないぞ。


「船長、回り込め。絶対に逃がすな」



 戦闘は4対2というこちらが数的有利なうえ奇襲というアドバンテージもあって、補給船に接舷していた1隻は逃げきれず擱座した。


 もう1隻にもかなりダメージを与えたがあと一歩のところで逃げられた。


 せっかくの大戦果だというのに、襲撃された補給船の救助活動をしていた船から生存者はいない事を知らせて来た。


 その知らせを受けて直ぐに擱座した敵船を4艦で包囲し、下手な動きをしないように威圧してから乗り移り、船内を捜索したが、生き残っていたのは獣人だけで人間の生存者はいなかった。


 捕虜は生存者を探していただけだとかふざけた事を言っていたが、しょせんは獣、本当の事を言っているとも思えなかったので、そのまま熱流砂に放り投げてやった。


 それにしても第3王子の交換する小娘をみすみす失ったのは大きな失態だった。


 アプルッツイは正妃への報告内容は、自分が非難されないようなストーリーを必死に考えていた。


 +++++


 獣都ベラトゥーラでは、獣王バルボがマッツォーラ達の報告を聞いて驚いた。


「ニンゲンが待ち伏せしていた? そして救助隊を皆殺しにしたと?」

「獣王これは我々に対する重大な挑戦ですぞ。このままだとイーゼル砦も危険やもしれぬ。今すぐ援軍を送っておかないと危険じゃ」


 そう言って激高したのはアルドロヴアンディだった。


「きっと第3王子の件もニンゲン共の計略に違いない。時間はもうないぞ」


 獣王バルボは、アルドロヴアンディが此処まで言うのなら念のため、援軍を送っておいた方が良さそうだと考えた。


「分かった。イーゼル砦の大熊族の元に援軍を送ろう」


 +++++


 イーゼル要塞のアプルッツイからの報告を手にしたドメニコ・バレージは、深いため息をついた。


 やれやれ、これをそのまま報告したら正妃様が何と思うか想像がついたからだ。


 だが、報告しない訳にもいかないので、気が重かったが、正妃への報告に向かった。


 正妃との面会は何時ものサロンだった。


 相変わらず周囲の侍女を侍らせあらゆる世話をさせていた。


「バレージ伯爵、それでどうなっているのです?」

「はい、第3王子殿下と交換するための小娘を乗せた補給船が砂賊に襲われました」

「それで?」


 正妃の冷たい声にそっと顔をあげると、そこには能面のような表情のない顔があった。


 アプルッツイの報告によると、あの補給船に小娘が乗っている事が事前に漏れていてまんまと連れ去られたとあったが、そのまま言うと自分の責任にされるのだ。


「イーゼル要塞側の対応が遅れたため、捜索隊の出動が遅れ、あと一歩のところで獣王国側に小娘を奪還されたようです」

「それでは我が子は戻って来ないと?」


 ドメニコはその冷たい声に言葉を失っていると、突然「バシン」という音が響いた。


 音に反応して顔を上げると、正妃が手に持っていた扇子が折れていた。


「今頃クレートは獣共の傍で心細い思いをしているのですよ。それなのに交換品をまんまと奪われて、手が無いと言うのですか?」

「・・・」

「ここまで馬鹿にされたのです。ここは当然我々がどれだけ怒っているか連中に、思い知らせる必要があるでしょう」

「は、はい、誠にその通りでございます」


 ドメニコが慌てて同意すると、正妃はとんでもない事を言ってきた。


「では、連中のイーゼル砦を奪いなさい。そして砦とクレートの交換を要求するのです。分かりましたか?」


 それは確認ではなく、決定だった。


「はい、畏まりました」


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