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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
109/112

109 滅亡の危機

 

 暗闇の中、振り上げられた暗殺者の両手で握られた鈍い光が見えた。


 そして私は布団の中で胸の上に乗られ、身動きが取れない状況に追い込まれていた。


 やがて振り上げられた刃物が鈍い光とともに私の顔面目掛けて振り下ろされたが、動けない私は抵抗ができなかった。


 お祖母ちゃん、ごめん。


 もう神獣様のお世話が出来なくなったわ。


 そして目を瞑って最後の衝撃が来るのを待っていると、頭上から「ぎやっ」という声が聞こえ、それまでがっちりと拘束されていた私の体が自由になった。


 生き延びた事にほっとしたが、何がどうなったのかが気になって上体を起こすと、私を殺そうとしていた暗殺者は自分の顔に張り付いた何かを振り払おうとしていた。


 涙ぐんだ瞳を拭いもう一度それを見ると、暗殺者の顔に張り付いたそれは小さくなったガイア様だった。


 ガイア様が私を助けようと必死に奮闘する姿を見て胸にじんときたが、その小さな体では直ぐに力負けしてしまうとハラハラした。


 その心配は直ぐに的中し、暗殺者は顔面に張り付いたガイア様をむしり取ると床に押し付けて手に持った剣を突き立てた。


「あっ」


 私が思わず声を出した瞬間、ガイア様の背中に突き立てられた剣は「ガキン」という音と共に弾き飛ばされた。


 そこでようやくガイア様の分身体の本来の大きさを思い出したが、どうしてもあの小動物の見た目が心配を誘うのだ。


 私はこの場で最大の脅威を排除しようと、弾き飛ばされた剣が何処にあるのか床を探し回った。


 そして剣を見つけて手を伸ばすと、私の行動を見たのか暗殺者に体当たりをされて弾き飛ばされた。


「きゃっ」


 床に倒れた私が暗殺者の方を見ると、再びガイア様がその顔をひっかいていた。


 何とかガイア様に加勢しなければと思ったが、下手に手を出すとかえって足手まといになると思い神眼を開くことにした。


 そしてガイア様が分身体が馬の大きさに変化したところで、暗殺者がその体に下敷きになっていた。


「ガイア様、ひょっとして押しつぶしていませんよね?」

「うん、ああ、生きていると思うぞ。多分」

「多分、ですか」

「アリソンよ、敵に情けを掛けなくてもいいのじゃないか?」


 まあ、そうなんでしょうけど。


 でも、殺されそうになったのだから、その理由くらいは知りたいと思うのは当然ではないでしょうか?


「それではガイア様、そっとどいてもらえますか?」


 そしてゆっくりとガイア様が場所を移動すると暗殺者の顔が現れた。


「え? どうして」



 手足を縛られて床に転がされた暗殺者は、イザイア少年だった。



 分身体の大きさになったガイア様が隣に控える中、私はグロウ様の帽子とモーフ様のローブを羽織って防備を固めてから、気を失ったイザイア少年を揺り起こした。


「う・・・うん」


 意識を取り戻した少年は私の顔を見て目を細めたが、手足が縛られているのに気付き何とか解こうと無駄な抵抗をしていたが、簡単にはその拘束を解けないと理解すると大人しくなった。


 私は鋭い視線で睨みつけてくるイザイア少年に話しかけた。


「何故、命を狙うの?」

「・・・」


 私は少年の顔を見つめながら、私の暗殺を指示したのはダヴィアーニ博士だろうかと考えていた。


 そしてそれは無いと判断した。


 博士が私を暗殺したいのなら、あの護衛隊長に頼んだ方が確実だからだ。


「言いたくないのなら、この事はあの博士に言うしかないわね」


 これは効いたようで、イザイア少年は目を剥きながら真っ赤になっていた。


「お前こそ、リドルのくせに、敵に寝返った裏切り者じゃないか」


 私はこの少年にリドル一族だとバレた事に驚いた。


 拙い、何か、気付かないうちに自分でリドル一族だとバレるような行動や言動でもあっただろうかと真剣に考えた。


「アリーちゃん、そこで考え込むと相手に事実だと肯定するようなものじゃぞ」

「あっ」


 私が声を上げると、イザイア少年が憎しみを込めた恨み節を吐き出した。


「バキラのリドル一族はカラスに皆殺しにされたんだぞ。一族の仇敵に尻尾をふるなんて、よくそんな事ができるよな」


 私は呪いのような言葉を浴びせかけられて怯んだ。


「まさか、貴方、リドル一族なの?」

「なんで裏切り者が神眼を持っていて、俺が持てないんだ。俺が神眼を持っていれば、博士がこんなに苦労しなかったはずだし、国が亡びる事も無くて済んだんだ」


 最後はほぼ叫んでいるようなものだった。


「ちょっと待ってよ。私がバキラに来た目的の1つは、ギーザ様のお世話をする事なのよ」

「そんな事誰が信じるか。それよりもお前の神眼を寄越せ。俺がこの地で神獣様のお世話をするんだ」


 この少年はまだ神眼が発現していないのね。


 でも、私もお祖母ちゃんに助けてもらってようやくだったわよ。


「貴方、年齢は?」

「何の関係があるんだ?」

「私が神眼を発現したのは14歳よ。それもお祖母ちゃんに手伝ってもらってやっとね」

「祖母も裏切ったのか?」


 まあ、そう簡単には信じてもらえないわよね。


「アンスリウムの地を統べる神獣様が、ガイア様なのは知っているの?」

「ああ、それくらいは知っているさ」


 私は隣のガイア様を見た。


「ふむ、私がそのガイアだ」

「馬が喋ったぁ」


 動揺するイザイア少年に、少し説明する事にした。


「いい、良く聞いて。ガイア様の神域はアマハヴァーラ教の大神殿の中にあるの。私はガイア様のお世話をするのに必要だったから、仕方なくアマハヴァーラ教の神官になったのよ」

「ふむ、アリソンは良くやっているぞ」


 私の説明にガイア様が頷いていた。


 イザイア少年は喋る馬という信じられない物を目の前にして、私の説明が嘘だとは断言できないでいた。


「神獣様はその土地神様だ。ガイア様がアンスリウムから外に出るはずがない」

「ああ、このガイア様は分身体で、本体はちゃんとアンスリウムで環境を整えていらっしゃるわよ。私がカルテアまで行くので、分身体をお貸しくださったのよ」


 イザイア少年は私と隣のガイア様に交互に視線を向けていたが、やがて「はぁ」とため息をついた。


 どうやら私の説明を受け入れたようだったので、先ほど気になった言動を聞いてみる事にした。


「さっき言った、この地が滅びるというのはどういう意味なの?」

「ああ、私もそこが知りたい」


 突然後ろから声が聞こえたので思わず振り向くと、いつの間にかそこには博士が立っていた。


「先生、どうしてここに?」

「馬鹿者、あんな大声を出されて眠っていられるか」


 ああ、かなり感情的に怒鳴っていたし、あれで眠っていられる方がおかしいわよね。


 そして博士は少年の怒鳴り声で大体の事を察したのか、少年の頭にげんこつを落としていた。



 涙目の少年が落ち着いたところで、バキラ王国が滅びるという話の続きを私にではなく博士に話していた。


 まあ、別のそれでもいいんだけどね。


「博士、去年辺境の村が消えたのを覚えておいでですか?」

「ああ、北の村だな。覚えているぞ。原因不明の消失だったな」

「あの村は熱砂津波に飲み込まれたのです」

「熱砂津波? なんだそれは」

「熱流砂がまるで津波のように襲い掛かって来るのです。村がこれに襲われると、人々はその質量に押しつぶされ、家は熱で燃え上がるのです」


 イザイア少年の説明に博士は驚いた顔になった。


「何故、それを今まで黙っていたのだ?」

「言えば理由を聞かれますが、それを信じてもらえる自信がありませんでした」

「それが今話していた神獣だというのか?」


 イザイア少年が頷いた。


「熱砂津波は、環境を破壊する愚かな我々に対する神獣様からの最後の審判なのです」


 イザイア少年の言葉に衝撃を受けた博士は一瞬だまったが、直ぐに口を開いた。


「それを防ぐ方法は無いのか?」


 するとイザイア少年はとても悲しそうな顔になった。


「本来なら、僕が神獣様のお世話が出来たら良かったのですが、残念ながら僕にはその能力が無いのです」


 そして恨めしそうな眼を私に向けて来た。


 それはまるで、お前に助けてもらわなければならないのは不本意だと言っているようだった。


 私は一つため息をつくと、同意するように頷いた。


「ギーザ様の神力だまりが何処にあるのか知っているの?」

「イーゼル平原だと聞いている」


 見通しの良い平原なら直ぐにギーザ様の居場所が分かると思ったが、次の一言でそれが難しいかもしれないと考え直した。


「そこはバキラ王国と獣王国の最前線ではないか」


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