救助
「遅くなった! 炊き出しの方はどうなってる?」
少し遅れて炊き出しの場に到着すると、毛布にくるまった人が数人見られた。
おそらく、まだ救助の途中なのだろう。
巻き込まれたのだと思しき軍の人や、平民の人が身を寄せ合っている。
さすがに重かったのか、甲冑も脱いでしまっていた。
「もう少しで出来上がりますが、器がありません」
「考えてなかった、ごめん。それはこちらでどうにかするよ」
困ったような表情を浮かべた料理長に、簡単な謝罪を告げてその場を離れる。
どうにか、と言っても方法を考えないと。
さすがに家から持ってくるわけには行かないだろう。
屋敷にある食器類はすべて高級品だから、万が一平民が壊してしまったらこちらの落ち度でも相手に迷惑がかかるし、何よりできる限り早くに提供したいのに時間もかかってしまうだろう。
着替えの服と同様に、各家から持ってきてもらうしかないか。
軍は身分の貴賤に関係なく入れるとは言え、入軍後には最低限の教育を叩き込まれるはずだから、家のものを使っても問題ないだろうし、彼ら分の食器は御者に伝言を頼んでおこう。
「ここに滞在している軍人さんの人数分の器を追加で持ってきてくれる? 深めのスープ皿優先で、とも伝えて」
ちょうど馬車から何度目かの荷物を降ろしている御者に伝言を頼み、その場を離れる。
中身を見るに、温かいスープ系を出すつもりらしかった。
肉なしポトフみたいな感じなのか、なんて思いながら、炊き出しブース前の人を見る。
雪崩の予防をあきらめると決めてから、放蕩貴族さながらに街を練り歩いたおかげで、誰がどこの家庭の人なのかよくわかる。
伊達に三年間も周辺地域を探索していないのだ。
歩き回ってなければ家の住所を訊くしかなかったのだろうが、できる準備の内に入っていたおかげで、手間が省けた。
多くは根菜類を中心に作っている農家の人たちだったが、中にはやはり、出稼ぎに行っていないんだと語られていた人もいた。
住宅が多く並ぶ方に向かって走る。
まだ家の付近にいてくれたらいいのだが、そうじゃなかったら、わざわざ追い返すことになってしまう。
それはさすがに申し訳ないけれど、仕方ない。
自分ができるのは、そういった人を減らせるように、一刻も早く伝言することくらいだ。
とりあえず、既に集まっている人の家庭に伝えるのが先決だな。
他の人に周知するのはその後だ。
「あら、リューゲ様。どうしたんですか?」
「今出たばかり? じゃあ手短に言うね。今炊き出しをしてるんだけど、器がないから深めのお皿を持ってきてほしいんだ」
住宅街に入る直前、向かい側から一人の奥さんが声をかけてくれる。
確か彼女の家はすぐそこだったはずだ。
旦那さんは確かにあの集まりにいた。
ごめんねと言い残し、さらに奥へ走る。
あの人があの辺りにいるってことは、既にリーヴルはあらかた伝え終わっているのかもしれない。
仕事が早いのは良いことなんだけど、できれば合流して伝言増やしたかったなぁ、なんて頭の片隅で考えつつ、すれ違う人全員に言っていく。
そうしてそろそろ回り終わったかと言うところで、リーヴルと合流することができた。
「リーヴル!」
「リューゲ坊、そんなに急いでいかがなさいましたかな?」
「器が、ないこと、忘れてて……急いで伝え回ってて…………」
「なるほど、それはお疲れ様でございます」
軽々と自分のことを抱き上げ、リーヴルは深く頷く。
ゼェハァと肩で息をしている自分を気遣ってのことだろう。
こういったスマートな姿勢は見習うべきなんだろうな。
「アオフリヒ様が山で救助の助けをしてくださってるから、僕も早く戻らないと。リーヴルも、アオフリヒ様と一緒に救助された人を炊き出しのところまで誘導してくれる?」
「もちろんですとも。リューゲ坊はどうなさいますか?」
「僕は独断で炊き出しとか始めた責任があるから、そっちの方に行く。トラブルとかあるかもしれないし」
「でしたら、僭越ながら、そちらまでご案内させていただいてもよろしいですかな?」
「わかった、ありがとう。お願い」
自分を抱えたまま、にこりと微笑んだリーヴルは、疲れた様子も見せずに歩いていく。
さすがの自分も九歳で、重荷になると思っていたのだけれど……この様子だと、杞憂だったみたいだな。
リーヴルは老齢と言ってもおかしくない程度には年を取っているから、あまり負担をかけないようにしてきたけれど、そんな遠慮すら必要なかったかもしれない。
まぁいいや、リーヴルの好意には甘えておこう。
「到着いたしました」
「ありがとう。疲れてると思うけど、よろしくね」
「承りました」
人目があるからか、普段の三割増し程度に恭しく言葉を紡ぐリーヴルが、思わずむず痒く感じる。
そんなことを考えているより先に、この場をどうにかしないと。
「みなさん、体を拭いて、服を着替えた人から温かいスープを配布します。準備が終わった人から来てください」
大きく息を吸い込み、できる限りの大声で知らせる。
細かい指示は、近くに行ってから伝えたほうがいいだろう。
軍人さんには、馬車で持ってきたものの中に着替えとタオルがあることを伝え、平民には各家庭から着替えと布を持ってきてもらえるよう頼んであることを伝える。
同時に、平民の人には家から器も持ってきてもらっていることと、炊き出しを受け取るときはそれと貸した毛布を持ってきてもらうことを話し、量が少なくなってしまうことについて謝罪した。
既に何人か来ていた人は、その話を受けてすぐに行動に移してくれる。
仕方ないこととはいえ、この寒空の下で全身脱ぐように言うのはとてつもなく申し訳ない。
着替えの場所すら作れないものだから、温まるために渡した毛布を仕切り替わりにしてもらったけれど、かなり動きにくそうにしていた。
「平民の人には毛布と器を持ってきてもらうように頼んだから、毛布は受け取って、器にスープを入れてね。僕は山の方に行って状況を見てくる。すぐに戻るから」
「了解です。任してください」
ワンオペ状態の料理長に、ざっくりとした指示を出す。
器がないからと、二つ目の鍋で同じスープを作り始めていた料理長は、ニカッと快活な笑顔を浮かべて胸を叩いた。
さすが、リーヴルと同じく有能な料理長だ。
伊達に伯爵家の料理長を名乗るだけある。
頼んだよ、と言い残して、山の方に向かって駆けていく。
雪崩が終わってからそれなりに時間は経っているが、どのくらい救助は進んだのだろうか。
何かトラブルが起こったりしていないだろうか。
一応軍人がいるから、面倒なことに巻き込まれることはないと思うけど。
「アオフリヒ様、リーヴル!」
「リューゲ。遅かったな」
「申し訳ありません。リーヴル、状況を教えて」
「現在の救助率はおよそ3割ほどでございます。どうやらまばらにやってくる魔物の対処に手間取られているのかと」
「そっか……。わかった、ありがとう」
わかりやすく自分の欲しい情報をくれるリーヴルにお礼を伝え、さらに奥へと進む。
動ける軍人の中に防御壁を作れるような人がいればいいのだが、おそらく救助が終わるまで張り続けられる程の魔力量ではないのか、あるいは張れる人がいないのだろう。
でなければ、侯爵がその手を使わないはずがない。
侯爵に話を聞いて、もし必要ならアオフリヒ様にお願いするしかない。
ここ数年で何度も彼の防御壁にはお世話になったし、作品の中でも幼少期から魔力量は多かったと語られているから、その点においてはかなり優秀だろう。
幸いと言うべきか、彼もできるだけ死傷者数は減らしたいと思ってくれているらしいし、それを逆手に取ればもし拒否されても説得できる。
「失礼します、オルデン侯爵」
除雪作業に精を出している軍人のなかで、ひときわ大きな体格の男に声をかける。
彼は手を止めることなく、こちらに視線だけ向けた。
「リューゲ・ノルデンです。今の状況をお尋ねしたく、参りました」
「そういうことか。堅苦しい態度は取らなくて良い。簡単に説明すると、除雪作業中に魔物が襲撃に来る。まだ巻き込まれた人全員を出すことはできていない。麓に近い方からやってはいるが、魔物の対処もとなると、おそらく完了は夜中頃になるやもしれん」
「魔術で防御壁を張ることはできないのでしょうか」
「わかっているかもしれないが、皇室騎士団と違ってこちらは平民出身ばかりだ。そもそも魔力を使えるものがいない」
「でしたら、殿下に防御壁を張ってもらうのはどうですか?」
「確かに良い案だが、殿下がそれを良しとするだろうか」
「彼なら快く受け入れてくれるはずです」
保証します、と付け加えると、渋々と言った様子で侯爵がその提案を受け入れた。
この緊急事態の時に、わざわざ第二王子だと侯爵が告げるなんてことはしないだろうし、アオフリヒ様もそう名乗るような真似はしないだろう。
あとから知るかもしれないと思うと、少し面白い気もするが、そんな事を考えている場合ではない。
急いで下山し、侯爵とのやり取りを簡単にアオフリヒ様へ伝えて手伝いに行ってもらう。
こちらはこれでよりスムーズになんとかできるようになるだろうし、早く炊き出しのブースに戻らないと。
転ばないように気をつけつつ、できる限りの全速力で炊き出しのところへと戻った。
さすがに山道を往復するのは厳しいものがあるな。
「あっ、リューゲ様! 良いところに」
「何かトラブル?」
「いえね、こちらの人が毛布を返したくないと言っていまして」
料理長は困った様子で目の前の男性を示す。
身なりは平民だし、頭はかなりボサボサ。
毛布を持ってきている様子もないし、もしかすると、これに乗じて追加でもらおうと思っている人か、貧民街の人だろうか?
どちらにせよ、雪崩の被害者が正確に見込めない以上、余計に分け与える余裕はない。
それに、今ある食料をできる限り、と言っているから、無駄な出費も避けたいところだ。
「お兄さん、もしかして孤児のための炊き出しと勘違いしてない?」
「なっ……! なわけねぇだろ!」
「そっか。じゃあ、毛布を〝買い取りたい〟ってことだね?」
200万ルクだよ、と笑顔で告げると、お兄さんは何かしら捨てゼリフを吐いて去っていった。
ルクとはこの国の通貨単位で、およそ100ルクで旬のリンゴ一つ分だから、日本よりもだいたい半分くらい物価が安い計算になる。
ちなみに毛布が本当に200万かどうかはわからないけれど、毛布ごときに200万もお金は出せないだろうから、適当な値段を言ってあきらめさせたのだ。
身なりからして、そうお金を持っている様子でもなかったしな。
その後も続々と、と言うには疎らではあったけれど、順当に人が来ては毛布と引き換えに炊き出しのスープを受け取っていった。
中にはこの世界の女主人公であるライムがいたのだろうが、少なくとも今回は気づかなかった。
言い訳がましいが、忙しい上、十歳前後に見える人は何人かいて、詳しく顔を判別することができなかったのだ。
「こちらの方で最後です」
そう言ってリーヴルが連れてきたのは、ソルセルリー学園の制服を身にまとった男だった。
人好きのするような笑顔は鳴りを潜めているものの、物腰柔らかな態度は幾度となく見てきた容姿だ。
「あ、兄上……!」
「ただいま、リュー」
「おかえりない、兄上!」
ふわりと柔らかく笑った兄上に、思わず抱きつきそうになるのをこらえる。
馬車の中にいたとは言え相当冷え切っているだろうけれど、さすがにもうそろそろ十歳になろうかという頃なのだから、そんなことはしない。
前世も合わせたらアラサー、アラフォーと言われてもおかしくないのだ。
「兄上、無事で何よりです」
「ちょうどエーヴィヒ軍の雪中行軍演習中に雪崩が発生したみたいでね。救助に当たってくれてたんだよ」
おかげで助かったよ、と嬉しそうに表情を和らげる。
これがアオフリヒ様との計画だったことは言わないでおこう。
「兄上、まずは毛布で体を温めてください。火に当たると良くないから、焚き火の近くに行くのは全身が温まってからで、それで――」
「落ち着いて、リュー。まずは毛布で温まれば良いんだね?」
気が急いて早口になる自分をたしなめつつ、兄上はわかったと言わんばかりに鷹揚に頷く。
自分もこんなふうに構えていられるとよかったんだけどな、なんて兄上を見ながら考えていると、山の方からアオフリヒ様とオルデン侯爵の姿が視界に入った。
救助が終わったからアオフリヒ様が来るのはわかるが、オルデン侯爵まで来るとは。
侯爵は人がいなくなるまで演習の続きをするとばかり思っていたし、意外だ。
「第二王子殿下、オルデン侯爵。此度は雪崩の救助に尽力して頂き、ありがとうございました」
少し遅れてアオフリヒ様たちに気付いた兄上は、二人に対して恭しく頭を下げながら、そう言葉を口にした。
「なに、問題ない。エーヴィヒ軍は運よく演習のタイミングで遭遇しただけだ。むしろ、救助が順調に終えられたのは殿下のおかげと言えましょう」
「オレはリューゲがどうしても救助に向かいたいと言うから来たまでだ」
二人とも笑顔を浮かべながら謙遜して、兄上のお礼を受け取ろうとしない。
大人しく受け取っておけよ、とは思うものの、なんとなく全貌を知っている自分からしてみれば、彼らの言うことにも一理ある。
アオフリヒ様は自分が行動していなければ事が終わるまで屋敷にいただろうし、オルデン侯爵から話を聞いてアオフリヒ様に行ってもらわなければ救助はもっと遅かっただろう。
もしかしなくても、自分がこの状況を生み出してるのか?
「リューゲ様、報告に来ました」
「料理長。どうしたの? トラブル?」
アオフリヒ様含む三人で大人の会話をしているのを遠巻きに眺めていると、料理長がこちらに来た。
一応また何かあったのかと身構えていると、こちらの質問に首を振る。
トラブルでないなら身構える必要もないかな。
「いえ、ミルト様で被害者は最後とのことですが、食料が四割ほど余ってまして。残りはどうしますか?」
「使わなかった食材は持って帰ろうか。作っちゃったやつは軍人さんに振る舞うのでどうかな。リーヴルや料理長ももちろん食べてね」
スープの入った鍋を覗き込みながら、そう指示を出す。
一気にたくさんの量を作ったからか、まだ余っている上、後ろの方にも根菜類が積まれている。
幸いなのが、料理長や御者の機転からか、追加の食料が運ばれてこないことだ。
周囲を見回すと、帰りの馬車が待機しているようで、少し離れた位置で馬の世話をしていた。
たくさんの人に協力してもらったし、お休みをあげたいところだけど、一気に休ませるのはよくないだろうし、何より自分にそんな権限はない。
「わかりました。周知してきます」
「僕は御者の人に伝えてくるね。あっ、軍人さんについてはオルデン侯爵に伝えればいいと思うよ」
「任してください」
頼んだよ、と言い残し、急いで御者の近くへ向かう。
馬の世話をしていた御者は、こちらに気づくとすぐに手を留めて、話を聞く体勢に入った。
彼に料理長に出した指示と似たようなことを伝え、上手く連携して持って帰るようにと言葉を添える。
これでもうやることはなくなった、って考えて良いのかな。
帰ったら、手伝ってくれた人にお礼を言って回って、兄上を味方につけてちょっとずつ休みが取れないか父上に掛け合おう。
頑張ってくれた馬には美味しいご飯をあげよう。
「あっ、父上」
ふと思い出して、思わず素っ頓狂な声を出す。
忙しくてすっかり忘れていたが、家を出る直前、父上に呼び止められていたんだった。
帰ったあとのことを考えると、無事に救助が終わったことすら喜ぶに喜べない。
父上は自分にマトモな教育者すら付けていないうえ、自分から子供の面倒を見ようとするような人間ではない。
だから、説教と言うよりは理詰めで変なことをするなと釘を差される程度だろうと思う。だけど、そういったことをされる側としてはひどく憂鬱な気分になる。
「どうした、リューゲ? 顔が青いが」
「いえ……父上に呼び止められていたのを無視してしまったので、帰るのが憂鬱だなと」
三人のもとへ戻ると、こちらの異変に気づいたアオフリヒ様が心配そうに尋ねる。
隠すようなことでもないため、簡単に心配事を伝えると、アオフリヒ様と兄上が呆れた様子でため息をついた。
もちろん、父上のことをよく知る兄上と、自分たちほど知っているわけではないアオフリヒ様では、ため息の理由が違うだろうけれど。
「さすがの伯爵もそんなことは……」
「父上……あり得そうなのが嫌だな」
ありえないだろうと言葉を続けようとするアオフリヒ様の隣で、対照的に、兄上は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
実際、兄上の言う通り、父上に今回のことを咎められる可能性は高い。
勝手に家のものを使ったし、実際咎められても仕方ないと思えるほどのことをしているわけだし。
使ってしまった食材は帰ってこない上、布団をたくさん出してしまったから侍女の仕事は増やしてしまっている。
「大丈夫、俺が味方になるよ」
「兄上……! でも……」
迷惑をかけるわけには行かない、と続けようとしてやめた。
せっかく兄上が味方になってくれると言っているのだし、無下にするのも違うだろうから、好意に甘えようと思う。
それに、兄上がいれば、父上のお叱りも多少マシになることだろう。
やっぱりいくつになっても叱られるのは嫌だし。
「ミルト様、スープをお持ちしました。殿下やオルデン様もぜひ」
「忘れていたよ。持ってきてくれてありがとう」
話が終わる頃合いを見計らって、料理長とリーヴルがスープの入った器を両手に持ってこちらへ来た。
各々が受け取ると、料理長がくるりとこちらに向き直った。
「それと、リューゲ様にも」
「え、いいの?」
「もちろん。リューゲ様が食べてくださらないと、スープが残ってしまいます。それに、リューゲ様も今日一日駆け回ってお疲れでしょう」
残った最後の器をこちらに差し出しながら、そんなことをいう。
やっぱり、料理長は他の料理人たちとは違うなぁ、なんてしみじみと思いながら、器を両手で受け取った。
料理長の作ったスープは節約レシピになっているのか、普段より少し味は薄めだけれど、それでも文句なしに美味しい。
手に入りにくい高価な胡椒を使ったりしないでこの味が出せるのは素直に感心するべきなんだろう。
具材である根菜類は弱っていても食べやすいように小さめの角切りにしてあるから、スプーンがなくても問題なさそうだ。
でも、侯爵には少し物足りなく感じてしまうかもしれないな。
「中々に美味い。さすがはノルデン伯爵の料理長だな」
「それには同意するが、引き抜きなどと抜かしてノルデン伯爵の機嫌を損ねるなよ」
「わかっておりますとも、殿下。せっかく殿下のご助力を得てできるようになった演習を無下にはいたしません」
ワッハッハ、とオルデン侯爵は快活に笑いながら、アオフリヒ様に軽口を返す。
あまり礼儀云々を気にするような人ではないらしい。
と言っても、あれほどまでに振り切った敬語を使えるのは、エーヴィヒ軍の大将として、数々の武勲を打ち立てた侯爵ならではなんだろう。
「さて、他にもいろいろやることはあるけど、とりあえず」
空になった器を片手に、兄上が立ち上がった。
すぐさまリーヴルがそれを回収していき、ついでと言わんばかりに侯爵やアオフリヒ様からも受け取った。
兄上は簡単に毛布をたたむと、それを小脇に抱えてこちらに手を差し出す。
「帰ろうか、リュー」




