第81話 重い土地②
「ハァハァ・・・、結構きついな・・・」
パルチ山に向けて歩き出して1時間ほど、すでに息が切れ始めた。そのくせ移動距離は普段より短い。
原因はなぜか強い重力のせいだ。
重力が強いと分かった後、どれ位強いのかを体重計を使って調べてみた。家の敷地で計った体重は73kgだが、この地では95kgを超えていた。単純計算で1.3倍重力が強くなっている。いきなり1.3倍になれば体が重く感じても仕方ない。
ちなみにチョコが気にならなかったのは自身の体重がそれほど重くなく(教えてはもらえなかった)背負っているハンマーが重すぎたせいで、そっちの違和感が強かったらしい。
ためしにハンマーを体重計に乗せたら100kg超えてた。重すぎだろ・・。
そのチョコは今日はハンマーを持ってきていない。代わりに何処から持ってきたのかショートソードを腰に下げていた。ハンマーが無いお陰か、全然息が切れていない。それどころか体が軽いといつもよりはしゃいでいる。
そんなに軽いなら、セリを背負ってくれないかな。
相変わらずこいつは自分で歩こうとはしない。一応聞いてみたが重力が強くなったせいで余計に歩く気が失せたらしい。頑なにリュックから出ようとしなかった。
仕方ないので、おやつなどを抜いて軽くしたが・・・まぁ変化はたかが知れてるな。
『ススム遅れてるで!。この調子やと全然進まんやん』
「ハァハァ、ならお前も歩けよ・・・、重いんだよ」
するとセリはそっぽを向いた。どうやら歩く気は無いらしい。せめてサポートくらいはして欲しい。
『しゃあないなぁ・・、ならこれでどうや?』
急に風向きが変わった。
さっきまで向かい風だったのが追い風に変わる。いや、周りは向かい風だからセリが“風生成”を使って風向きを操作してくれたのだろう。気休め程度かもしれないが、向かい風よりずっと楽だ。
「ありがとう、ちょっと楽になった」
『ふふん。ウチはおぶってもらってるだけのメスやない所をたまには見せんとな!』
「飛べるんですから“風生成”使うんであれば飛べばいいのでは?」
『それは疲れるし嫌や』
嫌なのかい!。
しかしナギの言うとおりだな。飛べば俺が重たい思いをしなくてすむ。たまにでいいから自力で移動してくれ。
言ってもダメなのは分かってるけどさ・・・。
「ナギやフウは大丈夫なのか?」
「私は大丈夫ですよ」
「私もー」
『ぼ、僕はもうダメっす・・・』
現在歩いている場所は見通しがいい上、魔物も居らず危険が少ないためナギも旅に参加している。フウが参加しているのは単純に家に居るのに飽きたからだろう。昨日「ひま~」とか言ってたし。
ただ、この重力ですぐ疲れたようらしく、つれてきたアンダルシアに速攻で乗った。結果、アンダルシアの疲れが限界に来ている。
「シア、疲れたんなら帰って休むか?。無理に付き合わなくてもいいぞ」
『そ、そうするっす』
「え~!!、シア帰っちゃうの?」
フウは反対したが、アンダルシアの顔色があきらかに悪い。フウを降ろし家に帰らせた。家にはカイマンが居るけど心配なのでナギに同行して貰うことにしたよ。
フウもなんだかんだでアンダルシアが心配なのか一緒に着いて行ったので結局昨日のメンバーになってしまった。
アンダルシアが心配だけど気を取り直して進むか・・・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
歩くこと半日ほど、昼休憩を挟んで歩いているとパルチ山の麓にある森に近づいてきた。今日は無理そうだが、明日には森につけそうだ。
「意外と早かったわね」
「ああ、この重力の中だともっと時間が掛かるかと思ってたんだがな」
早くつけたのはこの重力に慣れたからだろう。
最初のほうは辛かったけど、徐々に苦にならなくなり、いつの間にか元々の歩行スピードまで戻っていた。
それに道中魔物も出なければ、気になるようなものが全く無かったため、寄り道をしなかったのも大きい。
だが折角人類未踏(と思われる)の地に来たのに何もないのはちょっと残念・・・いや、かなり残念だ。
せめて森に着くまでに何かあってほしい。何か無いかな?
「?、何探してるの?」
急に周囲をキョロキョロしだした事にチョコが不審がる。いや、ただ面白いことないかなって思っただけだぞ。
「変わった植物とかでもいいんだけどさ、折角来たんだから違う物が見たいだろ?」
『せやな。魔物も出てこんしつまらんわ。探しても何処にもおらへん』
ため息混じりにセリが同意してくる。どうやら“気配感知”でも周辺に全く反応が無いらしい。
二人揃ってつまらないとため息を吐く。
チョコはそんな俺たちを見てため息をついていたけど。
「別に何も無ければそれでいいじゃない。もし危険があったらどうするのよ?」
『そん時はウチがなんとかするさかい、大丈夫や』
「最近そう言ってるけど、その時に限って寝てるよな・・」
『そ、そんなこと・・・あらへんで・・』
自覚はしてるのか目をそらしている。まぁ最終的には起きてるからいいけどさ。
「だいたい、セリはなぁーー」
『ちゃうわ!。ススムがーー』
チョコはやいのやいのしている俺たちを見てさらにため息をついた。
「あなたたち、いつもそんな感じなの?」
「大体はな」
『そやで、ススムはいつもこんな感じや、面白いものがあったらすぐに寄り道したり違う場所行ったりしよるさかい、全然進まへんねや』
「そりゃ、面白いものや珍しいものを見たいために旅してるからな」
昔はそれだけの為に日本中を徘徊していた。これからもそのつもりだ。




