第42話 ボール(頭と尻尾付き)
セリのやつが、ちょっと眼を離した隙に丸くなった。
またなんかやらかしたのか・・・。何したらそうなるんだよ。
「なぁ? アイツなんであんな状態になってんだ?」
『いやそれ、僕が聞いてるんすけど!?』
「がぁぁ、がぁがぁぁ」
ギガント・ロック・アリゲーターが身振り手振りで必死に教えてくれる。
いまいちよくは分からなかったが、仕草から一生懸命伝えようとしてるのは分かった。
コイツの言葉がわかれば早いんだけどなぁ。こいつにも念話くれないかな。
まあ大体察しがつくけど・・・。
セリの周囲を見渡してもあの座布団どら焼きがどこにもないし。
「あれ全部食ったのか・・・」
「がぁ・・」
ギガント・ロック・アリゲーターは頷いた。鳴き声に若干の呆れが入ってるように聞こえるのは気のせいだろうか?
『旦那、どういうことっすか?』
「あのバカ、こんな大きさの座布団どら焼きを食い過ぎたようだ」
手でどら焼きの大きさを表現する。数は・・・確か10個はあったな。
それを聞いたアンダルシアも呆れ顔だ。
『姐さん、よくそんなに食べれるっすね・・・』
『ちゃ、ちゃう。それとこれはちゃう!』
「でもあのどら焼きは食べたんだろ?」
お前の体積よりでかいもん食ってるんだし、そうなってもおかしくないぞ。
『食べたけど・・・・、しゃ、しゃーないやん。どら焼きが美味しいのが悪いんや』
セリ(ボールver)がいろいろ反論してくるが、丸いからか喋るたびに転がる。
どうやらうまくバランスが取れないようだ。
あの感じだ転がってここまで来たのかな。
困っているようだが、反論できる元気はあるみたいだし、放っといても良さそうだな。
『ようない!。ぜんぜんようないで!!。ウチをあのメスんとこまでつれてってー』
「なんであの人のところなんだ?」
太ったのはお前のせいだろ?
いや太ったわけではないのか?どら焼き丸呑みにしただけかな。
「ちゃう、うちのせいちゃうで!絶対あのメスがどら焼きになんか仕込んでたんや!」
セリは転がりながらぎゃーぎゃー騒ぎだした。騒ぐからさらに転がる。
確かにあの人ならあり得るけど・・・。
連れてけって、これ運ぶの?
重そうだし嫌なんだけど・・・。
俺は、アンダルシアたちを見る。二人とも首を振ってNOの意思表示をする。
はぁ・・・しょうがない。
俺はセリを抱え・・・もてないので転がして運ぶことにした。
転がすことにセリが訴えてきたがスルーする。
これ以上煩くなったらその辺に転がしておこう。
中腰で転がしてるからか、腰が痛い。
大体セリの大きさが微妙なんだよ。立ってままで転がせないから辛い。
「があ!!」
一旦やめて休憩した時、ギガント・ロック・アリゲーターがセリを咥えた。そしてそのまま持ち上げる。
どうやらこのまま運んでくれるらしい。
『歯が、歯が刺さっとる! 一旦下ろしてやぁ!』
セリが喚き散らすが、全員が無視した。運んでもらってるんだから我慢しなさい。
セリは我慢できないのか尻尾でビシバシとギガント・ロック・アリゲーターを叩く。
「嫌だったら捨てていいからな」
「がぁ!」
言った瞬間捨てた。
数バウンドしてセリは玄関の前まで転がって止まる。おお、ニアピン賞でもあげよう。
『ウチのプリティボディがぁ・・。穴開いたらどないすんねん』
セリは痛かった所をフーフーしている。
穴開いたら絆創膏貼っといてやるから安心しろ。
「悪かったな。後、お前をナギさんたちに紹介するからリビングの方まで回ってくれるか?」
「がぁ」
流石に家には上げれない。ずっと外にいたので泥んこだからだ。後で綺麗にするから今は我慢してくれ。
ギガント・ロック・アリゲーターはアンダルシアに案内されてリビング横の庭に向かった。
俺も戻ろうか、そろそろお昼も出来ただろうし。
でも、まだこのボールをリビングまで転がさなきゃいけないのか・・・
正直めんどくさい。
「蹴ってってもいい?」
『あかんに決まっとるやろ!』
だよなぁ・・・
俺は必死に転がしてリビングにシュートした。玄関の段差で腰やっちゃったけど。
先に人参置いてから・・・シアにご飯渡すの忘れてた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごちそうさまでした。ふふふ、とてもおいしかったですよ」
「?、・・あ、ありがとうございます」
食事を終えた彼女は手を合わせる。
その仕草が分からないナギやフウは「何してるの?」みたいな顔をしているが、この世界には「いただきます」と「ごちそうさま」がないのだろうか。俺も普段言わないので気にしたこと無かった。
『ウチもご飯ほしい』
食べ終えた俺たちを見てセリが騒ぐ。勿論セリは昼食抜きにした。
後、おやつも抜きにするつもりだけど。
『ウチもご飯!!』
無視されたからか、もっと大きな声で要求してきた。
「聞くが、用意したとしてどうやって食べるんだ?そんな地面に顔も届かないボール体形でさ」
『それはススムがーー』
「食べさせないぞ。自分で食え」
なんで食べ過ぎで太ったやつに食べささなきゃならんのだ。こっちはお前のせいで腰痛いんだよ。
今フウに直してもらってる最中だけど。
セリは「くっ!」と顔をしかめると今度はナギたちを見る。
「私は片付けがありますので」
「フウはおじちゃん治さなきゃダメだし」
「私は困ってるあなたが見たいので」
全員に断られ項垂れるセリ。重心が前に行ったせいでそのまま転がり壁にぶつかって止まる。
「それで、なんでセリさんはあんなに太ってるんですか?」
そういえばナギたちにはまだ説明してなかった。
俺は、昼食前の出来事を話し、同時にギガント・ロック・アリゲーターの紹介も済ませる。
セリの説明をしたら、ナギたちは「またか」みたいな目をしていた。
もうセリのお菓子問題は日常化しつつある。
セリがお菓子関連でやらかす→俺が怒る→おやつ抜きにされる→セリが泣く→数日間動かなくなる→お菓子を解禁する→嬉しさからお菓子関連でやらかすのサイクルだ。
最初はセリに同情していた二人だったが、最近は殆どセリにのせいだと知っているので放置している。
そしてギガント・ロック・アリゲーターの名前はカイマンに決まった。名付け親はフウだ。
名前をつけると言った時に色々案を出してきたので、本人が気に入ったのを採用した。
「あの・・・カイマンはもしかして変異種ですか?」
「変異種?」
「変異種とは進化する際、特殊な進化をした魔物を指します。カイマンは、岩を食べすぎたせいで全身の皮膚が岩になっています。ちなみに名前に入っている「ロック」が変異種ある証ですね」
知らなかった。
だが言われてみれば、ほかのアリゲーターたちにはロックとか無かったな。ギガント級はコイツしか見てなかったしそういうもんだと思い込んでたよ。
「それで、そのカイマンが何故ススムさんの使い魔?になったんですか?」
ごめん、それは俺もよく分からない。
「その辺りをこれから説明しますが、その前に聞いておいてほしいことがあります」
そう言った女性の顔から笑みが消えた。この人、こんな真面目な顔もできたのか。
ずっとのほほんとした顔だったから、なんか新鮮だな。
次回から説明回に入ります。




