第33話 分裂
「おっと、もうこんな時間か・・・」
時計を見るとお昼を過ぎていた。没頭しすぎたみたいだな。
魔石はまだ残ってるので、残りはご飯の後にしよう。
「あ、すみません。今ご飯作りますね」
「ごめんね、手伝って貰って。お昼はレトルトで良いから」
ナギが慌てて準備を始める。申し訳ないので俺も手伝う。
「ねぇ 見て見てー!」
準備の間、大人しく椅子に座ってるわけがないフウが魔石の一つを持って寄って来た。
「ん?フウちゃんどうしたんだ?」
「コレ!こうしたら二つになるんだよ!!」
そう言って見せた魔石が二つに分かれた。
割ったというより小さくなって同じ形のまま分裂した。
「面白いでしょー。ちょっと小さくなるけどいっぱい増やせるんだよー」
どうやら“分裂”により魔石を2つに分裂させたらしい。
分裂後の大きさは分裂前の半分くらいか。
「それ“分裂”使ったんだな。魔石も分けられるのか」
「うん、最初はシアちゃんの人参分けて遊んでたんだけどちっちゃくなりすぎちゃって」
アンダルシアのご飯で遊ぶんじゃない。後でちゃんと謝っておくんだぞ。
けど野菜も分けられるのか。
「それはなんでも分けられるのか?」
「ううん。シアちゃんは無理だった」
子供怖!。アンダルシアも分裂させようとしたのか!
「フウちゃん。シアにそんなことしちゃダメだろ。分裂したら戻せるのか?」
「ううん・・・ごめんなさい」
思ったよりも素直だな。
『流石に僕も怒ったからね』
ん、ああいたのか。
見るとリビング横の縁側にアンダルシアがいた。集まる時はここにくるのだ。流石に家の中に入ることはしないが。
どうやらアンダルシアにも怒られたらしくちょっとしおらしい。
でも魔石を分裂させているところを見ると止める気は無いようだ。ちょっと釘を刺しておかないと、家中のものが分裂してしまう。
「フウちゃん。分裂させたいのは分かったけど、好き勝手するのはやめるんだ。したい時は俺かナギさんに許可をとってからにするように。いいね」
ちょっと最後だけ強めに言う。家のものは戻せると思うから多分大丈夫だろうけど、確証もないうちはやめてもらおう。
「はぁい・・」
フウはちょっとしょんぼりしてしまったみたいだ。本人はおそらく自慢したかっただけなんだろう。ちょっと罪悪感が残る。
「後で分裂させても良い物用意するから、見せてくれるか?」
俺はしゃがんでフウの頭を撫でる。
フウは「うん」と力強く肯く。大丈夫そうでよかった。
「じゃあ、その魔石は持ってきた場所に戻してくれるか?」
「はーい」
そう言って元気よく戻しに行くフウ。なんかお父さんになった気分だな。
「ススムさん、少しフウに甘くないですか?」
「うわっぉ!」
振り向くとナギが立っていた。
そんなつもりは無いのだが、そう見えるのだろうか。子供の世話をしたことがないのでよく分からない。
「そう、見えるかな?」
「多少は・・。ダメなことはキチンと教えないと繰り返しますので」
教えたつもりだったが足りなかったようだ。フウもわかってくれてたみたいだし良いかと思ったんだがなぁ。
「まぁシアも怒ったみたいだし、今回はこれで勘弁してやってくれ」
なんか、後で怒りそうな雰囲気出してるし。
「はぁ・・・、ススムさんがそう言うのであればそうします。」
「すまないな」
「いえ、元はと言えば私の妹のせいですので・・」
そう言って準備に戻る。
そういや妹だったな、言動がお母さんにしか見えないから間違えそうになる。
本人には言えないけど。
「おじちゃん、セリちゃんまだ起きないよ?」
戻ってきたフウがセリを指差す。こりゃお昼もダメか。
「ああ、セリは放っといて良いから、先食べようか」
「うん、分かった」
フウもこの状況には慣れてきたようだ。最初は動かないセリを心配していたが、最近はいつものことと分かってるみたいだな。心配すらしなくなった。
とはいえ朝も食べてないからなぁ。ちょっと気になる。
俺はナギに見つからないよう。そっとどら焼きを一つ顔の近くに置いておいた。
セリが動いたそぶりは無かったが、食事が終わった後どら焼きは無かった。
そしてセリの口には食べかすがついていた。
・・・・いつも通りだな。安心したよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、フウちゃんの“分裂”について見せてもらおうかな?」
食事後、セリを除く全員が庭に集まる。
フウの“分裂”について確認するためだ。
さっきのフウの話からすると、人参・・つまり野菜や魔石は分裂でき、アンダルシアは出来ないだったな。
まずアンダルシアの件から生物は不可能だとは分かる。しかしそうなると魔石が出来るのはなぜだろう。魔石は魔物から取れた物なので魔物の一部、つまり生物といっても良いと思うのだが・・・。
「生死が影響しているかもしれません。おそらく死んでいれば魔物の骨や角なども問題無くできると思います」
ナギの推測だがおそらく正しいと思う。今この場にそういったものがないので確認はできないが。
その確認はまた今度するとして、今は出来ることを試してみよう。
「じゃあまずこの石を分けてみてくれ」
そう言って、外のその辺にあった石をフウに渡す。
フウは渡された石をあっさり分けて見せた。予想通り問題無く分裂している。
「じゃあ次これは?」
今度はスプーンを渡す。これは“旅の宿”で用意されたスプーンだ。外の物は分裂できたが、この家に物もできるかどうか確かめてみる。
結果、分裂は出来た。特異性で生み出したスプーンだが分裂は可能なようだ。
「これって再生できる?」
俺は分裂し小さくなったスプーンをナギに渡す。ナギの“物質再生”で元に戻るかもしれないからな。
ナギが“物質再生”を行なうと、分裂したスプーンが光り、二つが一つになった。大きさも元に戻っている。
どうやら“分裂”は物質再生で戻るようだ。
「戻りましたね。となると分裂できる対象は“物質再生”と同じとみていいかもしれません」
「つまり“物質再生”できる物は“分裂”できるってことか?」
「おそらくは・・・、スプーンだけだとまだわかりませんけど」
俺はナギから受け取ったスプーンを見る。そしてまたフウに分裂してもらう。
いろいろ試した結果、ある程度は分かった。
・分裂した物は“物質再生”で復元できる。その際、一つを再生すると分裂した残りは消える。
・壊れた状態のものを分裂させると壊れた状態のまま分裂される。
・分裂した“旅の宿”の物は一旦消して再度出す事で元に戻せる。
・一つの物を分裂できる回数は無限。(わけすぎて目に見えなくなったので途中で断念)
「こんな所だろうか?」
「そうですね。今日試した限りではこんな所でしょうか」
『旦那、これはどういった場面で使ったらいいんだ?』
「見てみてー!あはは、こんなにちっちゃくなっちゃったー」
「まだよく分からないなぁ。でもフウちゃんが楽しんでるしそれで良いんじゃないかな」
別に有効性とかなくてもいいんじゃないかと思う。持ってる本人が良ければね。
ナギもどうやら同意見のようだ。
一通り検証も終わったし、そろそろおやつにでもしようか。
『待ちぃ!、ウチが“分裂”の凄い使い方を教えたるで!!』
皆が振り向くと、縁側にドヤ顔のツチノコが立っていた。
またいらん事思い付いたなこりゃ。
次回、奴が泣きます。
(理由は察してください)




