第74話【VSペロリスト24 世界で最も美しいプレイ】
参考
https://youtu.be/x4IdsCebeeA
開幕早々、フロッガーの移動速度強化を使って、チームの移動を促した。
全員はリッカーが操るパラディンの背中に隠れるようについて行く。
大きく展開されるパラディンのシールドの耐久値が減少すると、割られる前にシールドを閉じてHPでダメージを受けてシールドの回復を待ち戦闘の持続を図る。そして移動するチーム全体にブレイブとフロッガーの範囲ヒールで回復していくことで鉄壁の防御が完成していた。
攻撃側のセオリーは、正面門の右側高台をダイブ系DPSが制圧して少しずつエリアを縮小させていくか、左側のマーケットから後衛に攻撃を仕掛けるかだ。
防衛側は射線が切れなくなったらそのまま撃たれて瓦解する。そのためカウンターとしては第一チェックポイントから一時後退、もしくは側面へ展開しエリアにとどまる敵を撃って占領しなおしを狙うなどの方法がある。
だが、今回のエイリアンズの攻撃にはそのどれも対応が出来なかった。
正確には、後者のマーケット制圧がそれに該当するのだろうが、エイリアンズ一行は移動速度強化が入った状態でマーケットを全速力で突っ切ると、第一チェックポイントを踏まずに第二チェックポイントへ向かうための門の裏まで進行した。
「はぁあ⁉ 逃げんなこら、私と戦えおら! ハンマー対決しろ! 騎士の誓いはどうしたっ?」
これにはもちなを始めとしたペロリスト全員が驚いた。その行動の意味不明さが頭の中を支配した。
メンバーの中で一番プレイ時間の長いソーマですら、何をされているのかが分からなかった。
このゲームの占領戦では、第一チェックポイントを制圧せずに第二チェックポイントを奪取することはルール上不可能だ。
つまり作戦上、意味のない時間がここまで三〇秒ほど発生していた。
(なんやそれ、意味が分からん。リッカーがこんなわけわからん事するか? ……いや、リッカーならするかもしれんけど、勝負にならないことをするわけがない)
リーダーであるバジリコも理解が追いついていなかった。
正面切った戦闘は起こらず、門越しにサイドへの揺さぶりをお互いのタンクが仕掛けているが、まともなダメージ交換も発生しない。
アルティメットスキルのチャージも行われず無価値な時間が続いていると誰もが思っていた。
だが、実況解説陣は神視点カメラから試合の全てを見ていた。
全員の位置取り、俯瞰した上空からのカメラ。様々な位置から試合の状況を見ていた。
『エイリアンズ全員が大きく裏どり進行していきますが……なんと、まだリス地に一人残っています!』
『これは、まさかぁ⁉ やるのかここで!』
最近ゲームを始めたプレイヤー達には何のことかさっぱりわからないだろう。
だが実況解説陣はその意図と、それに似た光景を見たことがあった。
実況カメラの担当もその意図と作戦を理解した途端、視点がリス地に残ったウォーカーに当てられた。その一瞬を逃すまいと、大会設営側の全員がその光景を待ち望んだのだ。
視聴者の多くが目の前で起きている状況を飲み込めずにいる中、ウォーカーはキャラをニンジャからホワイトウィングへと変更し、リス地の二階窓へと移動する。
覗き込んだ照準器の先には、裏どりを警戒するペロリスト達の姿が見えていた。
誰一人として、リスポーン地点を警戒していない。
視点は誰一人としてこちらを狙っていない。
無防備な側頭部がそこには並んでいた。
遡ること、二〇一八年。
それはまだベータリンクスになる前、アルファリンクス時代の話だ。
アルファリンクスリーグ・シーズンプレイオフで行われたロサンゼルスファイターズの戦術。
マップは同じロンドン。巨大な体のタンクの影に隠れながら、フロッガーの移動速度強化でチーム全員が最初の直線と門を突っ切って、第一チェックポイントを通り過ぎた大掛かりな裏どりを敢行する。
この際、メンバーの一人は同行せずにリス地に残したままだった。
警戒する相手チームは陽動役のタンク達が裏から攻めると思い込み、ややポイントから離れて距離を取るようにポジションを変える。
そうなると、広場の方へ下がるようになり体はいつの間にか攻撃側リスポーン地点の正面にさらされる構図となる。
全プロが共通認識で危険視する開幕初撃のスナイパーによる狙撃が、移動という最も簡単な方法で警戒が解かれた。
アルファリンクスリーグ屈指の、世界一美しいセットプレーの再現であった。
「いいぞウォーカー。カッコよくキメろ!」
呼吸を止めて、ウォーカーはマウスをゆっくりと動かした。
難しいエイムは必要ない。
照準を頭部へ向けて、ただ左クリックを押すだけ。
重い銃声が鳴り響き、第一射がバジュラの頭部を捉えて撃ち抜いた。
ボルトのコッキングを行い準備を終えると、続けて第二射がボマーの頭部を撃ち抜く。
「はぁあ⁉ えっ、なん、リスになんかいる!」
第三射がパルカに向けられたが、ヘッドショットから免れるも、ボディに直撃していた。逃げるようにスキルの『ゴーストステップ』で無敵状態を使ったが、そこに裏門から飛び出してきたメイが介入する。
「残念~! もう来てまーす!」
逃げるように飛び込んだ屋内、狭いエリアでショットガンを相手取ることは不可能だ。加えて逃げるようのスキルは使ったばかりで、数秒の交戦後パルカのHPはゼロとなる。
『うぉおおおお! やった! やってくれた!』
『とんでもないプレイですよ!』
残されたもちなは何が起きているか把握できず、エリアに侵入したメイにハンマーを向けるが、後方からリッカーのパラディンが突撃して勝負を仕掛けてきた。
「へェーいおねェさん? LUINEやってるゥ?」
「何それもぉおおお何が起きてんのかわかんないよぉおお!」
数度の殴り合いをするも、サポートを抱えるエイリアンズとの戦闘は時間の経過と共に必ず敗北することは決まっている。せめてもの想いでバジリコは一人持っていこうと考えるも、エリアを自由に走り回るフロッガーになす術もなくキルされた。
このゲームをプレイしたことない、ただの視聴者である倉科夏美も、その光景に驚きを隠せなかった。
この日、もっとも多くのコメントが配信中に流れ、ツブヤイターのトレンド急上昇ランキングにも乗る事態となった。




