【カリガ級 中型救難船】
【カリガ級ってなに?】
宇宙で事故が起きた!
そんなとき、サルースのような救難用クアドリガが、すばやく事故現場へ向かいます。
遭難船へ近づく。
船体につかまる。
こわれた場所を調べる。
必要なら、人を助け出す。
少人数の救難なら、これだけで解決できることもあります。
でも――
けがをした人が、十人も二十人もいたら?
大きな工具を持った専門救難隊が必要だったら?
助け出した人を、その場ですぐ治療しなければならなかったら?
そんなときに出動するのが、
【CALIGA/カリガ】級中型救難船です!
【カリガ級のスペック】
名称:カリガ級
分類:中型救難船
運用:MRSS
全長:約60m
乾燥質量:約520t
標準救難任務時質量:約650t
主機関総推力:約1.5MN
通常質量時最大加速度:約0.24G
船体形式:直方体型作業船
前部:約10m 大型ドッキングポート兼エアロック区画
中央部:約30m 乗員区画・専門救難設備・要救助者一時収容区画
後部:約20m 主推進・発電・冷却・推進剤系機関区
クアドリガ連結部:左右各1基、計2機
傷病者標準収容:約24名
主要設備:大型ドッキングポート、上下デブリシールド、船体開口・工作機材、仮設与圧接続設備、生命維持支援資材、医療設備
主用途:多数傷病者救難、専門救難隊輸送、前線救護、応急処置、状態安定化、医療拠点への搬送
【どうして箱みたいな形なの?】
カリガ級は、細長くて流線形の宇宙船ではありません。
だいたい、
箱です。
もちろん、本当の四角い箱ではありませんが、船体は全体として直方体に近い形をしています。
宇宙には空気がほとんどないので、大気中を飛ぶ飛行機のように、空気抵抗を小さくするための形にする必要はありません。
それよりカリガ級では、人を運ぶ場所、医療機材を置く場所、救難工具を積む場所、担架を動かす通路などを使いやすく配置することのほうが大切です。
だから、
箱。
とても分かりやすいですね!
【なかをみてみよう!】
カリガ級は、全長およそ60m。
大きく三つの部分に分かれています。
船首側のおよそ10mには、大型ドッキングポートとエアロックがあります。
中央部のおよそ30mには、乗員区画、専門救難設備、医療設備、そして助け出した人を収容する区画があります。
船尾側のおよそ20mには、主推進器、発電設備、冷却設備、推進剤など、船を動かすための機械が集められています。
前は、
「助けるための入口」。
真ん中は、
「人を助ける場所」。
後ろは、
「船を動かす場所」。
役割が、とてもはっきり分かれているんだね!
【船首が開く!】
カリガ級の正面には、大きなドッキングポートがあります。
事故船へ直接つながり、救難隊員や担架を通すための入口です。
でも、普段はむき出しになっていません。
ドッキングポートの前には、上と下に一枚ずつ、厚いデブリシールドがあります。
閉じているときは、大きな二枚の板が船首を守っています。
接舷するときには、上側のシールドが上へ、下側のシールドが下へ退避します。
すると――
中から、大型ドッキングポートが現れます!
閉じているときは、事故現場の破片から大切な接舷設備を守る。
使うときだけ、大きく開く。
救難船らしい仕組みです。
【ここがすごい!】
クアドリガを二機、つれていける!
カリガ級の左右には、クアドリガを一機ずつ取りつけるための連結部があります。
つまり、
左右あわせて二機!
たとえば、
右側にグラディヴス。
左側にサルースC。
という組み合わせで飛ぶこともできます。
現場まで運ばれているあいだ、クアドリガは自分だけで長距離を飛び続ける必要がありません。
そのぶん、推進剤、電力、そして熱の余裕を、事故現場で使うために残しておくことができます。
【でも、くっついているだけじゃない!】
急いで事故現場へ向かうときには、連結したクアドリガの推進器も使うことができます。
クアドリガの推進方向をカリガ級の船体軸へ合わせ、カリガ自身の主推進器と左右に連結した二機のクアドリガ、その三者の力を合わせて加速します。
ただ運んでいるだけではありません。
必要なら、
いっしょに押してもらうのです!
【火星工学メモ①】
カリガ級は、どのくらい加速できる?
標準救難任務時のカリガ級を、およそ650tとします。
主推進器の総推力は、およそ1.5MN。
まず、標準救難任務時質量650tを、そのまま使って計算してみましょう。
650tは、
650,000kg。
1.5MNは、
1,500,000N。
加速度は、
a = F ÷ m
なので、
1,500,000 ÷ 650,000
≒ 2.31m/s²。
地球の標準重力加速度を約9.8m/s²とすると、
2.31 ÷ 9.8
≒ 0.24。
つまり、
約0.24G!
カリガ級は、救難隊や医療設備をたくさん積んだ大きな船ですが、それでも自力でしっかり加速することができます。
【クアドリガが手伝うと?】
では、
カリガ級にグラディヴスとサルースCが連結され、三者がいっしょに加速するときは、どうなるでしょう?
大切なのは、
「三機の最大推力を、そのまま足せばよい」
というわけではないことです。
グラディヴスとサルースCでは、機体の質量も、MMRの使い方も、必要になる推力配分も同じではありません。
しかも、左右に連結された二機がばらばらに押してしまうと、カリガ級の船体へ余計な回転の力がかかってしまいます。
そこで、
カリガ級の主推進器と、左右のクアドリガの推進器を、ひとつの救難編成としてまとめて制御します。
推進方向を船体軸へそろえ、機体ごとの状態や連結位置を見ながら、編成全体がまっすぐ安定して加速できるように推力を配分するのです。
だから、
グラディヴスがいつも全力で押すわけでもありません。
サルースCがいつも最大推力を出すわけでもありません。
組み合わせる機体、MMRの状態、推進剤や熱の余裕、そして事故現場へ着いてから必要になる仕事によって、使う推力は変わります。
そのため、連結時の加速度は、いつでも同じひとつの数字になるわけではありません。
でも、
カリガ級だけで飛ぶよりも、必要なときには左右のクアドリガにも加速を手伝ってもらえる。
これが、カリガ級の大きな強みです!
【じゃあ、ずっと全力で押してもらおう!】
……とはいきません。
グラディヴスもサルースCも、事故現場へ着いてから仕事があります。
事故船へ近づく。
船体につかまる。
回転を抑える。
船外作業をする。
そのためには、推進剤も、電力も、熱の余裕も残しておかなければなりません。
行く途中で全部使ってしまったら、
現場へ着いてから働けません。
だから、
「いま速く飛ぶこと」
と、
「現場で働ける余裕を残すこと」
の両方を考えて、三機の推力を配分します。
救難では、
到着した瞬間が仕事の終わりではないのです。
【事故現場へ着いたら?】
事故現場へ近づくと、左右のクアドリガが分離します。
クアドリガは先に事故船へ近づき、船体の状態を調べたり、回転を抑えたり、作業するための場所を確保したりします。
そのあいだ、カリガ級は少し離れた場所で待機します。
大きなカリガが、動きの分からない事故船へいきなり近づくと危険だからです。
そして、
「いまなら入れる!」
という状態になってから、事故船へ接近します。
【完全に止まっていなくても、くっつける?】
できます。
ただし、
とても慎重に行います。
宇宙船どうしが接舷するときに大切なのは、宇宙全体から見て止まっていることではありません。
相手との動きの差を小さくすることです。
事故船が少し横へ動いているなら、カリガも同じように動きます。
事故船の接舷口が動いているなら、その動きへ船首を合わせます。
触れる瞬間に二隻の動きがほとんど同じなら、大きな衝撃を出さずに接舷することができます。
【火星工学メモ②】
回っている船の接舷口は、どのくらい動く?
回転している物体では、中心から遠い場所ほど、大きな円を描いて動きます。
回転の角速度をω、
回転中心から接舷口までの距離をrとすると、
接舷口の速さvは、
v = ωr
で表すことができます。
つまり、
同じ速さで回っている船でも、回転中心から遠い接舷口ほど速く動きます。
大きな船へ接舷するのがむずかしい理由のひとつです。
【カリガは救急車?】
そうです。
でも、
それだけではありません。
カリガ級の中央部には、助け出した人を収容するための区画と医療設備があります。
標準では、およそ24人の傷病者を収容できます。
事故船から人を出したら、
状態を調べる。
けがの重さを判断する。
必要な処置をする。
状態を安定させる。
そして、医療拠点へ運びます。
つまりカリガ級は、
救急車であり、
救難隊の輸送船であり、
事故現場のすぐ近くへ持っていける小さな救急処置室でもあるのです。
【助けたら、全速力で病院へ!】
……とは限りません。
けがをした人を乗せているとき、
宇宙船が出せる最大加速度と、
実際に出してよい加速度は、
同じではありません。
患者の体には、加速するときの力がかかります。
しかも、大切なのは力の大きさだけではありません。
どちらの方向から力がかかるのか。
途中で方向が変わるのか。
急に強くなるのか。
何分続くのか。
こうしたことも考えなくてはいけません。
【医療班が、飛び方を決める!?】
カリガ級では、患者を診ている医療班が、
「いまは、この方向ならここまで加速してよい」
「横方向の力は、これより小さくする」
「しばらく姿勢を変えない」
といった条件を操船側へ伝えます。
操船担当は、その条件を守ったまま、いちばん早く医療拠点へ着ける経路を考えます。
患者の状態が変われば、使ってよい加速度も変わります。
すると、
飛行計画も変わります。
到着時刻も変わります。
救急搬送では、
「宇宙船がどこまで飛べるか」
ではなく、
「患者を安全に運べる範囲で、どこまで速く飛べるか」
が大切なのです。
【一番短い道が、一番早い?】
これも、
そうとは限りません。
たとえば短い経路を使うために、途中で船を大きく回転させなければならないとします。
健康な人だけなら、問題のない飛び方かもしれません。
でも、頭を強く打った人や、体の中で出血している可能性のある人を治療しながら運んでいる場合はどうでしょう?
大きな姿勢変更をしない、少し遠回りの経路なら、そのあとの区間で、もっと大きく加速できるかもしれません。
結果として、
遠回りしたほうが早く病院へ着くこともあります。
宇宙の救急車では、
距離だけを見て道を決めることはできないのです。
【サルースとは何がちがうの?】
サルースは、事故現場へ最初に飛び込むことが得意な救難機です。
細かく動き、
事故船へつかまり、
人を助け出します。
カリガ級は、もっとたくさんの人と道具を運びます。
専門救難隊。
医療班。
大型工具。
生命維持支援設備。
救助した人を治療する場所。
それらを、まとめて事故現場へ持っていきます。
サルースが、
「最初に助けに行く機械」
なら、
カリガは、
「助け続けるための場所を運んでくる船」
なのです。
【くらべてみよう!】
サルース
→事故船へすばやく近づき、直接救助する。
グラディヴス
→高い機動力と精密作業能力を使い、むずかしい場所へ入って状況を変える。
カリガ
→救難隊、医療班、設備を運び、助け出した人を受け取って治療しながら運ぶ。
一機ですべてをするのではありません。
事故船へ入る機械。
事故船を支える機械。
人を助け出す救難隊。
治療する医療班。
そして、
その全部を必要な場所へ運ぶ救難船。
それぞれが、自分の得意な仕事をします。
【カリガ級は、すごくない?】
グラディヴスのような、とびぬけた加速性能を見せる試験機ではありません。
サルースのように、事故船のすぐ横へ最初に飛び込んでいく機体でもありません。
事故船から少し離れたところで待っていることさえあります。
でも、
救難機が人を見つけても、
助け出して終わりではありません。
その人を受け取る。
けがを調べる。
治療する。
生きたまま医療拠点へ届ける。
そこまで続いて、
救難です。
カリガ級は、
宇宙の事故現場と病院のあいだをつなぐための救難船なのです。




