【コンラッド級 中型惑星間貨物船】
【コンラッド級ってなに?】
地球と火星のあいだでは、毎日たくさんの物が運ばれています。
機械。
食料。
資材。
部品。
そして、火星から地球へ送られる金属やミスリル合金。
そんな荷物を運ぶための宇宙船が、惑星間貨物船です。
コンラッド級は、その中でも中型にあたる貨物船。
大型のスモールフォレスト級ほどたくさんの荷物を一度に運ぶことはできません。
でも、いつでも15万tの荷物を運びたいわけではありません。
「今回は5万tくらい運びたい」
「一隻を満載にするまで待つより、早く出発したい」
「同じ会社の荷物をまとめて送りたい」
そんな仕事には、少し小さい貨物船のほうが便利です。
コンラッド級は、「とにかく一度にたくさん運ぶ船」ではなく、「必要な量を、必要な便で運ぶ船」なのです。
【コンラッド級のスペック】
名称:コンラッド級
分類:中型惑星間貨物船
主要航路:地球圏―火星圏
全長:約280~320m
最大幅:約45~55m
乾燥質量:約40,000~50,000t
標準航行質量:約100,000~120,000t
最大航行質量:約120,000~140,000t
最大貨物搭載量:約60,000~80,000t
標準乗員:約30~40名
主機関:AEドライブ
主機関総推力:約6.5MN
通常巡航加速度:約0.05m/s²(約0.005G)
MMR:貨物区画選択作動式
通常貨物航行時MMR軽減率:約20~40%
異常時MMR動作:貨物区画MMRを停止し通常質量へ復帰
船体構成:大型貨物区画、船橋・居住区、機関区、外部トラス・荷役支持構造
主な貨物:鉱石、金属、ミスリル合金などの重量貨物
主用途:地球圏―火星圏の中量惑星間貨物輸送
【「中型」なのに300m!?】
コンラッド級の全長は、およそ280~320m。
学校の運動場どころではありません。
とても大きな宇宙船です。
では、どうして「中型」なのでしょう?
宇宙には、もっと大きな貨物船がいるからです!
大型惑星間貨物船のスモールフォレスト級は、全長およそ400m。
最大で、およそ15万tもの貨物を運ぶことができます。
それに対してコンラッド級は、最大およそ6万~8万t。
だいたい半分くらいです。
宇宙の貨物船では、300mあっても中型なのです。
【小さい船なら、損じゃないの?】
一度に運べる量だけを見れば、大きな船のほうが有利です。
でも、船は大きければ大きいほどよいわけではありません。
たとえば、運びたい貨物が5万tしかないとします。
15万t運べる船へ積めば、まだたくさん空いています。
空いた場所へ別の荷物が集まるまで待つ方法もあります。
でも、急いでいる荷物なら?
決まった日に届けたいなら?
一社だけでまとめて運びたいなら?
そんなときには、コンラッド級くらいの船が使いやすくなります。
一隻をものすごく大きくする代わりに、必要なときに便を出しやすくする。
これも、貨物船の大切な性能です。
【くらべてみよう!】
スモールフォレスト級は、全長およそ400mで、最大およそ150,000tの貨物を運びます。乗員は、およそ30~40人です。
コンラッド級は、全長およそ280~320mで、最大およそ60,000~80,000tの貨物を運びます。乗員は、こちらもおよそ30~40人です。
あれ?
運べる荷物は半分くらいなのに、乗っている人の数はあまり変わりません。
【荷物が半分なら、乗員も半分じゃないの?】
なりません。
船が小さくなっても、船を操縦する仕事、機関を管理する仕事、通信をする仕事、貨物を監視する仕事、故障へ対応する仕事、船内の生命維持装置を管理する仕事まで半分になるわけではありません。
荷物を半分にしたから、船長も半分、機関員も半分――とはいかないのです。
【どのくらい速く飛ぶの?】
コンラッド級の主機関には、AEドライブが使われています。
主機関の総推力は、およそ6.5MN。
通常の惑星間航行では、およそ0.05m/s²、地球の重力に直すと約0.005Gほどの加速度で飛びます。
数字だけを見ると、とても小さく見えます。
でも、宇宙では空気抵抗がほとんどありません。
0.05m/s²でも、長い時間ずっと加速すれば、速度は少しずつ増えていきます。
惑星間貨物船に大切なのは、一瞬だけ強く加速することではなく、たくさんの荷物を積んだまま、決められた航路を安定して飛び続けることなのです。
【火星工学メモ①】
6.5MNで、どうして0.05m/s²なの?
最大航行質量の中間くらい、130,000tで考えてみましょう。
130,000tは、
130,000,000kg。
6.5MNは、
6,500,000N。
加速度aは、
a = F ÷ m
なので、
6,500,000 ÷ 130,000,000
= 0.05m/s²。
ちょうど、通常巡航で使うくらいの加速度になります。
スモールフォレスト級も通常巡航加速度は約0.05m/s²。
コンラッド級は、小さいから特別に速い貨物船ではありません。
運ぶ量を小さくしながら、同じような速度帯で使いやすくした貨物船なのです。
【MMRは、何のため?】
コンラッド級にも、MMR――マスリデューサーが使われています。
でも、グラディヴスのような高加速を出すためではありません。
コンラッド級では、主に貨物区画の有効慣性質量を小さくして、長距離航行で使う推進剤を減らすために使います。
しかも、船全体をまとめて同じように軽くするのではありません。
貨物が入っている区画を選んで作動させます。
通常の貨物航行では、およそ20~40%程度の軽減率を使います。
【どのくらい得するの?】
航行質量120,000tのコンラッド級に、60,000tの貨物が積まれているとします。
貨物だけを30%軽減すると、60,000tの貨物は運動に対して42,000t相当になります。
船体そのものを60,000tとすれば、船全体の有効慣性質量は、
60,000 + 42,000
= 102,000t相当。
これを0.05m/s²で加速するために必要な推力は、
102,000,000 × 0.05
= 5,100,000N。
約5.1MNです。
MMRを使わずに120,000tを同じ加速度で動かすなら、必要なのは6.0MN。
つまり、この例では必要推力をおよそ15%小さくできます。
同じ速さで飛ぶなら、そのぶん推進剤を節約できます。
貨物船では、「もっと速く!」ではなく、「同じ仕事を、もっと少ない消費で!」という使い方も大切なのです。
【貨物は、どうやって積むの?】
コンラッド級の貨物区画には、大きな荷物をいくつものブロックに分けて積みます。
重量貨物は、パレットや支持構造へ固定されます。
なぜ、そんなにしっかり固定するのでしょう?
宇宙は無重力だから、重い荷物でも浮いているのでは?
その通り。
エンジンを止めて、自由落下しているあいだなら、荷物も船もいっしょに浮いています。
でも――
貨物船は、加速します。
【宇宙でも、荷物は重くなる!?】
宇宙船が加速すると、船内からは荷物が反対方向へ押されているように見えます。
質量mの荷物を、加速度aで動かすために必要な力Fは、
F = ma
です。
たとえば、3,000tの貨物を積んでいるとします。
3,000tは、
3,000,000kg。
仮に船が0.05m/s²で加速すると、
F = 3,000,000 × 0.05
= 150,000N。
150kNです。
荷物が何もしなくても勝手に船といっしょに加速してくれるわけではありません。
貨物固定具や支持構造が、その力を荷物へ伝えているのです。
【固定具って、そんなに大切なの?】
とても大切です!
貨物船では、荷物も船の一部として計算されています。
どこに、何tの荷物が、どんな形で積まれているのか。
その情報を使って、重心、回りにくさ、推進器の力をどこへ掛けるか、姿勢制御器をどのくらい噴射するかまで計算しています。
だから、荷物が動くと、船そのものの性質まで変わります。
【重心ってなに?】
いろいろな場所に重さが分かれている物体を、「全部の重さが、ここに集まっている」と考えることのできる場所です。
宇宙船でも、船体、推進剤、機械、乗員、貨物を全部合わせた重心があります。
荷物を積み替えれば、重心も動きます。
【火星工学メモ②】
貨物が動くと、重心はどのくらい変わる?
たとえば、航行中の宇宙船の質量を110,000t、その中にある3,000tの貨物が船内で20m移動したとします。
とても単純に考えると、重心の移動量Δxは、
Δx ≒ m × d ÷ M
で見積もることができます。
m = 3,000t
d = 20m
M = 110,000t
なので、
3,000 × 20 ÷ 110,000
≒ 0.55m。
およそ55cm!
300m級の宇宙船から見れば、小さく感じるかもしれません。
でも、推進器も姿勢制御も、何万tもの船を正確に動かすために計算されています。
計算していた重心が50cm以上ずれれば、無視してよいとは限りません。
【重心だけじゃない!?】
はい。
もうひとつ変わるものがあります。
慣性モーメントです。
……急に難しい言葉が出てきましたね!
慣性モーメントは、物体の「回りにくさ」を表す量です。
同じ重さの物でも、重い部分が回転中心の近くに集まっているか、遠くに広がっているかで、回りやすさは変わります。
【火星工学メモ③】
点のような物体をいくつも集めたものとして考えると、慣性モーメントIは、
I = Σmr²
で表すことができます。
ここで、mは質量、rは回転中心からの距離です。
大切なのは、距離が二乗になっていることです。
同じ荷物でも、回転中心から遠い場所へ動けば、船の回りにくさは大きく変わります。
つまり、貨物が動くと、「重心が変わった!」だけではありません。
「さっきまでと同じ噴射をしても、同じように回らない!」ということまで起こるのです。
【コンピューターが直してくれるんじゃないの?】
もちろん、宇宙船の姿勢制御装置は、ずれた動きを見つければ修正します。
でも、コンピューターも、「船はいま、どんな状態なのか?」をもとに計算しています。
貨物が決められた位置にある。
重心はここ。
慣性モーメントはこれくらい。
その条件で、「この推進器をこれだけ噴射すれば、このくらい動く」と予測します。
ところが、重い貨物が船内で動き続けていたら?
一度計算を直しても、また状態が変わります。
船を元の姿勢へ戻そうとして噴射する。
そのあいだに貨物が動く。
さっき正しかった補正が、今度は大きすぎる。
さらに反対側へ補正する。
――ということも起こりえます。
【MMRは異常のとき、どうするの?】
貨物が動いた。
姿勢制御がうまく働かない。
推進器が、どちらへ力を出すのか保証できない。
そんな異常が起きたとき、コンラッド級は貨物区画のMMRを停止し、通常質量へ戻すことができます。
MMRで有効慣性質量を小さくしている物体は、同じ力を受けたときに大きく動きます。
推力方向を正確に管理できないときには、その高い応答性がかえって危険になることがあります。
そこで、軽いまま飛び続けることより、通常質量へ戻して動きを穏やかにすることを優先します。
もちろん、MMRを止めれば貨物の有効慣性質量は大きくなるため、推進や姿勢制御の設定も通常質量を前提に切り替えなくてはいけません。
異常時には性能より、まず安全。
貨物船のMMRにも、そんな使い方があるのです。
【だから、荷物は固定する!】
貨物固定具は、宇宙船の中で目立つ装置ではありません。
大きなエンジンでもありません。
きれいな船橋でもありません。
最新のセンサーでもありません。
でも、何万tもの貨物を積んだ船では、荷物を決められた場所へ、決められた力で、ずっと固定しておくことが、船を正しく飛ばすために必要なのです。
【コンラッド級は、すごくない?】
スモールフォレスト級より小さい。
ものすごく速い試験機でもない。
特別な救難船でもない。
コンラッド級は、荷物を積み、地球と火星のあいだを飛び、荷物を降ろし、また次の荷物を運ぶための貨物船です。
大きすぎず、小さすぎず、必要な量の荷物を、必要なときに運ぶ。
宇宙の物流では、そんな普通の船が、毎日たくさん働いています。
コンラッド級は、地球と火星の暮らしをつなぐ、そんな働きものの貨物船なのです。




