【OSQ-34 ミレス】
【ミレスってなに?】
ミレスは、地球圏でたくさん使われている、軍用のクアドリガです!
正式名称は、
OSQ-34 ミレス。
アークライト・オービタル・エンジニアリングが開発した、第二世代クアドリガのひとつです。
護衛。
迎撃。
宇宙施設の防衛。
大きな宇宙船を守る仕事。
いろいろな任務で使われています。
ミレスには、グラディヴスのような、とびぬけて変わった性能はありません。
ものすごく速いわけでもありません。
一機しかない特別な機体でもありません。
でも――
同じミレスが、たくさんあります。
同じ部品が使えます。
同じ方法で整備できます。
同じように飛ぶことができます。
それこそが、ミレスのいちばん大切なところなのです!
【ミレスのスペック】
正式名称:OSQ-34 ミレス
分類:第二世代後期標準軍用クアドリガ
通称世代区分:第2.5世代
開発・製造:Arclight Orbital Engineering
展開時最大寸法:約17~18m級
非武装時質量:約65t
標準戦闘時質量:約70~75t
可動推進モジュール:4基
反動推進器総推力:約380kN
最大MMR作動率:約70%
通常戦闘時MMR作動率:約40~50%
MMR非作動時加速度:約0.6G
通常戦闘機動:約0.8~1.1G
非武装時最大加速度:約2G
標準戦闘時最大加速度:約1.7~1.8G
標準武装:
MOI-40C 40mm級MMR誘導加速砲
EKS-8 8セル・キルサットポッド
CLS-PD12 近接防御レーザー
主用途:
護衛、迎撃、対艦支援、宇宙施設防衛など
【第2.5世代ってなに?】
ミレスは、ときどき、
「第2.5世代クアドリガ」
と呼ばれることがあります。
第二世代と第三世代の、ちょうど半分なのでしょうか?
ちがいます!
ミレスは、技術的には第二世代クアドリガです。
第三世代の新技術を半分だけ使っている、という意味ではありません。
第二世代クアドリガが長く使われるなかで、
「もっと整備しやすくしよう」
「部品を共通にしよう」
「たくさん作っても、性能がばらばらにならないようにしよう」
「こわれても、すぐ任務へ戻せるようにしよう」
と、設計が少しずつ整理されていきました。
そのような第二世代後期の機体を、古い第二世代と区別するときに、
「2.5世代」
という呼び方が使われるのです。
つまり、
第二世代のなかでは、かなり新しい!
というくらいの意味なんだね!
【ここがすごい!】
こわれたら、交換!
ミレスの四本の可動推進モジュールや、兵装、補機、外装の多くは、規格がそろえられています。
もし推進器がこわれたら?
工場で、その機体だけに合う新しい推進器を作る必要はありません。
倉庫から、同じ規格の推進器を持ってきます。
こわれたものを外します。
新しいものを取り付けます。
接続を確認します。
試験します。
おしまい!
もちろん、本当の宇宙機整備は、こんなに簡単ではありません。
でも、
「部品そのものを作り直す」
のと、
「準備されている同じ部品へ交換する」
のでは、大きな違いがあります。
戦うための宇宙機では、この違いがとても大切です。
【どうして同じものをたくさん作るの?】
一機だけなら、特別な機体を作ることもできます。
腕のいい技術者が時間をかけて調整して、
その機体だけの部品を使って、
とても高い性能を出す。
そんな宇宙機も作れます。
でも、100機あったらどうでしょう?
100機すべてに、
ちがう部品。
ちがう整備方法。
ちがう調整。
ちがう工具。
が必要になったら、とてもたいへんです。
軍用機では、一機の性能だけでなく、
「たくさんの機体を、いつでも使える状態にしておけること」
が重要です。
だからミレスでは、
ものすごく特別な一機を作ることより、
同じ性能を持つ機体を、同じ方法でたくさん使えることが大切にされています。
【軍用機なのに、いちばん速くないの?】
「戦う宇宙機なら、救難船よりずっと速いはず!」
と思うかもしれません。
でも、ミレスの最大加速度は、武装を外した状態でおよそ2G。
標準的な戦闘装備を積むと、およそ1.7~1.8Gです。
救難用のサルースCも、緊急時には最大でおよそ2Gを出すことができます。
あれ?
軍用機なのに、あまり変わらない?
そうです。
でも、
同じ2Gでも、同じではありません!
【同じ2Gでも、同じじゃない!】
サルースCは、大きな救難装備や作業装置を積んだ、約150tの宇宙機です。
その大きな機体を、強力なMMRで軽くして、緊急時には約2Gまで加速します。
一方、ミレスは非武装なら約65t。
ずっと軽い機体です。
最大MMR作動率も、およそ70%に抑えられています。
では、計算してみましょう!
【火星工学メモ①】
ミレスは、どうして約2G出せるの?
ミレスの非武装時質量を約65t。
反動推進器の総推力を約380kNとします。
MMRを使わなければ、
380,000 ÷ 65,000
≒ 5.85m/s²。
地球の重力加速度を約9.8m/s²とすると、
およそ0.6Gです。
では、MMRで有効質量を70%減らしてみましょう。
残るのは30%です。
65t × 0.30
= 19.5t。
380,000 ÷ 19,500
≒ 19.5m/s²。
これは、およそ2G!
だからミレスは、最大MMRを使った非武装状態なら、約2Gの加速ができるのです。
【武器を積むと遅くなる?】
なります。
宇宙では、武器にも質量があります。
弾薬にも質量があります。
キルサットにも質量があります。
追加されたセンサー、冷却装置、電源、防護装備にも質量があります。
標準戦闘装備を積んだミレスを約72tとして、同じようにMMRを70%作動させると、
72t × 0.30
= 21.6t。
380,000 ÷ 21,600
≒ 17.6m/s²。
およそ1.8Gです。
つまり、
武装なし:約2G
標準戦闘状態:約1.8G
となります。
武器を積めば、そのぶん少し重くなる。
当たり前のことですが、宇宙機でも同じなんだね!
【それなら、もっと大きな推進器をつければいいのでは?】
つけることはできます。
MMRをもっと強くすることもできます。
そうすれば、もっと大きな加速度を出せます。
でも、
推進器が大きくなれば、推進剤をたくさん使います。
MMRを強く使えば、電力をたくさん使います。
どちらも、熱をたくさん出します。
構造も強くしなければいけません。
冷却装置も大きくなります。
機体は高くなります。
整備もたいへんになります。
そして、戦闘中に一回だけすごい加速ができても、そのあと熱くなりすぎて動けなくなってしまったら困ります。
ミレスが大切にしているのは、
「一度だけ、ものすごい性能を出すこと」
ではありません。
必要な性能を、何度も使えること。
それが、量産軍用機としてのミレスの考え方なのです。
【宇宙では、どうやって戦うの?】
ここからは、すこしむずかしいお話です!
宇宙には、空気がほとんどありません。
飛行機のような翼も必要ありません。
右へ進みたいからといって、機首を右へ向ける必要もありません。
クアドリガは、四本の可動推進モジュールを、それぞれ別の方向へ向けることができます。
敵へ機体の正面を向けたまま――
右へ。
左へ。
上へ。
下へ。
斜めへ。
後ろへ。
動くことができます。
これが、宇宙戦闘でとても大きな意味を持ちます。
【弾は、どうやってよけるの?】
たとえば、まっすぐ飛んでくる無誘導の砲弾。
発射されたあと、自分では曲がらない弾です。
撃つ側は、
「弾が届くころ、相手はここにいるはず」
という未来の位置を予測して発射します。
では、撃たれた側が、その予測された位置から少し横へ動いたら?
弾は、そのまま予定していた場所を通っていきます。
つまり宇宙では、
「弾より速く逃げる」
必要はありません。
弾が来る場所から、自分がいなくなればいいのです。
【火星工学メモ②】
5秒で、どのくらいずれればいい?
たとえば、敵の弾が届くまで5秒あるとします。
ミレスが横方向へ0.2Gで加速したら、どれくらい移動できるでしょう?
0.2Gは、およそ1.96m/s²。
移動距離は、
s = 1/2 × a × t²
で求められます。
数字を入れると、
1/2 × 1.96 × 5²
= 24.5m。
約25m!
もちろん本当の戦闘では、
相手との距離。
弾の速度。
こちらの速度。
射撃時の観測誤差。
相手が次の機動を予測しているか。
など、もっとたくさんの条件があります。
でも、
ほんの0.2Gの横加速でも、5秒続けば25m近く位置を変えられる。
ということがわかります。
ミレスほどの大きさの宇宙機なら、これは無視できない距離です。
【最大2Gを出せば、もっとよけられる?】
もちろん、大きく動くことはできます。
でも、いつも最大加速するのがよいとは限りません。
敵も、こちらの動きを見ています。
右へ大きく動いた。
次も右へ行きそうだ。
では、その先を狙おう。
そうやって予測されてしまいます。
そこで、
右へ0.2G。
少し待つ。
上へ0.4G。
推力を止める。
左下へ0.3G。
また止める。
というように、小さな加速度変更を組み合わせます。
大切なのは、
「どれだけ大きく動けるか」
だけではなく、
「次にどこへ動くのか、相手に簡単に読ませないこと」
なのです。
【ミレスの強さは、最高速度じゃない?】
宇宙では、一度加速した物体は、止めなければそのまま進み続けます。
そのため、
「最高速度が何km/hか?」
という数字は、戦闘機の性能をくらべるときほど便利ではありません。
重要なのは、
どの方向へ。
どれだけ強く。
どれだけ早く。
どれだけ長く。
加速度を変えられるかです。
ミレスは、およそ2Gの最大加速を一回だけ出すための機体ではありません。
0.2G。
0.5G。
0.8G。
1G。
必要な方向へ、必要なだけ。
それを何度も繰り返せることが、戦闘では大切なのです。
【キルサットが追いかけてきたら?】
ミレスの標準装備には、
EKS-8《イーケーエス・エイト》
というキルサットポッドがあります。
キルサットは、発射されたあと、自分で目標を追いかける小型攻撃機です。
まっすぐ飛ぶ砲弾とちがって、
「横へよけた!」
だけでは終わりません。
キルサットも進路を変えて追いかけてきます。
右へ逃げる。
キルサットも右へ。
下へ逃げる。
キルサットも下へ。
また方向を変える。
キルサットも迎撃軌道を計算し直す。
こうなると、
「どちらが一回だけ強く加速できるか」
ではなく、
「どちらが最後まで機動を続けられるか」
という戦いになることがあります。
【追いかけっこにも、燃料がいる!】
進路を変えるたびに、推進剤を使います。
MMRを使えば、電力を使います。
推進器もMMRも熱を出します。
キルサットにも、同じように使える推進剤や電力には限りがあります。
つまり追いかけっこを続ければ、
追う側も。
逃げる側も。
少しずつ「動くための余裕」を失っていきます。
もちろん、
速さ。
距離。
残っている推進剤。
最初の位置関係。
キルサットの性能。
によって、どちらが有利になるかは変わります。
必ず逃げる側が有利というわけではありません。
でも、
戦闘が長引けば長引くほど、
推進剤。
電力。
熱。
MMR。
といった残りの能力が、大切になっていくのです。
【火星工学メモ③】
宇宙機の「スタミナ」
宇宙機に筋肉はありません。
でも、
「あとどのくらい戦える?」
という意味では、スタミナのようなものがあります。
ミレスなら、
推進剤残量。
電池残量。
蓄熱余力。
MMR運転余裕。
兵装残量。
機体損傷。
などです。
推進剤が残っていても、熱が限界なら大きな機動はできません。
電力が残っていても、推進剤がなければ反動推進器は使えません。
機体が無傷でも、弾薬を使い切れば攻撃方法が減ります。
だから宇宙戦闘では、
「いま何G出せるか?」
だけでなく、
「そのGを、あと何回使えるか?」
も重要なのです。
【レーザーは、横によければいいの?】
レーザーは光です。
とても速いです。
近い距離から発射されたレーザーを見て、
「あっ、撃った!」
と気づいてから横へ逃げても、間に合いません。
そのためレーザーへの対処では、
撃たれる前から進路を変え続ける。
相手の照準をむずかしくする。
遮蔽物を利用する。
微粒子や薄膜による光学的な妨害を利用する。
こちらの近接防御レーザーで、相手のセンサーや攻撃手段へ対処する。
など、砲弾とはちがう方法が必要になります。
宇宙戦闘では、
砲弾。
レーザー。
キルサット。
それぞれに、ちがった「よけ方」があるのです。
【四本の「あし」は、戦うためにも役に立つ!】
昔の宇宙戦闘艇では、大きな推進器は船体の後ろに固定されていました。
横へ動きたい。
では、機体そのものを横へ向けます。
ところが機体を横へ向けると、正面にある武器も横を向いてしまいます。
敵を狙いながら、別の方向へ動く。
これがむずかしかったのです。
クアドリガでは、四本の可動推進モジュールの向きを変えることで、
機体は敵へ向けたまま。
武器も敵へ向けたまま。
推進する方向だけを変えられます。
撃つ方向。
見る方向。
動く方向。
これらを別々にできる。
クアドリガが宇宙戦闘で広く使われる大きな理由のひとつです。
【一本こわれたら、もう動けない?】
クアドリガが四本の推進モジュールを持つ理由のひとつは、故障への強さです。
一本が使えなくなっても、残った三本を使って推進や姿勢制御を続けることができます。
もちろん、正常な四本のときと同じようには動けません。
使える推力の方向。
回転を打ち消すための推力。
残ったモジュールへの負担。
すべてが変わります。
でも、
「一本こわれたから、その場で何もできなくなる」
より、
「性能は落ちるけれど、まだ動ける」
ほうが、軍用機ではずっと大切です。
そして基地へ戻れば――
こわれたモジュールを外します。
同じ規格のものを持ってきます。
取り付けます。
確認します。
また飛べます。
ミレスの設計思想は、ここでも同じなのです。
【どうして装甲を厚くして、ぜんぶ丈夫にしないの?】
宇宙機では、丈夫にすることにも代償があります。
装甲を厚くすると重くなります。
重くなれば、同じ加速をするために大きな推力が必要です。
MMRを強く使えば、電力と熱の負担が増えます。
大きな推進器を積めば、また重くなります。
すると、もっと強い構造が必要になります。
どこまでも丈夫に。
どこまでも速く。
どこまでも武器をたくさん。
全部を同時に増やしていくことはできません。
そこで設計者は、
「何を守る?」
「何がこわれても飛べるようにする?」
「何なら交換すればよい?」
「どれくらいの性能があれば任務を果たせる?」
と考えます。
ミレスは、
絶対にこわれない宇宙機
ではなく、
こわれることも考えて作られた宇宙機なのです。
【一番強い機体を100機作ればいいんじゃない?】
もし、お金も。
材料も。
工場も。
整備員も。
時間も。
ぜんぶ無限にあれば、それでもいいかもしれません。
でも、本当は無限ではありません。
宇宙機を使うには、
作るお金。
飛ばすお金。
部品を用意するお金。
整備するお金。
整備員を育てるお金。
基地に設備を置くお金。
古くなった部品を交換するお金。
があります。
一機を買ったら、それで終わりではありません。
【火星工学メモ④】
100機を10年間使うとしたら?
ここでは、値段そのものではなく、考え方を見てみましょう。
100機がすべて別々の部品を使っていたら?
基地には、たくさんの種類の交換部品を置かなければなりません。
でも100機が同じ部品を使えたら?
同じ交換部品をまとめて作れます。
同じ工具を使えます。
同じ整備方法を覚えれば、たくさんの機体を整備できます。
ひとつの部品を大量に作れば、一個あたりを安く作れることもあります。
これを、
ライフサイクルコスト
という考え方で見ることがあります。
宇宙機を、
買う。
使う。
直す。
部品を交換する。
最後に退役させる。
その全部にかかる費用を考えるのです。
※対象年齢8歳です。
【ミレスは「安い機体」なの?】
「安く作る」
だけが目的ではありません。
必要な性能を決める。
その性能を確実に出す。
同じ品質でたくさん作る。
どこへ持っていっても整備できる。
部品を補給できる。
長く使える。
その結果として、
「一機だけの特別な高性能機より、軍全体では使いやすい」
ということがあります。
ミレスが重視しているのは、
値札の安さだけではなく、
運用全体の効率なのです。
【グラディヴスとどっちが強い?】
グラディヴスは、第三世代技術を試すためにつくられた先行統合試作機です。
非常に高い加速性能。
独立したMMR制御。
AEドライブ。
分散熱管理。
いろいろな新しい仕組みが搭載されています。
単純な性能だけをくらべれば、グラディヴスが大きく上回るところがたくさんあります。
では、ミレスは古くて弱い機体なのでしょうか?
それもちがいます。
グラディヴスが一機こわれたら、
図面を確認する。
必要な部品を調べる。
材料を用意する。
場合によっては、その部品を作る。
ミレスがこわれたら、
倉庫から部品を持ってくる。
交換。
確認。
終了。
一機だけの性能をくらべるのか。
100機を毎日使うことを考えるのか。
どちらを見るかで、「よい宇宙機」の意味は変わります。
【ミレスは、すごくない?】
ミレスには、
世界で一番速い!
世界で一番大きい!
世界で一番強い!
という分かりやすい記録は、あまりありません。
でも、
たくさん作られ。
たくさん飛び。
いろいろな基地で使われ。
こわれたら直され。
また飛び。
同じ部品を使い。
同じ仲間と編隊を組み。
必要な場所へ出ていく。
それを毎日続けることができます。
軍用機に必要なのは、
一度だけ奇跡のような性能を出すことではありません。
必要なときに。
必要な場所で。
必要な数が。
ちゃんと動くこと。
ミレスは、そのためにつくられたクアドリガなのです!
※本項は編集部の都合により、通常よりページ数が多くなっています。




