【XQA-01 グラディヴス】
【グラディヴスってなに?】
グラディヴスは、火星で試験が進められている、新しいクアドリガです!
正式名称は、
XQA-01 グラディヴス。
これまでのクアドリガで使われてきた技術と、新しく開発された技術を、一機の宇宙機へまとめて試すためにつくられました。
そのため、グラディヴスは完成した量産機ではありません。
いろいろな飛び方。
いろいろな作業。
いろいろな故障。
いろいろな使い方。
それらを実際の宇宙で試しながら、
「これからのクアドリガには、どんな技術が必要なのか?」
を調べているのです。
未来のクアドリガをつくるための、実験機なんだね!
【グラディヴスのスペック】
正式名称:XQA-01 グラディヴス
分類:第三世代クアドリガ先行統合試作一号機
開発・製造:Arclight Orbital Engineering
展開時最大寸法:約18~20m級
通常質量:約70t
可動推進モジュール:4基
反動推進器総推力:約1.4MN
AEドライブ:搭載
MMR:各部独立制御方式
遠隔受電:対応
熱管理:分散熱管理方式
最大加速度:非公表
最大MMR作動率:非公表
航続性能:非公表
主用途:第三世代宇宙機技術の統合実証、長距離巡航、精密機動、接舷、救難、船外作業など
※グラディヴスは現在も試験中の機体です。数値は公表資料などから確認できる、おおよその値です。
【ここがすごい!】
四本の「あし」が、ぜんぶおなじ!?
クアドリガには、四本の大きな可動モジュールがあります。
推進器を動かしたり、宇宙船につかまったり、作業装置を使ったり、機体の姿勢を支えたり。
とても便利な装置です。
グラディヴスでは、この四本の推進モジュールの基本規格が共通化されています。
つまり、右側の一本がこわれた!
そんなときでも、残っているモジュールへ仕事を分けなおすことができます。
もちろん、どんな仕事でも完全に入れ替えられるわけではありません。
取り付けている装備や、動かせる範囲によって、できることは変わります。
それでも、
「右腕は右腕の仕事だけ!」
とは決めない。
そのとき使えるものを使って、機体ぜんぶで仕事を続ける。
これがグラディヴスの大きな特長です!
【どうして人みたいな形なの?】
グラディヴスには、中央船体から四本の長い推進モジュールが伸びています。
その姿は、まるで人間の手足のようにも見えます。
でも、人間の形に似せるためにつくられたわけではありません。
宇宙では、進みたい方向、向きたい方向、つかまりたい場所、作業したい場所が、それぞれ同じ方向にあるとは限りません。
そこで四本のモジュールを大きく動かせるようにすると、
一本で機体を押す。
一本で回転を止める。
一本で相手につかまる。
もう一本で作業する。
なんてこともできます。
いろいろな仕事をさせようとした結果、人間の四肢に少し似た形になったのです。
【第三世代ってなに?】
第三世代クアドリガの大きな特長のひとつが、MMRの使い方です。
これまでの図鑑でも紹介してきたように、MMRは宇宙船を動かすときの有効慣性質量を小さくする装置です。
第三世代では、その作用領域をさらに細かく分けます。
中央船体。
四本の推進モジュール。
乗員区画。
それぞれを、必要に応じて別々に制御します。
たとえば、右側のモジュールをすばやく動かしたいとき。
その部分の有効慣性質量を小さくする。
機体を回転させたいとき。
四本のモジュールと中央船体のMMRを、その動きに合わせて調整する。
一機の宇宙船なのに、場所によって「動かしやすさ」がちがう!
とても複雑な仕組みなんだね!
【操縦はむずかしくないの?】
とてもむずかしいです!
四本のモジュールは、それぞれ向きを変えます。
それぞれに推進器があります。
AEドライブもあります。
MMRも場所ごとに変わります。
ひとつの推進器を動かしただけでも、前へ進む力、横へ動く力、機体を回転させる力など、いろいろな力が同時に生まれます。
これを操縦者が全部、ひとつずつ調整するのはたいへんです。
そこでグラディヴスには、高度な統合機動制御が使われています。
操縦者が、
「右へ動きたい!」
と操作すると、どのモジュールを動かすか、推力はどのくらいか、どの方向へ噴射するか、MMRはどこをどのくらい使うか、という計算を機体側がまとめて行います。
操縦者がひとつの操作をしているあいだにも、グラディヴスの中では、とてもたくさんの計算が行われているのです。
【AEドライブもついている!】
グラディヴスは、反動推進器とAEドライブの両方を使うことができます。
反動推進器は、短い時間に大きな力を出すのが得意。
AEドライブは、電力を使って長い時間推力を出すのが得意。
だから、急いで加速するとき、ゆっくり近づくとき、長い距離を移動するとき、それぞれに合った方法を選ぶことができます。
さらに、対応した施設の近くでは、遠隔受電によって外部から電力を受け取ることもできます。
たくさんの機能を持つグラディヴスでは、推進剤、電力、熱、MMRのどれかひとつだけではなく、全部の残りを考えながら飛ばなくてはいけません。
何でもできるからこそ、何をするか決めることが大切な宇宙船なのです。
【どのくらい速いの?】
これは、まだひみつです!
グラディヴスは現在も試験中です。
そのため、最大加速度、最大MMR作動率、最高性能で飛べる時間といった詳しい性能は公表されていません。
試験のたびに設定や装備が変わることもあるので、
「グラディヴスは最大で何G!」
と、まだ決めることができないのです。
……。
…………。
でも。
公開されていないからといって、何もわからないとは限りません。
【加速試験を見てみよう!】
グラディヴスの公開高速加速試験では、約1,400km離れた二つの計測点のあいだを、およそ15分で通過した記録があります。
1,400km。
15分。
まずは平均速度を計算してみましょう!
15分は、900秒。
1,400kmは、1,400,000m。
だから、
1,400,000 ÷ 900
≒ 1,556m/s。
秒速にすると、約1.56km/s!
時速にすると、約5,600km/h!
とても速いね!
……ところで。
これは「平均速度」です。
グラディヴスは、最初から秒速1.56kmで飛んでいたわけではありません。
計測区間へ入ったあとに加速し、途中を高速で飛び、終端側では減速しています。
さらに外部観測記録では、試験開始直後と終端側で、それぞれ約15秒間、強い反動推進を行ったとみられています。
……15秒?
1,400km?
15分?
これ、計算できるんじゃない?
【火星工学メモ】
グラディヴスのひみつの加速度を予想してみよう!
ここからは、公表された飛行記録と外部観測からの推定です。
本当の試験条件とはちがう可能性があります。
まず、
計測区間 約1,400km
通過時間 約15分
強い加速 約15秒
強い減速 約15秒
だったとします。
そして、最初の15秒はほぼ一定の加速度で加速、最後の15秒は同じくらいの加速度で減速、そのあいだはだいたい同じ速度で飛んだ、と仮定します。
通過時間は、
15分 = 900秒。
加速時間を t、区間通過時間を T、加速度を a とすると、この飛行で進む距離は、おおよそ、
d = a × t × (T-t)
で表すことができます。
数字を入れてみましょう。
1,400,000
= a × 15 × (900-15)
900-15は、885。
だから、
1,400,000
= a × 13,275。
a = 1,400,000 ÷ 13,275
≒ 105.5m/s²。
地球の標準重力加速度は約9.8m/s²なので、
105.5 ÷ 9.8
≒ 10.8。
つまり――
約10.8G!
15秒後の速度も計算できます。
v = a × t
なので、
105.5 × 15
≒ 1,580m/s。
秒速、約1.6km。
時速なら、約5,700km/h!
……あれ?
最大加速度は、
「ひみつです!」
じゃなかったの?
もちろん、この数字は正式発表された性能値ではありません。
二地点の通過時刻、観測された推進器の作動時間、そして単純化した飛行モデル。
それだけから計算した推定値です。
でも、「約1,400kmを約15分」という試験記録とは、とてもよく合います。
【もうひとつ計算できるよ!】
グラディヴスの公表されている通常質量は、約70t。
反動推進器の総推力は、約1.4MN。
もし70tの機体を、MMRを使わずに1.4MNで押したら、加速度は、
1,400,000 ÷ 70,000
= 20m/s²。
約2Gです。
でも、さきほどの観測記録から推定した加速度は、約10.8G。
ぜんぜん足りません。
では、1.4MNの推力で約105.5m/s²の加速度を得るには、有効慣性質量がどのくらいならよいのでしょう?
m = F ÷ a
なので、
1,400,000 ÷ 105.5
≒ 13,300kg。
約13.3tです。
本来は約70t。
それが運動に対して約13.3t相当になっていたとすると、
13.3 ÷ 70
≒ 0.19。
つまり、本来の約19%。
質量軽減率にすると――
約81%。
この公開試験では、80%を少しこえるMMR作動率が使われていた可能性があります。
ただし!
グラディヴスの最大MMR作動率は公表されていません。
試験時の正確な機体質量も公表されていません。
推進器が公表値どおりの出力だったかもわかりません。
AEドライブがどの程度使われていたのかもわかりません。
だから、
「グラディヴスのMMR作動率は81%です!」
という意味ではありません。
公開情報から計算すると、
「それくらいだった可能性があります」
ということです。
本当の数字は――
やっぱり、まだひみつです!
【これからどうなるの?】
グラディヴスは、未来の量産型クアドリガそのものではありません。
グラディヴスで試された技術の中から、便利だったもの、安全だったもの、長く使えたもの、整備しやすかったもの、そして実際の仕事で役に立ったもの。
そうした技術が、これからつくられる宇宙船へ受け継がれていきます。
未来のクアドリガは、グラディヴスによく似ているかもしれません。
まったくちがう姿になるかもしれません。
試験機は、未来ののりものそのものではありません。
未来ののりものをつくるために、いま、いろいろなことを試しているのりものなのです。
※性能推定には、一般に公開されている機体諸元、飛行記録および外部観測資料を使用しています。
※推定値は製造会社による公式性能値ではありません。
※製造会社は、本誌の性能推定についてコメントしていません。




