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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
母さんの墓参りにいく▢

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35/38

第35話

 墓参りを終え『俊介くんの思いでの場所』という真奈実からのリクエストで俊介が向かったのは、山道を進んだ先にある小さなホテルだった。


「長期休みの度に、ここに家族で泊まりに来てたんだ」


 真奈実が質問するよりも早く、俊介はそう言って車を降りた。


「貰ったお野菜とか、どうしようか?」


「別にいいよそのまんまで。この時期エンジン掛けてない車なんて、冷蔵庫みたいなもんだし。わざわざ車上を荒らしてまで、米やら野菜やら持ってくような奇特な泥棒もいないでしょう」


 言われてみればその通りな気がして、必要最低限の荷物と貴重品だけ持って車を降りる。


 玄関から入ってすぐの場所になぜか仁王立ちしている、シロクマの剥製を不思議に思いながら、チッェックインを済ませ部屋の鍵を受け取る。


 部屋に荷物を置いた後、このホテルの自慢だという源泉掛け流しの大岩石風呂で汗を流し、バイキング形式の食堂で夕食を食べた。


 そうしてホテル内で出来ることを、一通り満喫した後、部屋で二人のんびりと過ごしている時だった。


「俺さ、別に田舎が嫌で東京に出てきた訳じゃ無いんだよ」


 別に真奈実が尋ねた訳でも無く、ただ世間話でもするように俊介は話し出した。


「ここには家族がいて、建一や春ちゃんもいて、正直に言えば東京に居たときよりも、居心地はいいくらいだった」


 真奈実は俊介が話し出したその話を、ただ黙って聞く。


 俊介が何かを伝えようとしている、それに水を差したくは無かった。


「本当に居心地が良くて、でも、もしこのままここの大学入って、就職でもしたら俺は一生このままだなって。なんかそれってこの場所に……家族や友達に甘えてるみたいじゃない?」


 聞かれても、正直真奈実にはピンと来なかった。自分だったら、そのまま甘えてしまいそうな気がする。


「まぁ、父さんと喧嘩して意地になってたてのもあったけどさ。それでも反対押し切ってまで出てきたんだから、生中のままじゃ帰れないぞって、そう思ってた」


 すごく個人的なこだわり。


 俊介は以前、自分が東京に出てきた理由をそう話していた。


 別に俊介がこの場所に、止まり続けたところで誰も彼のことを責めたりはしなかったと思う。


 それでも俊介はそんな自分を許せなかったのだろう、だから父親と対立してまで家を出た。


「今までも何度かこっちに帰っては来てたけど。本当の意味で帰っては来れて無かったような気がしてた。偶に帰ってきても心は置いてきてるような気がして」


 俊介が真奈実の事を手招きするので近くに歩み寄ると、俊介が窓に掛けられていたカーテンを開ける。


 日の明かりがあるときは、素朴な森と緩やかな川を見下ろすことが出来たが、今は全て黒色で塗りつぶされた様に真っ黒で。


 部屋の明かりで白く輝く雪がふわふわと、舞い降る姿は普段真奈実にはどことなく幻想的で綺麗に見えた。


「でも今回は違う、建一や春ちゃんと久し振りにあって、姉さんや……父さんとも久し振りに話をして、楽しかった」


 俊介がそっと真奈実の左手を取る。


「俺はようやく、本当の意味でここに帰って来れたような気がするそしてそれは全部、真奈実の御陰だ」


 俊介が優しく、真奈実の左手にはめられた指輪をそっと外す。


「え、なに? どうしたの」


「いや、やっぱりこのまんまじゃ恰好つかないから」


 そう言って、俊介はそこで口籠もった。


 何かを言おうと口を開くが、何も言わずに口を閉じるを繰り返す。


 何かを言おうとして、でもそれを言ってしまってもいいのだろうかと、躊躇しているような、迷っているような。


「俊介くん」


 少しムッとした表情で彼の名前を呼ぶ。


 彼が何を言おうとしてるのかは、分からない。


 それでも、何を言われたとしても私は変わらない、受け容れる覚悟はもう決めた。


 侮られるのは業腹だ。


 そんな思いを込めて彼を見つめる。


「……強いな、やっぱり君は。初めて会ったときから」


 そう呟くと、俊介がその場に跪いた。


「俺は今、真奈実の事を不幸にしようとしてる。それでも俺は残りの時間を、俺の残った全てを大事な一人の為に使いたい、だから――」


 俊介が物語の王子様の様に真奈実の左手をとり、外した指輪を薬指にはめ直す。


 優しくて、でも何処か覚悟を決めたような表情で真奈実を見上げ。


「久野空真奈実さん」


 まっすぐに互いの瞳を見つめ合って。


「僕と結婚してください」


 なんのひねりもない、テンプレートなプロポーズの言葉、なのに――。


 ああもう、悔しいな。


 いざその時なってみると、一言では上手く言えない気持ちが溢れて、こんなありふれた言葉しか出て来ない。


「はい、喜んで」


 言った瞬間、気が付けば俊介に抱きついていた。俊介はそれを優しく受け容れて、愛おしそうに真奈実の髪を撫でて。


「ありがとう。ゴメンね」


 耳元で俊介がそう囁く。


 それを聞こえないふりをして、真奈実は俊介をさらに少しだけ強く抱きしめた。


 母さんの墓参りにいく☑


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