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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
母さんの墓参りにいく▢

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第34話

 その日の仕事を終えて夜、改めて今後の事をどうするか話し合った。


「婚姻届はすぐにでも出すとして、式はどうしようか? 上げたい?」


 その質問に、真奈美は答えを詰まらせた。


 まだ子供だった頃、親戚のお姉さんの結婚式に呼ばれた事がある。


 ウエディングドレスを着たお姉さんはすごく綺麗だったのを今も憶えてる。


 それ以来、ウエディングドレスや結婚式は細やかな憧れだった。だから出来ることなら式は挙げたい――でも。


「時間が無いんでしょう?」


 俊介に残された時間は僅か一ヶ月。とても結婚式を挙げられるとは思えない。

 しかし俊介は首を左右に振った。


「出来るか出来ないかは聞いてない。真奈美が結婚式を上げたいかどうかを聞いてるの」


「でも」


「でももヘチマもありません。答えはイエスかノーで」


「俺と結婚式挙げたい?」改めてそう聞かれて真奈美は少し遠慮がちに「イエス」と答えた。


「オッケーじゃあ、やろう」


「でも、間に合うの?」


「なんとかなると思う、俺も最近知ったんだけど、やろうと思えば数週間で式を挙げるプランもあるみたいだし」


 言いながら俊介が、スマホを操作して真奈美の方へ画面を向ける。そこに表示されているのはブライダルデザイナー会社のホームページだ。


「結納とか色々省略することになるし規模も大きいのはムリそうだけど、これなら今申し込めば、なんとか式を挙げる事は出来ると思う」


 ホームページに書かれたプランの内容を確認してみると、確かにこれならギリギリなんとかなりそうである。


「どうかな?」


「いいと思うけど、本当にいいの?」


 なんだが我が儘を聞いて貰ったような気がして、申し訳ない。


「いいんだよ。それに本音を言うと。俺も結婚式は挙げたかったから。だから真奈美が式を挙げたいって言ってくれて、ちょっとホッとしてる」


 そう言って俊介は少し照れくさそうに笑う。


「俊介くん、こそ何かしたいことはないの?」


「俺?」


「そうだよ。今は私より、俊介くんがやりたいことをやらないと」


 もし本当に俊介の命が残り一ヶ月ほどだというのなら、その時間は真奈美よりもまず俊介に使われるべきものの筈だ。


 真奈実が答えを黙って待ち続けるなか、俊介はしばらく考える素振りをして、


「……実家に、一度帰りたい……かな」


 ためらいがちに言われた言葉。


 俊介が自分から実家の事を口にしたのは、これが初めてだったような気がする。


「お義父さん?」


 そう尋ねると、俊介は頷いて答える。


「ホラ、結婚したら、親に挨拶しないわけにも行かないだろ」


 敢えて茶化したようなその言葉は、真奈美には何かの言い訳の様に聞こえた。


 この期に及んで何に言い訳する必用があるというのか。呆れるような、微笑ましいような。


 それでも、今まで避けてきた実家に帰るというのは、俊介としてはそれなりに覚悟がいることだっただろう。


 だったらその背中を押して上げたい。


「会社、お休みを貰わないとだね」


「ああ。この際、溜に溜めた有給、全部吐き出してやるさ」




 翌日、すぐに会社にお休みを貰えるだけ貰えるようお願いした。


 突然の事に当然、困惑されたがそれでもどうにか公休含めて、一週間ほどの休みを貰うことが出来た。


 このために色々と調整してくれた、上司や同僚達には感謝しても仕切れない。せめて何かお土産手も用意しようと心に誓う。


 俊介の方も、どうにか休みを確保することが出来たという。


 そうして休みの初日、二人で役所へ婚約届けを申請しに行き、その足で真奈美の実家へ結婚の挨拶に向かった。


 前もって連絡はしてあったけれど、突然の結婚報告にはひどく驚かれた。それでも両親は俊介との結婚を認めてくれた。


 翌日にはブライダル会社へ向かい、結婚式の準備をその日の内に進めるだけ進める。


 忙しない怒濤の日々だったが、何せ時間が無かった。


 十二月八日、ようやく結婚式準備の諸々が一段落して、俊介の実家へ出発することが出来た。


 時刻は早朝四時頃。


 辺りはまだ夜の帳の中だったが、このくらいの時間に出ないと昼頃に向こうに着け無い。


 二人で運転を交代しながら車を走らせていると、ちらちらと雪が降り始める。

 トンネルを抜けると雪国であった。


 というのは川端康成の言葉だが、まさにその通りだった。


 長い関越トンネル抜けた瞬間、まるで別の世界に出てしまった様に白色の世界が眼前に広がった。


 雪が積もるという現象自体が珍しいという価値観の真奈美としては、思わず感嘆の声を上げてしまう光景だったが。


「まるで子供みたいだね」と、からかい半分に俊介に笑われ、真奈美は一人ぶんむくれることになった。


 まず俊介が向かったのは学友である、建一の家だった。


 俊介のイタズラで真奈美の存在を知らされていなかった建一には戸惑われ、春の怒濤の人懐っこさに圧倒され、最初のお宅訪問は中々に慌ただしい幕開けとなった。


 結婚相手の実家への挨拶は初めての経験で一体どんな反応をされるかと、内心戦々恐々としていたが。


 俊介の姉である友恵や父である清吉は共に真奈美のことを好意的に受け容れてくれて、心底ホッとした。


 むしろ一悶着あったのは、実の親子の方だったが、最終的には二人とも和解とは行かないまでも、お互いに歩み寄りの兆しは見いだすことが出来たらしい。


 実家に帰って来てからの俊介は、懐かしそうでそして嬉しそうだった。


 無意識だろう時折新潟弁らしきイントネーションを口にしながら喋る、俊介の姿は新鮮で、この場所は彼が育った場所なのだと実感させられる。


 そんな日々がただ楽しくて幸せで、俊介が後一ヶ月もしないうちに死ぬかもしれないなんて、そんな話ただの勘違いのような気がした。


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