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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
家族に会いに行く▢

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第16話

「俺は距離に負けない自信あるよ。今までだってこうしてやって来たわけだしさ」


「ゴメン順平は悪くない。ただあたしが耐えられないの」


 田舎へ引っ越しをすることが決まって、これからどうしようかと言う話になった時も順平は同じことを言ってくれた。


 そうして今まで、その言葉に甘えてこうして関係を続けてきた。


 でもそれも、もうおしまい。


 順平の側には行かないと決めた以上、これ以上甘える訳にはいかない。


 自分から近くに行くつもりも無いくせに、いつまでも彼に甘えて関係続けるのは互いのためにならない。


 それに正直なことを言えば、順平の方から見切りを付けられることが怖かった。そうなってしまったとき順平のことを恨まないでいられる自信が無かった。


 だから自分から切ることを決めた。そうすることが今まで付き合ってくれていた順平へのせめてもの礼儀だとも思ったから。


 その時、不意に順平の少し大きめな手がぽんっと友恵の頭の上に乗った。


「なんで友恵の方が泣きそうになってんの振られたのはこっちなのにさ、逆だろフツー」


 少しおどけたような優しい声に指摘されて、初めて自分が泣きそうになってることに気が付いて慌てて袖で涙を拭う。


 しかし自覚してしまうともうムリだった。


 涙は拭った端からぽろぽろと溢れてくる。


「ごめん、ごめんね」


 涙と一緒に言葉も漏れた。


「順平のことが、嫌いになった訳じゃ無いの。でも、あたし決めたから、向こうに残るって決めたから……」


 嗚咽で途切れ途切れになりながら、言葉を紡ぐ。


 泣くくらいなら別れるなんて言わなきゃいいのに、と心の中の冷静な自分が言う。


 しかしもう言ってしまったのだ。別れを切り出した側からやっぱり今の無しなんてそんな都合のいいことは無い。


 それにもう順平の優しさに甘えるようなことはしたくなかった。


「ごめん。悪いのはあたしだから」


「悪いもんか」


 友恵の言葉を遮るように順平が断言する。


「将来のこととか両親のこととか、色々考えて決めたことなんだろう? 自分のことだけじゃ無くて、回りの人のことまで考えてる友恵は立派だよ。だから友恵は悪くない、誰も悪くない誰もね。だから謝んなくていいって」


 友恵の頭を撫でながら話す順平の声はひたすらに優しい。今この状況でも誰も悪くないと迷わず言ってくれる順平のことが、この後に及んで愛おしいと思えた。


 でもそんなことを思う権利はもう自分には無い。それは今、自分で捨てた。


 頭に乗せられていた手が離れる。


「それじゃあ、俺そろそろ行くね」


 順平はそう言って席を立つと伝票を手にとる。友恵もそれに続こうとするが順平の方から待ったを掛けられた。


「友恵はもうしばらくここにいなよ、そんな顔じゃあ外に出れないだろ。お代は俺が払っとくから」


「でも」


「振られた男に、これくらいの華は持たせろって」


 その台詞はズルいと思った。


 そう言われてそれを突っぱねればこっちの方が悪者になってしまう。


 ただこんな時でも気遣いをしてくれる順平に甘えるのは、ただただ申し訳なくて、どうしても首を縦に振れない。


 そうしていると順平は「じゃあ」と言葉を続けた。


「その代わりにっていったらなんだけど、一つだけお願いしてもいい」


「……なに?」


「これからもさ、たまに連絡して言い? もちろん……友達として」


 順平のその提案を断る理由は、その時の友恵には思いつけなかった。


「いいわよ、そんなことでいいなら。好きにして」 


「じゃあ交渉成立ってことで」


 そこでようやく友恵は上げかけていた腰を下ろし、順平は会計の為にレジへと向かった。その途中、順平は不意に振り返って。


「またね」


 そう一言残して、会計を済ませて店を出て行った。


『バイバイ』でも『さよなら』でもなく『またね』

 その言葉はまたいつか、会うのが前提の台詞で。

 それは、彼の見せた未練だろうか?


 なんて、そんなことを考えるのは幾ら何でも厚顔が過ぎるだろう。


 順平が店を出てから十五分ようやく涙も乾いた頃、トイレで化粧を軽く直してから友恵は店を後にした。


 その日はもう東京観光なんて気分にはなれなかったから、予約しておいた格安のホテル引きこもりぼんやり一日を過ごした。


 翌日の朝、新潟市行きのバスに乗り込み帰宅したのは夜の八時少し前。


 帰ってくるなり挨拶もそこそこに自分の部屋へ直行、ベットに倒れ込む。


 直ぐに切り替えられるものだと思ってた。


 それなりに凹んでも、一晩寝ればけろっとしてるだろうと思ってた。


 そういうものだと思ってたし、自分はそう言う人間だと思ってた。 


 でも、実際はそうでもないらしい。


「あたしって、思ったよりも未練がましい女だったんだなぁ」


 今となっては見飽きた天井を眺めながら誰にでも無く独りごちる。


 その時、ドアからノックの音が響いたかと思うと、返事を返すよりも先に扉が開いた。


 顔を覗かせたのは弟の俊介だ。


「姉さん母さんが夕ご飯はいるのかって……どうしたの?」


 俊介の言葉が、途中から怪訝なものに変わる。その反応に今、一体自分はどんな顔してるんだろうと、他人事のような考えが頭に浮かぶ。


「別に、何でも無いって」


「なんでも無いって事は無いだろう、なに? 順平さんと喧嘩でもしたの?」


 その言葉に、今度は友恵が怪訝な顔をする番だった。


 家族には東京へ友達に合いに行くとしか伝えて無いはずだ。


 すると俊介はやれやれとでも言いたげに、肩をすくめて。


「分かるよ順平さんに会いに行ってたくらい、多分母さんも気づいてたと思うよ」


 そっかバレてたか。


 どうしても隠さねばならないことでも無かったが、いざバレてたと言われてしまうと少し気恥ずかしい物がある。


「それで、どうしたのさ?」


 重ねて尋ねてれ来る俊介。


 何よ弟の癖して偉そうに。


「別れた、以上! 他に質問は」


 そう言ってやると、俊介はギョッとした顔をして、何か言いたそうな顔になって、それから何か思案するような顔をして、


「……ひょっとして俺のせい?」


 最後には窺うような顔になって、そういった。


 俊介が東京へ上京したいと言い出して、父の清吉せいきちと激突してから、まだ一ヶ月も経っていない。


 何処か申し訳なさそうな顔をする俊介を友恵はハンッと鼻で笑う。


「自惚れんじゃないよ。あいつとの関係もそろそろ潮時だと思ったから、こっちから振ってやったの」


 嘘では無かった。


 順平との関係をどうするのか、それは俊介が上京したいと言い出すよりも前から考えていたことだ。


 続けるか続けないか、友恵は続けないことを選んだ、ただそれだけの話。


 自分で考えて自分が決めた。そこに回りの誰かのことなんて関係ない。


「だから気にする必用は無いわよ。だいたいあんたがあたしの、心配だなんて千年は早いっての」


「なんだよその言い草。こっちが心配してやってんのに」


「余計なお世話だってのよ。ホラもう良いでしょさっさともどんな、あたし疲れてんの。夕ご飯もいらないから」


「はいはい、分かりましたよ」


 不満そうにそう言って、俊介は扉へと手を掛けて。


「……後悔しない?」


 その質問に友恵はなにも答えなかった。


 俊介も、それ以上は何も言わず扉を閉めた。




 別れたことに後悔なんてしていない。


 と、言ったら正直それは強がりだ。


 あの時別れなければどうなっていたんだろう。そんな事を考えてしまうことが今でもごく希にある。


 しかし、それはあくまで興味であって未練では無い。順平とのことは、今はもう単なる良い思い出だ。


 そうなっていないといけない。


 だって時間はもう戻らない。どれだけ後悔しても引きずっても、何かが変わる訳じゃ無い、だから考えるだけ時間の無駄だ。


 だから未練なんてない。


 そうして七年の月日が流れたある日。


 友恵の元に、一通のメールが届いた。

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