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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
家族に会いに行く▢

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第15話

 夜間バスから降りて、盛大にのびをすると何時間も座りっぱなしで固まっていた体がバキバキと音を立てた。


 東京駅から電車に揺られること一駅。


 宮原友恵が駅近くにあるファミレスに入ると、店員が飛んできて「何名様ですか?」と聞いてくる。


「待ち合わせをしているんですけど、中を見せて貰ってもいいですか?」


 そう聞くと、店員は快く店内へ案内してくれた、内を見回していると程なくして待ち合わせ相手の姿を見つけることが出来た。


 向こうも友恵の存在に気が付いたらしい。ドラえもんの様な体型の男が、同じくドラえもんのようなまあるい手を振っている。


「ゴメン順平、待たせた?」


「うん、十五分ぐらい待った。コーヒー二杯も飲んじゃったよ」


「嘘でも待ってないって言いなさいよそこは、お約束でしょう」


「俺は正直ものなんだよ」


 そんなことを何食わぬ顔で言い、順平は人よりも丸みを帯びた体を反らして、えっへんとしたり顔だ。


「あんたしばらく見ないうちにまた肥えたんじゃ無いの? 少しはダイエットでもしたらどう?」


 そう言うと順平はわざとらしく悲しそうな顔をして「なんてことを言うんだ」とこれまたわざとらしく大仰に言った。


「このまあるいボディは俺のチャームポイントだというのに、それを捨てろだなんて」


 そう言って愛おしそうに自分の腹を撫でる順平を「はいはい」と適当に流し、たまたま近くを通りかかった店員を捕まえてドリンクバーを注文した。


「ノリが悪いなぁ。久しぶりの恋人同士の再会なんだから、もう少し優しくしてくれてもいいだろう?」


「だったらもう少し、彼氏らしくしたらどうなのよ」


 順平は「ちぇ」と拗ねたような声を出して、空になっていたマグカップを手にとった。


「何か飲む? ついでに持ってくるけど」


「それじゃあ暖かいお茶。種類はお任せで」


「かしこまりました、お嬢様」


 おどけた調子でそう言って順平は席を立ちドリンクバーへと向かっていった。


 吉野順平と付き合いだしたのは引っ越しをする前、中学一年生の時だ。


 クラスの明るいお調子者だった順平とは、よく話す仲のいいクラスメイトだった。


 関係が変わったのは二年生に上がった時。ベタベタだが始業式の終わった直後、体育館裏に呼び出されて順平の方から交際を申し込まれた。


 男子から告白されるなんて初めての経験だったが、順平のことは嫌いでは無かったしコイツが相手なら気負わずにすみそうだな、と何となく思ったので友恵はそれを受けた。


 初めての交際なんてそう長く続かないだろうと思っていたが、順平との関係は意外と長く続き、友恵が父の都合で東京から新潟へ引っ越しすることが決まってもそれは変わらなかった。


 家族も順平と友恵の関係は知っており、娘や姉の彼氏として良好な関係を築いている。


「お待たせ、はいこれ」


 戻ってきた順平に差し出されたマグカップを受け取り一口飲むとカモミールティーだった。


 湯気と一緒に立ち上るカモミールの香りが心を落ち着ける。


「いやーでも、友恵とこうして直接顔を合わせるのってどれくらいぶりだっけ」


「最後にあったのはあたしが大学に合格したときだったからだいたい、半年くらい前じゃ無い?」


 あの時は合格祝いと言うことで、順平の方から新潟までやって来てくれたのだ。


 用事から帰ってきたら順平が家の前で雪の降る中、寒さに震えながら待っていたことは今でもはっきり憶えている。


 サプライズをしたくて連絡せずに訪ねてきたはいいが、間の悪いことに家に誰もおらず途方に暮れていたのだという。


「あの時は、冗談抜きで死ぬかと思ったね。マジで」


「冬場の雪国を舐めすぎ、状況的には雪山で遭難してるのと大差ないんだから」


「骨身に染みたよ。次から焚き火でも焚いて待つことにする」


「焚くな! 人ん家の前で!」


 お互いカミールティーを呑みながら、しょうもない話で、ひとしきり笑いあう。


 それからしばらくの間はそんなたわいの無い世間話をして、三十分くらいが経過した頃。


「……所でさ、今日は話があるってことだったけど、話って?」


 そう順平から切り出されて、友恵の胸がずんと重くなった。


 本当はあってすぐ、自分の方から切り出すべきだった、しかしそれはどうしても出来なかった。


 順平の方からも中々言い出さなかったのは今から友恵がしようとしている話の内容を薄々察しているからなのかもしれない。


 今から言おうとしていることは友恵に取って、そして自惚れで無ければ多分順平にとってもつらい話になる。


「……あたしね、向こうで就職しようと思ってるの」


 順平は何も言わずただ静かに、友恵の話を聞いている。


「大学卒業してすぐに実家を出るのはやっぱり不安だし。それにこっちに来ちゃったら両親に何かあってもすぐに助けてあげられない、二人ともそろそろいい年だから」


「だから」とそこまで言ったところで言葉が詰まった、胸から喉に掛けての辺りがきゅうっと締まる。


 順平の方を窺う。順平はまっすぐに友恵の方を見て次の言葉を待っている。


 日和るな!


 自分を叱責し、俯きそうになる顔を上げて友恵も同じようにまっすぐに順平を見て。


「別れましょう、あたし達」


 言った。ついに言ってしまった。


 言ったところで、気力に限界が来て視線が下を向く。


 順平は何も言わなかった。その表情はうかがい知れなかったが、何も言わずただ静かだった。


 気まずい沈黙が、どれくらい続いただろうか順平がようやく口を開き。


「どうしても?」


 と彼は一言そう言った。


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