第14話
俊介達の出発は昼前の予定だったがお昼ご飯も食べていってほしいと春に押し切られ、結局は昼過になり。
いざ出発という段になっても、春が近所の農家から貰った、野菜やら何やらを持たせ、建一も自作の米をご祝儀代わりにと車に積み、なんてことをしている内に時刻はもうすぐ午後三時になろうとしている。
「またねシュンちゃん。真奈美さんも、もし近くに寄るようなことがあったら、いつでも遊びに来てね」
「はい、その時には必ず」
そう返事を返したのは真奈美の方で、俊介は何も言わず妙な表情をしていた。
悲し気に目を細めて小さく微笑むその顔はまるで何か手放しがたいものを、名残惜しそうに見ているようなそんな表情だ。
「何だよ妙な面しやがって。俺達との別れがそんなに名残惜しいのか?」
今までのお返しとばかりに、そうからかってやるが俊介は躊躇することもなく。
「ああそうだね。二人と別れるのが寂しくてしょうがないよ」
まっすぐに打ち返されて、逆に健一の方がなんて返したものか、分からなくなってしまった。
くっそ、最後までコイツは。
照れ隠しの仏頂面のまま、健一は俊介の前へと歩み寄り、無言で右手を差し出した。
あの時、俊介がこの町を去ったとき掛けることが出来なかった言葉。
ようやく心から言える。
「またいつでも帰って来い。待ってるから」
その時ほんの一瞬だけ、俊介が口元を引き締めたように見えた、まるで何かを堪えるように。
しかしそれは、すぐに笑顔へと変わり差し出されていた健一の手を握り返してきた。
「ありがとう。ああ、そうだ――」
思い出したようにそう言って、俊介は手元に置いてあった自分の鞄を漁りだした――。
俊介と真奈実の二人が乗った車が、見えなくなるまで見送ったその後。
「ねぇシュンちゃん」
一緒に見送りをしていた春が訪ねた。
「さっきケンちゃんからなに貰ったの?」
「ああ、これだよ、これ」
別れ際、俊介が渡してきたのは二通の豪奢に装飾された封筒だった。片方は建一宛にもう片方は春宛てだ。
「結婚式の招待状だと」
「結婚式!」
春は、はしゃいだ声を上げるがその顔はすぐに「あれ?」っと不思議そうなものに変わった。
「でもこういうのって、本人が直接配って回るものだったっけ?」
「どうしても、会って直接渡したかったんだと」
「へー、なんだか照れちゃうね」
「そうだな……あーそれでなんだけどよ」
「うん? なに」
「……俊介達の式に行くついでにさ、指輪、見に行かねぇか、その、二人のさ」
建一は自身と春を交互に指差す。
「この辺で探すより、東京のでかい店言った方が良いのみつかりそうだしよ」
何の為の指輪なのか、言わずとも理解してくれたようで、春は表情をほころばせて建一の腕に自分の腕を絡ませた。
「可愛いのがあるといいね」
「そうだな……。ああ、そうだ! 俺達のこと、どうせならあいつらの式当日に言って、脅かせてやらね? さしものあいつも少しくらい驚くかもしれねぇし」
そんなささやかなサプライズ計画に春は「あ、それいいかも」と楽しそうに笑ってくれた。
俊介達を見送り家の中へ戻ると、付けっぱなしにしていたテレビからニュースキャスターの声が聞こえてきた。
『一週間程前、○○刑務所から脱獄した○○容疑者がつい先程、伊豆にある○○市で無事逮捕されたました。これに関しまして警視庁から――』
ああ、ついに捕まったんだなこの脱獄犯。
そんな事を思いながら、ぼんやりとそのニュースを眺めていたが、ふとなにかかが引っかかった。
はて? 前にどっかでコレと同じ話を聞いたような気が?
そう思い、記憶を漁り。
『ああ、それなら明日には捕まるんじゃ無かったかな。たしか伊豆の辺りで』
思い出して思わずあっ! と声が漏れる。
俊介がこれとまったく同じことを昨日言っていたのだ言っていたのだ。
捕まる日付も場所もぴったりでまるで本当に予言でもしていたかのようだ。
どうして俊介はこのことを知っていたのだろうか? 健一は不思議に思うが台所から春の呼ぶ声が聞こえてその疑問はすぐに頭の隅へとどけられる。
もともと大して興味のある出来事でもなかったし、今時テレビ以外にもネットなどにいくらでも情報は転がっているのだ多少情報が前後することもあるだろう。
そう健一が結論づけた時には、ニュースの話題はすでに別のものへと切り替わっていた。
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