二十八作
「……以上が将軍・秀忠様からの伝令にございます。」
「承知いたした。
全軍、山里丸を包囲。その後、秀頼等が籠る蔵に向かって発砲せよ!」
直孝の号令と共に井伊の部隊が前進し直ぐに包囲が完了した。
「直孝様、包囲が完了致しました。
鉄砲の配備も完了しております。」
「わかった。一斉に放て!」
直孝の号令により、次々に鉄砲の音が響き渡る。
交渉の決裂を報せる発砲音は一向にその数を減らす事なく響き渡る。
秀頼等が抵抗を見せるようなら攻め込めとの命令だっだが、大阪城からは火の手が上がり延焼を続けている様しか変化がない。討って出てくる可能性も考えていたが静かな物だ。しばらくしたところで家臣の一人が駆け寄ってきて、
「直孝様、秀頼等が籠る蔵にも延焼が及んでおりますが、逃げる者などは確認できません。
あと、別件ですが秀忠様のご息女の千姫様が無事に保護されたとの報せも来ました。」
「わかった。包囲は崩さず蔵が完全に焼けるまで気を抜くなと通達。逃げ出す者があれば老若男女問わずに必ず捕らえよ。城内の様子を知る事ができるからな。
武器を持った者で抵抗するなら鉄砲で脅せ。」
「かしこまりました。」
直孝は燃える蔵を悲しそうな顔で見た。
結局、蔵は焼け落ちた。
後に聞いた話では千姫様の侍女の証言で、秀頼ら32人が自害した後に蔵に火を放ったらしい。
淀殿も秀頼自害の報せを聞いて確認に向かって蔵に入っていったらしい。千姫を人質のように連れ回していた淀殿も平静を欠いたようで千姫を放ったらかしにしたそうだ。その瞬間を見計らって侍女達が千姫を連れて逃げたらしい。豊臣はその栄華を誇った大阪城と共に燃え尽きた。高虎様が近江の館で言っていた淀殿は豊臣を滅ぼしたいのではないかと言う話が直孝の頭をよぎった。
淀殿は秀頼を息子として心配して駆け出したのだろうか?それとも豊臣の当主が本当に死んだのか確かめに行ったのだろうか?それとも両方か?
戦国時代を戦い続け、戦う事しか知らなかったまたは戦わなければいけなかった者達が炎と共に消えていった。
新たな幕府の元で新たな世を作る道もきっとあったのだろう。野心に燃え、何かを成そうとする事を責める気はない。なぜなら直孝は産まれながらに『持っていた』者だからだ。父が苦悩し命をかけて戦場で活躍した事による功績をそのまま受け継いだにすぎない。
持たない者が何かを得るために戦った。
秀頼はきっと自分よりもたくさんのものを持っていたはずなのに、更に何が欲しかったのだろうか?
それとも家臣が失ったもののために仕方なく戦うしかなかったのだろうか?
確かめたくても死んだ者には何も聞けないし語られない。何を考え、何を望んで生きたのかを人はきっと誰にも語らずに死んでいく。
残された者にそれを知るきっかけを何も残さずに。
自分が死ぬ時くらい聞かれた事には答えてから死にたいと直孝はこの時に思った。




