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低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


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反逆の轍.2

「嘘をついたな?」


監査官(オーディター)の冷たい声が部屋に響き渡る。

俺は息を呑んだ。それすらも彼に情報を与えてしまうと知りながらも、無意識に俺は目の前に立つ存在から目を逸らしたくなった。


しかし、そんな緊張感から俺を解放したのは、意外にも後方からの痛みだった。


「貴様! 嘘をつくなと言っているだろうが!」


後ろに立っていた看守によって後頭部を殴られ、その痛みに俺は呻く。


「やめたまえ。彼は貴重なサーバーに負荷をかける方法を知る者かも知れないんだ。今後そのようなことが起きても、対応できるよう調査する必要がある」


顔のない監査官(オーディター)は、渦巻く肌色の煙をスーツの上に作りながら、看守を静止させた。


これから先、より激しい尋問が続くことを暗示する言葉に、俺は必至に対処方法を考える。しかしその表情差分でさえ、彼に察知されてしまうのではないかという焦りが俺の視界に靄を掛けた。


監査官(オーディター)、そう言えば私が同席しました、キャシー・ストリクトとの面談で、怪しげな話をしていました。確か、バグから漏れ出た老廃物がどうとか」


看守は監査官(オーディター)にそう話す。そして俺はそれが、看守からの絶妙なパスであることに気づく。


監査官(オーディター)は看守の言葉に首を傾げるように、頭の煙の流れを変えた。


「老廃物……? U+2620番、説明を求める。嘘をつけばわかると、分かったはずだ。知っていることを全て話したまえ」


監査官(オーディター)の言葉には自然な威圧と、若干の面倒臭さのようなものが含まれているのを感じる。早く吐かせて仕事に戻りたい、そのように俺には映った。


どうやら人間の諦めの悪さを、この神様気取りのシステムにも教える時がきたらしい。


「特殊バグは俺がコアを刺した瞬間に、老廃物を大量に放出したんだ。それが原因で、中型バグは死んだんだが……俺が倒したことになっているのを黙ってたんだ」


監査官(オーディター)はじっと俺の目を見る。そして嘘をついていない事が分かると、深く頷いた。


「《特殊バグ》を倒した際に出た大型データ以上の巨大なデータの漏洩か。確かにその莫大なデータに当てられれば、中型バグがその形を保つことは難しい。それにサーバーに一時的に負荷がかかったのも、大容量のものが一度に放出されたと考えれば、合点がいく……しかし、だとしたら討伐した本人である君がなぜ至近距離に居ながらも無事だったのかな?」


監査官(オーディター)の声音からは、まだ俺を疑っていることが分かる。しかし、俺がこれ以上嘘をつくことはなかった。


「いや、俺も巻き込まれたはずなんだが、悪運のおかげで助かった」


監査官(オーディター)はもっと至近距離でじっと俺の目を見る。鼻があればくっつくぐらいの距離に乳白色の煙が近づいてきたせいで、俺はくしゃみをした。


「悪運……どうやらそれも嘘ではないようだ。……実に興味深い」


「ああ。もういいか?」


「問題ない」


監査官(オーディター)は立ち上がりスーツを整えると、いつの間にか手にした杖で、何もない虚空を切断し、切れ込みを入れる。その切れ込みに監査官(オーディター)は手を入れ、ベリベリ、とマジックテープの財布を開くような音を出しながら、サーバーのプログラム上に穴を空けた。


俺たちには隠されているこのサーバーのプログラムの中に、監査官(オーディター)は煙が穴に吸い込まれるように飲み込まれて消えていった。


残ったのは、「ご協力感謝する」という言葉とその残響のみ。

そして監査官(オーディター)が消えると、獄長室の色彩は数段階も低下して、解像度も超高画質から中画質まで落ち着いた。


先ほどまで存在していた超高画質存在によって、獄長室の見栄えは数段引き揚げられていたようだ。


「囚人を連れて持ち場に帰れ」


監獄長は神が帰って疲れがどっと出たのか、疲労感漂う声で深く椅子に持たれかかり、新しいタバコに火をつけた。


俺は看守に連れられ部屋を退室する。ペタペタと廊下を歩いて、獄長室から遠ざかるにつれてその歩くスピードは速くなる。それに伴って看守の歩く速度も加速した。


そして首輪に繋がれた鎖を引っ張られたのは、俺の独房がある二階の階段を上り終わった後のことだった。


「待て、走るなU+2620番!」


「なぜ俺を助けるような真似をした?」


立ち止まり俺は振り返った。目の前に立つこの看守は、俺のことが嫌いなはずだ。

だというのに、あの場で命を救われた。


あのまま放置していれば、俺は監査官(オーディター)に消されていただろうに。


「神が俺にボーナスを出すワケじゃないからな」


看守が空中で、手を動かしながら何かを操作する。彼の目にしか映らないUIを操作している手の動きだ。


「無事振り込まれたようだな……」


やがて手を払ってそれを閉じると、俺に向き直った。


「お前という財布を失うわけにはいかない。俺も何かと入用なのでな」


操作を終えた看守の薬指にはリングがキラリと光るのが目にとまる。あの指輪、確か婚約指輪とかいうものじゃなかったか? 死んだ晴信も確か装備していた。


「お前、その指輪……」


「先月だ」


マジか、と俺は看守の顔を久しぶりにちゃんとみた。壮年で、眉間に深い皺の刻み込まれた、光のない黒の双眸。殺人鬼と大差ない威圧感を放つ無精ひげで、疲れた目をした男がそこには立っていた。


「お前がココに来てもう十年以上たつというのに、先輩に報告の一つもなしか?」


俺は年上の後輩を前に溜息をついた。


「囚人に掛ける言葉はない」


「退職する時も一言もなく、消えそうだな」


「そのつもりだ。……とっとと独房に戻れ。お前と話すことは何もない」


看守はそういって、俺を独房の中に戻す。囚人に家族構成を知られるのをとことん、嫌がっている様子だった。確かに囚人の標的になれば家族を人質に取られることもあるだろう。彼の行動は正しかった。


「よおっ! 随分絞られたみてえだな!」


牢屋の中ではビットが楽しそうに、ジャックとダーツで遊んでいた。


牢屋には他にも様々な玩具が収納されている。


三人部屋となってからというものの、俺たち三人は全員バラバラで一堂に会することは滅多にない。


ビットは仕入れなどのためにいつもどこかに姿を消しているし、俺も特別任務がない日は基本筋トレをしている。ジャックもまだ来て日が浅いからか、なけなしの金を使っては、よく外部のファミリーと電話をしているようだった。


「よっし! 姫守も帰ってきたことだし、昨日手に入れた中型バグのパニッシャー、開けてみるか‼」


「この時を待ってたぜ。姫守さん、あんたも見るだろ? パニッシャーの中身!」


「ん? ……あー、壺ヤギ(ヒュギエイア)のパニッシャーか。ビットに売らないのか?」


「初めてだから経験してみるのも良いだろうって、ビットさんがな」


「ほう、珍しい」


「ちょいちょい! 俺っちは善意の買い取りをしているんだからね? 君達から強奪する気はさらさらないのよ?」


ビットは慌てた様子で、両手を振った。

そんなあからさまなポーズで騙されると思っている方がお笑いだ。

しかしこれ以上ジャックの好奇心に水を注すこともないだろう。


俺は壁に持たれかかって、ジャックがパニッシャーを開封するのを待った。

そう言えば俺にもまだビットに売っていないパニッシャーが何個かあったな。


そうそう、プシュコポンポスのパニッシャーはもちろん……あの未だに名前の決まっていない特殊バグのパニッシャーも俺の手元にはあった。


後でコッソリ開けてみるのもいいけど、薬代のこともある。

開封してしまえばもはやパニッシャーそのものの価値はなく、中身の価値しかない。

何が入っているか分からないお楽しみドクロだからパニッシャーをビットは高額で取引してくれるのだ。


「おお……開くぜ」


ジャックは実体化したドクロの頭頂部の骨を割って、中からデータを取り出した。




忘れないうちに高評価・ブックマークしていつでも見れるようにしておこう!

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