反逆の轍.1
件名:【重要】特別任務 査定完了のお知らせ
執行者 U+2620 様
特別任務を遂行していただきありがとうございます。
下記内容をご確認ください。
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■ 特別任務 査定完了のお知らせ
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特別任務の査定が完了いたしました。
査定内容は下記の通りです。
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討伐数: 小型×4 中型×1 大型×1 特殊型×0
獲得ポイント: 合計29点
(※内訳:小型×1点 中型×5点 大型×20点)
支給方法:【報酬:900,000 KB】または【刑期:-1年と1ヶ月】を選択可能
※このメールは送信専用です。返信いただいてもお答えできませんのでご了承ください。
「旨すぎる……たまらないな」
報酬の振り込みメールを見て、軽く目を閉じて牢屋の天井を見上げる。全身を報酬の数字が駆け巡るような感覚は、何度味わっても俺を幸福にさせてくれる。
《プシュコポンポス》を討伐した報酬が、入ったその素晴らしい日に。
俺の心臓は違う意味で警鐘を鳴らしていた。
俺たちの監獄に監査官が来たのである。
もっとも俺たち囚人とは身分からして違うため、直接会うことはない。しかし俺たちのデータを彼(彼女)は閲覧することができる。不審なデータの出所があればすぐに吊るしあげられる裁量権を奴は所有していた。
「U+2620。監査官が直接質問したいそうだ。牢を出ろ」
看守が牢屋の前にやってきて、手を後ろに組むように要求する。看守が数人係で牢屋に入ってくると、ビットとジャックを差し置いて、俺だけ手錠をはめられて外へ連れ出される。俺が世界に負荷をかけるの犯人だと発覚したのか、俺は手錠をされたまま、監獄長のいる部屋にまで連れてこられた。
椅子には顔が乳白色の煙をしたスーツの男が座っている。手袋の皺や肩幅、それに足の大きさが成人男性のそれに酷似しているため、俺はソレを男と認識した。
「アナタがU+2620か……誕生罪でここまで長生きしている事例は極めて珍しい。ぜひ話を聴かせて貰いたい」
監査官の声は相変わらず、男とも女ともとれる合成音声だ。極限まで滑らかに調整されてはいるものの、それが不気味の谷現象のように、明確に人ではない声だと判断できる材料になっていた。
「ご発注されただけで大袈裟な。生まれた理由なら親か神にでも訊いてくれ。もちろんアンタじゃない」
そう返答すると、後ろに立っている看守に頭を叩かれた。
「聞かれたことにだけ答えろ」
面倒ごとを起こすな、と案に看守は言っているような気がした。そう言えば、コイツもキャシーが俺の高画質で写っている写真を見たことがある人間だ。コイツが何か告げ口をしていたとしてもおかしくなかった。
「監獄育ちだ。まともな学があるとは想定していない。私もあまりことを荒立てる気はないのでね。穏便な対応を求めたい」
一切の感情を削ぎ落とした、硬質な低音。まるでマニュアルに則って会話しているような、不気味な抑揚の調整。俺たちとは似て非なる、機械が人語を介しているような喋り方だ。
「失礼しました」
看守は脱帽して監査官に謝罪する。それに反応することはなく、監査官は電子的なラインを体に走らせ、何かをダウンロードした。
「囚人番号U+2620、姫守凌空…………おや? 古いデータが一部欠けているようだが」
「すいません。この監獄も更新を繰り返している間に、管理するソフトが何度か変わったんです。コイツは古い囚人ですから、そのデータファイルの形式も古く……移動を繰り返しているうちに、データの幾つかが掛けてしまったようなんで……。情報管理部にも問い合わせをしたのですが、元データは消滅してしまったらしく」
看守は滑らかに言い訳をする。これは普段から使い慣れているやり方だ。
「なるほど……データの出入りが激しい職場であることは理解している。だが、今一度管理の方法を検討して貰いたい。バックアップを取っていないなど、あってはならない怠慢だ。どうやら他の囚人にも同様の穴があるようだが……放置しているのも頂けない。監獄長、改善して頂けますか?」
監査官の椅子、その机を挟んで対面に座る監獄長は踏ん反り返って、鼻をほじっている。
「追加の資金がなければ不可能ですな」
「ほう……」
「国営で金がないのは分かりますがね、監査官。バグに侵入されないための更新作業だって慈善事業じゃないんだ。人件費が掛かっとるんですよ。ウチは多少データが壊れるような荒療治はしとるかもしれん。だがな、何処よりもしっかり更新作業をしとる。だからウチが原因でバグが生まれたことはココ50年一度もないはずだ」
「情報管理の方法はこちらでフォーマットを作らせて貰う。システムだけを更新するのではなく、そこに生きる人間も更新しなくては意味がない。ご容赦いただければ幸いだ」
監査官の説明に露骨に顔を顰める監獄長。現場を見ていない人間から好き勝手に言われるのが気に食わないらしい。珍しく俺は彼の気持ちが分かった。
「話を戻そう。アナタのデータも気になるが、私が注目したのは前々回の特別任務。そう、アナタが特殊型を倒したという記録についてだ。キャシー・ストリクトとの協力により、討伐との報告が上がってきているが、間違いないだろうか」
「間違いない。キャシー・ストリクトが瀕死に追い込んだ《特殊バグ》を俺が横取りしたんだ」
「バスの治療ログには、キャシー・ストリクトに深刻な外傷があった事が記載されている。鎧の損耗具合も著しかった」
「紙一重だったんだ」
俺の言葉に監査官の目が怪しく光る。顔がないから目が光るなんておかしいのだが、渦巻く煙の中に確かに俺は、システムの双眸がコチラをジッと見ている気配を察知した。
「なるほど。嘘はついていないらしい。私は心拍数や対象の挙動から嘘を見抜くプログラムが組み込まれている。それに引っかからないということは、アナタは正直モノだという証だ」
「……何が言いたい」
「アナタの討伐データには違和感がある。特殊バグを君が倒した後、追加で中型バグを倒している。それも三体。体ポリが協力すれば中型バグを倒すことも珍しい話ではないことは、先刻承知の上でアナタに尋ねる。これもアナタは、キャシー・ストリクトの獲物を横取りしたのだと、言いたいのかね?」
「キャシーに訊いたんなら分かるだろう」
「私はアナタの口から現場の情報を知りたい。横取りとはいえ、特殊バグのパニッシャーを所有している君から」
監査官は足を組み替え、机に両肘をつけて手を組んだ。
コイツが公務員である騎士のキャシーに事情聴取をせず、ココにきたとは思えない。彼が俺から聞き出したいのは、その情報の齟齬と嘘。
それなりの確証があって、監査官がココにきたことは明白である以上、嘘をつけば粗がでる。俺はわざとらしく溜息をつきながら、言葉を選んだ。
「中型バグは明らかに、高ポリのキャシーに怯んでいた。それに引き換え俺は背景に等しい低ポリだ。やつらにとって取るに足らない雑魚の俺と強敵のキャシー、どちらに注視するかは誰にでも分かる」
「君はその隙をついて中型ポリゴンを倒したと? 一体では飽き足らず複数体も?」
「キャシーはワンマンアーミーだ。誘導、暗殺、諜報、直接戦闘、全てできると聞いている。そんな彼女に不可能はないだろ?」
「ほう……低ポリの君がその情報を知っているとは驚きだ」
監査官は感心したような声音を出す。全てキャシーが帰りのバスで話していたことだ。
「なるほど……君の成果はキャシー・ストリクトの尽力に、悪運が絡んで生まれたとみてよさそうだな」
監査官の言葉に軽く頷いた。単純な返事であっても、監査官には判断材料になるからだ。
「わかった。では、アナタに最後に一つだけ訊きたい。サーバーに大きな負荷がかかったあの時、討伐データによれば、丁度アナタ達が《特殊バグ》を倒した数分後に、サーバーの大規模な遅延は起きたが……。これは全く無関係というわけだな? 首肯ではなく、君の返答を求める」
「……ああ」
「嘘をついたな?」




