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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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88/93

リナ、未来を二つにしぼる

**20xx年8月27日(木曜日) 高校1年生**

**朝**


目が覚めたとき、カーテンのすき間から入ってくる光が、少しだけ柔らかくなっている気がした。

真夏っていうより、「そろそろ八月の終わりです」っていう空の色。


布団の中で、足をぎゅーっと伸ばしてつま先を回す。

お腹の重さはないし、頭もそこまでガンガンしてない。


(今日は“元気デー”の中でも、“元気少なめデー”って感じかな)


・足 → 床に降りても、ちゃんと前に出る。

・お腹 → 女の子の日の名残りっぽいだるさは、ほぼゼロ。

・頭 → ちょっと眠いけど、勉強ブロックならいけそう。


ベッド横の赤い手帳を開く。

今週のページ、27日の欄には、数日前の自分の字が残っていた。


『8/27

 天気:□/気温:□/体調:□


 9〜11:学校ブロック(図書室自習+部活)

 14〜16:家ブロック(数学ワーク+理科問題集)

 20〜22:二人の季節+英語一行+読書』


ページの端っこには、前に書いたメモ。


『・“◎ブロック”は週4つ。

 ・一日一個、“いつか用”をカバンかスマホから減らす。』


(ここ最近、この二つを守るのでけっこういっぱいいっぱいなんだよな)


今はそこに、“余白ブロック”もこっそり混ざっている。


昨日の夜、思いつきで書き足したメモも目に入る。


『・未来のことは、一度に二つまで考える。

 (やりたい仕事や行きたい場所のキーワードを二つだけメモ)』


(全部決めようとすると、頭がパンクするから。

 とりあえず、“キーワード二つだけ”ならギリ持てるかもって思って…書いたんだっけ)


ボールペンを持って、今日の体調欄に書き込む。


『天気:晴れ/気温:暑い/体調:元気デー(元気少なめ)』


それから、手の甲にいつもの小さなキーワード。


『しぼる』


(時間も、荷物も、未来の妄想も。

 全部じゃなくて、“今の自分が持てるぶんだけ”にしぼる日)


洗面所で顔を洗って、化粧水→乳液→日焼け止め。

鏡の前で三秒自分チェック。


一、二、三。


(頬の赤みは前より落ち着いてるし、

 生理前のくすみっぽさもだいぶ抜けた気がする)


前髪を軽く巻いて、ピンでとめたら、

胸のあたりがちょっとだけスッとした。


---


**午前(図書室と、進路の話の距離感)**


電車の中は、夏休み終盤特有の、ちょっとだけ浮ついた空気。

制服の子もいれば、部活ジャージの子もいる。


ロック画面には、いつものメモ。


『返信タイム → 12:30〜12:40/18:30〜18:40』


通知マークの数字は「5」。


(うん、これは“あとでまとめて返すゾーン”)


数字だけ確認して、スマホをポケットに戻した。

前みたいに、数字を見るたび心臓がどくんってならないのは、

多分“この時間に返す”って決めてあるから。


学校に着いて、図書室に入ると、

クーラーの冷気と紙の匂いが混ざった感じがむわっとくる。


窓際の席を確保して、数学ワークを広げたところで、

隣の席に誰かがドサッとカバンを置いた。


「……はああ〜〜」


大きなため息と一緒に座ったのは、真帆だった。


「おは。どうしたの、その“世界の終わり”みたいなため息」


「終わりはしないけどさ、始まりはするんだよね。

 進路のこと、なんかいろいろ考えろって家でも言われてさ」


(きた、“進路”ワード)


里奈のお腹のあたりに、ほんの少しだけぎゅっと力が入る。


(進路プリントとかじゃなくても、

 “考えといてね”って言われるだけでしんどいんだよな)


真帆が机に突っ伏しながら言う。


「ねえ里奈はさ、将来何になりたいとか、決まってる人?」


(きた、“将来何になりたいか聞かれるやつ”)


里奈は、手の甲の「しぼる」をちらっと見た。


(よし、深呼吸してから、5分ルール発動)


「図書室タイム、勉強ブロックだからさ。

 進路相談は、今から5分だけってことでいい?」


「え、5分で話せる?」


「“全部決める”じゃなくて、“今日はキーワード二つだけ決める”の会にしない?

 それなら5分でいけると思う」


真帆が顔を上げる。


「キーワード?」


里奈は自分の赤い手帳を開いて、

さっき見ていたメモを見せた。


『・未来のことは、一度に二つまで考える。

 (やりたい仕事や行きたい場所のキーワードを二つだけメモ)』


「こうやってさ、なんか思いついたら、

 “仕事の名前”とかじゃなくて、“イメージの言葉”を二つだけメモっとくの。

 例えば私は今、“ノート”と“ひとり時間”って書いてる」


真帆が、少しだけ目を丸くした。


「ノートとひとり時間?」


「うん。ノートとか文章とか、

 “書くもの・まとめるもの”に関わる仕事だったら楽しそうだな〜とか、

 あと、一日全部予定ぎっしりじゃなくて、

 ちゃんとひとりの時間が取れる働き方がいいな〜みたいな」


自分で言いながら、

喉の奥のつかえがちょっとだけ小さくなっていくのを感じる。


(“職業名”じゃないとダメって思うと、

 一気に世界が狭くなるんだよな)


スマホのタイマーを5分にセットして、机の上に置いた。


「じゃあ、真帆の番。

 将来のこと考えるときに、“こうだったらいいな”って思う言葉、

 とりあえず二つだけ出してみて」


「うーん……」


真帆はしばらく天井を見上げてから、指を一本立てた。


「まず、“人としゃべれる”かな。

 ずっと一人で黙々っていうより、誰かと会ってる時間があったほうが落ち着く気がする」


「いいじゃん、それ一個目」


「で、もう一個は……“ちゃんと休める”。

 ブラックっぽいのは絶対ムリ」


「それめちゃくちゃ大事。

 “人としゃべれる+ちゃんと休める”なら、

 職業名はまだ決めなくてよくない?」


タイマーが、ピピッと鳴る。


「はい、5分終了〜。

 続きは、また別の日の“5分”で」


「え、そこで切るんだ」


「じゃないと、今日の数学ワークブロックが爆発する」


真帆は笑いながら、小さなメモ帳を取り出して、

『人としゃべれる/ちゃんと休める』と書き込んだ。


「なんか、職業図鑑見る前に、

 “こういう条件がいい”って決めとくの、ちょっと楽しいかも」


「でしょ。

 私も、“ノートとひとり時間”って書いてから、

 なんかそれっぽい大人の姿だけぼんやり想像するようにしてる」


(前に読んだ『ひとりぶんの荷物』の、

 “全部持とうとしないで、自分で選ぶ”って話、

 こういうところにも地味に効いてる気がする)


---


**昼(図書室の続きと、ひとりぶんの荷物)**


進路の話を5分で切り上げたおかげで、

そのあとの数学ワークは、意外と集中できた。


二時間ブロックの終わりに、

赤い手帳の今日の9〜11の欄に、

小さく「◎」を書き込む。


(よし、“週4◎ブロック”の一つ目ゲット)


部活をちょっとだけやってから、

早めに家に帰る。


キッチンには、昼ごはんの準備がほぼできていた。


・雑穀ごはん

・鯖の塩焼き

・ほうれん草としめじのごま和え

・豆腐とわかめと長ねぎの味噌汁

・小皿の納豆


「今日は“考える日セット”。

 魚で頭スッキリ、納豆で腸内美人コース」


母のネーミングセンスは、相変わらずすべっている。


「腸内美人って言葉、やめてほしいんだけど」


「でも事実だから〜」


鯖の皮がパリッとしていて、

ほうれん草のごま和えの黒と緑が、テーブルの色を落ち着かせてくれる。


(こういうご飯食べてると、

 “とりあえず体は大事にしてる”って自分で思えるの、ちょっと安心材料だな)


テレビから、「文房具の値段が少しずつ上がっている」というニュースが流れてきた。


「ノートもペンも高いんだからさ、

 大事に使いなさいよ〜」と母。


「だから、里奈はちゃんと書いてるほうだよね」と父。


(ノートの中身も、“全部取っておく”じゃなくて、

 “必要なものだけ残す”っていうの、

 これからもっと練習しないとな)


食べ終わってから部屋に戻ると、

机の端っこに置いていた『ひとりぶんの荷物』が、

しおりのところで止まっていた。


さっき図書室で思い出した章を、もう一度開く。


『・未来の荷物まで、今から全部背負わなくていい。

 ・今の自分が持てるのは、“キーワード二つぶん”くらいから。』


(本の人も、“二つからでいい”って言ってたんだよな。

 だから、さっき真帆に話すときも「二つ」にしたんだった)


ページの余白に、小さく書き足す。


『→ 里奈版:

 将来のキーワード二つ(今のところ)

 ・ノート

 ・ひとり時間』


ペン先が紙をこする音を聞きながら、

胸の真ん中のもやもやが、

少しだけ輪郭を持つ感じがした。


(“ノートとひとり時間が大事な大人”って、

 具体的に何やってるんだろう。

 編集者とか、研究者とか、フリーで何か書いてる人とか…?

 そこまではまだ決めなくていい、ってことにしとこう)


---


**午後(一日一個減らすと、余白ブロック)**


14〜16時ブロックは、

数学ワークと理科問題集。


最初の一時間で、数学ワークを二ページ進める。

間違えたところにだけ印をつけて、

とりあえず最後の問題までたどり着く作戦。


(完璧に解けなくても、“全部一回通った”って事実が残るだけで、

 ちょっと気持ち軽い)


水を飲んで、肩をぐるっと回してから、

次の一時間は理科問題集。


理科のページを開くと、

前に黄色のペンで引いた行が目に入った。


『・一度に覚えようとするのは二個まで。』


(ここでも「二個まで」ルール使ってるのほんと笑う)


そう思いながら、

呼吸と心臓の動きをイメージする問題を解いていく。


ブロックの最後に、

手帳の14〜16の欄にも、小さく「◎」。


(よし、今週二つ目の◎)


今日は、そのあとの時間を“余白ブロック”にしておいた。


『16〜17:余白ブロック(散歩かストレッチか、ぼーっとする)』


(選択肢増やしすぎると逆に迷うから、

 今日は“ストレッチ+ぼーっと”にしとこう)


床にヨガマット代わりのラグを敷いて、

動画サイトで見つけた「肩まわりほぐし」の短いストレッチを一本だけやる。


肩甲骨のあたりがギシギシ言っている気がして、

ちょっと笑ってしまう。


ストレッチのあとは、窓際の床に座って、

外の空をぼーっと眺める。


蝉の声と、遠くを走るバスの音。

ベランダのプランターの土が、少し乾いている。


(余白ブロックって、

 “何もしてない時間”じゃなくて、

 “何も成果を出さなくていい時間”って感じなのかも)


スマホを手に取って、

“スマホのいつか用”を一個減らす作業もする。


今日は、ホーム画面の奥のほうで眠っていた、

よくわからない勉強アプリを削除した。


「いつか使うかも」と思って入れたくせに、

一回も開いていないやつ。


(アプリも、将来の候補も、

 “とりあえず二つまで”にしぼって、

 あとはまた今度考えるってことでいい)


---


**夕方(写真と、将来の自分の顔)**


夕方、リビングに降りると、

窓からオレンジ色の光が斜めに差し込んで、

テーブルの上に置いたコップの影が長く伸びていた。


母が夕飯の下ごしらえをしながら、

キッチンタイマーをぽちぽち押している。


「今日の夜は、鶏むね肉とキャベツとにんじんの蒸し料理ね〜」


「また“考えすぎ防止セット”?」


「今日は“回復しながら頑張った人セット”かな」


(もはやテーマのほうが気になってくる)


冷蔵庫から、水出しの麦茶を注いで一口飲む。

喉の奥がひんやりして、お腹の中の熱が少し落ち着く。


自分の部屋に戻って、

机の上の小さな鏡を手に取る。


三秒自分チェック。


一、二、三。


(さすがに夏の終わりでちょっと焼けたけど、

 前みたいに「うわ真っ黒」とかまではいってないな)


日焼け止めをちゃんと塗るようになってから、

焼け方が少しマイルドになった気がする。


スマホのカメラをノーマルにして、

窓ぎわで顔の写真を一枚撮る。


明るさだけ少し上げて保存してから、

アルバムをスクロールして、

前に撮った写真と並べてみた。


(フィルターでつるんとした肌にするのも楽しいけど、

 「この日は数学ワーク頑張った日」とか、

 「この日は友達とケンカしかけたけどちゃんと話せた日」とか、

 そういう“中身付きの顔”はノーマル寄りのほうがわかりやすい)


ふと、

将来の自分の顔を想像してみる。


(“ノートとひとり時間を大事にしてる大人の顔”って、

 どんな感じなんだろう)


全部は見えないけど、

カフェか図書館みたいな場所で、

ノートとパソコンを広げている大人の自分。


目元が今より少しだけキリッとしていて、

でも、口元は今と同じくらい、

時々ふにゃっと笑う。


(肌も、今の延長線上で、

 ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、ちゃんと保湿してる感じだといいな)


スマホのメモアプリを開いて、

“未来キーワード”のページに、二つだけ書き足す。


『・ノート

 ・ひとり時間』


(今日のところは、この二つだけで十分)


---


**夜(二人の季節と、未来のキーワード)**


お風呂でしっかり温まってから、

20〜22時ブロックに入る。


机の上には、


・赤い手帳

・『二人の季節』ノート

・英語一行ノート

・『ひとりぶんの荷物』


が並んでいる。


まずは英語一行。


『I can carry only a few dreams at once.

 (いちどに持てる夢は、ほんの少しだけ)』


声に出して読むと、

さっき図書室で真帆と話したことが、

ゆっくり頭の中に戻ってくる。


『二人の季節』ノートを開く。


今日は、二人が未来の話をしながら歩いているシーンにしたくなった。


> 「石畳の坂道をゆっくり下りながら、

>  二人は“いつか行きたい場所”を一つずつだけ言い合った。

>  彼は、海が見える高い丘の上を。

>  彼女は、本屋と喫茶店が並んでいる静かな通りを。」


> 「全部を決めるには、世界はまだ広すぎる。

>  だから今日は、とりあえず二つだけ、

>  ポケットに小さくたたんでしまっておくことにした。」


書き終わった文字を眺めながら、

自分の赤い手帳の月間ページも開く。


8月の下のほうに、小さく「月まとめ」と書いた日が近づいている。


(そのとき、“今月のキーワード二つ”っていう欄も作ろうかな)


今の中期目標は、変わらず二つ。


『① 週に4ブロック、“◎”をつける勉強ブロックを作る。

 ② カバンとスマホの“いつか用”を、一日一個ずつ減らす。』


(この二つは、そのまま継続。

 “未来キーワード二つ”は、

 目標というより“おまけのメモ”扱いにしておこう)


ご褒美に、

冷蔵庫から取り出した小さめのぶどうと、

ギリシャヨーグルトをガラスの器に入れて、

上にハチミツを小さじ一杯だけたらす。


ひと口食べると、

ぶどうの甘さとヨーグルトのコクと、

ハチミツのとろっとした感じが一気にきて、

肩の力がふわっと抜けた。


(こういう“ちょっとだけ贅沢”って、

 コンビニスイーツじゃなくても全然満足できるんだな)


明日のページを開いて、

ブロックをざっくり書き込む。


『8/28

 6〜8:家ブロック(英語ワーク+二人の季節)

 14〜16:家ブロック(理科+月まとめ下書き)

 16〜17:余白ブロック(ストレッチか読書)』


“月まとめ下書き”のところに、

小さく「今月のキーワード二つ」とメモしておく。


(来月には、

 この二つが違う言葉に変わってるかもしれないし、

 逆にずっと同じかもしれない。

 どっちでもいいから、とりあえず今は“ノート”と“ひとり時間”。)


手の甲の「しぼる」を指先でなぞってから、

部屋の明かりを落とす。


(全部一気に決めなくていいって思えたぶん、

 今日はちょっとだけ、息がしやすい気がする)



## 後書き


**日記**


**20xx年8月27日(木曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「未来を全部じゃなくて、二つにしぼって考えた日」だった。

図書室で真帆に進路の話を振られたとき、前みたいに一緒に深く考えすぎると、数学ワークブロックが吹き飛ぶのが目に見えていたので、手の甲の「しぼる」を見て、5分ルールを思い出した。

「今日は“将来のキーワード二つだけ決める会”にしよう」と提案して、真帆には「人としゃべれる」と「ちゃんと休める」を、私は「ノート」と「ひとり時間」を、それぞれメモに書いた。

職業名を決めなきゃって思っているときより、「こういう条件がいい」って言葉で持つほうが、胸のあたりのきゅうっとする感じが少し弱くなるのを自分で感じた。


午後は、数学と理科のブロックをちゃんと◎にできて、

そのあと“余白ブロック”でストレッチとぼーっとタイムをとった。

前だったら、勉強が終わった瞬間にスマホでだらだら動画を見て、そのまま時間が溶けていったけど、

今日は「成果を出さなくていい時間」として、空を眺めたり、いらない勉強アプリを一つ消したりした。

「一日一個“いつか用”を減らす」実験は、アプリにも使えるってわかったのが収穫。


夜は『二人の季節』で、「行きたい場所を一つずつだけ言い合う二人」のシーンを書いた。

“全部を決めるには世界が広すぎるから、今日は二つだけポケットに入れておく”っていう文章が、

自分の「ノート」と「ひとり時間」というキーワードとも重なって見えて、

未来に対して、ちょっとだけ優しい気持ちでいられた気がする。


おやつは、ぶどうとギリシャヨーグルトに、ハチミツを少しだけかけたもの。

シンプルだけどちゃんと甘くて、「今日もとりあえず生きててよかったな〜」って思える味だった。

これからしばらくは、「将来のことを一度に考えるのはキーワード二つまで」という実験を続けてみたい。

目標は相変わらず「週4◎ブロック」と「一日一個“いつか用”を減らす」の二つだけにしておいて、

未来のキーワードは、月まとめのときにちょっとずつ入れ替えたり、増やしたりしながら、

今の自分が持てる分だけポケットに入れて歩いていこうと思う。


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