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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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83/93

リナ、全部受け取らないと決める

**20xx年8月12日(水曜日) 高校1年生**

**朝**


目が覚めて、足をそっと布団の外に出してみる。


(これは……“元気多めデー”認定でいいやつ)


・足 → 軽い。ちゃんと動くし、地面重力もふつう。

・お腹 → 生理終わりゾーンからさらに数日、かなり安定。

・頭 → ぼんやり少なめ。ノートも手帳も余裕で開けそう。


ベッド横の赤い手帳を開く。

今週のページ、今日の欄には鉛筆でこう書いてある。


『8/12

 天気:晴れ時々くもり/気温:暑い/体調:元気多めデー


 8〜10:家ブロック(数学ワーク+英語一行)

 14〜16:家ブロック(オンライン自習+通話少し)

 20〜22:二人の季節+ストレッチ』


(“通話少し”って、自分で書いたくせに、

 この“少し”を守れるかどうかが一番怪しいんだよな)


洗面所で顔を洗い、化粧水→乳液→日焼け止め。

鏡の前で、三秒自分チェック。


一、二、三。


(クマはうっすらだけど、

 肌全体のざらざら感、前より減ってる気がする。

 “鮭と蒸し料理とちゃんと寝る生活”、

 じわじわ効いてるってことでいいよね)


前髪を整えてから、ペンで手の甲に今日のキーワードを書く。


『抱えこみすぎない』


(愚痴とか相談とか、

 全部そのまま自分の心ポケットに突っ込むクセ、

 そろそろ減らしていきたい)


キッチンに行くと、テーブルには


・雑穀ごはん

・鮭とキャベツとまいたけの蒸し料理

・トマトときゅうりと玉ねぎのサラダ

・豆腐とわかめの味噌汁


が並んでいた。


「今日は“脳みそ軽くしておくセット”です」と母。


「ネーミングの癖は今日も元気だね」


鮭を一口食べると、まいたけの香りと一緒に、

(これも全部“未来の肌貯金”ってことにしとこ)

みたいな謎の安心感が湧く。


テレビからは、

「スマホの通知が多すぎて眠れない若者が増えていて…」

みたいなニュースが流れていた。


父が新聞をめくりながら言う。


「通知ってさ、勝手に鳴るくせに、

 こっちが全部反応しなきゃいけない感じ出してくるよな」


「通知が鳴るたびに全部拾ってたら、

 こっちの脳みそが先にオーバーヒートするよ」と母。


(それな。

 でも“全部拾わない”って、

 実際やろうとするとけっこう勇気いるんだよな)


味噌汁を飲みながら、

里奈は手の甲の『抱えこみすぎない』をちらっと見た。


---


**午前(家ブロックと、グループトークの波)**


8〜10時の家ブロック。

机の右上に赤い手帳を開いて、

数学ワークと英語一行ノートを並べる。


(まずは英語5分でウォーミングアップして、

 そのあと数学にがっつり行く作戦)


英語一行ノートには、

こないだから続いている“自分比べシリーズ”の一文を書く。


『I don’t need to reply to everything to be a good friend.

 (全部に返事しなくても、ちゃんと友達ではいられる)』


声に出して読む。


(文法はちょっと自信ないけど、

 今日の自分に言ってあげたいことではある)


英語を5分だけ音読してから、数学ワークを開く。

二次方程式の応用問題と格闘していると、

机の上のスマホが震えた。


画面を見ると、

クラスのグループトークが一気に動き始めていた。


『今日のオンライン自習、誰入る?』

『雑談だけ参加したい人〜』

『勉強より恋バナしたいんだけどw』


(いや、まだ8時台だよね?

 みんなテンションどうなってるの)


さらに、個別トークの通知が一件。


『今日さ、ちょっと話聞いてほしい…』


相手は、

こないだノートのサブタイトルの話をした友達だった。


(“ちょっと話聞いてほしい”って、

 軽く書いてあるけど、

 だいたい“ちょっと”じゃ済まないんだよな)


一瞬、

「じゃああとで電話しよ!」って返しそうになって、

手が止まる。


手の甲を見る。


『抱えこみすぎない』


(そう。

 今日は、“全部受け取らない日”にするって決めたんだった)


深呼吸してから、メッセージを打つ。


『話聞くのは全然いいよー。

 ただ、今から10時までは数学ブロックにしてて、

 そのあと“10〜15分だけ”なら通話できそう。

 それでも大丈夫?』


数秒後、スタンプと一緒に返事が来た。


『それで十分…!

 長々愚痴ると自分でもしんどくなるから、

 短く聞いてくれるの助かる』


(あ、むしろ“時間を区切る宣言”って、

 相手側にも優しさになるパターンもあるのか)


そのままスマホを机の端にひっくり返して置き、

数学ワークに戻る。


(“今は数学の番です”って自分に言い聞かせるだけで、

 ちょっと集中しやすくなるの、

 ブロック勉強の良さかもしれない)


10時になったとき、

赤い手帳の今日の欄に、小さくこう書き足す。


『8〜10:数学+英語一行 ◎(通知一旦保留できた)』


---


**昼(通話と、“全部わかろうとしない”練習)**


10時ちょうどに、

約束通りビデオ通話をつなぐ。


画面の向こうの友達は、

ちょっと目の下にクマができていた。


「ごめんね、勉強タイム邪魔して」


「大丈夫。

 “10〜15分だけ”って先に決めてるから、

 その範囲でなら全然聞ける」


そう言いながら、

里奈は赤い手帳の端に、こっそり時間を書き込む。


『10:00 通話スタート』


「なんかさー」

と、友達が話し始める。


「最近、別のグループの子たちのトーク見てるとさ、

 自分だけ空気読めてない気がして、

 何送ってもスルーされるんじゃないかってビビるっていうか」


(うわ、その気持ち、わかりすぎる)


「既読つくのもこわいし、

 既読つかないのもこわいし、

 なんかもうスマホ開くたびに疲れてる」


里奈は、うんうんと頷きながら聞く。


全部にアドバイスしようとすると、

絶対15分じゃ収まらないのはわかっていた。


(前みたいに、

 “こういうときはこう返せばいいよ”って

 テンプレ全部出すモードに入ると、

 私も相手も消耗するやつ)


そこで、

前にうまくいった“グレーな一言”を思い出す。


全部解決しようとするんじゃなくて、

「わからない部分はわからないって言うやつ」。


「なんかさ、

 その気持ち、めっちゃわかるけど、

 正直“そのグループ全員の本音”までは、

 私にもわかんないなって思う」


友達が、画面の向こうで少し笑う。


「たしかに。

 田中が全部わかってたら、それはそれでこわいわ」


「ただ、

 私だったら、

 “全部読んで全部返事する”のはあきらめて、

 “今日はこの一個だけちゃんと返す”って決めちゃうかも」


「一個だけ?」


「うん。

 なんか、全部に気の利いた返事しようとするから、

 しんどくなるところもある気がして。

 “これだけは言いたい”ってやつだけ、

 丁寧に返すみたいな」


友達はしばらく黙ってから、うなずいた。


「それ、いいかも。

 全部のボール拾おうとするからしんどいんだよね。

 とりあえず今日は、“一個だけ返す日”にしてみる」


「それで“まだ話したかったらまた明日”って、

 自分にも相手にも言う感じで」


画面の端の時計を見ると、

通話開始からちょうど12分くらいだった。


(ちゃんと“10〜15分枠”の中で話せてる)


「付き合ってくれてありがと。

 田中の、“全部わからなくていいんじゃない?”ってやつ、

 ちょっと救われた」


「こっちも、

 自分の通知の拾い方見直したいと思ってたから、

 お互いさまってことで」


通話を切ったあと、

赤い手帳のメモ欄に書き込む。


『・愚痴を聞くとき、全部わかろうとしない。

 → “全部はわからないけど”って一言を先に置く。

 → 時間枠を決めてから聞くと、相手にも自分にも優しめ。』


お腹がぐう、と鳴ったので、

キッチンに向かう。


昼ごはんは、


・豚しゃぶと大根と小松菜の蒸し料理

・ひじきとにんじんと大豆の煮もの

・白いごはん

・しめじと油揚げの味噌汁


だった。


「なんか、“疲れた人回復メニュー”って感じしない?」と里奈が言うと、


「今日は“通知に負けないセット”です」と母が即答した。


(通知に負けないセットはさすがに初耳だけど、

 意味わからなくはない)


---


**午後(通知の線引きと、『海沿いの小さな研究室』のラスト)**


14〜16時の家ブロック。


タブレットでオンライン自習用のアプリを開きながら、

スマホの通知設定を確認する。


(今日は、“勉強ブロック中の通知”にも線引きしてみよ)


グループトークの通知は、一時的にオフにする。

個別トークは、

家族と、さっきの友達だけオンにしておく。


(全部オフにするのはさすがに怖いから、

 “最低限オン”にする方向で)


オンライン自習の画面には、

同じクラスの子たちのアイコンがぽつぽつと並んでいる。

コメント欄には、


『ねむい』

『数学わからん』

『推しの新曲エンドレスで流してる』


みたいなメッセージが流れている。


(コメント欄に入り浸ると勉強ブロック崩壊するから、

 今日は“見るだけ”にしとこ)


数学ワークを一ページ分やったところで、

少し集中が切れたので、

机の上の『海沿いの小さな研究室』を手に取る。


もうラスト数十ページだった。


クライマックスで、

主人公の研究者が、

仲間たちの失敗談や不安を聞く場面がある。


> 「全部聞くけど、全部は抱えないから。

>  ここに置いていきたい重い荷物があったら、

>  必要な分だけ持ち帰って、あとは置いていきなよ。」


(“全部聞くけど、全部は抱えない”って、

 今日のテーマすぎない?)


本を閉じて、付箋を貼る。

その上に、英語ノート用のメモを書く。


『listen but don’t carry everything(全部聞いても、全部を背負わない)』


(将来、

 人の話を聞く仕事とか、

 相談に乗る側の立場になったら、

 この感覚、絶対必要なやつだな)


今の自分の状態と、

その“将来の自分”との間に、

まだだいぶ距離があるのはわかっている。


(でも、

 “全部受け取らない練習”を高校のうちに始めてたら、

 ちょっとだけ近づけるかもしれない)


そう思って、

赤い手帳の「将来メモ」ページを開く。


『・人を助けるとき、“その人の成長の領域”は残せる人

 ・比べるなら、画面の中の誰かじゃなくて“昨日の自分”と比べる人』


その下に、新しく一行足す。


『・話を聞くとき、“全部聞いても全部は抱えない”って決めていられる人』


(こういう将来像、

 ちょっとずつ増えていくのは嫌いじゃない)


---


**夜(『二人の季節』と、実験の言葉にする作業)**


夕食は、


・鶏もも肉とブロッコリーとにんじんの蒸し料理

・トマトとレタスと海藻サラダ

・雑穀ごはん

・豆腐と小松菜の味噌汁


だった。


さくらがブロッコリーをフォークで刺しながら言う。


「なんかさ、最近写真撮るとき、

 ママが“笑いすぎなくていいよ、普通の顔でいいよ”って言うの、

 ちょっとわかってきたかも」


「え、どういう心境の変化?」


「なんか、

 無理にテンション上げてると疲れるの。

 普通の顔でも、“自分たちらしい写真”だったらいいかなって」


(“自分にピント”って、

 こういうところにもじわじわ出てくるんだな)


お風呂でしっかり温まってから、

20〜22時ブロックに入る。


机の上に、

赤い手帳と『二人の季節』ノート、

英語一行ノートを並べる。


まず英語ノートに、

さっき本からメモしたフレーズを書く。


『I can listen to my friends, but I don’t have to carry everything.

 (友達の話は聞けるけど、全部を背負う必要はない)』


声に出して読んでみると、

胸のあたりがすこし軽くなる感じがした。


『二人の季節』ノートを開く。


今日書きたいのは、

主人公の女の子が、友達の相談を受ける場面。


> 「ぜんぶ聞くよ。

>  でもさ、

>  全部を私のカバンに詰め替えちゃうのは、

>  やめてもいい?」


> 「ここで一緒に中身確認して、

>  “これだけは自分で持って帰る”って決めるところまで、

>  そばにいるっていうのじゃダメ?」


そんな台詞を書きながら、

里奈は自分の手の甲を見る。


『抱えこみすぎない』


(“優しさの幅”とか、

 “自分にピント”とか、

 ここ最近のキーワード、

 ぜんぶ線でつながってる感じするな)


赤い手帳の今日の欄に、

新しい実験メモを書き込む。


『・相談メッセージが来たとき、

 → すぐ長文で返そうとしない。

 → 最初に「全部はわからないけど」+「聞ける時間の範囲」を伝える。

 → 自分のブロックの中に“相談枠”を作る。』


(“なんでも聞くよ”じゃなくて、

 “この時間と、この範囲なら一緒にいられるよ”って言い方、

 長く続けるにはたぶん必要なんだと思う)


ブロックの達成度も書き込む。


『8〜10:家ブロック(数学+英語一行) ◎

 14〜16:家ブロック(オンライン自習+読書) ◎

 20〜22:二人の季節+ストレッチ ◎(ストレッチ5分+深呼吸多め)』


(◎三つの日は、

 ブロック手帳オタクとして、普通にテンション上がる)


ブロックのご褒美に、

キッチンで桃を一個だけ切る。


お皿に桃のくし切りを並べて、

その横にプレーンヨーグルトを少し。

上から冷凍ブルーベリーをぱらっと乗せて、

ハチミツをほんの少したらす。


(桃って、

 切った瞬間の香りだけで半分くらい勝ち確じゃない?)


一口食べると、

桃の甘さとブルーベリーの酸味、

ヨーグルトのまろっとした感じが、

今日一日抱えかけてたモヤモヤを

ちょっとだけ薄めてくれる気がした。


(他人の愚痴も通知も、

 全部自分のカバンに入れなくていいって思えたら、

 その分、自分の好きなことを入れる余裕もできそう)


そう考えながら、

里奈はもう一切れ桃を口に運んだ。


## 後書き


**日記**


**20xx年8月12日(水曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「全部受け取らないでいる練習」をした日だった。


朝から、クラスのグループトークが動きまくっていて、

個別でも「話聞いてほしい」ってメッセージが来て、

いつもの私だったら、その瞬間に数学ワークを閉じて

通話に全振りしてたと思う。

でも今日は先に手の甲に「抱えこみすぎない」って書いてたから、

「10〜15分だけなら聞けるよ」って、

最初に時間の枠を伝えてからOKした。

実際、友達の話は10分ちょっとで区切れたし、

「全部はわからないけど」って一言を先に置いたら、

逆に相手もラクそうで、

(あ、がっつり解決しなくても一緒にいられるんだ)って

ちょっとホッとした。


午後、『海沿いの小さな研究室』のラストを読んで、

「全部聞くけど、全部は抱えないから」ってセリフが出てきたとき、

今日一日やろうとしてたこととぴったり重なった。

今までは、人の愚痴や相談を聞くとき、

それを全部、自分の心のカバンに詰め替えてる感覚だったけど、

「ここに一回置いて、一緒に中身を見る」くらいの距離でも

ちゃんと優しさになるのかもしれない。

赤い手帳の「将来メモ」に、

「話を聞くとき、全部聞いても全部は抱えない人」って書き足したら、

将来、人の話を聞く仕事をするときの自分の姿が、

ほんの少しだけイメージしやすくなった気がする。


今日の実験は、

・相談メッセージが来たとき、

 いきなり長文で全部解決しようとしないで、

 「全部はわからないけど」って本音を一言混ぜること。

・「この時間とこの範囲なら一緒にいられるよ」って、

 先に“枠”を伝えてから聞くこと。

この二つをやったら、

相手の話はちゃんと聞けたのに、

自分のブロックも崩壊せずに済んだ。

全部受け取らなくても、

ちゃんと友達でいられるんだとわかったのは、

今日の一番大きな収穫かもしれない。


おやつは、

くし切りにした桃と、プレーンヨーグルト、

冷凍ブルーベリーにハチミツをちょっとだけのせたもの。

桃の香りが強くて、

「今日はよく頑張ったね」って言われてるみたいだった。

人の荷物を全部背負わない代わりに、

自分の好きな本とか、

『二人の季節』の続きを入れておく余裕を

これから少しずつ増やしていけたらいいなと思う。


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