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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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82/93

リナ、自分にピントを戻す

**20xx年8月9日(日曜日) 高校1年生**


**朝**


目が覚めて、まずはいつもの体チェック。


足を布団の外にすべらせてみる。

(お、この軽さは“元気デー寄りの元気デー”かもしれない)


・足 → ちゃんと動くし、重力もそこまで増量してない。

・お腹 → 生理終わりゾーンから数日、違和感ほぼなし。

・頭 → 少しだけぼんやりしてるけど、ノートは余裕で開けそう。


ベッド横の赤い手帳を開く。

今週のページの今日の欄には、昨日のうちに書いた予定が並んでいた。


『8/9

 天気:晴れ時々くもり/気温:暑い/体調:元気デー寄り


 8〜10:家ブロック(読書+二人の季節メモ)

 14〜16:家族ブロック(スーパー+果物)

 20〜22:二人の季節+英語一行+ストレッチ』


(今日は“完全おうちデー”+“ちょっと外出”のやつ)


洗面所で顔を洗って、化粧水→乳液→日焼け止め。

鏡の前で、三秒自分チェック。


一、二、三。


(ニキビ跡、ほんのちょっとだけ薄くなってる気がする。

 たぶんズームしたら普通に見えるんだろうけど、

 “ちょっとだけマシ方向”に進んでるのは事実ってことにしよ)


前髪を整えてから、ペンで手の甲に今日のキーワードを書く。


『自分にピント』


(他人の写真とかスタイルとかに意識持っていかれそうな予感しかしないから、

 とりあえず“戻る場所”だけ先に作っとく)


キッチンに行くと、テーブルの上には


・雑穀ごはん

・鱈とえのきと小松菜の蒸し料理

・キャベツとにんじんときゅうりのサラダ

・豆腐となめこの味噌汁


が並んでいた。


「今日は“暑さに負けないセット”です」


母のネーミングセンスは、相変わらず元気だ。


「鱈とえのき、蒸し器で一緒に料理したらラクだったよ」と母が言う。


鱈を一口食べると、えのきの食感と一緒に、

(あ、今日の肌ポイント、ちょっと入ったかも)

みたいな謎の安心感がじわっとくる。


テレビからは、

「アイスがじわじわ値上がりしていて…」みたいなニュースが流れていた。


「なんかさ、全部値上がりしてない?」と父。


「だからこそ、うちの“家で焼き芋&フルーツ派”は強いのよ」と母が胸を張る。


「うちのご褒美、全部家キッチンで完結してるの、

 冷静に考えるとコスパいいよね」


味噌汁を飲みながら、

里奈は手の甲の『自分にピント』を、こっそり見直した。


---


**午前(家ブロックと、SNSの“比べたくなるやつ”)**


8〜10時の家ブロック。

机の右上に赤い手帳を開き、

『二人の季節』ノートと、読みかけの『海沿いの小さな研究室』を並べる。


(まずは読書でエンジンかけて、

 そのあと“二人の季節のネタ回収タイム”っていう流れで)


ソファに移動して、『海沿いの小さな研究室』の続きを読む。


ちょうど、主人公が同年代の研究者たちと比較して、

自分だけ成果が出てない気がして落ち込む場面だった。


> 「他人の論文と比べるの、もうやめなよ。

>  比べるならせめて、昨日の自分にしな。」


先輩研究者が、

コーヒーを飲みながらさらっと言う。


(“昨日の自分”か……

 頭ではわかるけど、

 SNS開くと一瞬で忘れるやつなんだよな)


ページの端に付箋を貼って、

付箋の上にメモを書く。


『compare with yesterday’s me(比べるなら昨日の自分)』


本を閉じたとき、

なんとなくスマホが気になってしまって、

ついロックを解除してしまった。


SNSのタイムラインには、

同じ高校の子が海に行った写真や、

プールサイドで飲み物を持って笑っている写真が、

当たり前みたいな顔で流れてくる。


(脚ほっそ。

 ウエストどうなってんの。

 肌、フィルターなのか元からなのか、どっちにしてもずるい)


画面をスワイプする指が止まらなくなりそうになって、

里奈は自分のふくらはぎを、ぎゅっとつまんだ。


(待って、これ、完全に“悪い比べモード”入ってる)


そこで、手の甲が目に入る。


『自分にピント』


(そうだった。

 比べるなら、せめて方向を変えよう、ってさっき本に書いてあった)


スマホの画面を一度閉じて、

立ち上がって洗面所に行く。


鏡の前で、もう一度、三秒自分チェック。


一、二、三。


(ふくらはぎ、たしかにモデルさんとかと比べたら普通に太いけど、

 前より“むくみパンパン”って感じじゃない気がする。

 毎日お風呂でちゃんと温まってるの、

 たぶん無駄にはなってない)


頬に手を当ててみる。


(ニキビゼロではないけど、

 「前の写真見たらこれより荒れてた」って、

 自分で知ってるからこそ、

 “ちゃんと進んでる途中”ってことにしていいはず)


鏡から離れる前に、軽く背すじを伸ばす。


(よし、とりあえず今の自分にピント合わせなおした。

 SNSの世界は、一旦待っててもらお)


机に戻って、『二人の季節』ノートを開く。

さっき読んだ本のセリフを、そのままメモにする。


『・他人の写真より、昨日の自分と比べる主人公

 ・幼なじみの男の子に、「画面の中じゃなくて、自分にピント合わせろ」って言わせる』


(この“自分にピント”ってやつ、

 今日のテーマにそのまま使えそう)


---


**昼〜午後(スーパーと、比べたくなる話題)**


14〜16時、家族ブロック。


「里奈、果物買いに行くけど、一緒に来る?」


母の声に、

「行くー」と返事をして、

里奈は日焼け止めを塗り直す。


(“果物ブロック”は、

 おやつの未来のためにもちゃんと参加しときたい)


近所のスーパーは、

夏休みの家族連れでそこそこにぎわっていた。


果物コーナーには、

ぶどうと桃とスイカがきれいに並んでいる。


さくらが、スイカの前で立ち止まる。


「ねえ見て、このミニスイカ可愛くない?

 これ半分に切ってさ、真ん中にヨーグルト入れて食べたら、

 絶対“映える”じゃん」


「“映える”って言葉、小学生でも普通に使う時代なの怖いんだけど」


と言いつつ、

里奈もミニスイカをじっと見てしまう。


(たしかに、

 “スイカボウルヨーグルト”みたいなやつ、

 SNSで見たことあるな……)


母が笑いながら言う。


「じゃあ今日は、

 “スイカボウルチャレンジ”してみる?

 どうせ家で食べるだけだけど」


「家で食べるだけなのに“チャレンジ”って名前つけるの、

 ちょっと面白い」


ミニスイカと、

ヨーグルト用のプレーンタイプ、

ついでに冷凍ブルーベリーもカゴに入れる。


レジに並んでいるとき、

前に並んでいる女子高生二人組の会話が聞こえてきた。


「いやマジでさ、

 インスタでみんなの水着見てると病むわ。

 脚の長さ、なんなん?」


「わかる〜。

 てか、あの子のストーリー、

 自分で見返してもメンタル削れるから、

 ミュートしようか迷ってる」


(その気持ち、ちょっとわかる)


スーパーを出て歩きながら、

里奈は母にぽつりと言う。


「なんかさ、

 SNSで他の子の写真見ると、

 “あ、私終わってる”って思う瞬間あるよね」


母は「ふーん」と頷きながら、

買い物袋の持ち手を持ち替えた。


「まあ、“比べるために”あげてる写真も多いからねえ。

 でもさ、里奈」


「ん?」


「もし将来さ、

 里奈が誰かの写真を撮る仕事とか、

 何かを教える仕事とかすることになったらさ、

 “比べられて病む写真”より、

“自分をちょっと好きになれる写真”とか言葉を

  渡すほうが似合いそうだけどね」


(急にハードル上げてこないで、お母さん)


でも、

そのイメージは一瞬だけ、

里奈の頭の中でちゃんと浮かんだ。


(たしかに、

 “うわ、他の子と比べて落ち込む自撮り”より、

 “今日の私、まあまあ良くない?”って思える写真のほうが、

 なんかいい)


その未来の自分と、

今スマホで他人の写真を見て落ち込んでる自分の間に、

けっこう大きなギャップがあるのも感じる。


(でも、そのギャップを完全に埋める必要は、

 いまはないのかもしれない。

 とりあえず、

 “今日の一歩だけ”埋める方向に進めばいいや)


---


**午後〜夕方(友達からのメッセージと、“助け方の選び方”)**


家に戻って、

買ってきたスイカを冷蔵庫に入れてひと息つくと、

スマホが震えた。


画面には、

同じクラスの子からのメッセージ。


『ねえ、夏休み太りやばい。

 インスタ見てたら病んできた。

 一緒にダイエット計画立ててほしい…』


(出た、“夏休み太りパニック相談”)


一瞬、

「じゃあ毎日カロリー表作って送ろうか?」とか、

「食事全部チェックするよ?」みたいな案が、

脳内をよぎる。


(いや待って。

 それやったら、

 確実に私のブロック死ぬし、

 あの子の“自分でやった感”もなくなるやつだ)


こないだ決めたルールを思い出す。


・5分以内でできることだけ手伝う。

・出せるのは主に“知識・経験・工夫”。

・相手の成長の領域は奪わない。


(よし、今日もこのセットでいこ)


『ダイエット計画まるごとは、

 ちょっと私もキャパオーバーになっちゃうかもなんだけど…』


と打ってから、

“グレーな一言”を足す。


『でもさ、

 “今日から一個だけやること”なら一緒に決められるかも。

 例えば、

 毎日水を多めに飲むとか、

 夜寝る前にストレッチ5分だけするとか』


すぐに返事が来た。


『あ、それいい。

 なんかさ、全部変えようとすると

 3日で死ぬのよねw』


『わかるw

 じゃあさ、今日は“ストレッチ5分”にしよ。

 終わったらスタンプ一個送るとかにする?

 それなら私もできそう』


『それなら私も助かる!!

 じゃあ“ストレッチ報告スタンプ制度”導入で』


(よし、“5分でできること”+“相手が自分で動けるやつ”。

 ルール、ちゃんと役に立ってる)


メッセージを送信してから、

里奈は英語ノートの端に小さくメモした。


『help with one tiny step(一個だけ一緒にやる助け方)』


---


**夜(『二人の季節』と、“比べる方向の設定変更”)**


夕食は、


・鮭としめじとほうれん草の蒸し料理

・トマトと玉ねぎときゅうりのサラダ

・ひじきと大豆の煮もの

・白いごはん

・わかめと豆腐の味噌汁


だった。


「鮭率高いの、自分の未来の肌に投資してる感じしない?」と里奈が言うと、


「“将来の肌貯金”だね」と母が笑う。


(肌貯金って言葉、ちょっと好きかもしれない)


お風呂でしっかり温まってから、

20〜22時ブロックに入る。


机の上に、

赤い手帳と『二人の季節』ノート、

英語一行ノートを並べる。


まずは英語ノートに、

さっき本で見たフレーズを自分流に書いてみる。


『If I compare, I want to compare myself with yesterday’s me.

 (比べるなら、昨日の自分と比べたい)』


声に出して読むと、

ちょっとだけ口の中がくすぐったくなる。


『二人の季節』ノートを開く。


今日書きたいのは、

主人公の女の子が、

SNSで細くて可愛い子たちの写真を見て落ち込むシーンと、

それを見た幼なじみの男の子が、

ちょっと不器用に励ますシーン。


> 「そんなに画面の人と比べんの、

>  もうやめなよ。

>  比べるならさ、

>  昨日の自分とでよくない?」


> 「てか、今ここにいるお前にピント合ってないと、

>  俺からしたら普通に困るんだけど。」


その台詞を書きながら、

里奈は自分の手の甲を見る。


『自分にピント』


(“比べない”はたぶん無理だけど、

 “どこを見るか”を変えることなら、

 ちょっとずつ練習できる気がする)


赤い手帳の「将来メモ」ページをめくる。


『・仕事の量と休む量を自分で決められる人

 ・お願いを全部引き受けないで、“ここまでなら”って言える人

 ・“明日の自分の領域”をちゃんと残せる人

 ・18歳でも20歳でも、“ちゃんと大人”を自分で決めていい人

 ・人を助けるとき、“その人の成長の領域”は残せる人』


その下に、新しく一行足す。


『・比べるなら、画面の中の誰かじゃなくて“昨日の自分”と比べる人』


(いつか、

 誰かの写真を撮ったり、

 何かを教えたりする側になれたら、

 こういう感覚、ちゃんと持ってたい)


今日の小さな実験も、

手帳のメモ欄に書き込む。


『・SNSで“うわ、私終わってる”って思い始めたら、

 → いったんアプリを閉じて、

   赤い手帳に“今日の自分のよかったこと”を三つ書く。

 → 鏡の前で三秒自分チェックして、

   “今日マシだったところ”を一個だけ探す。』


(完璧に守れる日ばっかりじゃないと思うけど、

 少なくとも“やばいモード入ってるかも”って気づいたときに、

 戻る道を一個決めておくのは、あり)


ブロックの達成度も書き込む。


『8〜10:家ブロック(読書+二人の季節メモ) ◎

 14〜16:家族ブロック(スーパー+果物) ◎

 20〜22:二人の季節+英語一行+ストレッチ ◎(ストレッチ5分)』


(◎三つの日は、

 ちょっと“今日の私、よくやったで賞”あげたくなる)


ブロックのご褒美に、

ミニスイカを半分に切って、

中身をスプーンで軽くほぐしながら、

プレーンヨーグルトを真ん中にのせる。


上から冷凍ブルーベリーをぱらっと散らして、

ハチミツを小さじ1だけたらす。


(スイカ+ヨーグルト+ブルーベリー+ハチミツって、

 名前だけ聞くと完全に“映え狙いメニュー”なんだけど、

 実際はただの“家のキッチンで作れるやつ”なの、ちょっと好き)


一口食べると、

スイカの水分と、

ブルーベリーの酸っぱさと、

ヨーグルトのまろっと感が混ざって、

体の中が少しだけリセットされる感じがした。


(画面の中の“完璧な夏の写真”とは違うけど、

 これはこれで普通に幸せだから、まあいっか)


そう思いながら、

里奈はもう一口、

スプーンを口に運んだ。



## 後書き


**日記**


**20xx年8月9日(日曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「比べる目線をどこに向けるか」を

自分なりに少しだけ調整した日だった。


午前中、本棚から『海沿いの小さな研究室』を読んで、

「比べるなら、昨日の自分にしな」ってセリフが出てきたとき、

(それはそうだけど、SNS開いた瞬間に忘れるんだよな)って思った。

実際、その後でタイムラインを見たら、

海とかプールとかで細くて可愛い子たちが写ってる写真がいっぱい出てきて、

一瞬で「私終わってるモード」に入りかけた。

でもそのとき、手の甲に書いておいた「自分にピント」が目に入って、

一回スマホを閉じて、鏡の前で三秒自分チェックをやった。

前よりふくらはぎのむくみが少しマシになってる感じとか、

ニキビ跡が“ゼロではないけど前より薄い”感じとか、

ちゃんと自分の中の“マシ方向”もあるってことを思い出せた。


午後、スーパーでミニスイカを買った帰りに、

母が「比べられて病む写真より、自分をちょっと好きになれる写真のほうがよくない?」

みたいなことを言っていて、

(たしかに将来、誰かの写真を撮ったり、何かを教えたりする立場になれたら、

 その方向でいたいかも)って思った。

同級生から「一緒にダイエット計画立ててほしい」ってメッセージが来たときも、

全部管理するんじゃなくて、

“今日はストレッチ5分だけ一緒にやる”みたいな、一個だけの約束にした。

こないだ決めた「5分でできることだけ手伝う」ルールと、

「相手の成長の領域を残す優しさ」が、

ちゃんと今日のところでも役に立った気がする。


今日の実験は、

・SNSで「うわ、私終わってる」って思い始めたら、

 アプリを一回閉じて、赤い手帳に“今日の自分のよかったこと”を三つ書くこと。

・鏡の前で三秒自分チェックをして、

 “マシになってるところ”を一個だけちゃんと見ること。

完璧にできる日ばかりじゃないと思うけど、

「やばいモード入ってるかも」って気づいたときに戻る場所を

“昨日の自分”に決めておくのは、悪くない気がする。


夜のおやつは、

ミニスイカを半分に切って、

中にプレーンヨーグルトと冷凍ブルーベリーを入れて、

上からハチミツをちょっとだけたらしたもの。

見た目はそれなりに“映え”っぽかったけど、

食べてみたらただ普通においしくて、

「今日もちゃんと自分の体のほうにピントを戻せたし、

 まあまあいい一日だったんじゃない?」って

お腹のあたりから言われている感じがした。

画面の中の誰かじゃなくて、

昨日の自分と比べて「ちょっとマシかも」と思えたところを、

ひとつずつ増やしていけたらいいなと思う。


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