リナ、優しさの幅を決めてみる
**20xx年8月6日(木曜日) 高校1年生**
**朝**
目が覚めて、まずはいつもの体チェック。
足をゆっくり布団から出してみる。
(うん、今日は“なんとか寄りの元気デー”って感じ)
・足 → 動くけど、ちょっとだけ重力強め。
・お腹 → 生理終わりゾーンの名残り感、ほぼなし。
・頭 → ぼんやりはしてるけど、ノートは開けそう。
ベッド横の赤い手帳を開く。
今週のページの右端、今日の欄には、すでに鉛筆で小さく書き込んである。
『8/6
天気:くもり時々晴れ/気温:暑い/体調:なんとか寄り元気デー
8〜10:家ブロック(英語一行+理科ワーク)
14〜16:ゆる勉ブロック(ビデオ通話)
20〜22:二人の季節+ストレッチ』
(今日は“外に出ない日”バージョンのブロック構成なんだよね)
洗面所で顔を洗い、化粧水→乳液→日焼け止め。
鏡の前で、三秒自分チェック。
一、二、三。
(クマは、まあ許容範囲。
頬の赤みちょっとマシになってる気がするの、
私しか気づいてないやつだろうけど)
前髪を軽く巻き直してから、ペンで手の甲に今日のキーワードを書く。
『優しさの幅』
(“全部してあげる優しさ”と“自分も守る優しさ”の、
ちょうど真ん中あたりを探す日ってことにしよ)
キッチンに行くと、テーブルには
・雑穀ごはん
・目玉焼きと納豆
・ブロッコリーとミニトマトのサラダ(ヨーグルトソース少し)
・なめこと豆腐の味噌汁
が並んでいた。
「今日は“家でがんばるセット”だよ」と母。
「そのネーミング、半分くらいは当たってる」
目玉焼きの黄身を箸でつつきながら、
今日の“家ブロック”を脳内再確認する。
父が新聞を畳みながら言う。
「里奈、今日って家からビデオ通話で勉強するんだっけ?」
「うん。同じクラスの子と、
“しゃべりすぎたら各自ミュート”ルール付きで」
「それくらいゆるいルールのほうが続くかもな」
(たしかに、“ガチ勉強会”って言われると、
こっちのハードルも上がりすぎるし)
味噌汁を飲みながら、手の甲の『優しさの幅』をちらっと見た。
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**午前(家ブロックと、“説明しすぎ問題”)**
8〜10時の家ブロック。
机の右上に赤い手帳を開いて、英語一行ノートと理科ワークを並べる。
(今日は“なんとか寄り元気デー”だから、
英語は5分スタートで許してあげよう、自分)
英語一行ノートには、昨日の公民の内容を引きずっているフレーズを書いた。
『It’s kind to help, but it’s also kind to protect yourself.
(助けるのも優しさだけど、自分を守るのも優しさだ)』
声に出して読む。
(うん、語順合ってるかはちょっと怪しいけど、
“意味は伝わるからヨシ”にしとこ)
英語を5分だけ音読してから、理科ワークに移る。
電流と抵抗の問題を解いていると、机の上でスマホが震えた。
画面には、今日ビデオ通話する予定の友達からのメッセージ。
『ねえねえ、
今日さ、ビデオ通話で一緒に勉強する前に、
ノートの取り方ちょっと教えてほしい……!』
(出た、“ノートの取り方レクチャー要請”)
一瞬、「全部説明してあげよっか」と思いかけたけど、
手の甲を見る。
『優しさの幅』
(そうなんだよな……
“全部教えたくなる病”発症すると、
私のブロック時間がごっそり消えるんだよな)
深呼吸してから、返事を打つ。
『もちろんいいよー。
でも私も自分の勉強ブロックあるから、
“5分でできるポイントだけ講座”になるかも、それでも大丈夫?』
すぐにスタンプと一緒に返事が来た。
『それで全然OK!!
てか5分って言ってくれると逆に安心するw』
(あ、ちゃんと“幅”を先に宣言したの、
意外と良かったのかもしれない)
理科ワークをもう一問だけ解いてから、
英語ノートに小さくメモを書く。
『help with limits(限度ありの助け方)』
(“限度ありの優しさ”って、
英語にちゃんとした言い回しありそうだな。
いつか調べよ)
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**昼(ビデオ通話と、“グレーな一言”の再利用)**
14〜16時のゆる勉ブロック。
机の前にタブレットを置いて、ビデオ通話アプリを起動する。
画面の向こうで、友達が手を振った。
「やっほー。
なんか“夏なのに制服じゃないバージョンの顔”、新鮮なんだけど」
「そっちもね。パーカー似合う」
軽く服の話をしたあと、友達がノートを画面に近づける。
「でさ、このノートなんだけどさ……
田中のノートみたいに、後で見返しやすくしたいのよ。
どうしたらいいんだろうって」
画面越しに見えるノートには、
黒一色でびっしりと文字が詰まっていた。
(真面目度は高いんだけど、
後で見たときに“読む気力”が削がれるやつだ)
「えっとね……
本当は色ペンとか、余白とか、
説明したいこといっぱいあるんだけど」
とりあえず“正直な気持ち”を一言だけ混ぜる。
「今それ全部やると、
たぶん私の今日の勉強ブロック、
壊滅するんだよね……ごめん」
友達が笑う。
「それは困るw
じゃあ、今日のところは“今日からマネできるやつ一個”だけ教えて」
(……あれ、“グレーな一言”作戦、
こういうときにも使えるんだっけ)
前に日記に書いた“グレーな一言”は、
「全部断るんじゃなくて、
本音をちょっと混ぜた一言を足す」やり方だった。
(よし、今日の実験はそれの“応用編”でいこう)
「じゃあさ、今日は“サブタイトル方式”だけでどう?
ノートの上に、大事なことを一行だけ、
自分なりの言葉で書くやつ」
「サブタイトル?」
「うん。
例えばさ、
“18歳成人とこれからの私たち”って公民でやったでしょ。
あれを、そのままタイトルにするんじゃなくて、
自分のノートには“自分でサインするってどういうことか”って書いておくとか」
画面の向こうで、友達がペンを動かす。
「なるほど……
教科書の言葉じゃなくて、
自分の頭で一回嚙み砕いた版を上に書くってことか」
「そうそう。
それだけでも、後で開いたとき、
“あー、あの日の授業のポイントこれだったわ”って
思い出しやすくなるから」
「……それいい。
とりあえず今日から“サブタイトル方式”だけ、
全教科でやってみるわ」
「それ以上のことやりたくなったら、
また別の日に5分講座増やそう」
(“今日できる一個だけ”に絞るの、
自分のためにも相手のためにも、
わりと効率いいかも)
そこから先は、
各自ミュートで、それぞれのワークを進める時間になった。
画面の隅で見える友達の頭が、
何度か机に突っ伏しそうになりながらも戻ってくるのが、
ちょっとおもしろくて、
里奈も理科ワークをもう一ページ分だけ頑張れた。
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**午後(体力の限界ラインと、夏の空気)**
ゆる勉ブロックが終わるころには、
頭の中がじんわりと重くなっていた。
(これはもう、
“ここから先は今日の私の領域じゃないです”って
宣言したほうがいいやつ)
赤い手帳のメモ欄に、小さく書き足す。
『14〜16:ゆる勉ブロック
→ 15:30くらいから集中力落ちたので、
残り30分は“明日の自分の領域”に回す』
窓の外から、蝉の鳴き声と、
どこか遠くで打ち上げられているらしい花火の音が、
かすかに混ざって聞こえた。
(今年は人混みの花火大会には行ってないけど、
SNSのストーリーだけで、
なんとなく季節感はわかるのすごい)
机の上に、さっきまで開いていた小説
『海沿いの小さな研究室』をもう一度手に取る。
ちょうどクライマックス近く、
主人公が研究仲間にこう言う場面だった。
> 「私が全部やったほうが早いかもしれないけど、
> それやっちゃうと、あなたの成長の領域も奪っちゃうからさ。」
(“成長の領域”って言い方、ちょっと刺さる)
(私も、友達のノート、
全部整えてあげたくなるときあるけど……
それってもしかして、
“相手の領域”まで取りに行ってたのかもな)
ページの端に付箋を貼って、
そこにまた小さくメモを足す。
『help but don’t steal the growth(助けても、成長は奪わない)』
本を閉じた頃には、
体力メーターがだいぶ減っていたので、
ソファに横になって目を閉じる。
(これはもう完全に“なんとかデー”落ちだけど、
午前に英語も理科もやったし、
まあ今日はこれでよしにしよ)
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**夜(『二人の季節』と、“優しさの設定変更”)**
夕食は、
・鶏むね肉とキャベツとにんじんの蒸し料理
・小松菜のおひたし
・さつまいもの素焼き
・白いごはん
・しめじと豆腐の味噌汁
だった。
「今日は“疲れた脳の回復セット”です」と母。
「ネーミングのクセ強いけど、確かにそれっぽい」
さつまいもの甘さが、
ちょっと溶けかけた思考をやさしく拾い上げてくれる感じがした。
お風呂でしっかり温まってから、
20〜22時ブロックに入る。
机の上に、
赤い手帳と『二人の季節』ノート、
英語一行ノートを並べる。
英語ノートには、さっきのフレーズを少し直して書いた。
『It’s kind to help,
but it’s also kind to leave some work for others.』
(他の人の分まで全部やっちゃうのは、
優しさっぽく見えて、
実はちょっと違うのかもしれないし)
『二人の季節』のノートを開く。
今日書きたいシーンは、
主人公の女の子が、
クラスメイトに勉強を教えてほしいと頼まれる場面。
> 「全部教えてあげたい気持ちはある。
> でも、全部手伝っちゃったら、
> あんたが自分で“できた”って思える場所、
> なくなっちゃうじゃん。」
> 「だから今日は、
> “ここまでなら一緒にやる”ラインだけ、
> 私が決めていい?」
そんな台詞を書きながら、
里奈は自分の手の甲を見た。
『優しさの幅』
(“優しさ=フルコース提供”じゃなくて、
“今日の自分が出せるセットメニュー”を決める感じ、
ちょっとしっくりきたかも)
赤い手帳の「将来メモ」ページをめくる。
『・仕事の量と休む量を自分で決められる人
・お願いを全部引き受けないで、“ここまでなら”って言える人
・“明日の自分の領域”をちゃんと残せる人
・18歳でも20歳でも、“ちゃんと大人”を自分で決めていい人』
その下に、新しく一行足す。
『・人を助けるとき、“その人の成長の領域”は残せる人』
(もし将来、
誰かに勉強教えたり、
何かを説明する仕事をすることになったら、
この感覚、けっこう大事かもしれない)
今日の小さな実験も、手帳のメモ欄に書き込む。
『・誰かに「教えて」と言われたとき、
→ まず“今日の自分が出せるセットメニュー”を心の中で決めてから返事する。
→ 「今日はここまでなら一緒にできるよ」と具体的に言ってみる。』
(“なんでも聞いて!”って言うより、
“ここまでは一緒にやるね”って言ったほうが、
長期的には続きやすそうだし)
赤い手帳の今日の欄に、達成度を書き込む。
『8〜10:家ブロック(英語+理科) ◎
14〜16:ゆる勉ブロック(ビデオ通話) △(途中から集中切れ)
20〜22:二人の季節+ストレッチ ◎(ストレッチ短め)』
(△の日も、ちゃんと“△”って書けてるの、
ちょっとだけ成長な気がする)
ブロックを終えたご褒美に、
キッチンで焼き芋用のさつまいもを一切れだけ電子レンジで温める。
お皿にのせて、
プレーンヨーグルトを少しだけ横に添える。
(焼き芋+ヨーグルトって、
名前だけだと地味なのに、
実際食べると“ほぼパフェの親戚”なんだよな)
一口食べながら、
里奈はぼんやりと未来を想像してみる。
(もし将来、
誰かの勉強をサポートする仕事か、
何か教える側の立場になれたら――)
・相手のノートを全部書き直すんじゃなくて、
“サブタイトルの付け方”だけ最初に教える人。
・宿題を丸投げされても、
“ここまでなら一緒に考えよう”って線を引ける人。
(そんな感じの“優しいけど、ちゃんと線を持ってる大人”、
ちょっといいかも)
焼き芋の甘さとヨーグルトの酸味の間で、
そのイメージは、
まだぼんやりとしたままだけど、
確かにどこかに浮かんでいた。
## 後書き
**日記**
**20xx年8月6日(木曜日) 高校1年生 田中里奈**
今日は、「優しさってどこまでなんだろう」を
自分なりに考えた日だった。
ビデオ通話で一緒に勉強する友達から、
「ノートの取り方教えてほしい」ってメッセージが来たとき、
いつもの私だったら、
「いいよ!」って勢いで全部説明して、
自分の勉強ブロックを丸ごと差し出していた気がする。
でも今日は先に、「5分でできるポイントだけ講座になるかも」って
“幅”を宣言してからOKした。
実際、ノートのサブタイトルを付けるやり方だけ説明したら、
友達がちゃんと「それだけでかなり変わりそう」って言ってくれて、
(あ、全部教えなくても役には立てるんだ)って、
ちょっとホッとした。
『海沿いの小さな研究室』の、
「あなたの成長の領域も奪っちゃうからさ」ってセリフも、
今日の感じとつながっていた。
人の宿題を丸ごと手伝ったり、
ノートを全部整えてあげたりするのって、
一見すごく優しそうだけど、
その人が「自分でできた」って思える場所を
ゼロにしちゃう可能性もあるんだな、って。
こないだ決めた“5分でできることだけ手伝う”ルールも、
結局は「相手の成長の領域を残す優しさ」だったんだと思う。
今日の実験は、
・誰かに「教えて」と言われたとき、
“今日の自分が出せるセットメニュー”を心の中で決めてから返事すること。
・「ここまでなら一緒にできるよ」って、
最初に“範囲”を言葉にしておくこと。
これをやると、
自分の時間を守れるのはもちろんなんだけど、
相手にも「自分でやる部分」をちゃんと残せる感じがして、
ちょっとだけ気持ちがラクだった。
いきなり完璧な線は引けないけど、
“優しさの幅”を自分なりに調整できるようになったら、
将来、誰かに何かを教える立場になったときにも
きっと役に立つ気がする。
夜のおやつは、
レンジで温めた焼き芋に、
プレーンヨーグルトを少しだけ添えたもの。
焼き芋の甘さとヨーグルトの酸味のバランスがよくて、
「今日もまあまあ頑張ったね」って
静かに頭を撫でられてるみたいな気分になった。
“全部してあげる優しさ”から、
“お互いの領域を残す優しさ”に
少しだけシフトできた日だったから、
このくらいのしっとりしたご褒美がちょうどいいのかもしれない。




