リナ、文化祭の決定
**20xx年6月3日(月曜日) 高校1年生**
**朝**
梅雨入りした。
窓の外は、しとしと雨。
今日、演劇部で文化祭の演目が決まる。
私の脚本か、咲希ちゃんの脚本か、他の1年生の脚本か。
それとも、先輩の書いたものか。
「緊張する」
朝食を食べながら、お母さんが「今日、発表なの?」と聞いた。
「うん」
「リナの脚本が選ばれるといいわね」
「分からない。他のもいいから」
本心だった。
咲希ちゃんの脚本も素晴らしかった。
でも、選ばれたい気持ちもある。
「いってきます」
傘を差して、家を出た。
**午前**
電車の中で、咲希ちゃんに会った。
「おはよう、リナ」
「おはよう」
「今日だね」
「うん」
二人とも、言葉少なだった。
学校に着いた。
授業中も、落ち着かなかった。
ノートに、意味のない落書きをしている。
「田中」
先生に当てられた。
「はい」
また、ぼんやりしていた。
「問題、解けるか?」
「...すみません」
最近、こんなことが多い。
集中しなきゃ。
**昼**
お昼休み。
咲希ちゃんと屋上に行った。
雨が止んでいた。
「ねえ、リナ」
「なに?」
「もし、私の脚本が選ばれたら、どう思う?」
咲希ちゃんが不安そうに聞いた。
「嬉しいよ。咲希ちゃんの脚本、いいもん」
「でも...」
「でも?」
「リナが悲しむんじゃないかって」
その言葉に、胸が温かくなった。
「大丈夫。私も嬉しい」
「本当?」
「本当。だって、私たち友達でしょ」
咲希ちゃんが笑った。
「ありがとう。私も、リナの脚本が選ばれたら嬉しい」
「お互い、どっちが選ばれても、全力でやろうね」
「うん」
二人で誓った。
でも、心のどこかで、選ばれたいと思っている自分がいた。
それを、隠した。
**午後**
放課後。
演劇部の部室。
全員が集まった。
山口先輩が前に立った。
「今日、文化祭の演目を発表します」
部室が静まった。
私の心臓が、ドクドクと鳴る。
「今年は、1年生の脚本を採用します」
1年生たちが、息を呑んだ。
「田中リナの『二つの道』に決定しました」
「え...」
信じられなかった。
私の脚本?
「おめでとう、リナ」
先輩たちが拍手してくれた。
咲希ちゃんも、拍手していた。
でも、その顔は複雑だった。
「ありがとうございます」
立ち上がって、頭を下げた。
嬉しい。でも、同時に申し訳ない。
咲希ちゃんに。
**夕方**
部活が終わった。
咲希ちゃんが先に帰った。
「お疲れ様」
そう言っただけで、去っていった。
いつもなら、一緒に帰るのに。
私は、一人で帰った。
電車の中で、罪悪感が襲ってきた。
咲希ちゃん、悲しんでるんじゃないか。
私のせいで。
でも、これは私の努力の結果でもある。
複雑な気持ちだった。
家に着いた。
「ただいま」
お母さんが「どうだった?」と聞いた。
「私の脚本が選ばれた」
「本当に! 良かったわね!」
お母さんが抱きしめてくれた。
でも、素直に喜べなかった。
「咲希ちゃん、落ち込んでるかも」
「そう...でも、リナが悪いわけじゃないわ」
「分かってるけど...」
お母さんが私の頭を撫でた。
「明日、ちゃんと話してみなさい」
「うん」
**夜**
夕食の時、お父さんが「おめでとう」と言った。
「ありがとう」
でも、心から喜べない。
太一が「お姉ちゃん、すごいね!」と言った。
「ありがとう」
部屋に戻った。
携帯を見た。
咲希ちゃんからメッセージは来ていない。
送ろうかと思った。
でも、何を書けばいいか分からない。
結局、送らなかった。
机に向かった。
勉強をしようとしたけど、集中できない。
咲希ちゃんのことが頭を離れない。
「明日、ちゃんと話そう」
そう決めた。
ベッドに入った。
嬉しいはずなのに、嬉しくない。
友達を悲しませてまで、手に入れたもの。
それでいいのか。
でも、これは私が頑張った結果。
悪いことじゃない。
葛藤していた。
眠れない夜。
日記を書こう。
この複雑な気持ちを。
## 後書き
**日記**
**20xx年6月3日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**
今日、文化祭の演目が決まった。
私の脚本「二つの道」が選ばれた。
嬉しかった。
でも、素直に喜べない。
咲希ちゃんの脚本は選ばれなかった。
咲希ちゃん、いつもより静かだった。
先に帰っていった。
いつもなら、一緒に帰るのに。
私のせいで、悲しませてしまったのかもしれない。
申し訳ない。
でも、これは私が頑張った結果でもある。
悪いことをしたわけじゃない。
お母さんが「リナが悪いわけじゃない」と言った。
分かってる。
でも、友達が悲しんでいるのが辛い。
明日、ちゃんと話そう。
咲希ちゃんと。
この気持ちを、伝えよう。
選ばれたのは嬉しい。
でも、咲希ちゃんとの友情の方が大事。
今日は、複雑な日だった。
嬉しいような、悲しいような。
勝者と敗者。
そんな言葉が、頭に浮かんだ。
でも、演劇は競争じゃない。
みんなで作るもの。
そう、山口先輩が言っていた。
明日、咲希ちゃんと話そう。
仲直りしよう。
一緒に、いい舞台を作ろう。
どんな時でも笑顔で。
でも今日は、笑顔になれない。
明日は、笑えるといいな。




