リナ、『世界の金曜日』をのぞき見する
**20xx年7月10日(金曜日) 高校1年生**
**朝**
目が覚めた瞬間、
下腹のあたりのずーんとした重さで、だいたい状況を理解した。
(はい、今月の“アレ”本格始動……)
布団の中で、いつもの朝チェック。
・足 → 動く。走りたくはないけど、学校には行ける。
・お腹 → 内側からじわじわ引っぱられてる感じ。ちょい痛。
・頭 → ちゃんと起きてるけど、テンションは低空飛行。
(今日は、“なんとかデーの中のなんとかデー”だな)
起き上がって、ベッドわきのメモ帳を開く。
『7/7 なんとかデー(お腹重め+湿気)』
『7/8 なんとかデー(眠+国語小テスト)』
『7/9 おやすみ寄りなんとかデー(腹+腰重め)』
空いている7/10の欄に書き足す。
『7/10 なんとかデー(本格アレ+金曜の救い)』
(金曜日って書いとくだけで、
なんか“あと一日がんばれば土日だよ”って
未来の自分がちょっと優しくしてくれる気がする)
洗面所で顔を洗って、
化粧水→乳液→日焼け止め。
鏡の前で、3秒カウント。
一、二、三。
(クマ、ほぼ無し。
肌も、先月の“荒地”に比べたら普通に人間)
「……今日の私としては、“静かにアリ”」
声にしてみると、
(目立つ元気は出せないけど、
ちゃんと外には出られる顔)って感じがして、少し安心した。
手の甲に、今日のキーワードを書く。
『world』
(“世界”って意味のほう。
今日、英語の授業で“世界のイベント”やるって言ってたし)
ハーフアップにしようか迷ったけど、
今日は低めの一つ結びにして、
頭を締めつけすぎないスタイルにした。
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**午前(登校〜英語)**
家を出ると、
空は薄い水色で、雲が少しだけもこもこしていた。
(梅雨明け前の“とりあえず暑いだけ期”)
電車に乗って、
吊り革につかまりながらカバンの中を探る。
(スマホ触る前に、今日は……)
文庫本『七月の空気』を取り出すか、
英単語アプリを開くか、一瞬迷ってから、
結局、今日は外の景色を見ることにした。
(世界のイベントの話するんだから、
とりあえず“自分の今日の空気”くらいは見とけって感じ)
窓の外には、
いつもの駅前の商店街。
でも、よく見ると、
パン屋さんのウィンドウに「SUMMER FESTIVAL FAIR」って
英語で書かれたポスターが貼ってあった。
(フェスティバルて。
日本の商店街なのに、
突然カタカナじゃなくて英語で言いたくなる現象何)
教室に着いて、1時間目と2時間目をなんとかこなす。
お腹がちょいちょい主張してくるけど、
ペンはちゃんと動くレベル。
3時間目は英語。
先生が教壇の上に、カラフルなプリントをどさっと置いた。
「今日は、“World Festivals Day”ね」
「え、なにそれ楽しそう」
教室のあちこちから、
ちょっとだけテンション高めの声が上がる。
配られたプリントには、
ハロウィン、クリスマス、イースター、
中国の春節、ブラジルのカーニバル、日本のお正月……
世界中のイベントの写真と、短い英語の説明が載っていた。
> Halloween:People wear costumes and say “Trick or Treat!”.
> Christmas:Families and friends get together and eat special dinner.
> New Year’s Day in Japan:People go to a shrine and eat special food.
(あ、
“お正月 in Japan”も世界のイベントの一つなんだ)
ちょっと不思議な感じがした。
自分にとっては「毎年のやつ」なのに、
こうやって英語で書いてあると急に“世界側”の仲間になる。
先生が言う。
「四人グループで、一つイベントを選んで、
“もし自分たちがそこに行ったら何したいか”を、
簡単な英語で書いてみて」
同じ班の子が、ハロウィンの写真を指さした。
「これよくない? すごい仮装してるやつ」
「アメリカのやつっぽいね」
「リナはどれがいい?」と聞かれて、
ちょっとだけ迷う。
(ハロウィンもかわいいけど、
クリスマスの写真の、
家の中でごはん囲んでる感じも好きなんだよな)
「ハロウィンでもいいけど、
“家族とか友達と一緒にごはん食べる系”も好き」
「じゃあ、ハロウィンで“みんなでごはんパーティーする”って書いたら両方それっぽくない?」
「たしかに」
(そういう雑だけど天才みたいなまとめ方を
さらっと出してくるのずるい)
ノートに、みんなで相談しながら書く。
> We want to have a Halloween party.
> We wear costumes and eat many foods together.
> We also watch scary movies.
「“many foods”って英語的にどうなんですか先生〜」
「まあ、“a lot of food”のほうが自然だけど、
気持ちは伝わるからOK」
(世界のイベントに行くときも、
完璧な英語じゃなくて“気持ちが伝わればOK”くらいで
考えたいな)
ふと、自分の手の甲に目をやる。
『world』
(今ここで“world”って単語見てるだけで、
さっきよりちょっとだけ、
教室が広い場所に見えるから不思議)
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**昼休み**
お弁当の時間。
机をくっつけて、
英語のプリントを話題にしながら食べる。
「春節の写真のごはん、絶対おいしいやつだよね」
「分かる。餃子無限に食べたい」
「ブラジルのカーニバルもすごかった〜。
あの衣装着たら、たぶん二秒で転ぶけど」
みんながわちゃわちゃ話す中で、
友達がスマホを見ながら言った。
「海外ドラマとか見てるとさ、
金曜日の夜って“Friday night!!”みたいなノリ多くない?」
「なんか、
“金曜はパーティー”みたいなやつでしょ」
「そうそう。
ピザ頼んで、映画観て、ソファでごろごろ〜みたいな」
(日本の私の金曜日、
だいたい“テスト前だからワーク進めなきゃ”なんだけど)
「うちらもさ、
“世界の金曜日に参加してる気分だけ味わう会”とか
やってみたくない?」
「何それ、名前おしゃれ」
「金曜の夜に、オンラインで同じ映画見るとか」
「それなら、
親に怒られない時間帯でいけるかも」
(たしかに。
家にいながら“世界のイベントにちょい参加”できる感じ)
「じゃあさ、
夏休み入る前に一回テストしよ。
“金曜の夜に、みんなで同じ映画を同時再生する会”」
「それ、たぶん途中で
誰か寝落ちするやつだな〜」
「寝落ちするまでがイベントってことで」
笑い声の中で、
(こういう“世界のマネごと”くらいの距離感が
今の私にはちょうどいいかも)と思った。
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**午後(授業〜放課後)**
午後は数学と理科。
鎮痛剤が効いてきたのか、
お腹の痛みは少しだけ丸くなった。
(科学の力、マジでありがとう)
理科の時間、
先生が地球の公転の話をしていたとき、
ふと頭の中に別の映像が浮かんだ。
(この地球のぐるぐるのどこかで、
今クリスマスやってる人も、
ハロウィン準備してる人も、
普通に月曜日迎えてる人もいるんだよな)
世界のイベントのプリントを思い出して、
(なんか、
自分の“なんとかデー”も
その中の一部分なんだって思うと、
ちょっとだけ気が楽)になった。
放課後。
今日は部活ありの日だけど、
“体調ちょい低め”の人は見学OKになった。
(神采配)
私は、体育館の隅のベンチに座って、
ストレッチ担当という名の“見学係”をする。
ジャンプしまくるメニューには参加しない代わりに、
軽いストレッチと、水分補給の声かけ。
(全部がんばらなくても、
今日は“ここだけ手伝う”で十分ってことにする)
部活が終わるころには、
汗と一緒に少しだけモヤモヤも流れた気がした。
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**夕方**
帰り道、
最寄り駅の前を通ったら、
ショッピングモールの入口に大きなポスターが貼ってあった。
『World Summer Fair
世界の夏祭りを味わおう!』
写真には、
ハワイっぽいフラダンス、
ヨーロッパのビアガーデンみたいな景色、
どこの国か分からないけどカラフルな提灯。
(さっきの英語のプリントの実写版みたいなやつ)
家に帰ると、
ダイニングでお母さんがそのチラシを広げていた。
「あ、お母さんも見たんだ、それ」
「今日駅で配ってたからもらった。
“世界の夏ごはんフェア”ですって」
チラシには、
タコス、フォー、ガパオライスみたいな写真が載っている。
「いいな〜。
今日の夕ごはん、それ系?」と聞いたら、
「今日はさすがに家にあるものでやるけど、
金曜日だし、
“なんちゃって世界ごはん”にしようかと思って」
「なんちゃって世界ごはん」
「鶏むね肉で、ちょっとスパイス使った蒸し料理とかね。
海外風だけど、リナのお腹に優しいやつ」
(そういうところだけ、
ちゃんと“うち仕様”にしてくるの好き)
「金曜日限定の“世界ごはんデー”にする?」と聞くと、
お母さんが笑った。
「そうね。
毎週じゃなくても、
月に一回くらいならやりたいな」
(田中家版“世界の金曜日”スタート宣言っぽい)
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**夜**
夜ごはんは、
鶏むね肉と野菜の「スパイス蒸し」。
クミンとレモンがちょっと入っていて、
いつもの蒸し料理より少しだけ
“外国の屋台”っぽい匂いがする。
「これ、なんの国?」と太一が聞く。
「お母さんの頭の中の“だいたい中東〜地中海あたり”」
「雑〜」
でも、
口に入れてみるとちゃんとおいしい。
お腹も温まるし、
刺激も強すぎないライン。
(世界のどこかのごはんを、
田中家の胃袋仕様に調整したやつ、って感じ)
ごはんのあと、
デザートタイム。
今日は、
昨日の残りの桃を小さく切って、
プレーンヨーグルトと一緒に冷やしておいた。
それに冷凍ブルーベリーを少しだけ足して、
ハチミツを小さじ1垂らす。
(“日本の夏フルーツ”דちょっと海外っぽい色”)
ひとくち食べる。
(うわ、今日の私の気分、
完全にこれだわ)
甘さと酸っぱさのバランスが、
一日のいろんな感情みたいで、
ちょっと笑ってしまう。
お風呂でゆっくり湯船に浸かって、
下腹のあたりを温める。
(世界中のどこかにも、
今この瞬間同じように
お腹さすりながら湯船入ってる人、きっといるよな)
そう思ったら、
“なんとかデーのしんどさ”が
少しだけ共通のイベントみたいに感じた。
お風呂上がりに白湯を飲んで、
いつもの3分ストレッチ動画。
(これで白湯+3分ストレッチ、
気づいたら一週間コース見えてきたかも)
部屋に戻って、
机の真ん中の“居場所スペース”に座る。
『二人の季節』のノートを開く。
(今日は、“主人公が世界の冬祭りに憧れるシーン”を書いてみたい)
ペンを走らせる。
> 「彼女は、
> 雪の降る国の冬祭りの写真を
> 何度もスマホで眺めた。
> でも、
> 今夜の彼女が行けるのは、
> 自分の部屋の小さな机の上だけだ。
> だから彼女は、
> 机の上にマグカップと、
> 温かいミルクと、
> 小さな灯りを並べて、
> “ここを今夜の冬祭り会場”と決めた。」
(世界のイベントを、
自分の机サイズに圧縮して持ってくる感じ)
書きながら、
ちょっと未来の自分を想像する。
(いつか本当に、
海外のクリスマスマーケットとか、
ハロウィンの街とか行ってみたいな)
あったかいコート着て、
手袋しながらホットチョコ持って、
知らない国の夜を歩く自分。
(でも多分、そのときも
“今日の居場所どうしよう”って考えてる気がする)
今の自分にできるのは、
英語ノートに一行書くことくらい。
英語ノートを開いて、今日の一文。
『Today’s memo:
The world has many festivals,
but I can start with
one small dinner and one quiet night.
→ 世界にはたくさんのイベントがあるけど、
私が今できるのは、
小さなごはんと静かな夜から。』
ペンを置いて、
日記ノートを開いた。
## 後書き
**日記**
**20xx年7月10日(金曜日) 高校1年生 田中里奈**
今日は、「世界のイベントを、教室とダイニングのサイズに縮めて味わった日」だった。
朝からお腹が重くて、
完全に“なんとかデー”確定コースだったけど、
体調メモにちゃんと「本格アレ+金曜の救い」って書いたら、
「そりゃしんどいよね」って
自分に少し優しくなれた気がする。
英語の授業で、
ハロウィンやクリスマス、中国の春節、ブラジルのカーニバル、
それから「Japan’s New Year」まで並んでるプリントを見て、
いつものお正月も“世界のイベントのひとつ”なんだって
ちょっと不思議な感じがした。
班で「もし自分たちがハロウィンに行ったら何するか」を考えたとき、
“家でごはん食べて映画観るだけ”でも
ちゃんとイベントになるんだなって気づいたのが、なんか良かった。
放課後、体調的に全力は出せなかったけど、
部活でストレッチ係だけやったり、
図書室じゃなくて自分の部屋の机を
“世界ごはんと日記を書く会場”に決めたりして、
「全部の時間をちゃんとしなくても、
今日の15分とか1時間だけイベントっぽくできればいい」って思えた。
昨日から続いてる白湯+3分ストレッチも、
気づけば一週間コースが見えてきて、
中期目標②はいい感じに進行中。
夜ごはんは、
お母さんの考えた“なんちゃって世界ごはん”の
鶏むね肉スパイス蒸し。
クミンとレモンでちょっと海外っぽいのに、
ちゃんとお腹に優しくて、
「田中家バージョンの世界の金曜日」って感じがした。
デザートは、
桃と冷凍ブルーベリーとプレーンヨーグルトに
ハチミツをちょっとだけ。
切った桃とブルーベリーを乗せるだけだから楽だし、
夏らしい甘さと酸っぱさで、
今日みたいな“なんとかデー金曜日”にぴったりだった。
今の中期目標は、
①『二人の季節』を夏の途中の章まで進めること、
② 白湯+3分ストレッチを一週間続けること、
この二つのままでいく。
今日は、その両方に一歩近づけたから、
一応自分の中では“イベント成功”ってことにしていい気がする。
明日は、
SNSで流れてくる「世界のイベント動画」を、
ただうらやましがるだけじゃなくて、
「自分の部屋サイズだとどうアレンジできるかな」って
ちょっとだけ考えながら見てみようと思う。
海外ドラマのクリスマス回も、
“いつか行きたい場所リスト”じゃなくて、
“今日のごはんや机の上に持ってこれそうな要素”を探しながら。
まだ世界中のイベントには行けないし、
英語もぺらぺらにはほど遠いけど、
I joined a small part of “World Friday” at home today.
It was good enough.
って書いて、
スパイスの残り香と、
桃とブルーベリーの色を思い出しながら、
今日はこれで、よし。




