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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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73/93

リナ、『休み時間の居場所』をえらぶ

**20xx年7月7日(火曜日) 高校1年生**

**朝**


目が覚めた瞬間、

(あ、今日ちょっと“地面の重力強め”だ)って思った。


体がふわっと軽い感じじゃなくて、

布団に薄くのりづけされてるみたいな重さ。


布団の中で、いつものチェックをする。


・足 → 歩けるけど、階段ダッシュは無理。

・お腹 → じわじわ「そろそろ準備入ります」みたいな、奥のほうの重さ。

・頭 → 起きてはいるけど、ちょっとだけ曇り空。


(今日は“なんとかデー寄りなんとかデー”だな……)

(学校は行けるけど、テンションは無理して上げない感じのやつ)


ベッドわきのメモ帳を開く。


『7/5 元気デー(家+ストレッチ三日目)』

『7/6 なんとかデー(眠+体育ちょいしんど)』


空いている7/7に書き足す。


『7/7 なんとかデー(お腹重め+湿気)』


(“お腹重め”ってちゃんと書いとくと、

 後で見返したときに「あの日イライラしてたの、そりゃそうだわ」って自分に優しくなれる)


洗面所で顔を洗って、

化粧水→乳液→日焼け止め。


鏡の前で、3秒カウント。


一、二、三。


(顔、ちょいむくみ。

 でも先月の“パン祭りフェイス”ほどではない)


「……今日の私としては、ギリOK」


そう口に出すと、

(“ギリOK”って言葉、意外と便利だな)と思う。


完璧じゃないけど、

一応これで外に出られる、くらいのライン。


前髪を整えながら、

いつもより少しだけ高い位置でハーフアップにしてみる。


「お姉ちゃーん、早くしてー」


廊下から、さくらの声。


「今行くー」


ドアを開けた瞬間、

さくらがじーっと私を見た。


「なんか今日、髪型いつもと違う」


「うん、湿気で全下ろしだと絶対爆発するから、

 “なんとかデー仕様”」


「ふーん。でも似合ってるよ」


(その一言で、さっきの“ギリOK”が

 ちょっと“ふつうにアリ寄り”まで回復した気がする)


---


**午前(登校〜1時間目)**


家を出た瞬間、

むわっとした湿気が顔にまとわりついてきた。


(七月の湿気、

 そろそろ“夏の本気出し始めました”って感じ)


電車に乗ると、

車内はクーラーの冷気と、

制服の布の匂いが混ざった空気。


吊り革につかまりながら、

いつものクセでスマホに手が伸びかける。


(待って。

 通学10分、“七月の空気タイム”にするって決めたんだった)


一瞬スマホを握りかけた手を引っこめて、

代わりにカバンから文庫本を取り出す。


『七月の空気』。


前に試し読みした、

あのエッセイの続き。


今日は、

「学校のすみっこのテーブルが好きだった話」の章だった。


> 「みんなが集まる真ん中の机ではなくて、

>  コピー機の横とか、

>  窓ぎわの小さなすき間テーブル。

>  そこにだけ、自分の空気を持ち込んでもいいって思えた。」


(分かる。

 “教室の真ん中”がしんどい日、

 ある)


> 「全部の時間でうまくやろうとしなくていい。

>  一日のうち、十分でも十五分でも、

>  何も説明しなくていい場所があれば、

>  けっこう人間はなんとかやっていける。」


(十分とか十五分って、

 “がんばれば確保できるかも”ってラインなの、ずるい)


本を閉じて、

窓の外を見る。


夏休み前の街が、

少しずつ色を濃くしながら流れていく。


(高校生の今の私にも、

 “コピー機の横”みたいな場所、

 どこかにあるのかな)


(教室のすみっことか、

 廊下の窓ぎわとか)


そんなことを考えていたら、

胸の中の重さが、

ほんの少しだけ軽くなった気がした。


---


**昼休み**


午前中の授業は、

眠気と戦いながらもなんとか終了。


(“なんとかデー”でも、

 ノートは最低限とれた。えらい)


昼休み。

机をくっつけて、

いつものメンバーでお弁当。


友達がスマホを机の上に置いて、

SNSの画面を見せてきた。


「ねえ、これ見て。

 “彼氏が知らない女の子の投稿にいいね押しててムリ”ってやつ」


画面には、

長文の愚痴ポスト。


「こういうの、最近めっちゃ流れてこない?」


「分かる〜。

 でもさ、全部報告される彼氏もきつくない?」


「でも、自分の彼氏がずっと別の子の写真にいいねしてたら嫌じゃない?」


(え、むず……

 そもそも彼氏いたことないから、想像でしか語れない)


でも、

“誰の味方をする”っていうより、

“どっちの気持ちも分かるかもしれない”って感じが、

胸の中でぐるぐるした。


(はい、“翻訳+本音一言”スイッチオン)


手の甲に書いてある、

今日のキーワードを見る。


『やさしいグレー』


(白黒つけないやつ)


「なんかさー」


お箸を止めて、

ゆっくり言葉を出す。


「全部ぜんぶ報告しろって言われる彼氏もしんどいし、

 “何にいいね押したか全部チェックしちゃう彼女側”も

 たぶん疲れるよね」


「たしかに」


「“これだけは嫌だな”ってラインを

 先にゆるく話せてたらいいのかも。

 “この人の写真にはあんまり押してほしくない”とかさ」


「それ言うの、めっちゃ勇気いるやつ」


「分かる。

 でも、

 “全部ちゃんと見張る”じゃなくて、

 “ここだけはちょっと守ってほしい”って伝え方なら、

 まだマシかなって思っただけ」


(“全部変えて”じゃなくて、“ここだけ守って”って言い方。

 昨日観た『星を拾う朝』のセリフとも、

 地味につながってる気がする)


「リナってさ、

 たまにその“やさしいグレー”みたいなこと言うよね」


友達の一人が笑いながら言う。


「え、なにそれ。

 新しい色?」


「黒でも白でもなくて、

 “とりあえずこれならケンカにはならないかも”みたいな」


「それはそれで便利な色じゃん」


(“グレーだけど、

 ちょっとやさしい寄りのグレー”なら、

 高校生の間はそれで十分な気がする)


お弁当の最後に、

母が入れてくれたきゅうりの浅漬けを食べながら、

(なんか今日、

 お腹重いわりには余計なケンカを避けられた気がする)と

ひそかにホッとした。


---


**午後(授業〜放課後)**


午後の授業は、

夏休み前テストに向けた小テストの嵐。


「え、これもテスト範囲だったの?」


「聞いてないんだけど」


教室のあちこちから小さな悲鳴が上がる。


(先生は“言ったよね?”って顔してたけど、

 私の記憶にはいない人だった)


なんとか乗り切って、

放課後。


今日は部活が軽めの日で、

「勉強したい人は図書室でもOK」と先生が言ってくれた。


(神か?)


友達と二人で図書室へ。


四人がけの机に座って、

教科書とノートを広げる。


「集中しよ〜って思った瞬間に、

 通知鳴るんだよね、いつも」


向かい側の友達が、

スマホを見ながらため息をついた。


「分かる。

 通知の音って、

 “とりあえず見とけよ”って言ってくる妖精だよね」


「悪い妖精」


(ここで昨日の“机の上の居場所”と、

 今日の『七月の空気』の“すき間テーブル”を

 混ぜてみるか)


私はスマホを取り出して、

電源を切るまではいかないけど、

通知音量をゼロにして、

机から少し離れた棚の上に置いた。


「え、そこまでやる?」


「“図書室版・ベッドの上作戦”」


「なにそれ」


「昨日、家で“スマホはベッドの上に追いやる”ってやったら、

 25分くらいはちゃんとノート書けたからさ。

 今日は、“視界から外す+音もしない”バージョン」


「それ、

 オレも真似する」


友達も自分のスマホを、

同じ棚の上にぽんと置いた。


タイマーを25分にセットして、

英語のワークを開く。


机の上は、

ノート一冊分のスペースだけ。


(家の机と同じ。

 “とりあえずここだけ今日の居場所”って決めた場所)


『七月の空気』のフレーズが頭をよぎる。


――一日のうち、十分でも十五分でも、

 何も説明しなくていい場所があれば、

 けっこう人間はなんとかやっていける。


(たぶん今が、その“十五分”の延長線上だ)


25分後。


タイマーが鳴ったときには、

ワークの1ページ半が埋まっていた。


(おお……

 “なんとかデー”にしては普通にがんばった)


友達も、

「意外と進んだ」と言いながら伸びをする。


「スマホ、

 完全に忘れてた」


「でしょ。

 あいつら、視界から消すと

 意外と静かにしてる」


「でも戻してからが本番なんだよな〜」


「それはそう」


図書室を出る前に、

本棚コーナーで『二人の季節』の舞台に合いそうな写真集を

ぱらぱらめくる。


(この夏の光のページ、

 今日の“図書室の静けさ”と一緒に

 物語に混ぜたい)


そう思いながら、

帰り支度をした。


---


**夕方**


学校からの帰り道、

スーパーに寄る。


入り口近くの果物コーナーには、

桃とスイカと、

小さなパックのブルーベリー。


値札を見て、

(うわ、高っ)と思わず声が出そうになる。


でも、

一番小さいパックを手に取って、

しばらくじっと見る。


(アイス二個分くらいの値段、

 でも“未来の肌と気分”への投票だと思えば……)


カゴに入れた瞬間、

ちょっとだけ大人になった気分になった。


(まあ、お小遣いのやりくりは

 後で日記でちゃんと計算しよう)


家に帰ると、

キッチンから蒸し器の音。


「今日は鯖と、

 かぼちゃとブロッコリー蒸してるよ〜」


「完全に“リナの好きなやつセット”」


「そういう日も必要」


蒸し器の湯気と一緒に、

今日一日の疲れが少しずつ抜けていく気がした。


---


**夜**


夜ごはんは、

鯖と野菜の蒸しもの、

なすの味噌炒め少し、

豆腐とねぎのお味噌汁。


お腹の重さはまだあるけど、

温かいものを食べると

中からほぐれる感じがする。


ご飯のあと、

ブルーベリータイム。


小さなガラスの器に、

プレーンヨーグルトを入れて、

その上にブルーベリーを乗せる。


ハチミツを小さじ1だけ垂らして、

軽く混ぜる。


(それだけで完成する、“青いデザート”)


ひとくち食べる。


(うわ、

 酸っぱいと甘いのバランス、

 今日のテンションにちょうどいい)


さっきまで、

教室のSNS恋バナでちょっと疲れていた頭が、

じわっとリセットされる感じがした。


お風呂で湯船に浸かって、

お腹のあたりをそっとさする。


(ちゃんと温めとけば、

 明日の“なんとかデー度”が

 ちょっとは下がる……と信じたい)


お風呂上がりに白湯を飲んで、

いつもの3分ストレッチ動画。


今日で三日連続。


(“三日坊主”って言葉あるけど、

 逆に言えば三日までは行けたってことでもあるよな)


部屋に戻って、

机の真ん中のスペースに座る。


『二人の季節』のノートを開く。


(今日は、“主人公が教室のすみっこに自分の場所を見つける話”を書きたい)


ペンを動かす。


> 「休み時間、

>  教室の真ん中の笑い声が

>  今日は少しだけうるさく感じた。

>  だから私は、

>  黒板の横の小さなすき間に移動した。

>  誰にも何も言われない五分間だけ、

>  自分の呼吸の音を聞いていた。」


(完全に今日の“七月の空気”と“図書室”の合わせ技)


書きながら、

ちょっとだけ未来の自分を想像する。


(大学生とか大人になったら、

 もっと自分で“どこで何するか”決められるのかな)


お気に入りのカフェで、

朝からノートパソコン広げて文章を書いてる自分。


海の近くの街に住んで、

夜に静かな部屋で『二人の季節』の続きを書く自分。


(めっちゃ良くない?)


でも、すぐに現実の自分も見える。


明日の小テスト、

提出しなきゃいけないプリント、

まだうまく言葉にできないモヤモヤ。


(そこにたどり着くまでに、

 きっと“今日の五分”を

 何百回も積み重ねるのかもしれない)


英語ノートを開いて、一行書く。


『Today’s memo:


 I can’t choose everything yet,

 but I can choose

 one small place and five minutes today.


 → まだ全部は選べないけど、

   今日の「小さい場所」と「五分」くらいなら

   自分で選んでいい。』


ペンを置いて、

日記ノートを開いた。


## 後書き


**日記**


**20xx年7月7日(火曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「教室と図書室の中で、自分の“五分間の居場所”をちょっとだけ選び直せた日」だった。


朝からお腹が重くて、

これは完全に“なんとかデー”コースだなって感じだったけど、

通学電車で『七月の空気』を読むって決めてたおかげで、

ずっとスマホを触らずに済んだ。

「一日のうち、十分や十五分だけの秘密の場所があればいい」っていう一文が、

教室の中での居場所のことにも聞こえて、

なんか少し気が楽になった。


昼休みは、

SNSの「彼氏のいいね問題」の話題で盛り上がった。

正直どっちの気持ちも分かるわけじゃなかったけど、

手の甲に書いておいた『やさしいグレー』って言葉を見て、

「全部見張るのもしんどいし、全部好き勝手されるのもつらいよね」って

ちょっとだけグレーな本音を混ぜて話せた。

変に誰かを責めずに済んだのは、

前に練習した「グレーな一言」がちゃんと役に立った感じがした。


放課後の図書室では、

スマホをカバンの中じゃなくて、

あえて見えない棚の上に置いて、音もゼロにした。

“ベッドの上作戦”の応用編。

そのおかげで、二十五分だけど英語ワークが1ページ半進んで、

「なんとかデーの自分でも、ここまではいけるんだ」って

ちょっと自信になった。


おやつは、

スーパーで勇気を出して買ったブルーベリーと、プレーンヨーグルト+ハチミツ。

小さなガラスの器に、

ヨーグルト→ブルーベリー→ハチミツ小さじ1の順で重ねるだけ。

酸っぱくて甘くて、

「今日の私けっこうがんばったじゃん」って

やっと素直に思える味だった。


今の中期目標は、

①『二人の季節』を“夏の途中の章”まで少しずつ進めることと、

② 白湯+3分ストレッチを、まずは一週間続けてみること、

この二つでいいかなと思っている。

今日は、そのどっちにも小さく一歩近づけた気がする。


明日は、

教室の真ん中のノリがしんどいとき、

黒板の横とか窓ぎわに五分だけ避難するのを

自分に許可したい。

逃げるんじゃなくて、

「今日ここにいたい場所を選ぶ練習」として。


まだ、

教室の空気全部を好きなようにはできないし、

お腹の重さもすぐには軽くならないけど、


I chose one small place and five minutes today.

It was good enough.


って書いて、

ブルーベリーの青い色と、

図書室の静かな空気を思い出しながら、


今日はこれで、よし。


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