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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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72/93

リナ、「机の上の居場所」をつくる

**20xx年7月4日(土曜日) 高校1年生**

**朝**


目が覚めたとき、

窓の外から聞こえてきたのは、

まだ本気じゃないセミの声と、

ぽつぽつ落ちる雨の音だった。


(あれ、晴れるって言ってなかったっけ)


カーテンを少しだけ開けると、

空はうすいグレー。

アスファルトが、ところどころ濡れている。


布団の中で、いつもの朝チェック。


・足 → だるさほぼ無し。走る気はないけど、家の中なら余裕。

・お腹 → ときどき「あ、そろそろだよ」って合図してくる感じ。

・頭 → ちゃんと起きてる。眠気は残り少なめ。


(今日は“元気寄りなんとかデー”かな)


完全な元気デーではないけど、

家で色々やるにはちょうどよさそうなテンション。


ベッドわきの体調メモ帳をめくる。


『7/2 元気デー(部活+汗+英語)』

『7/3 なんとかデー(眠+プリント山)』


空いている7/4の欄に書く。


『7/4 元気寄りなんとかデー(雨+家時間)』


(“家時間”って書いとくと、

 なんかちゃんと過ごさなきゃって気がちょっとだけ出てくる)


洗面所で顔を洗って、

化粧水→乳液→日焼け止め。


鏡の前で、3秒カウント。


一、二、三。


(クマ、ほぼなし。

 肌も、先月の“ザラザラ期”を思えばだいぶマシ)


「……今日の私としては、ふつうにアリ」


声に出してみると、

(休日モードの割にはがんばってる)と、

心の中で小さく拍手した。


今日は学校がないので、

軽めの部屋着に着替える。


(七月の土曜日、雨。

 “だらだらしようと思えばいくらでもできる日”)


(ここでどう動くかが、

 未来の私の“なんとかデー率”にじわじわ効いてくる気がする)


---


**午前**


ダイニングに行くと、

テレビでは情報番組がついていて、

“九州地方で大雨のおそれ”ってテロップが流れていた。


「おはよ」


「おはよう」


お母さんが味噌汁をよそいながら言う。


「ほら見て。

 また九州の方、すごい雨らしいよ」


画面には、

茶色く濁った川と、

レインコートを着た人たち。


(同じ七月四日なのに、

 こっちは「どうやってだらだらするか問題」なの、

 なんか申し訳ないような不思議な感じ)


「最近、

 “数十年に一度”って言葉よく見る気がするなー」


思わずこぼしたら、

お母さんがうなずいた。


「そうね。

 昔より、ちょっとしたことが極端になってる気はする」


(はい、“翻訳+本音一言”スイッチオン)


手の甲をちらっと見てから、言葉を選ぶ。


「ニュース見てると不安になるけどさ、

 なんか、

 “自分の生活でできる小さいこと”も

 一個くらいあったらいいよね」


「たとえば?」


「んー……

 ちゃんと非常用の水チェックするとか、

 あと、

 自分の体調崩さないようにご飯ちゃんと食べるとか」


「それは大事」


お母さんが笑う。


(“世界全部を何とかしろ”じゃなくて、

 “せめて自分くらいはちょっとマシでいよう”くらいで見たい)


朝ごはんは、

鮭の切り身と、

キャベツと人参の蒸し野菜、

豆腐とわかめのお味噌汁。


テレビからは、

物価の話題に切り替わる。


「また、パンとか麺とか値上がりだって」


コメンテーターの声が聞こえる。


(この前のアイスの話といい、

 “ちょっとずつ高くなってくもの”増えすぎじゃない?)


「うちも、前より

 “家で蒸す”回数増えた気がする」


つい言ったら、

お母さんがうれしそうな顔をした。


「いいじゃない。

 お財布にも、未来のあなたのお肌にも優しいわよ」


(そこそこ現実的で、

 そこそこ未来寄りな褒め言葉)


---


**午前〜昼前(部屋時間)**


朝ごはんのあと、

自分の部屋に戻る。


机の前に立って、固まった。


(……机の上、情報量多すぎ)


教科書、プリント、ノート、

読みかけの本、『二人の季節』のノート、

英語ノート、ペンケースが二つ。


(これ、

 “今日ここにいたい場所”っていうより、

 “とりあえず全部置いてある場所”じゃん)


昨日の英語ノートの一文が、

頭の中でうっすら浮かぶ。


――The air is heavy,

but I can still choose a small place

where I want to stay today.


(“空気”だけじゃなくて、

 “机の上”も同じかもしれない)


(全部を片づけるのは無理でも、

 “今日ここにいたいゾーン”だけなら選べる)


そう思って、

タイマーを10分にセットした。


(とりあえず10分、“机の上の居場所づくり”)


プリントを教科ごとにざっと分けて、

テスト終わったやつはファイルに突っ込む。

教科書は本棚に立てて、

今日使いそうなノートだけを机の左側に。


真ん中には、

日記ノートと、『二人の季節』のノート。


右側に、英語ノートとペン。


タイマーが鳴ったとき、

机の上の真ん中だけは、

ちゃんと空いていた。


(おお……

 ここだけ見ると、

 “ちゃんとした人の机”っぽい)


椅子に座って、

その空いたスペースに腕を乗せてみる。


(なんか、

 “ここが今日の私の居場所です”って

 ちゃんと宣言された感じする)


窓の外を見ると、

雨は小降りになって、

雲の向こうが少し明るくなっていた。


---


**昼**


お昼は、

昨夜のサバの残りをほぐして入れた

野菜スープと、

軽く焼いた全粒粉パン。


「今日、どこか行く予定ある?」


お父さんが新聞をたたみながら聞いてくる。


「ううん。

 今日は“家の中で夏休みの準備デー”にする」


「なんだそれ」


「机の上とか、『二人の季節』とか、

 “自分が夏にいたい場所”のメモ整理」


「へぇ、

 なんかそれっぽいこと言う高校一年生だな」


(“それっぽい”って言われると、

 ちょっとくすぐったいけど、嫌じゃない)


太一は、

スマホを見ながらカップのヨーグルトを食べていた。


「オレは“夏アニメ何見るか会議”する」


「それはそれで大事そう」


(人それぞれの“夏の準備”)


---


**午後(映画タイム)**


お昼のあと、

リビングで洗濯物をたたみながら、

テレビのリモコンをいじる。


サブスクの画面に、

新しく追加された映画が並んでいた。


『雨上がりの交差点』

『星を拾う朝』

『きみの声が聞こえる部屋』


(タイトル、ちょっと前に読んだ『夏の途中の交差点』と似てるやつあるな)


なんとなく、

『星を拾う朝』を選んで再生する。


物語は、

都会でちょっと疲れた女の人が、

早朝だけ散歩するようになって、

少しずつ生活を立て直していく話だった。


途中で出てきたセリフが、

やけに頭に残った。


> 「全部を変えなくていい。

>  今日一個だけ、“ここの空気はこうなっててほしい”って場所を

>  守れたら、それで十分だよ。」


(“空気”とか“場所”とか、

 最近このワードばっかり拾ってる気がする)


でも、

たぶん今の自分が

そこに反応してるってことなんだろうな、と思う。


映画が終わるころには、

雨はほとんどやんで、

窓から薄い光が差し込んでいた。


(よし。

 “机の上の居場所”、もうちょいちゃんと使おう)


---


**夕方**


自分の部屋に戻って、

整えた机の真ん中に座る。


『二人の季節』のノートを開く。


(今日は、“主人公が自分の机の上のスペースを確保するシーン”にしよ)


ペンを走らせる。


> 「机の上には、

>  学校から来た紙と、

>  読みかけの本と、

>  書きかけのノートが積もっていた。

>  全部を片づけるのは、

>  今の私には無理だ。

>  でも、“今ここにいたい場所”だけなら、

>  十分片づけられる気がした。」


> 「だから私は、

>  ノート一冊分のスペースをあけて、

>  そこにだけ、自分の今日の居場所って名前を付けた。」


(完全に今日の私)


でも、

物語の中で書くと、

ちょっとだけ他人事っぽくなって、

自分の行動をやさしく見られるのが不思議だ。


英語ノートにも一行書く。


『Today’s memo:


 I don’t have to clean everything.

 I just need one small desk space

 where I can breathe today.


 → 全部片づけなくていい。

   今日は息がしやすい机の場所を

   一つだけ確保できればいい。』


(“全部ちゃんと”じゃなくて、

 “一か所だけちゃんと”のほうが、

 今の私にはリアル)


タイマーを25分にセットして、

そのあいだスマホはベッドの上に放置する。


(“スマホ別室保管”はまだハードル高いけど、

 “ベッドの上に追いやる”くらいならギリいける)


25分後。


ノートには、

『二人の季節』の新しい短いシーンが

二つ分増えていた。


(おお……

 “机の上の居場所”作戦、普通に効果ある)


---


**夜**


夜ごはんは、

鶏むね肉と野菜の蒸しもの、

きのこのスープ、

雑穀ごはん少しだけ。


デザート用に、

昼前に冷蔵庫に入れておいた桃が冷えている。


「今日のおやつどうする?」


お母さんに聞かれて、

迷わず答える。


「桃を、ヨーグルトと一緒に食べたい」


「じゃあ、切ろうか」


台所で、

お母さんが桃の皮をするっとむいて、

一口大に切っていく。


私は、

器にプレーンヨーグルトをよそって、

その上に桃を乗せ、

ハチミツをほんの少しだけ垂らす。


(“桃ヨーグルト・雨上がりバージョン”)


ひとくち食べる。


(あ、やっぱり今の季節の桃って

 格が違う甘さしてる)


コンビニスイーツの派手さはないけど、

舌と気持ちにちゃんと残る甘さ。


お風呂に入って、

湯船で全身を温めてから、

白湯を飲む。


スマホで、

昨日と同じ3分のストレッチ動画を再生する。


(昨日に続いて二日目。

 とりあえず“白湯+3分”セット継続中)


太ももの裏と背中を伸ばしていると、

(あ、昨日よりちょっとだけ伸びてるかも)と

錯覚レベルの変化を感じる。


(こういう“気のせいかもレベル”の変化でも、

 三日、四日って続いたら、

 きっとちゃんと差になるんだろうな)


部屋に戻って、

机の真ん中のスペースに日記ノートを開く。


(今日は、“ここで日記を書く”って決めたい)


そう思って、ペンを取った。


## 後書き


**日記**


**20xx年7月4日(土曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「机の上の真ん中に、“今ここにいたい場所”をちゃんと作れた日」だった。


朝、ニュースで大雨の映像を見て、

“世界の不安”と“自分の一日”の差に少しモヤモヤした。

全部はどうにもできないけど、

せめて「自分の体調とごはんくらいはマシにしておく」っていう考え方は、

前より自然に出てきた気がする。


午前中、机の上を10分だけ片づけて、

ノート一冊分のスペースをあけた。

全部きれいにするのは無理って分かってたから、

「ここだけ今日の居場所」って決めたのがよかった。

映画『星を拾う朝』の

「全部を変えなくていい。今日一個だけ守れたらいい」ってセリフが、

そのまま今日の行動に直結した感じ。


夜、

そのスペースで『二人の季節』を書いて、

英語ノートにも

「全部片づけなくていい、息がしやすい場所を一つだけ」って一行を書いた。

スマホはベッドの上に追いやって、

25分だけ“机の上タイム”にしたら、

ちゃんと物語のシーンが増えたのがうれしかった。


おやつは、

桃とプレーンヨーグルトにハチミツを少しだけかけたやつ。

冷たくて甘くて、

「今この季節に生きてる自分、わりといいじゃん」って

一瞬だけ素直に思えた。


明日は、

机の上の“居場所スペース”をそのままキープしつつ、

そこに教科書も一冊だけ連れてくるつもり。

全部の教科じゃなくて、

とりあえず英語か理科のどっちか一個。


「全部をちゃんとする」じゃなくて、

「今日ここだけちゃんとする」っていうやり方を、

もう少し試してみたい。


今日は、

I made one small place on my desk today.

It was good enough.


って書いて、

桃の匂いと、

雨上がりの少し涼しい風を思い出しながら、


今日はこれで、よし。


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