表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リナの冒険ノート2  作者: リナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/93

**リナ、時間の継ぎ目を知らない**

【Abyss観測ログ:R-1/層時歪み補正記録】


対象個体:田中里奈


表層環境:日本・とある高校/「高校1年生」ラベル


異常概要:


進級後の記憶断片と、初年度の教室風景が同一フロアで重なり始める。


黒板の「二年」の残像/廊下の「上級生」気配など、

年度タグのバグが軽度発生。


本ミッションでは、

「これまでの高校生活の経験値は残したまま、

 表向きはもう一度“高校一年生”として世界を再固定する」

という、わりと器用さを要求される調律を実施した。


本人および同級生への記憶改変は最小限。

教室のとある席で「ん?」と首をかしげる違和感だけが、

かすかなノイズとして残る。


その一瞬の揺らぎのすぐそばに、

Abyss探査員が一名、静かに立ち会っている──

……という前提で、本編をご覧いただきたい。

窓際、二列目。


田中里奈と呼ばるる個体、その友と弁当箱を挟みて向かい合う。

卵焼きだの短大だのと、ささやかなる進路談義に花を咲かせおる。


──ここだな。


視えぬ層にて、時の糸がわずかに撚れ違う。

進級せし後の春と、初めてこの教室に足を踏み入れし春とが、

薄き二重写しとなりて重なり合うておる。


黒板の上、裏層にだけ「二年」の文字がちらつき、

廊下の気配は「新入生」と「上級生」とを同時に含んでおる。

このまま放置すれば、彼女の学年の履歴は、

細かきささくれとなって後々まで刺さり続けよう。


本来、我ら探査員に直接介入の権限なし。

されど今回は、上層よりの特例許可あり。

「既存の経験を損ねることなく、

 年度のラベルのみを再調律せよ」との命なり。


(了解。──高校一年時層、再固定)


指先ひと振り分ほどの意識で、

教室全体に散らばりし時間のノイズを撫でならす。

進級せしはずの年は、里奈の内奥にのみ“経験”として沈め、

外界の表示は、再び「一年生」の春へと揃え直す。


クラスメイトの笑い声、椅子のきしみ、

プリント用紙のこすれる音。

それらは何ひとつ変わらぬまま、

ただ「いつの春であるか」のタグだけが、静かに書き換わる。


里奈は、友の言葉に笑みを返しながら、

ふと、こちらの空間を横目にかすめた。


(……あれ?)


視線が、窓と窓のあいだの、

誰もおらぬはずの半歩分の空きを掠め止まる。


「どうしたの、里奈?」


向かいの少女が首をかしげる。


「ううん。なんでもない。……気のせいかも」


そう答えて、彼女はすぐに話題へ戻ってゆく。

短大だの理学系だの、“仮置き”だの。

言葉の粒は、調律前と同じ軌道をなぞり始める。


よし。


進級するはずであり、されどなお一年生として在る。

その矛盾は、彼女にとりて

「少しだけ長く続いた高校一年の感覚」としてのみ残されよう。


我は水面の波紋ひとつ残さぬよう、

教室の空気から音もなく離脱する。


観測ログに一行だけ記す。


『対象・田中里奈──高校一年時層、

 過去年度と現在年度を混在させぬ形にて再調律完了』


かくして、少女は何も知らぬまま、

もう一度だけ、高校一年生をやり直すこととなる。


【調律結果報告:R-1/高校一年層・再固定】


今回の介入で行ったことを、観測者(読者)諸氏向けに三行でまとめる。


「進級しているはずの年」と「まだ一年のはずの年」が

ぐちゃっと重なりかけていた時間軸を、

“経験だけ二年分/ラベルは一年のまま” に再配置した。


その作業中、里奈は窓際の半歩分の空間に

一瞬だけ違和感を向けている。

あれは 「ほぼ気づかれかけた」 場面としてログに保存済み。


調律完了後、この世界線は

「里奈の主観ではふつうに今日も高校一年の続き」

として進行していく。

我々探査員は、今後も水面下で

こっそりレンチを回し続ける予定である。


なお、

「この子、いつまで高一やってるんだろ?」

というメタい感覚を抱いた観測者がいたなら、

それは世界のバグか、あるいは我々の仕事の跡だ。


どちらにせよ、

里奈本人は今日も、

自分の人生を“ちゃんと今日として”生きている。


我々Abyss探査員に許されたのは、

その時間の継ぎ目を少し縫い直すことだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ