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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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リナ、三者面談のセリフをこっそり試運転する

**20xx年3月23日(月曜日) 高校1年生**

**朝**


目覚ましが鳴る二秒前くらいに、

胸の中のどこかがふっと浮上してきた。


(また微妙に勝ってる……)


枕元のスマホを横目で見ながら、

布団の中で足を伸ばす。


ふくらはぎの重さは、

先週より明らかに軽い。


下腹も、

「存在はしてます」くらいの主張で、

あの□ゾーンのどんより感はほとんど残っていない。


(たぶん今日は、ふつうに○でいい)


布団から這い出して、

机の上のカレンダーに丸をつける。


今日のマス目に、○を一つ。

その横に、小さく『※気圧注意』と書き足す。


(昨日から頭の奥に少しだけ重り乗ってる感じ、

 完全にゼロじゃないし)


(○だけど、コンディション補足付き)


ペン立てから細いボールペンを取り出して、

カレンダーの隣のメモ欄に小さく一行。


『進路タイム:一日一コマ(十五分まで)』


先週、日記で決めた実験。

進路のことを考える時間を、

「一日一コマ」に区切るやつ。


机の端には、

A/B/Cゾーンの丸い図が開きっぱなしになっていた。


Aゾーン:やりたいこと。

Bゾーン:興味あるけど怖いこと。

Cゾーン:安定って言われてるやつら。


(今日の十五分は、

 “理科”と“脚本”の間の迷子ラインを

 ちょっとだけ見にいく時間にしよ)


制服に着替える前に、

手の甲をじっと見つめる。


『余白/波/距/棚』


インクは、ほとんど肌色と同化しかけている。


「そろそろ新入りを入れてあげてもいいかも」


独り言みたいに呟きながら、

ペン先を手の甲にそっと置く。


『余白/波/距/棚/声』


(今日のテーマ、“声”。

 三者面談で出すやつと、

 本当は飲み込んじゃうやつを、

 ちゃんと分けて持つためのやつ)


“声”って書いた瞬間に、

喉の奥がキュッと固くなるのがわかった。


(嫌な記憶セットで出てくるな……)


中学のとき、

先生に「将来の夢」をみんなの前で言わされたあの日。

「物語を書く仕事」と言いかけて、

クラスのどこかから笑い声がして、

結局「まだよくわかりません」に修正した自分。


「好きなの?」とからかわれたあの日の、

頬の熱さと同じ種類のやつが

胸の奥からじわりと顔を出す。


(“声”は、ちゃんと出したいけど、

 同時に一番怖いやつ)


そう思いながら、

鏡の前で髪をまとめる。


髪ゴムをきゅっと結んだとき、

制服の肩のあたりが

少しだけ重く感じたのは、

年度末だからか、

それとも“進路モード”が本格的に始まるせいか。


「今日、三者面談の時間割、貼りだされるかな」


小さく呟いてから、

手の甲の『声』を一度だけ見て、

部屋の電気を消した。


---


**午前**


ホームルームが終わると同時に、

担任が分厚い紙束を持って教卓に立った。


「えー、三者面談の日程、出ました」


教室の空気が、

一瞬でそわそわモードになる。


黒板の横の掲示板に、

ホチキスで留められていくA4の紙。


「見に来るのはいいけど、

 教卓の前、渋滞しないようにねー」


先生のゆるい注意を聞きながら、

クラスメイトたちが

一斉に立ち上がる。


里奈は、

ちょっとだけタイミングをずらして席を立った。


(人混みモード、苦手)


ぐいっと前に出ていくタイプの子たちが

先にわーっと掲示板の前に集まるのを待ってから、

教室の後ろからゆっくり回り込む。


(真正面から押し込まれるの、

 身体が勝手に避けたがるんだよな)


こういうとき、

正面突破する代わりに

“少し遠回りして視界の端から狙う”のが、

自分の行動パターンになってるのを

なんとなく自覚している。


掲示板の端っこから覗き込む。


『20xx年度 三者面談日程表』


名前の一覧の中に、

『田中里奈 → ○月○日 16:30〜』の文字。


(放課後のちょい遅めスロットか)


横には、

『同伴:父・母』と小さく書き込まれている欄。


(両親フル参加コース……

 “声”テーマ濃度、高め)


隣で、

クラスメイトが自分の名前を見つけて叫ぶ。


「マジかよ、オレ一番最初じゃん!」


「いいじゃん、早く終わって楽で」


「あーでも、

 まだ第一希望とかノーアイディアなんだけど」


男子二人の軽いやりとりを聞きながら、

里奈は胸の奥で

どうでもいいような、どうでもよくないような

ざらつきを覚えた。


(“ノーアイディア”で笑って言えるの、

 なんかうらやましいな)


女子のグループの方からは、

別のトーンの声が聞こえてくる。


「事務系が一番安定だって言われた」


「看護もいいけど大変そうってさ」


「“女の子はそういうところが潰しきくから”ってさ」


(“女の子はそういうところ”)


聞き慣れすぎて、

耳の中で自動再生されるフレーズ。


里奈の胃が、

ゆっくりときゅっとなる。


(その“安定タワー”の話をされるたびに、

 Aゾーンのやつらが

 「退去させられてます?」って顔するんだよな)


何も言わない代わりに、

手の甲の『声』を

指でそっと撫でる。


(今日の実験は、

 “全部飲み込む”でも

 “全部ぶちまける”でもなくて、

 真ん中の、

 “ほんの一部だけ外に出す”ラインを探すやつ)


一時間目の数学は、

二次関数の続き。


先生の声が

淡々とxとyを行き来する。


ノートの端に、

こっそり小さくメモを書く。


『三者面談用グレーセリフ候補』


・「迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです」

・「安定も大事だけど、Aゾーン全部Cに移すのは嫌です」

・「身体の波がある前提で、ペース考えたいです」


(とりあえず三つ。

 これ全部言えたらレベルMAXだから、

 今日はこの中から一個だけ

 “口で言う練習”してみる)


頭の中で、

先生と親と自分の三人が向かい合って座る図を想像する。


その瞬間、

喉の奥がまたぎゅっと縮んで、

手のひらに汗がにじんだ。


(……やっぱ怖いな)


怖いから、

本当は考えたくない。


でも、

「何も考えてません」という顔で行く自分も

ちゃんと怖い。


(“何も考えてません”の方が、

 未来の私にとっては

 たぶん致死量高い)


そんな感じの計算だけは、

なぜか冷静にできる。


---


**昼**


お弁当の時間。


教室の隅のいつものテーブルで、

いつものメンバーが弁当箱を開く。


「三者面談の時間、何時だった?」


「オレは朝イチ」

「私は真ん中。お母さんの仕事の都合で」


「里奈は?」


箸を持ったまま、

里奈は一瞬だけ言葉を探す。


(“普通の時間”ってなんだろ)


「放課後のちょい遅め。

 父も母も一緒に来るっぽい」


「フルメンバーだ」


隣の子が笑う。


「うち、母だけだなあ。

 父は“任せた”って」


(“任せた”って言ってくれる父親、

 うらやましい……)


「で、さ」


焼きたらこを口に運んでから、

里奈は話題を切り替える。


「この前さ、日記にも書いたんだけどさ。

 三者面談用の“グレーな一言”を

 三つだけ準備するっていう実験、

 一応メモったんだよね」


「おー、出た。グレーセリフ」


「何それ、聞きたい」


テーブルの上に、

さっきノートの端に書いたメモを置く。


友達二人が身を乗り出して読む。


「“迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです”」

「“安定も大事だけど、Aゾーン全部Cに移すのは嫌です”」

「“身体の波がある前提で、ペース考えたいです”」


「最後のやつ、

 けっこうパンチあるね」


「だよね」


里奈は笑いながらも、

心臓が少し早くなっているのを感じた。


(“身体の波”って言葉、

 家の外で口に出したこと、

 まだほとんどない)


「どれから練習するの?」


「現実的には一番目かなあ。

 “迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです”」


「じゃあさ」


向かいの子が、

弁当箱のフタをひっくり返して

即席の台本に見立てる。


「今ここで一回、

 “親&先生役”に向かって言ってみてよ」


「え、ここで?」


周りを見回す。


別のテーブルの会話や笑い声。

廊下から聞こえてくる足音。


この空間で、

“本音寄りセリフ”を口に出すのは

なんだか場違いな気がして、

喉の奥がまた固くなる。


(でも、

 ここで一回でも声帯を通しておいたら、

 本番でのショックが

 少し減るかもしれない)


「……じゃあ、

 小声バージョンで」


背筋をほんの少しだけ伸ばして、

弁当箱のフタを見つめる。


「えっと」


一度咳払いをしてから、

言葉を選ぶ。


「――迷子ゾーン多いけど、

 理科は続けたいです」


声が出た瞬間、

心臓がドクンと一つ強く打った。


(あ、

 本当に“言った”)


「いいじゃん」


隣の子が、

わざとらしく頷く。


「“理科は続けたいです”って、

 意外とちゃんと言えるんだね」


「意外と?」


「だって里奈、

 普段、“なんでもいいよ〜”って

 流す側じゃん」


図星を突かれて、

ちょっとだけ笑うしかなくなる。


(“なんでもいい〜”は、

 半分はほんとにどうでもいいだけど、

 もう半分は

 「選ぶ責任を持ちたくない」っていう

 逃げでもある)


「だから、

 “続けたいです”まで言えるのは、

 けっこう進歩だと思う」


「……言っとこ。

 “進歩”ってことにしとこ」


そう言いながら、

里奈は心の中で

「声を出す実験:一回目クリア」と

目に見えないスタンプを押した。


---


**午後**


放課後。


教室のざわめきが薄れていく中、

里奈はプリント類を鞄にしまってから

一人で図書室に向かった。


(今日の“進路タイム一コマ”は、

 図書室モードで)


図書室の中は、

年度末とは思えないくらい静かだった。


理科系の棚と、

進路関連のパンフレットコーナーの間を

行ったり来たりする。


(AゾーンとBゾーンの間を

 物理的にウロウロしてる感じ)


理学部のパンフレットを一冊、

工学部のパンフレットを一冊。

机に持っていって開く。


「実験施設」「研究室紹介」のページを眺めていると、

胸の奥に

じわじわとした興味の熱が灯るのがわかる。


(こういうところに

 普通に出入りしてる自分がいたら、

 ちょっと楽しそう)


でもすぐに、

頭のどこかが冷静に計算を始める。


(けど偏差値とか、

 お金とか、

 地方か首都圏かとか、

 現実の条件が

 Aゾーンの上に

 巨大なCゾーンブロックとして

 積み上がってくるやつ)


パンフレットの端に、

シャーペンで小さく書き込む。


『A寄りB:理科実験環境◎

 ※学費・距離=C要素多め』


「“理科やりたい”だけじゃ

 どうしようもないラインもあるんだよな」


小声で呟いた瞬間、

喉の奥がまた少し苦くなる。


(だからって、

 “最初からCだけ見とけ”って言われるのは

 やっぱり嫌だ)


十五分タイマーが鳴ったところで、

一旦ペンを置く。


机の上には、

理系パンフ二冊と、

高校の進路アンケートのコピー。


ノートのA/B/C図。

それから、

『二人の季節』の台本ノート。


「……よし」


小さく深呼吸をして、

今度は台本ノートを開く。


進路指導室のシーンのページから、

新しい行を一本引く。


> 「“全部決めました”って顔して座るの、

>  もうやめたいんです」

>

> 「決めてないと怒られるだろ」

>

> 「怒られるのは、

>  “何も考えてません”の顔だけでいいと思うんです。

>  “棚に分けて迷ってます”って

>  ちゃんと言いたい」


書きながら、

自分の三者面談の光景と

登場人物の三者面談が

頭の中で重なっていく。


(このキャラ、

 私よりちょっとだけ勇気ある)


そう思うことで、

自分の怖さをごまかしているところもある。


(“キャラに言わせる”っていう、

 半分ズルで半分本気な逃げ場所)


でも、

その“逃げ場所”があるからこそ、

現実で完全に黙り込まずに済んでいるのも

事実だ。


ページの端に、

進捗メモを追加する。


『・進路指導室シーン:

  「棚に分けて迷ってます」セリフ追加

 ・三者面談=脚本側でもテーマ固定』


タイマーが二度目に鳴ったとき、

こめかみの重さは

朝より目立たなくなっていた。


代わりに、

胸の真ん中に

じんわりとした疲労感と、

ちょっとだけ誇らしさが混ざる。


(十五分で全部わかるわけはないけど、

 “何もしてない時間”じゃなかった)


---


**夜**


夕食のテーブル。


テレビからは、

年度末特番の派手な笑い声。


テーブルの上には、

肉じゃがと味噌汁と焼き魚。


「三者面談の紙、

 今日配られたでしょ」


お母さんが味噌汁を配りながら言う。


「うん。

 再来週の月曜。

 十六時半からって書いてあった」


「父さん、

 その日定時ダッシュで出られるように

 上司に言っとくわ」


「お願いします」


スプーンで肉じゃがのじゃがいもを割りながら、

里奈はテーブルの下で

自分の膝をぎゅっと押す。


(今日の“声の実験”、

 ここで一個だけやる)


喉の奥が、

準備運動を拒否するみたいに軋む。


(怖いのは、

 “本音を言うと期待を裏切るかも”っていう

 予想してる顔たち)


反射的に、

“なんでもいいよ”って

無難な返事をしたくなる衝動が

一瞬、頭をかすめる。


(でも今日は、

 昼休みに一回、

 声帯を通してる)


深呼吸を一つ。


「あのね」


自分でもわかるくらい、

最初の一音が小さい。


「三者面談で、

 “理科は続けたいです”って話を

 ちゃんとしたい」


お箸の動きが、

一瞬だけ止まる気配。


お父さんが、

「うん?」と顔を向ける。


「迷子ゾーン多いけど、

 理科は続けたいです、って感じ」


昼に弁当箱のフタに向かって言ったセリフを、

そのままテーブルにのせる。


心臓がまた、

ドクンと一つ強く打った。


(出た)


「“理科は続けたい”か」


お父さんは、

一拍置いてから笑った。


「まあ、

 生き物の解剖だのなんだのを

 楽しそうに話してたしな」


「解剖だけじゃないから……」


小さく抗議しながらも、

ちょっとだけ救われる。


(“突飛な夢”扱いじゃなくて、

 “まあそうだよな”ラインで受け取られた)


お母さんは、

少し真面目な顔になる。


「理系は、

 勉強大変よ」


「うん。

 それはわかってるつもり」


(“わかってるつもり”って言葉で、

 期待も不安も

 少しだけ中和されたらいいな)


「まだ、

 どの大学とか、

 どの分野とかまでは

 全然決められてなくて。


 Aゾーンで、“理科と物語”が

 今のところ同じ棚に置いてある感じ」


「Aゾーン?」


お父さんがまた笑う。


「出たな、棚」


「とりあえず三者面談では、

 “全部決めました”って顔じゃなくて、

 “棚に分けて考えてます”っていう話をしたい」


そう言った瞬間、

身体のどこかが

ふっと軽くなるのを感じた。


(“わかってない”を

 そのまま言った)


お母さんは、

少しだけ目を細める。


「……全部決めて来い、って

 言いそうになったわ」


正直な言葉だった。


「でも、

 身体の波とかもある中で

 “全部背負え”って言うのは

 たしかにきついかもね。


 里奈、

 この一年で□の日のこととか

 いろいろ見える化してたもんね」


(“身体の波”が親の口から出た)


胸の奥が、

じわっと熱くなる。


「父さんとしては、

 “理科は続けたいです”っていうところが

 ちゃんと里奈から出てきたのが

 ちょっと嬉しいかな」


お父さんは、

味噌汁をすすりながら続ける。


「三者面談のとき、

 そのまま言っていいんじゃないか?


 “迷子ゾーン多いけど、

 理科は続けたいです”って」


(あ、この人、

 セリフ覚えた)


「……言えるかどうか、

 明日までにもう少し

 “声出し練習”しとく」


そう返したとき、

小さな達成感と、

じんわりした疲労が

同時に押し寄せてきた。


夕食のあと、

皿を洗ってからお風呂に入る。


湯船の中で、

今日の「声の実験」を

頭の中で何度か再生する。


胸の辺りが、

思ったより静かだった。


(大爆発もしてないし、

 大絶賛もされてないけど)


(“言わないで飲み込んだ未来”よりは

 たぶんマシ)


部屋に戻って、

明かりを少し落とす。


ベッドの上に座って、

スマホのタイマーを開く。


(三分呼吸→五分→二分

 ……のはずだけど)


今日はなんとなく、

頭の中のモヤモヤが多めで、

指がSNSアプリに伸びそうになる。


(ちょっとだけ、

 “猫動画と進路ネタ”見てからでいいかな)


自分への言い訳の声が

いつもより滑らかだ。


「とりあえず五分だけ」


タイマーを五分にセットして、

SNSを開く。


同級生が、

「第一志望はここにしました!」と

パンフレットの写真を上げている。


別の子は、

「とりあえず就職でもいいかな〜」と

軽そうに書いている。


胸の奥で、

またいくつかの棚がざわつく。


(“とりあえず”で決められる人と、

 “とりあえず”って言うだけで

 胃がキュッとなる人種)


気づいたときには、

タイマーの五分はとっくに過ぎていて、

八分くらいになっていた。


(やった)


慌ててアプリを閉じて、

今度こそ三分呼吸に切り替える。


(完全成功じゃないけど、

 “気づいてやめた”だけ

 マシってことにしとこ)


スマホの画面を伏せて、

ゆっくり息を吸って吐く。


手の甲の『余白/波/距/棚/声』が、

薄暗い部屋の中で見えたり見えなかったりする。


(“声”は、

 一回で使い切らなくてもいい)


(ちょっとずつ、

 自分の味方にできればいい)


そう思いながら、

目を閉じた。



## 後書き


**日記**


**20xx年3月23日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、

“三者面談に向けて、

 自分の声をこっそり試運転した日”だった。


---


**今日できたこと**


1. 三者面談の日程表を見たとき、

「うわ、最悪」だけで終わらせずに、

ノートの端に

三者面談用の“グレーな一言”を三つ書き出せた。

これは、これまで練習してきた

「グレーな一言」実験の

進路版としてちゃんと応用できたと思う。


2. 昼休みに、

友達の前で

「迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです」と

小声だけど一回、

実際に口に出して言うことができた。

いつもの私だったら、

こういう“本音寄りセリフ”は

ノート止まりにしておきがちだけど、

声帯を一回通しておいたことで、

夜に家で言うときの

心臓バクバク度が少し下がった気がする。


3. 夕食のとき、

お父さんとお母さんの前で、

「迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです」と

ほぼ同じセリフを出せた。

「全部決めました」でも

「何もわかりません」でもなく、

“棚に分けて考えてます”という話を

ちゃんと自分の言葉で説明できたのは、

この一年の「棚」「距離メモリ」「○△□」実験たちの

積み重ねがあったからだと思う。


---


**今日できなかったこと**


1. 三者面談の日程表を見たあと、

男子が「ノーアイディア」と笑いながら話しているのを聞いて、

なんとなくモヤモヤしながら黙ってしまった。

「女子は安定したところへ」という話が

近くで聞こえてきたときも、

心の中で反論の台詞は浮かんだけど、

その場で何かを言う勇気は出なかった。


2. 図書室で理系のパンフレットを読んでいるとき、

「学費」「偏差値」「実家からの距離」みたいな

現実的な条件が頭に浮かんできた瞬間に、

Aゾーンに置いていた“理科やりたい”が

一気にぐらぐらしてしまった。

本当は、そのグラつきも

ノートにもう少し細かく言葉として書き出したかったけど、

「こんなに迷ってる自分」を見るのが怖くて、

メモは半分くらいのところで止まってしまった。


3. 夜のSNSタイムで、

「五分だけ」と決めたのに、

気づいたら八分くらい見続けてしまった。

タイマーを見て慌てて閉じたものの、

三分呼吸→五分→二分の

“七分コース”実験は

今日は完全には守れなかった。

進路ネタや「第一志望決めました」投稿に

つい反応してしまって、

呼吸よりもタイムラインを優先した感じがある。


---


**障害ハードルとその分析**


1. 男子の「ノーアイディア」発言や、

「女子は安定したところへ」というフレーズを聞いたときに

何も言えなかったのは、

「ここで何か言うと、

雰囲気を壊す人・“意識高い系女子”扱いされるかも」という

無意識の恐怖が大きいからだと思う。

私の中には、

「場を壊さないようにする」という

かなり強い行動原理があって、

それが“嫌悪感”や“怒り”よりも

先にブレーキを踏んでしまう。

その結果、

何も言わない代わりに

胃のあたりでモヤモヤを溜めるパターンが

まだ強く残っている。


2. 理系パンフレットを読んでいて

Aゾーンがぐらついたのは、

「やりたい」と「現実的に可能かどうか」を

一枚の紙で同時に考えようとしたからだと思う。

元々、私は

「全部を一度に最適化しよう」とする癖があって、

そのくせ不安が強いから、

条件を並べれば並べるほど

“結局無理じゃん”という結論に

一気にすべり落ちやすい。

本当は、

「やりたい度」と「現実条件」を

それぞれ別のページに分けた方が

頭の中の安全が保たれるのに、

今日はそれをやらずに

一枚に押し込もうとしてしまった。


3. 夜のSNS七分コースが

うまく守れなかったのは、

「進路に関する情報=見ておいた方がいいもの」と

無意識にラベリングしてしまっているからかもしれない。

「猫動画」ならまだしも、

「第一志望決めました」や

「就職でもよくない?」みたいな投稿は、

“未来の参考資料”っぽい顔をして

私の不安をじわじわ刺激してくる。

それを「情報だから見なきゃ」と

正当化してしまうことで、

「ただのだらだらスクロール」と

区別しにくくなっている。


---


**明日以降の具体的な対策(小さな実験)**


1. 進路ネタのSNS投稿と

完全な娯楽投稿を

自分の中でラベリングする実験をする。

例えば、タイムラインを見たときに、

「これは“参考情報”」「これは“ただの雑音”」と

心の中で一言だけタグ付けしてから

スクロールする。

タグ付けした上で、

七分コースに収まるようにタイマーを使う。

これで、

「情報だから仕方ない」と

正当化してしまうパターンを

少しだけ可視化したい。


2. 理系パンフレットやA/B/Cゾーンの整理は、

「やりたい度シート」と

「現実条件シート」を

物理的にページで分ける実験をする。

今日はそれを一枚でやって

Aゾーンがぐらついたので、

明日は

“やりたいことだけを書くページ”と

“学費や偏差値など現実条件だけを書くページ”を

完全に分けてみる。

これは、

成績表三色マップの

「色を分けると安心する」感覚の

進路バージョンの応用。


3. 三者面談の「グレーな一言」を、

ノートに書くだけでなく

実際に声に出して

一日一回だけ練習する実験をする。

今日は

「迷子ゾーン多いけど、理科は続けたいです」を

昼と夜に二回言えたので、

明日は

「安定も大事だけど、Aゾーン全部Cに移すのは嫌です」か

「身体の波がある前提でペースを考えたいです」の

どちらかを、

誰か一人(友達か家族)に向けて

小声でもいいから言ってみる。

これは、

“グレーな一言”と

“声の実験”の合わせ技としてやってみたい。


---


**繰り返しの意識**


今日向き合ったのは、


・「女子は安定したところへ」という

 世代をまたいだラベルと、

 自分のAゾーンのやりたいことたちが

 どうぶつかっているのか


・「全部決めました」と

 「何もわかりません」の中間にある

 “棚に分けて迷ってます”という状態を

 どうやって人に伝えるか


・「声に出すのが怖い本音」を

 一気に全部じゃなく、

 小さく切り分けて

 少しずつ外に出す方法


あたりだったと思う。


一年前の私だったら、

たぶん三者面談のプリントは

「よくわかりません」と書いて出すか、

「周りが安定と言う職業」を

とりあえず埋めて出していた気がする。


今日の私は、


・A/B/Cゾーンの棚を描いてから

 第一希望を書くことを選んだり、


・“理科は続けたいです”という

 自分のやりたい方向を

 半分ビビりながらも

 親の前で言ってみたり、


・身体の波の話を

 お母さんと共有する一歩手前のところまで

 踏み込んだり、


少しずつだけど、

「何も言わない安全地帯」から

足を半歩出す練習をした気がする。


もちろんまだ、


・教室で聞こえてきた

 「女子は安定」という言葉に対して、

 何も言えずに黙り込んだり、


・SNSで進路ネタを見て

 予定より長くスクロールしてしまったり、


・理系パンフレットの現実条件に

 一気に気持ちをへこまされたり、


課題だらけだ。


それでも、

「声を出さないで後悔する」よりも

「小さく出して、ちょっとだけ怖さを味わう」方を

選べる回数が、

前より少し増えている気がする。


身体の波も、

進路のモヤモヤも、

どっちも“一回で解決”は無理だけど、


・○/△/□のコンディション印

・距離メモリの円

・A/B/Cゾーンの棚

・“余白/波/距/棚/声”の手の甲キーワード


こういう、

自分で作った小さな道具たちを使って、


「今日はここまでできたから、

 まあいいか」と

 言えるラインを

 少しずつ下げすぎずに保っていきたい。


全部の不安を

きれいに言語化できる未来なんて

たぶん来ない。


それでも、

“声にするのが怖い本音”を

一日一センテンスずつでも

外に出していけたら、


昨日よりほんの少しだけ、

「黙って飲み込む自分」への諦め方が

ゆるくなっていくんじゃないか――


今日は、

そんなふうに思えた。


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