表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リナの冒険ノート2  作者: リナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/93

リナ、一年後の自分にびびる

**20xx年1月13日(月曜日) 高校1年生**

**朝**


耳元で、

軽い電子音が鳴った。


「……七時五分」


枕元のスマホを手探りで取って、

画面をタップして止める。


(実験その一、

 “一個目のアラームでは起きなくていい”)


先週の日記のページが

頭の中に浮かぶ。


七時〇五分と七時二十分の

二段階アラーム。


「二回目で起きた自分も◯に入れる」

って、自分で書いたやつ。


(……あと十分だけ)


布団の中で、

小さく丸まる。


心臓の鼓動はまだゆっくりで、

体は布団から出る気ゼロみたいに重い。


でも、

今日が月曜日で、

しかも一週間前に

「新学期」とか言ってたくせに

もうちょっとダラけてきている自分を思うと、

胃のあたりが少しだけきゅっとした。


二個目のアラームが鳴る。


「七時二十分です」


スマホの機械的な声が、

容赦なく現実を告げる。


「……はいはい」


自分に向かって

小さく返事をして、

えい、と布団を蹴った。


足に当たる空気が冷たい。


鳥肌が一気に立つ。


(よし。

 二回目で起きたから、

 今日は“◯認定”でいい)


そう決めた瞬間、

ほんの少しだけ

肩の力が抜けた。


『冬休みの、ゆるい計画』のノートの

一番後ろのページを開く。


新学期用に、

「一月からのゆるい実験メモ」と

書き足してあるスペース。


今日の日付の横に、

小さく◯をつけた。


「二回目アラームで起床、成功」


声に出して書くと、

なんだかちょっと

大げさな実験結果みたいで笑ってしまう。


制服のスカートをはいて、

タイツを引き上げる。


鏡にうつった自分は、

寝癖が少しだけ残っていて、

慌てて手ぐしで押さえた。


廊下から、

お母さんの声。


「里奈ー、

 今週から本格的に授業始まるんだから、

 ボーっとしないでよー」


(“本格的に”って、

 先週までのは

 “仮”だったのかな)


心の中で

ちょっとだけツッコミを入れながら、

急いでリビングに向かった。


**午前**


トーストと目玉焼き。

いつも通りの朝ご飯。


テーブルの端っこには、

学校から配られたばかりの

「一年後の自分へ」というタイトルのプリントが

山になっている。


お母さんがそれをつまみ上げて、

ひらひら振った。


「これ、ちゃんと書いたの?」


「まだ。

 今日からの宿題だよ」


そう答えると、

お母さんはちょっとため息をついた。


「高校生なんだから、

 そういうのは

 早め早めに終わらせなさいよ。

 女の子なんだから、

 将来のこともしっかり考えておかないと」


また、“女の子なんだから”。


(将来のこと考えるのに、

 男か女かって

 そんなに関係あるのかな)


トーストをかじる歯の奥が

少しぎしっとした。


「一年後って、

 そんな“将来”ってほどでもなくない?」


思わずそう言ってしまったら、

お母さんはぴたっと動きを止めた。


「一年なんて、

 あっという間よ。

 あんたが中学生だったの、

 ついこの前な気分なんだから」


横で新聞を読んでいたお父さんが、

くすっと笑う。


「まあまあ。

 一年後だって

 立派な“将来”だろ。

 今の里奈にとってはな」


その言い方が、

何となく私の側に立ってくれたように感じて、

胸の奥がほんのり温かくなった。


足元では、

しろがしっぽをぱたぱたさせて

椅子の足に鼻をくっつけている。


「しろは一年後も、

 たぶん一番変わらないね」


そう言うと、

しろは意味がわかったみたいに

小さくワンと鳴いた。


(一年後の自分にびびりながら、

 今日のご飯を食べてる現在の私)


口の中のパンの味が、

少しだけ現実に戻してくれた。


**昼**


一時間目のホームルーム。


担任の先生が、

例の「一年後の自分へ」プリントを

黒板の下に磁石で貼りつける。


「はい、これ。

 今週中に下書きまでいいから、

 考えてきてください」


プリントには、

いくつかの質問が書いてある。


> ・一年後の自分は、

>  どんな生活をしていたいですか。

>

> ・一年後の自分は、

>  どんな人間になっていたいですか。

>

> ・そのために、

>  今の自分は何をしますか。


(急にそんなこと言われても)


胸の内側が

ふわっとざわつく。


先生は続ける。


「三年生の春には、

 もう進路の具体的な話になりますからね。

 今の一年生のうちから

 “一年後にはこうなっていたい”って

 イメージを持っておくことが大事です」


黒板の前を、

先生の視線がゆっくりなぞる。


「特に女子はね、

 いろんな選択肢があるから。

 地元に残るのか、

 県外に行くのか、

 手に職をつけるのか、

 家庭との両立も考えるのか…」


その「特に女子はね」が、

自分の皮膚の上を

ざらっとこすっていくような感じがした。


(男子は?

 地元に残るのかとか、

 家庭との両立とか、

 考えなくていいのかな)


喉の奥に、

小さな「それはちょっと」が

引っかかりかける。


でも、

教室全体の空気が

「はいはい、いつもの進路の話ね」

って感じで

ゆるく流れていくのを感じて、


(ここでわざわざ

 波風立てるほどの勇気は

 まだない)


と、自分に言い聞かせるように

その言葉を飲み込んだ。


代わりに、

ノートの端に

小さく書く。


『“女子は選択肢が多い”って、

 誰にとっての言葉なんだろ。

 選べることと、

 選ばなきゃいけない圧力って、

 たぶん別物』


(あとで、『二人の季節』で

 誰かに言わせてもいいかもしれない)


そう思うと、

モヤモヤの一部が

「材料」に変わった気がして、

呼吸が少しだけ楽になった。


**昼休み**


いつもの窓際のテーブル。


今日は、

給食じゃなくて

お弁当の日。


お母さんの卵焼きは、

いつもより少し甘めだった。


「聞いて聞いて」


向かい側の友達が、

スマホの画面をこちらに向ける。


「二組のあのカップル、

 アイコンお揃いになってるんだけど」


画面には、

似た構図で撮られた

男女二人分のアイコン。


背景のイルミネーションが

同じ形をしていて、

よく見たら

マフラーの柄も色違いだった。


「尊〜」


「一年後も一緒だったら

 マジで運命じゃない?」


「いいなあ、

 高校のときから

 “記念日”があるカップル」


恋バナの熱が、

テーブルの上に

ふわっと集まってくる。


(一年後も一緒、か)


(私、一年後に

 “誰かと一緒”って

 想像しようとしたとき、

 真っ先に浮かぶの

 家族と咲希ちゃんなんだけど)


箸を持つ手が、

少しだけ止まる。


「里奈はさー、

 一年後どうなってたい?」


突然こっちに

話が振られて、

胸の鼓動が一拍だけ跳ねた。


(一年後に彼氏がいて〜、

 とか言えば、

 たぶん場としては

 正解なんだろうな)


(でも、それ言ったら

 自分でも“誰?”ってなる)


先週の日記に書いた

“グレーな一言作戦”を

思い出す。


「そういうのも

 いいよね〜とは思うけど、

 私はまだ、

 そこまで想像つかないかな」


口から出た自分の声は、

思っていたより

落ち着いていた。


一瞬、

空気がピタッと止まった気がして、

(やば、盛り下げた?)と

心臓がぎゅっと縮む。


でもすぐに、

隣の子が言った。


「あー、それもわかる。

 なんか“彼氏ほしい”って言っときゃ

 正解みたいな空気あるけど、

 実際そこまでって感じないときある」


「そうそう。

 今はとりあえず

 推しが元気ならいいみたいな」


笑い声が戻ってくる。


(……あ、大丈夫だったんだ)


お弁当箱の中の

ブロッコリーが、

さっきよりちょっと

鮮やかに見えた。


窓の外の廊下を、

誰かが通る気配。


ふと顔を上げると、

佐伯くんがプリントの束を

抱えて歩いているところだった。


生活委員の腕章が

制服の袖についている。


「先生、これ職員室に…」


横顔は相変わらず、

真面目そうで、

声は少し低い。


(“そういうのやってくれる人”)


頭の中で、

先週の恋バナの

ワードがリピートする。


胸のふちが、

ほんの少しだけ

むずむずした。


**午後**


放課後。


今日は部活は休みで、

まっすぐ帰ってもよかった。


でも、

朝からずっと

頭の片隅に引っかかっている約束がある。


「年明けにさ、

 “来年の自分に手紙を書く会”しない?」


咲希ちゃんが

冬休みの終わりに言っていたやつ。


「じゃあ、

 最初の月曜あたりにしよっか」


結局、

その場のノリで

今日に決まった。


駅前の、

小さな市立図書館。


自動ドアの前で

マフラーをいじりながら立っていると、

背中から声がした。


「里奈」


振り返ると、

咲希ちゃんが

白いマフラーに顔を半分埋めて

手を振っていた。


「ごめん、待った?」


「ううん、今来たとこ」


(実際は五分前からいたけど)


心の中で

いつもの注釈をつける。


図書館の中は、

相変わらず別世界みたいに静かだった。


二人で並んで、

窓際の席に座る。


「はい、これ」


咲希ちゃんが

カバンから取り出したのは、

小さな花柄の便箋と封筒。


「かわいい。

 わざわざ買ったの?」


「一年後まで

 眠らせておくやつだからね。

 ちょっとくらい

 見た目のテンション上げとこうかなって」


便箋の表に、

それぞれ自分の名前と

『一年後の私へ』と書く。


ペン先が紙に触れた瞬間、

なぜか心臓が

ドクン、と強く鳴った。


(何を書けばいいんだろ)


「一年後の私へ。

 元気ですか」


みたいな定番の文句までは

すぐに浮かぶのに、

その先の言葉が

一行も出てこない。


(元気じゃなかったら、

 どうするんだろ)


(今よりしんどい一年になってたら、

 この手紙、

 読むのつらくない?)


胸の真ん中が、

じわっと苦くなる。


視界の端が

少しだけにじんで、

ペン先がぶれた。


深呼吸を一回。

もう一回。


(“きれいなことだけ”

 書くのは、

 やめたいんだよな)


“どんな時でも笑顔で”とか

“努力は報われる”とか。


そういう言葉を

全面に押し出した手紙は、

きっと一年後の自分を

また追い詰める気がした。


便箋の一行目に、

ゆっくり書く。


『一年後の私へ。』


二行目。


『今の私は、

 スマホに負ける日がまだ多いです。』


書いた瞬間、

心臓がぎゅっと縮んだ。


(何やってんの、

 そんなこと書いて)


自分で自分に

ツッコミを入れたくなる。


でも同時に、

胸の奥の

どこか固まっていた部分が

少しだけほどける感覚もあった。


『でも、

 全部ダメって判定する回数は、

 少しずつ減らしたいと思っています。

 この手紙を読んでいるあなたが、

 “まあまあがんばってるじゃん”って

 ちょっとでも思えていたら嬉しいです。』


ペンが止まる。


(“がんばってるじゃん”って、

 一年後の私に

 言ってもらうための手紙なんだ)


ちょっとだけ、

書くことの意味が

はっきりした気がした。


隣では、

咲希ちゃんも

ペンを走らせている。


「どう?」


小声で聞かれて、

便箋を手で隠しながら

答える。


「なんか、

 きれいなことだけ書くの

 やめようとしたら、

 余計書くのに時間かかってる」


「それ、

 いいやつだと思う」


咲希ちゃんは

そう言って笑った。


「私もさ、

 “一人暮らしできてたらいいな”とか

 書きかけたけど、

 今の時点でそもそも

 家出る勇気あるのかって話じゃん」


「たしかに」


「だから、

 “家族と仲良くしながら

 一人暮らしのシミュレーションしてたいです”

 って書いた」


「シミュレーション?」


「うん。

 レシピとか、

 家事の分担とか、

 お金の管理とか。

 いきなり一人暮らし!っていうより、

 予行演習してる未来の自分なら

 想像できるかなって」


(“いきなり完璧な大人”じゃなくて、

 “予行演習中の自分”)


その言い方に、

少し救われる。


私も、

『二人の季節』のことを

そこに書き足した。


『脚本は、

 今より少しだけ

 前に進んでいたらいいな。

 全部完成してなくてもいいから、

 “途中経過の自分もちゃんとえらい”って

 思えていたらいいな。』


便箋を折って、

封筒にしまう。


糊をつけて、

ぎゅっと押さえた指先に、

紙のざらっとした感触が残った。


**夕方**


図書館を出ると、

外はもう薄暗かった。


吐く息が白い。


駅に向かって歩きながら、

咲希ちゃんが言う。


「一年後の自分って、

 なんか遠いようで

 めちゃくちゃ近いね」


「ね。

 中一から高一になるまでの三年間と、

 高一から高二になる一年間、

 時間の長さは全然違うのに」


「しかもさ、

 一年後って

 “彼氏できてるかな”とか

 “大人っぽくなってるかな”とか

 そういうイメージばっか

 押しつけられがちじゃない?」


「雑誌とかで?」


「そうそう。

 “高校一年の冬、

 彼氏がいないと〜”

 みたいなやつ」


言いながら、

手をぶんぶん振ってみせる。


「だからなんか、

 今日手紙書けたの

 けっこうでかいと思う。

 “彼氏いるいない”とかじゃない軸で

 一年後想像できたから」


「たしかに」


立ち止まる。


「里奈は?」


「私?」


「一年後もさ、

 演劇部で同じことで

 悩んでたい?」


「……“同じことで”は

 ちょっとやだかも」


「だよね」


間髪入れずに

返ってきたその言葉に、

思わず笑ってしまう。


「一年後も、

 スマホに負けたり

 計画ゆらいだりは

 してる気がするけど」


「うん」


「でも今よりは、

 “まあこんなもんか”って

 笑える回数が増えてたらいい」


「それは

 めっちゃいい目標だと思う」


咲希ちゃんは、

わざと大げさに

親指を立ててみせた。


「里奈、

 一年後絶対今よりモテてるよ」


「なんでそうなるの!?」


反射的に大きい声が出て、

自分でびっくりする。


「いや、

 今日のグレーな一言とかさ。

 変に合わせすぎないところ、

 案外ちゃんと見てる人は

 見てると思うよ」


(“見てる人は見てる”って誰)


頭の中に、

さっき廊下を歩いていた

生活委員の姿が

ちらっと浮かびかけて、

あわてて振り払う。


「一年後も、

 また同じメンバーで

 “二年後の自分に手紙書く会”

 やろうね」


「うん。

 そのとき、

 今日の自分を笑えたらいいな」


そう言いながら、

心の奥のどこかで

(でも、

 全部を笑わなくてもいいか)

という小さな声がした。


駅で咲希ちゃんと別れて、

私は家の最寄り駅に向かう電車に乗った。


**夜**


最寄り駅からの帰り道。


ポケットの中の封筒を、

何度も触ってしまう。


(本当に出すのかな、これ)


家の近くのポストの前で、

立ち止まる。


街灯のオレンジ色の光が、

ポストの赤を少しだけ鈍くしていた。


封筒の宛名のところに、

自分の名前と

「一年後」とだけ書いてある。


(一年後の私が、

 これを読むのか)


少しだけ、

喉がカラカラになる。


(そのとき、

 どんな顔してるんだろ)


震えるほどじゃないけど、

手のひらがじんわり汗ばんだ。


「えい」


小さく声に出して、

封筒を投函口に押し込む。


中で、

紙がほかの郵便物と

こすれる音がした。


ポストの口が閉まった瞬間、

“戻れない”感じがして、

胸の奥がきゅうっとなった。


(でもまあ、

 もう戻れないのは

 今日一日だって同じか)


家のドアを開けると、

台所から煮物の匂いがした。


「おかえり」


お母さんの声。


「寒かったでしょ。

 お風呂沸いてるから

 先に入りなさい」


しろが玄関まで走ってきて、

しっぽを全力で振りながら

足にまとわりついてくる。


その温度が、

今日投函した封筒のことや、

一年後への不安を

少しだけ中和してくれた。


夕食のあと、

自分の部屋で机に向かう。


『一月からのゆるい実験メモ』のノート。


今日の日付の横に書く。


・二回目アラームで起床 ◯

・恋バナで“グレーな一言”実験 ◯

・一年後の自分への手紙、本音を一文入れた ◯


その下に、

小さく付け足す。


・移動中スマホダラ見 △

・通知オフ実験、

 夜に一回崩壊 △


(完璧じゃないなあ)


そう思いながらも、

◯と△が混ざっているページを

眺めていると、

一週間前より

少しだけ“真っ黒感”が薄い気がした。


『二人の季節』のノートも、

少しだけ開く。


今日、

担任の先生の言った

「女子は〜」のところを

メモしておいたページ。


そこに、

新しく台詞案を書く。


> 「“女の子は選択肢が多い”ってさ、

>  それって本当に

>  私たちのために言ってるのかな。

>  選べるってことと、

>  選ばなきゃいけないって

>  急かされるのは

>  たぶん違うよね」


ペン先が止まる。


(いつかこの台詞を

 舞台の上で誰かが言ってくれたら、

 今日のモヤモヤも

 無駄じゃなかったって思えるのかもしれない)


電気を消して、

布団に入る。


今日も、

完璧からはほど遠い。


でも、

一年前の自分よりは、

少しだけ“諦める前に

実験を挟む”ことを

覚え始めている気がした。



## 後書き


**日記**


**20xx年1月13日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、

“一年後の自分にびびりながら、

 とりあえず手紙を出した日”だった。


---


**今日できたこと**


1. 先週の日記に書いた

 「二段階アラーム実験」で、

 二回目(七時二十分)で

 ちゃんと起きて、

 自分で◯認定にできた。


2. 昼休みの恋バナの輪の中で、

 考えていた“グレーな一言”

 (「私はまだそこまで想像つかないかな」)を

 実際に言ってみて、

 場の空気を壊さずに

 自分の感覚も守れた。


3. 『一年後の自分への手紙』で、

 きれいな目標だけじゃなく、

 「今の私はスマホに負ける日がまだ多いです」

 という本音の一文を書いて、

 実際にポストに投函できた。


---


**今日できなかったこと**


1. 授業中に先生が

 「特に女子は〜」と言ったとき、

 喉元まで出かかった

 「それってちょっとおかしくないですか」を

 結局飲み込んでしまった。


2. 電車で図書館に向かう途中、

 「移動中はなるべくスマホを見ない」

 という自分なりのゆるルールを

 完全に忘れて、

 SNSをだらだらスクロールしてしまった。


3. 先週の日記に書いた

 “ワンクッションほめ作戦”

 (「佐伯くん、図書館で勉強してたんだって。

  すごくない?」的なやつ)を

 今日も実行できず、

 胸の中だけで

 ぐるぐる考えて終わってしまった。


---


**障害ハードルとその分析**


1. 先生に直接「それはちょっと」と言えなかったのは、

 教室全体の空気が

 「はいはい、いつもの進路の話ね」という

 流れだったから。


 そこで自分だけが

 空気を変えるようなことを言ったら、

 「めんどくさいやつ」扱いされるんじゃないか

 という怖さがあった。


 あと、

 先生との距離の取り方がまだよくわからない、

 というのも大きい。


2. 移動中スマホを見てしまったのは、

 「電車の中=何もしなくていい時間」という

 思い込みがかなり強いからだと思う。


 手が空いているときに

 いちばん簡単に埋められるのがスマホで、

 “今日くらいいいか”という

 自分への甘さも混ざっていた。


3. ほめ言葉を口に出せなかったのは、

 中学のときに

 男子をちょっとほめただけで

 「え〜好きなの〜?」と

 からかわれた記憶が、

 まだ体のどこかに残っているから。


 好きとかそういうのじゃなくて、

 ただ“いいなと思ったこと”を

 伝えたいだけなのに、

 それが全部「恋愛」に

 変換されるのが怖い。


 だからつい、

 沈黙を選んでしまう。


---


**明日以降の具体的な対策(小さな実験)**


1. 先生への違和感については、

 いきなり授業中に

 反論するんじゃなくて、


 ・ノートの端に

  「今日のモヤモヤメモ」を残す

 ・その言葉を

  『二人の季節』の台詞として

  登場させてみる


 という“間接ルート”から

 始める実験を続ける。


 そのうえで、

 いつかタイミングが来たら、

 「先生、こういう感じ方もありますよね」と

 放課後に一対一で

 言ってみるチャンスを探したい。


2. 電車でのスマホ問題については、

 「絶対見ない」とか

 大きく決めすぎないで、


 ・乗ってから最初の五分だけ、

  今日のメモをノートに書く

 ・そのあと五分だけ、

  本か小説の一ページを読む


 という“十分ブロック実験”を

 してみる。


 それでもまだ時間が余ったら、

 そのとき初めて

 スマホを開いていいことにする。


3. ほめるのが怖い件については、

 いきなり名前を出すんじゃなくて、


 「図書館で勉強してる人って、

  ふつうにすごいよね」


 みたいな、

 “誰か特定しない形”で

 言ってみる実験をする。


 それなら、

 もし本人に聞こえても、

 そこまで重くならない気がする。


 何回かそれを繰り返して、

 自分の体に

 「ほめ言葉を出しても

  世界はそんなに揺れない」という

 感覚を覚えさせたい。


---


**繰り返しの意識**


今日できなかったことは、

たぶん明日も

簡単にはできるようにならない。


先生への違和感も、

電車でのスマホも、

誰かをほめる勇気も、

一回の実験で

劇的に変わるタイプのものじゃない。


でも、


・とりあえずノートの端に

 モヤモヤを書き残したり


・電車で一段落だけでも

 本を読む時間を確保したり


・“誰か”という曖昧な主語で

 ほめるところから始めたり


そういう小さな実験を

何度も条件を変えながら繰り返せば、


一年後の私は、

今日の私より少しだけ

“諦める前に試してみる人”に

なっているかもしれない。


一年後の自分に出した手紙は、

正直ちょっと怖い。


読んだときに、

「何これ、

 全然できてないじゃん」と

 思ってしまう未来も

 普通にありそうだから。


それでも、

今日の自分が

びびりながらも

ポストに封筒を入れたことは、


“失敗するかもしれない実験を、

 とりあえずスタートさせた”


という事実として、

どこかに残ると思う。


「どんな時でも笑顔で」


今日は、

一年後の自分に

完璧な未来図を押しつけるんじゃなくて、


“途中経過の自分も

 まあまあ悪くないかもね”と

 少しだけ許す方向に

 笑ってみた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ