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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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リナ、自分の言葉

20xx年12月2日(月曜日) 高校1年生


12月。


カレンダーをめくったとき、

「今年、あと1ヶ月しかない」という言葉が

頭の中を通り過ぎた。


「あと1ヶ月“も”ある」とも言えるのに、

最初に出てくるのは

“しかない”の方。


(まだ何もできてないみたいに感じるの、

 なんでだろう)


布団から出ると、

足の裏に冷たい空気がまとわりついた。


今日は、

昨日のうちに

スマホを机の引き出しにしまって寝た。


だから、

目覚ましは

シンプルな時計の音。


「……やればできるじゃん」


小さく自分を褒めてから、

制服に着替える。


鏡の前で髪を結んでいると、

テレビから

「20代女性の理想の朝ルーティン」

なんてコーナーが流れてきた。


早起き、ヨガ、スムージー、オシャレな朝食。


(高校生だって、

 そんな余裕ないんだけどな)


「女の子は朝からちゃんとしてて当たり前」みたいな空気が

じわっと押し寄せてきて、

胸のあたりが少し重くなる。


私は、

とりあえず寝癖を直して

ご飯をかき込むだけで精一杯。


「いってきます」


玄関を出るとき、

今日はちゃんと

スマホを玄関の棚に置いてから出た。


外の空気が、

少しだけ誇らしく感じた。


午前


1時間目、英語。


スピーチコンテストの原稿の下書きをする時間になった。


テーマは「私の将来の夢」。


クラスのみんなが、

それぞれのノートに

「教師になりたい」「看護師になりたい」「エンジニア」

などと書き始めている。


「女子は、

 やっぱり人を支える仕事を選ぶ子が多いんだよな」


英語の先生が、

何気なく言った。


「それはそれで立派なことだけどね」


悪気はない。


寧ろ褒めているつもりなのは分かる。


でも、“女子は”と言われるたび、

そこから外れたら

「変わった人」になる気がして、

胸の奥がざわついた。


(私は……どうしたいんだろう)


ペンを持ったまま、

ノートの上で止まる。


「脚本家になりたいです」


そう書いてみたい衝動が、

一瞬だけ頭をよぎった。


でも、

すぐに手が止まる。


(本当に?

 そんな大それたこと、

 言っていいの?)


文化祭のあの日、

舞台の上で

自分の書いた言葉が響いた感覚が

よみがえる。


あのとき確かに、

「また書きたい」と思った。


でも、

そのあと何度も

スマホに負けて、

10分ルールすら守れない日もあった。


そんな自分が

「夢は脚本家です」と

堂々と言っていいのか。


胸のあたりが、

ぎゅっと縮こまる。


結局、私はこう書いた。


My dream is to create stories that move people's hearts.


「脚本家」とは書かなかった。


でも、

“心を動かす物語をつくりたい”という言葉は、

嘘じゃなかった。


(今は、

 このくらいの距離感が

 ちょうどいいのかもしれない)


日本語で書いたメモの片隅に、

鉛筆で小さく

「脚本」という文字を書き足した。


他の人には見えない、

自分だけの印。



お昼休み。


今日は、

咲希ちゃんとコンビニに寄った。


テスト前で、

クラスのみんなも

お菓子や飲み物を買い込んでいる。


レジ前に並んでいると、

雑誌コーナーが目に入った。


「10代女子のための“愛され女子”特集」


「男子が好きな冬コーデ」


そんな言葉が、

表紙に踊っている。


(“愛され女子”って、

 なれた方がいいのかな)


ページをめくる勇気は出なかった。


隣の棚には、

ライトノベルや漫画が並んでいる。


その中に、

「脚本術入門」というタイトルの

薄い新書本が一冊だけ混ざっていた。


「リナ、これ好きそう」


咲希ちゃんが、

それを指さした。


「うわ、ほんとだ」


値段を見て、

一瞬ためらう。


(お小遣い、ギリギリだけど……

 今月、ガチャ一回分減らせば、

 買えなくはない)


ゲームのガチャと、

脚本の本。


どちらも、

私の“好き”の一部。


少し迷ってから、

本を手に取った。


「今日のガチャはお休みして、

 こっちに課金する」


そう言ったら、

咲希ちゃんが笑った。


「いいね、それ。

 “自分の夢に課金する”って感じ」


レジでお金を払うとき、

胸のあたりが少し震えた。


ガチャボタンを押すときとは、

違う種類のドキドキ。


午後


放課後。


家に帰る前に、

少しだけ公園に寄った。


ベンチに座って、

さっき買った本を開く。


「脚本を書くときは、

 “自分が何を大事にしたいか”を

 はっきりさせること」


最初のページに、

そんなことが書いてあった。


(私は……何を大事にしたいんだろう)


文化祭で、

主人公の迷いや弱さを

無理にきれいにしようとしなかったこと。


完璧じゃない高校生を

そのまま描いたこと。


「迷ってもいい。

 弱くてもいい」


そう書いたからこそ、

あの舞台は

自分にとって大事なものになった。


(たぶん、

 私が一番大事にしたいのは、

 “ちゃんとしてなくても生きてていい”ってことかもしれない)


それは、

たぶん脚本を書くときだけじゃなくて、

自分自身へのメッセージでもある。


ページを読み進めていると、

ふと時間が気になった。


スマホを取り出そうとして、

手が止まる。


(あ、今日は持ってきてないんだった)


家に置いてきたわけじゃない。


玄関の棚の上。


「時間を知るためにスマホを見る」

って言い訳を、

今日は使えない。


あえて、

腕時計だけをしてきた。


「作戦・時間の確認はアナログで」


たぶん、

誰かに話したら笑われるくらい

地味な作戦。


でも、

私にはこれくらいがちょうどいい。


本を10ページ読んだところで、

ノートを開いた。


『二人の季節』のアイデアを、

箇条書きでメモしていく。


・転校生の子が、

 「女の子なんだから」と何度も言われて

 疲れているシーン。


・相手の女の子が、

 「そんなの気にしなくていいじゃん」と言いながらも、

 自分もどこかで諦めてる部分があるシーン。


・それでも、

 二人だけのルールや居場所を

 少しずつ作っていく。


書きながら、

これはフィクションでありながら、

自分のことでもあると感じていた。


夕方


家に帰ると、

しろが玄関まで走ってきた。


「ただいま」


しろの頭をなでながら、

今日買った本をカバンから出して

机の上に置く。


「おかえり。

 今日はずいぶん本格的な本を買ったのね」


お母さんが、本のタイトルを見て言った。


「“脚本術入門”かあ。

 女の子がこういう本買ってくるの、

 ちょっと新鮮だわ」


「女の子でも、

 脚本書いていいでしょ」


思わず、

少し強めの口調で返していた。


お母さんが、

目を丸くしてから笑った。


「もちろん。

 どんどん書きなさい」


胸のあたりが、

少しだけスッとした。


自分のため、

と言いながら、


どこかで

「女の子はこうであるべき」という言葉に

ずっと押され続けてきた。


今日は少しだけ、

それを押し返せた気がした。



夕食後、

スマホをリビングの棚に置いて、

部屋に戻る。


タイマーを10分にセットして、

まずは英語のスピーチ原稿の清書。


My dream is to create stories that move people's hearts.


その後に、

日本語で自分なりの言葉を足してみた。


その物語は、

完璧な人の話ではなくて、

迷ったり、立ち止まったりする

普通の人の話がいいです。


「普通の人」というところを

「女の子」と書こうか迷って、

結局やめた。


今はまだ、

そこまではっきり言葉にする勇気はない。


でも、

心の中では

ちゃんとそう思っている。


タイマーが鳴っても、

もう10分だけ

机に座ることにした。


ノートを開いて、

『二人の季節』の脚本の

さっきメモしたシーンを

セリフにしてみる。


「女の子なんだからって、

 なんでも決めつけないでほしい」


書いた瞬間、

ペンを持つ指先が少し震えた。


(これ、

 私の言葉でもあるな)


ノートの上のセリフは、

まだ誰にも読まれていない。


でも、

こうやって少しずつ

「自分の言葉」を

世界のどこかに置いていくことが、


たぶん私にとっての

“生きる練習”なんだと思う。


後書き


日記


20xx年12月2日(月曜日) 高校1年生 田中里奈


今日は、

「夢」という言葉と

ちゃんと向き合った日だった。


英語の授業で、

「私の将来の夢」を書くとき、


本当は「脚本家」と書きたかった。


でも、

まだそこまで言い切る勇気がなくて、


My dream is to create stories that move people's hearts.


とだけ書いた。


少し逃げた気もするし、

でも、

今の自分には

これが精一杯の本音でもある。


コンビニで

「脚本術入門」の本を買った。


今までだったら、

ガチャに使っていたかもしれないお金。


今日は、

自分の“かもしれない未来”に

少しだけ課金してみた。


公園のベンチで読んだその本には、

「自分が何を大事にしたいか」

と何度も書いてあった。


私は、


・完璧じゃない人の物語

・女の子だからって決めつけられない生き方

・弱さや迷いを、そのまま置いておける場所


そういうものを

大事にしたいんだと思う。


自分の生活は、

相変わらずジグザグだ。


・スマホに負ける朝もある。

・10分スタートのはずが、

 5分でやめたくなる夜もある。

・「女の子なんだから」と言われて

 胸がチクッとする瞬間もある。


それでも今日は、


・スマホを引き出しにしまって寝た。

・玄関の棚に置いて学校に行けた。

・本を10ページ読んで、

 ノートに新しいアイデアをメモできた。

・「女の子でも脚本書いていいでしょ」と

 お母さんにちゃんと言えた。


一歩進んで、

半歩戻って、


またちょっと進んで、

また転びかけて。


まっすぐじゃない線だけど、

ゼロのままよりは

ずっとましだと思えるようになってきた。


日本社会の中で

「女の子」として生きていると、


「こうあるべき」が

あちこちから飛んでくる。


・ちゃんとしてる女子

・愛され女子

・真面目な子

・スマホに負けてる子


いろんなラベルが

勝手に貼られそうになるけど、


その前に、

私は私の名前で生きたい。


田中里奈として、


失敗して、

スマホに負けて、

それでも少しだけ工夫して、


またノートを開いて、

自分の言葉を

1行ずつ置いていく。


どんな時でも笑顔で。


今日は、

「ちょっとだけ自分の言葉を

 大事にできた日」の笑顔だった。


明日はまた、

違う顔になるかもしれない。


でも、

そのときの私が

少しでも楽になるように、


今日の“本1冊”と

“ノートの数行”を

ここにちゃんと記録しておく。

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