表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リナの冒険ノート2  作者: リナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/93

リナ、崩れるリズム

20xx年11月11日(月曜日) 高校1年生


目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。


「……あ」


時計を見る。


いつもより、10分早い。


昨日の夜、

「明日こそ、ちゃんとやろう」って

何度も心の中で繰り返していたせいかもしれない。


布団の中で、しばらく動けなかった。


週末のことが、頭をよぎる。


・勉強30分

・創作30分


自分で決めたルール。


先週の月曜、火曜、水曜、木曜までは、

ぎりぎりだけど守れた。


でも、金曜日。


「今日はテスト勉強で疲れたから」って理由をつけて、

勉強30分だけにして、創作はサボった。


土曜日は、

「たまにはいいよね」と言い訳しながら、

スマホで動画を見ていたら、

あっという間に夜になっていた。


日曜日は、

机に向かったけど、

ノートを開いただけで手が止まった。


結局、5分も書かなかった。


「三日坊主どころか、四日坊主か」


そんな自分ツッコミが浮かんで、

胸のあたりがじわっと重くなる。


(まただ)


わかっているのに、

どうして毎回同じところで崩れるんだろう。


文化祭の脚本も、

最初は「もう無理かも」って思ったくせに、

あのときは周りに背中を押してもらって、

なんとか最後まで書いた。


(だったら今回も、ちゃんとやれよって話なんだけど)


「どんな時でも笑顔で」って、

自分で大事にしている言葉が、

今日は少し重たく感じた。


笑顔でごまかしてるだけなんじゃないかって。


お母さんが部屋のドアをノックした。


「リナ、起きてる?」


「うん、起きてる」


声は出たけど、

体を起こすのに少し時間がかかった。


布団から出た瞬間、

床の冷たさが足の裏に伝わって、

一気に現実に引き戻される。


制服のスカートをはきながら、

ふと思い出す。


中学のとき、

スカートをちょっと短くしたら、

お母さんに「女の子なんだから、あんまりだらしなく見えないようにね」と言われたこと。


「女の子なんだから」って言葉は、

たいてい「ちゃんとしなさい」とセットで出てくる。


ちゃんと勉強して、

ちゃんと笑って、

ちゃんと努力して、

ちゃんと続けて――。


(“ちゃんと”のハードル、高すぎない?)


心の中で小さく文句を言いながら、

ネクタイを結んだ。


朝食の席で、

お母さんがトーストをお皿に乗せながら言った。


「最近、机に向かってる時間、減ってない?」


ドキッとした。


「……うん、ちょっと」


ごまかすみたいに笑ってみたけど、

自分でもその笑いが薄っぺらいのが分かった。


「無理してほしくはないけど、

 やりたいことなら、続けられるといいわね」


責めてるわけじゃない。


心配して言ってくれているのは、分かってる。


でも、

「続けられるといいわね」の一言が、

胸の奥にずしんと沈んだ。


(続けられない子みたいで、いやだ)


でも、実際に続けられてないから、

反論もできない。


バターを塗る手が、

少しだけ震えた。


テレビからは、

朝の情報番組のコメンテーターが、

「最近の高校生は忍耐力が足りない」なんて話をしている。


(知らないくせに)


こっちはこっちで必死なのに。


「いってきます」


玄関を出るとき、

カバンの重さよりも、

心の重さの方が

よっぽど大きく感じた。


午前


1時間目、数学。


ノートに先生の書く式を書き写しながら、

頭の片隅で、

昨日開いただけで閉じたノートのことを思い出していた。


(たった1ページも進んでない)


シャーペンの先が、

ノートの端っこで止まる。


「田中、今どこやってる?」


隣の席の子に聞かれて、

慌ててページをめくる。


(またぼーっとしてた)


黒板の前では、

先生が

「受験も視野に入れてね。

 女子もこれからは自立しないと大変なんだから」

なんて言っている。


女子も、って。


(昔から“女子はしっかりしてて当たり前”って扱いじゃなかったっけ)


心の中で、

小さなツッコミを入れる。


前にもこういうことがあった。


中学のとき、

問題集を開いたまま、

頭の中で別のことを考えていて、

気づいたら30分たっていた日。


「やる気がないなら、机に座らないで」


お母さんにそう言われたときの、

胸の奥のチクっとした感じ。


今、

自分で自分に同じことを言いたくなる。


(やる気がないなら、ルールなんて決めなきゃいいのに)


でも、決めたのは私だ。


わざわざ、ノートの最初のページに

きれいな字で書いたのも私。


「30分くらい、普通の人なら余裕でできるんだろうな」


そんなことを考えた瞬間、

また自分で自分の首を締めている気がして、

苦笑したくなった。


2時間目、ホームルームの時間。


現代文の先生が、

文集の仮レイアウトを配った。


ページ数と、

誰の作品がどこに入るかの一覧。


紙が配られて、

自分の名前を探す。


「……あった」


真ん中あたり。


小説の項目の、ちょうど中間あたりに

私の名前と

『二人の季節(第一話)』のタイトル。


「前の方じゃないんだ」


そう思った自分に、

少し驚いた。


(どこでもいいって思ってたはずなのに)


前の方にいる子たちの名前は、

いつもテストで上位にいる人とか、

先生に気に入られている子たちが多い。


前の席の男の子たちが、

ひそひそ話しているのが聞こえた。


「やっぱさ、女子の書くやつって

 恋愛モノ多いよな」


「タイトル見ただけで、そういうの分かるよな」


思わず、

自分のタイトルのところを隠したくなった。


『二人の季節』。


恋愛じゃなくて、友情の話。


(別に、女子が全部恋バナ書いてるわけじゃないし)


心の中で反論しながらも、

「女子はこういうのが好きなんでしょ」っていう

雑な箱にまとめられる感じに、

うっすらとしたモヤモヤが残った。


「やっぱり、そういう順番なんだ」


誰もそんなこと言っていないのに、

勝手にそう決めつけて、

勝手に少し傷ついた。


(中途半端な位置って、

 私にぴったりだな)


そんなことまで考えてしまって、

自分で自分に苦笑する。


でも、

真ん中に名前があるプリントを見つめているうちに、

少しだけ安心もした。


(後ろの方で、

 「余ったスペース埋める枠」にされなかっただけ、

 ましなのかも)


自分の中の

「どうせ私は端っこに追いやられる」っていう声と、

「ここにちゃんと載ってるじゃん」っていう声が、

静かに押し合いへし合いしていた。



お昼休み。


今日は、

屋上じゃなくて教室で食べることにした。


風が冷たいから、

という理由もあるけど、

なんとなく人のざわざわの中にいたかった。


女子グループが、

インスタで見つけたコスメの話で盛り上がっている。


「このティント、まじ盛れる」


「オフの日用にはこっちだよねー」


私はリップクリームくらいしか持っていない。


別にメイクを否定しているわけじゃない。

むしろ、

雑誌で見るかわいいメイクを

こっそり真似したくなるときだってある。


でも、

「女の子なんだから、ちゃんと身だしなみして」って

大人に言われるときの“ちゃんと”と、

自分が好きでやる“かわいい”は、

なんだか別物な気がする。


咲希ちゃんが、

お弁当を持って私の席まで来た。


「文集のレイアウト、見た?」


「見た」


「リナのやつ、タイトルいいよね」


「そうかな」


「“二人の季節”って、

 なんかそれだけで物語ありそう」


そう言ってもらえて、

少し気持ちが持ち上がる。


「進み具合はどう?」


「え」


一瞬、

何のことか分からなかった。


「脚本の方。

 舞台用の『二人の季節』」


「ああ……」


フォークを持つ手が止まる。


(そこ、聞く?)


悪気がないのは分かってる。


応援してくれているのも分かってる。


でも、

週末ほとんど進んでいない現実が、

一気に胸に押し寄せてきた。


「ちょっと……止まってる」


正直に言うか迷ったけれど、

嘘をつく方がしんどそうで、

小さな声で答えた。


「そっか。

 でも、テスト前だしね」


すぐにフォローしてくれる。


本当に優しい。


その優しさに、

逆に申し訳なさが増えていく。


(“テスト前だから”って理由、

 便利すぎるな)


「やりたい気持ちはあるんだけど」


「うん」


「机には座るんだけど」


「うん」


「なんか、スマホ触っちゃって」


言いながら、

視界の端に、

机の上に伏せてある自分のスマホが見えた気がした。


「わかる」


咲希ちゃんが、

即答した。


「私も、やる気出そうとして

 動画見てたら、逆にやる気なくなるタイプ」


「それそれ」


少しだけ、笑えた。


(私だけじゃないんだ)


でも同時に、

「みんなそうなんだから頑張らなきゃ」っていう

別の声も出てくる。


(そうやって“みんな”を基準にすると、

 またしんどくなるのに)


それも分かってるのに、

やめられない。


午後


放課後。


演劇部は今日は活動なし。


だからまっすぐ帰ればいいのに、

なんとなくその気になれなくて、

図書室に寄った。


「勉強30分、創作30分」


家に帰ると、

その前にベッドに転がってしまいそうで。


図書室なら、

少しはましな気がした。


窓際の席に座って、

タイマーを30分にセットする。


まずは勉強。


単語帳を開いて、

黙々と書き写す。


でも、

頭の中ではずっと

「創作30分をどうするか」を考えていた。


(ちゃんと30分書けるかな)


(今日も5分でやめたくなったらどうしよう)


考えれば考えるほど、

ハードルが高くなっていく。


タイマーが鳴った。


次は創作。


ノートを開く。


『二人の季節』脚本版。


前回書いたところで、

ページが止まっている。


転校生の女の子が、

初めて親友の家に遊びに行くシーン。


「ここの空気、

 ちゃんと描きたいんだよな」


そう思うほど、

手が動かなくなる。


ペンを持ったまま、

5分経過。


「……」


10分経過。


やばいと思って、

とりあえず一行だけ書いてみる。


「玄関の前で、インターホンを押す指が震える」


自分の手を、

まるでその子の手みたいに感じながら書く。


書きながら、

自分の指先も本当に少し震えていることに気づいて、

苦笑した。


(私も、誰かの世界の玄関の前で

 立ち尽くしてるのかも)


そこまで書いたところで、

ふとスマホに目がいった。


「少しだけ……」


そう思って、

手を伸ばしてしまう。


(ほら、まただ)


頭のどこかで自分が自分に呆れながら、

ロックを解除する指は止まらない。


通知がいくつか来ていて、

それを開いているうちに、

動画サイトのおすすめが目に入る。


「この前の続き、上がってる」


気づいたら、

イヤホンを耳に差していた。


画面の明かりが、

図書室の静けさとは関係なく、

頭の中だけをにぎやかにしていく。


(30分きっちり創作するって決めたのに)


タイマーは、

残り3分になっていた。


「うわ」


慌てて動画を止めて、

ノートに視線を戻す。


「玄関の前で、インターホンを押す指が震える」


さっき書いた一行だけが、

ページの上でぽつんと浮いていた。


(たった一行。

 でも、“ゼロ”じゃない)


そう思おうとしても、

「30分あって一行ってどうなの」と

すぐに別の声が刺さってくる。


胸のあたりが、

じわじわと苦くなっていく。


(またやってしまった)


「わかっているのにできない」

っていう言葉が、

今日ほどぴったりくる日はなかった。


それでも、

ノートを閉じないで、

もう一行だけ書いた。


「チャイムの音がやけに大きく響いて、

 心臓がびくっとする」


まるで、

自分のことみたいだった。


図書室を出るころには、

タイマーはとっくにゼロになっていた。


「……一応、30分“机には”いたから」


自分で自分に、

苦しい言い訳をしながら、

帰り道に出た。


夕方


家に帰ると、

ソファに倒れ込みたくなる。


でも、

玄関で靴を脱いだときに、

ふと立ち止まった。


(ここでそのままリビングに行ったら、

 たぶんスマホ見ながら一日終わる)


それも、

もう何度も経験済みだ。


「ただいまー」


声だけかけて、

そのまま自分の部屋に向かった。


カバンを置いて、

机に座る。


タイマーを10分にセットした。


「30分は無理かもしれない。

 でも、10分なら」


負けたくない気持ちと、

完全に諦めたい気持ちの、

間くらい。


数学の宿題を10分だけやる。


10分なんてすぐ終わるだろう、

と思っていたのに、

意外と長かった。


途中でペンが止まりそうになる。


「ここで止まったら、

 10分すら続かないってことになる」


それだけは嫌で、

とりあえず手を動かし続けた。


タイマーが鳴った瞬間、

どっと疲れが出た。


「たった10分で、何言ってるんだろ」


自分に呆れながらも、

どこかで少しだけ、

「よくやった」とも思っていた。


創作は――今日はやめた。


本当はやりたかったけど、

頭が回らない。


ノートを開いたら、

「さっき図書室で、一行だけでも書いたじゃん」

って声が聞こえた気がして、

それを今日の“最低ライン達成”の証拠にした。


(全部完璧にやろうとすると、

 全部ゼロになる)


それは、

何回も痛い目を見てきたことで、

やっと最近、自分の中で

言葉になり始めたこと。


今日は、

完璧じゃないけど、

ゼロじゃない。


それだけを、

かろうじて自分の中の“プラス”の箱に入れておいた。



夕食のとき、

お父さんがテレビのニュースを見ながら言った。


「最近の子どもは、

 スマホばっかりで集中力が続かないってさ」


その言葉に、

箸を持つ手が一瞬止まった。


(うわ、刺さる)


「大人もですけどね」


お母さんが笑ってフォローしていたけれど、

心の中では

妙にそのニュースの言葉が響いていた。


「昔の方が苦労してた」とか、

「今の子は楽でいいよね」とか、

テレビの中の“昔の大人”たちは、

よくそう言う。


(今のしんどさだって、ちゃんと本物なのに)


「女の子は特に、計画的に動ける方が得だぞ」


お父さんの何気ない一言が、

さらに胸に刺さる。


「……うん」


そう返しながら、

胸のあたりがじわっと熱くなっていくのを感じた。


食後、部屋に戻って、

日記帳を開く。


ペンを持つ指先が、

少しこわばっていた。


後書き


日記


20xx年11月11日(月曜日) 高校1年生 田中里奈


今日は、

「できたこと」と「できなかったこと」が

ぐちゃぐちゃに混ざった一日だった。


できなかったこと


・週末、ほとんど創作30分が守れなかった。

・図書室で、タイマー30分のうち

 半分以上スマホを見てしまった。


「わかっているのにできない」

っていう言葉を、

何回も頭の中で繰り返した。


できない自分にイライラして、

「またか」とあきれて、

「どうせ続かないんだよね」って

自分で自分を雑に扱いたくなる。


中学のとき、

夏休みの計画表をきれいに色ペンで書いて、

三日目で全部崩して、

お母さんに

「計画立てるのは上手いのにね」

って笑われた日のことを思い出した。


悪気がなかったのは分かってる。


でもあのとき、

胸の奥がじん、と痛くなった。


今日、

同じ場所がじん、とした。


「女の子なんだから、

 ちゃんと計画立てて動けると得よ」って、

親戚のおばさんに言われたこともあった。


“女の子だから”って言葉は、

ときどき、

私の「できない」を

余計に恥ずかしいものにさせる。


できたこと


・文集のレイアウトの紙に、

 ちゃんと自分の名前があった。

・図書室で、『二人の季節』脚本版の一行だけど

 新しいセリフを書けた。

・家に帰ってから、

 数学の宿題を10分だけでもやった。


10分って、

本当にちっぽけだと思う。


30分ルールを決めたのは、

自分なのに。


でも、

「10分すらできなかった日」よりは

ましなんじゃないか、

とも思う。


今日は、

スマホに飲み込まれそうな自分を見て、

「またやってる」と

ちゃんと気づけた。


そこで全部投げ出さないで、

一行でも、10分でも、

なにかしら机に残せた。


それを

「偉い」とか

「頑張った」とか

大げさに褒める気にはなれない。


でも、

「どうせ私なんて何も続けられない」って

まとめて捨ててしまうには、

もったいない一行と、10分だった。


完璧にできないとき、

いつも私は

全部をゼロに戻してきた。


それが一番楽で、

一番苦しい選択だってことも

薄々わかっていたのに。


文化祭の脚本も、

途中で何度も投げ出したくなったけど、

あのときは

咲希ちゃんや先輩や家族が

「大丈夫」とか「楽しみにしてる」とか言ってくれて、

なんとか最後まで走れた。


今度は、

もっと自分の中の「大丈夫」を

増やしたい。


「少しだけマシになりたい」


今日は、その気持ちが

昨日よりほんの少しだけ

強くなった気がする。


だから、

新しい“予備ルール”を作ることにした。


・30分できなかった日は、

  最低10分だけやること。


10分さえできなかった日は、

その日を「ただのしんどい日」として

ちゃんと認めること。


自分を殴るためのルールじゃなくて、

自分を“ゼロにしない”ためのルール。


「女の子なんだから、しっかりしなさい」って言葉に、

そのうち

「人間なんだから、しんどい日もあるよね」って

言い返せるようになりたい。


来週の月曜日の私が、

このルールを見て

「そんなの意味ないよ」と思うのか、

「案外助かった」と思うのか、

まだ分からない。


でも、

未来の自分に

ちょっとだけ優しくしてあげたい気持ちは、

今の私にちゃんとある。


どんな時でも笑顔で。


今日は、

「完璧じゃないけどゼロじゃなかった日」の笑い方しか

できなかったけど、

それでも少しだけ、

自分のことを嫌いになりきれなかった。


その“少しだけ”を、

ちゃんと覚えていたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ