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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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29/93

リナ、日常と物語のあいだ

**20xx年10月28日(月曜日) 高校1年生**

**朝**


10月の終わり。


窓を開けると、ひんやりした空気が入ってきた。


「さむ……」


パジャマの袖をぎゅっと握って、

でも、なんだか気持ちいい朝だった。


テストも一段落して、

文化祭も終わって、


日常が、

少しだけ落ち着いてきた。


でも、心の中は

静かじゃない。


「続きを書きたい」


『二人の季節』のことが、

頭の隅っこでずっと動いてる。


朝食の席で、

お母さんが焼き鮭をお皿にのせながら聞いてきた。


「新しいお話、進んでる?」


「うん。第一場はだいたい」


「すごいわね。よく続けられるわ」


「文化祭のときみたいに、

 詰め込みすぎないようにするけど」


「それがいいわ」


お母さんのその一言で、

少しだけブレーキを思い出せた。


「いってきます」


カバンの中に、

教科書と一緒に『二人の季節』のノートを入れた。


**午前**


1時間目、現代文。


先生がプリントを配った。


「来月、校内文集の原稿を募集します」


そう言って、黒板に書いた。


**・小説

・詩

・エッセイ など自由**


「文章を書くのが好きな人は、ぜひ」


教室の空気が、

ざわっとした。


(文集か……)


消しゴムのカバーをいじりながら、

ぼんやり考えた。


(演劇じゃなくて、“読むための物語”を書くって、

 どんな感じなんだろう)


『二人の季節』は脚本として書いている。


でも、

もしかしたら、

「小説版」にもできるかもしれない。


(同じ物語を、

 別の形にするって、ちょっとおもしろそう)


先生が、教室を見渡しながら言った。


「書いてみたいけど、自信がない人は、

 “今の自分の気持ち”を素直に書くだけでも立派な作品ですよ」


その言葉を聞いて、

少しだけ手を挙げたくなった。


(“今の自分の気持ち”か……)


気づいたら、

ノートの端っこに


「転校生/教室/窓際の席」


と、メモを書いていた。


**昼**


お昼休み。


屋上のベンチに座って、

お弁当を開いた。


咲希ちゃんが、

ペットボトルのお茶を置きながら言った。


「ねえリナ、文集の話、聞いた?」


「聞いた」


「出してみたら?」


「え?」


「“リナといえば脚本”ってイメージあるし」


「そんなイメージ、ある?」


「あるよ。少なくとも私はそう思ってる」


少し照れくさくて、

卵焼きを口に運んだ。


「脚本、そのまま出すのは?」


「文集だと、たぶん小説っぽいほうが

 読みやすいかなって」


「じゃあ、“小説版・二人の季節”だね」


さらっと言われて、

胸がどくんとした。


「……まだ第一場の途中だよ?」


「間に合うよ。締め切り、来月の中旬って言ってたし」


たしかに、

時間はまだ少しある。


「でも、テストもあるし……」


「ほら出た、“60点合格作戦”」


咲希ちゃんが笑った。


「いいじゃん、“勉強60点合格”と

 “創作チャレンジ”の両立」


「うーん……」


お弁当を食べ終わって、

空を見上げた。


薄い雲がゆっくり流れている。


(もし文集に出したら、

 クラスメイトや先生が私の文章を読むんだ)


想像すると、

怖いような、嬉しいような、くすぐったいような。


「……ちょっと、考えてみる」


そう言うと、

咲希ちゃんがニッと笑った。


「楽しみにしてる」


**午後**


放課後、演劇部。


今日は、次の活動方針の話し合い。


部室に集まって、

円になって座った。


「文化祭、お疲れ様でした」


山口先輩が、

改めて頭を下げた。


「これからは、春の新入生歓迎公演に向けて、

 アイデアを出していきたいと思っています」


春。


まだ先のことだけど、

“次の舞台”という言葉に

胸が高鳴った。


「長編じゃなくて、

 短い作品をいくつかやる形でもいいし」


「コメディでも、シリアスでも」


「オリジナル脚本も歓迎します」


その一言で、

背筋がピンとした。


(“二人の季節”、

 春の歓迎公演用に短くしたバージョンを

 いつか出せるかもしれない)


でも、すぐに手を挙げる勇気はなかった。


(まだ、最後まで書けてないし)


今はまだ、

心の中の「ひみつ」の領域。


ミーティングのあと、

山口先輩が私に声をかけてきた。


「田中さん」


「はい」


「この前、文化祭のアンケート、

 ちゃんと全部読んだ?」


「まだざっとしか……」


先輩が、

クリアファイルを渡してくれた。


「“脚本についてのコメント”のところ、

 付箋つけておいたから、時間あるとき読んでみて」


「ありがとうございます」


部室の隅の椅子に座って、

その場でペラペラとめくってみた。


**『主人公の気持ちがすごく分かりました』**


**『セリフが自然で、友達と話してるみたいでした』**


**『自分も進路のことで悩んでいるので、刺さりました』**


一つ一つの言葉が、

胸にゆっくり染みこんでいった。


(あの日の私のぐちゃぐちゃした気持ちも、

 ちゃんと届いてたんだ)


ページの端っこに、

小さく書かれた文字があった。


**『また別の物語も見てみたいです』**


それを見た瞬間、

『二人の季節』の1ページ目が

頭の中に鮮やかに浮かんだ。


**夕方**


部活が終わって、

いつもの帰り道。


夕焼けが、

少しずつ早くなってきている。


住宅街の電柱の影が、

長く伸びていた。


(もし、文集に出したら)


(もし、春の公演で新しい脚本を出したら)


“もし”がたくさん浮かんで、

少し怖い。


でも同時に、

それ以上にワクワクしている自分がいる。


家の近くの角を曲がったところで、

ふと足を止めた。


(無理しすぎた夏と、

 今の自分の違いって何だろう)


あのときは、

「全部、今すぐ完璧にしなきゃ」

って思っていた。


今は、


「少しずつ、でも続けていきたい」


そう思えている。


それだけで、

景色の色が違って見えた。


**夜**


「ただいま」


いつものように家に帰って、

夕食のあと、机に向かった。


まずは、学校の宿題。


英語のワークを1ページ。

数学の問題を5問。


“60点合格作戦”の一部。


終わったら、

タイマーを30分にセットして、

『二人の季節』のノートを開いた。


今日は、

転校生の女の子が初めて

親友の家に遊びに行く場面を書いた。


慣れないリビングの匂い。

出されたお菓子。

写真立てに写る家族。


セリフを考えながら、

ふと気づいた。


(私も、初めて咲希ちゃんの家に行ったとき、

 同じようなこと思ったな)


自分の記憶と、

物語の中の出来事が

少しだけ重なって、

ニヤッとしてしまう。


タイマーが鳴った。


「今日はここまで」


ノートを閉じて、

代わりに日記帳を開いた。


今日のこと。

文集のこと。

アンケートの言葉のこと。


そして、

新しく決めたルールのこと。


**・勉強:1日最低30分

・創作:1日30分

・どっちもサボった日は、その理由を日記に書く**


「これなら、倒れないで続けられるはず」


最後のページに、

小さく書き足した。


> 「物語は一気にじゃなくて、

>  一週間に少しずつ進めてもいい」


日付を見る。


**20xx年10月28日(月曜日)**


(また1週間後には、

 この物語の中でも何かが進んでいるといいな)


電気を消す前、

ノートの上にペンを置いて、

そっとつぶやいた。


「二人の季節、

 ちゃんと最後まで書くからね」


心の中の登場人物たちに、

小さな約束をして、


布団にもぐり込んだ。



## 後書き


**日記**


**20xx年10月28日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「日常」と「物語」が

少しだけ混ざった一日だった。


現代文の授業で、

校内文集の話が出た。


“書いてみたいな”という気持ちと、

“みんなに読まれるのが怖い”という気持ち。


両方がある。


でも、

文化祭のアンケートを読んで、

少しだけ勇気がわいた。


> 「セリフが自然でした」

> 「また別の物語も見てみたいです」


そんな言葉をもらえたことが、

今でも信じられない。


『二人の季節』は、

咲希ちゃんとの友情が

ヒントになっている。


でも、

そのままじゃなくて、


“もし、こんな出会い方をしたら?”

“こんなケンカをしてしまったら?”


そんな「もし」も

混ざっている。


現実と物語が

少しずつ交差して、


どこまでが私で

どこからが登場人物なのか、

よく分からなくなるときがある。


でもそれが、

なんだか楽しい。


新しく決めたルール。


**・勉強30分

・創作30分**


続けられるか分からないけど、

“完璧にできなかった=失敗”じゃなくて、


「できた日を、ちゃんと数えていこう」


そう思う。


次にこの日記を書くとき、

『二人の季節』が

何ページか進んでいますように。


どんな時でも笑顔で。


今日は、

「普通の日常」と「新しい物語」のことを考えて

少しだけワクワクした笑顔だった。


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