リナ、結果とこれから
**20xx年10月21日(月曜日) 高校1年生**
**朝**
今日は、中間テストの結果が返ってくる日。
目が覚めた瞬間、
お腹のあたりがキュッとなった。
「……いよいよか」
先週のテスト。
「60点合格作戦」で、
できることはやったつもり。
でも、点数の紙を実際に目にするとなると、
不安になる。
朝食の席で、
お母さんがコーヒーを飲みながら聞いてきた。
「今日、結果出るのよね?」
「うん」
「どうなってても、大丈夫よ」
「え?」
「100点でも0点でも、リナはリナだから」
お母さんの言葉に、
少しだけ肩の力が抜けた。
「さすがに0点は困るけど」
「それはそうね」
二人で笑った。
「いってきます」
心臓はドキドキしているけれど、
足取りは前より重くない気がした。
**午前**
1時間目、英語。
先生が分厚い答案の束を持って教室に入ってきた。
「では、中間テスト返します」
ざわ……と教室が揺れた気がした。
出席番号順に、
名前が呼ばれていく。
「田中」
自分の名前。
答案を受け取った瞬間、
視界の端っこに、赤い数字が見えた。
(見る? 今見る? どうする?)
席に戻って、
深呼吸してから、
そっと点数のところに目をやった。
「……63点」
小さく、息を吐いた。
平均点が黒板に書かれる。
**英語 平均58点**
(……合格)
心の中で、
「60点合格スタンプ」を押した。
1学期の中間が55点。
そこから、ちゃんと上がっている。
先生が答案の解説をしながら、
急にこちらを見た。
「田中、今回よく頑張ったな」
「えっ」
みんなの視線が一瞬だけ集まった。
「前回から、文法のミスが減ってる。
地味だけど大きいぞ」
「……ありがとうございます」
顔が熱くなった。
でも、
嫌な熱さじゃなかった。
2時間目は、数学。
こっちは自信が半分くらい。
答案を受け取る。
「61点」
平均は52点。
(ギリギリでも60超えた……!)
前の私なら、
「どうして70じゃないんだろう」と
落ち込んでいたかもしれない。
今は、違う。
(“赤点回避”じゃなくて、
“自分で決めた合格ライン”を越えられた)
それが、素直に嬉しかった。
**昼**
お昼休み。
屋上で、
咲希ちゃんとお弁当を広げる。
「で、何点?」
さっそく聞いてきた。
「英語が63、数学が61」
「おおー! 合格コンボじゃん!」
「そうなの、“60点合格作戦”成功」
「国語は?」
「72」
「それ一番すごいじゃん!」
笑い合いながら、
お互いの点数を報告し合った。
咲希ちゃんは、
英語が私より少し上で、
数学がほぼ同じくらい。
「なんかさ」
おにぎりをかじりながら、
咲希ちゃんが言った。
「“トップを目指す”って感じじゃないけど、
“自分なりにちゃんと戦った”って感じの点数だね」
「分かる気がする」
「前みたいな“0か100か”じゃなくてさ」
「うん、“55なら反省、60超えたら合格”みたいな」
「そうそう」
曇り空の下で、
少しだけ誇らしい気持ちになった。
「ねえ、そういえば」
咲希ちゃんが、
思い出したように言った。
「“二人の季節”、どこまで書いたの?」
「あ」
すっかり、
結果のことばかり考えて忘れていた。
「……じゃあ、今日の放課後、
ファミレスで読んでくれる?」
「行く!」
**午後**
午後は、答案返却ラッシュ。
理科、社会、現代文の小テスト。
全部が全部60点以上、
というわけにはいかなかったけど、
「これは次、もうちょい上げよう」
と、冷静に見られるくらいには
心が落ち着いていた。
ホームルームの終わりに、
担任の佐藤先生が言った。
「全体的に、クラスの平均点は悪くない。
でも、一番大事なのは“前の自分と比べてどうか”だ」
その言葉に、
少しだけ背中を押された気がした。
**夕方**
放課後。
咲希ちゃんと、
学校近くのファミレスに行った。
テスト期間だからなのか、
同じ制服の子たちが何組かいる。
窓際の席に座って、
私は『二人の季節』のノートを出した。
「じゃあ、第一場から読むね」
「うん。辛口でお願いします」
「了解しました、先生」
冗談半分で頭を下げ合って、
咲希ちゃんが、
静かにページをめくり始めた。
転校初日の教室の描写。
二人の出会いの台詞。
私は、
ドリンクバーのグラスを握りながら、
横顔をちらちら見ていた。
(今どんな気持ちで読んでるんだろう)
2場分読み終えたところで、
咲希ちゃんが顔を上げた。
「……リナ」
「うん」
「ずるい」
「えっ、いきなり?」
「なんかさ、読んでたら、
私まで“転校生の最初の一週間”を
やり直してるみたいな気持ちになってきて」
「それ、褒めてる?」
「褒めてる」
咲希ちゃんが、
真面目な顔になった。
「ねえ、この物語の“親友役”って、
私をモデルにしてる?」
ドキッとした。
「……ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「2割くらい。
あとの8割は、“こうであってほしい親友像”」
「なんかそれ、嬉しいような恥ずかしいような」
笑いながらも、
咲希ちゃんの目が少し潤んでいた。
「この子さ、“相手を引っ張ってく”ように見えて、
ちゃんと相手のペース見て待つよね」
「うん」
「そこがいい。
“明るいだけの子”じゃなくて、
ちゃんと相手を見てる」
それは、
テストのときに私の横で
様子を見てくれている
咲希ちゃんそのものだった。
「気になるところ、ある?」
私は聞いた。
「んー……」
しばらく考えてから、
咲希ちゃんが言った。
「一つだけ」
「なに?」
「転校生の子、
もうちょっと“自分の悪いところ”も
自覚してる描写があったら、
もっと好きになれそう」
「……ああ」
心のどこかで引っかかっていた部分を、
ピンポイントで言われた気がした。
「“人見知りで、かわいそうな子”じゃなくて、
“ちゃんと自分の殻を守りすぎちゃうところもある子”
みたいな」
「なるほど……」
メモ帳を出して、
慌てて書き込んだ。
それはたぶん、
自分自身にも当てはまることだから。
**夜**
帰宅して、
テストの答案を机に並べた。
英語63。
数学61。
国語72。
理科58。
社会65。
「……総合で見たら、合格」
理科の58には、
「惜しい!」と赤ペンで書かれていた。
(次の“60点合格作戦”では、
理科にもう少し時間を配分しよう)
答案をまとめてクリアファイルにしまってから、
『二人の季節』のノートを開いた。
咲希ちゃんの言葉。
> 「“かわいそう”より、“ちょっとめんどくさいけど好き”って
> 思える主人公のほうが、私は好きかも」
そのニュアンスを思い出しながら、
主人公の独白を一つ増やした。
> 「私、人見知りって言い訳にして、
> 本当は傷つきたくないだけな気がする」
書いてみたら、
急に主人公が
近くに感じられた。
(私も、前のテストのとき、
“頑張ってダメだったら怖い”から
ちゃんと勉強しなかったところ、あったな)
今度のテストで、
少しだけその殻を破れた。
物語の中の子にも、
同じような一歩を踏ませてあげたい。
日記帳を開く。
今日の点数と、
ファミレスでの会話と、
咲希ちゃんの「ずるい」の一言を書いた。
「今日は……90点くらいだな」
テストの点数じゃなくて、
一日の満足度。
頑張った自分と、
ちゃんと休んだ自分と、
少しだけ成長した自分。
全部まとめての90点。
「どんな時でも笑顔で」
その言葉を、
日記の最後に書く手が、
今日は自然に動いた。
布団に入る前、
天井を見上げながらつぶやく。
「次のテストでは、
“理科60点チャレンジ”だな」
少しだけニヤッとしてから、
目を閉じた。
## 後書き
**日記**
**20xx年10月21日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**
中間テストの結果が返ってきた。
* 英語 63点
* 数学 61点
* 国語 72点
* 理科 58点
* 社会 65点
“オール80点”みたいな
派手さはないけれど、
「自分で決めた60点合格ライン」を
だいたい越えられた。
特に、
英語と数学の60オーバーは
素直に嬉しい。
先生にも、
「前よりミスが減っている」と言ってもらえた。
前は、
点数を見るたびに
自分を否定していた気がする。
「この点数=ダメな自分」って。
でも今は、
「この点数=あの一週間の過ごし方」
だと思える。
“もっとできた”ところもある。
“よくやった”ところもある。
どっちも含めて、
今の私。
放課後、“二人の季節”を
咲希ちゃんに読んでもらった。
「ずるい」って言われた。
それは、
読んでいて自分のことを
考えちゃうから、という意味らしい。
モデルにしている部分もあるから、
余計にそう感じたのかもしれない。
> 「“かわいそうな主人公”じゃなくて、
> “めんどくさいところも含めて好きになれる主人公”がいい」
その言葉が、
すごく心に残った。
現実の自分も、
物語の主人公も、
“弱さ”とか“めんどくさいところ”も
ちゃんと描いたほうが、
きっと愛おしくなる。
テストも、
脚本も、
人間関係も。
全部、「0か100か」じゃなくていい。
60点で合格。
70点でご褒美。
80点でニヤニヤ。
そんな感じで
自分を見ていけたらいいなと思う。
どんな時でも笑顔で。
テストの紙を見て、
初めてちゃんと笑えた日だった。




