リナ、中間テストの手応え
**20xx年10月14日(月曜日) 高校1年生**
**朝**
今日から中間テスト。
いつもより遅い登校時間。
いつもより静かな朝。
「……緊張する」
机の上に広げたノートを閉じて、
大きく深呼吸した。
この1週間。
「60点合格」を目標にして、
毎日コツコツやってきた。
完璧じゃない。
でも、前みたいに
“徹夜して一夜漬け”みたいなことはしていない。
お母さんが、
少し濃い目の紅茶を入れてくれた。
「最終チェック、終わった?」
「うん。もうここからは覚えたふりする」
「ふり?」
「本番で、覚えてるって信じるの」
お母さんが笑った。
「それ、リナらしくて好き」
トーストをかじりながら、
心の中でつぶやく。
(大丈夫、大丈夫。
先週の自分が、今の自分を助けてくれる)
「いってきます」
今日は、いつもより少しだけ
背筋を伸ばして家を出た。
**午前**
学校に着くと、
廊下がいつもと違う空気になっていた。
みんな、教科書を片手に
最後の確認をしている。
「おはよう、リナ」
咲希ちゃんが、
数学のプリントを抱えて近づいてきた。
「公式、全部出てきた?」
「たぶん……7割くらい」
「いいね、それ」
お互いのノートを見せ合いながら、
最後の確認をした。
1時間目は、国語。
比較的、得意な科目。
「ここで少しでも点を稼ぎたい」
チャイムが鳴って、
問題用紙が配られた。
パラっとめくって、
ざっと全体を見る。
現代文の読解。
古文の文法。
漢字。
(……思ったより、いけそう)
落ち着いて、
一問ずつ解いていった。
現代文の「筆者の心情」を問う問題に、
少しだけ笑いそうになる。
(さっき、授業で褒められたやつと似てる)
脚本を書いているおかげで、
“人の気持ちを想像する練習”は
日常的にしている。
その積み重ねが、
ここで活きている気がした。
2時間目は、英語。
問題用紙を見た瞬間、
一つだけ、見覚えのある例文があった。
> It depends on you.
ノートの端に書いた、
「便利フレーズ」。
(出た……!)
思わず心の中でガッツポーズをした。
全部完璧に解けたわけじゃない。
けど、
「何も分からない」という感覚ではなかった。
テストが終わって、
鉛筆を置いたとき。
心の中に、
小さな「やりきった」と「もう少し」の
両方があった。
**昼**
テストは午前だけ。
午後は自習、または下校。
今日は、午前で解放された。
咲希ちゃんと昇降口で合流した。
「どうだった?」
「国語は……60点はあると思う」
「お、さすが」
「英語は……50~65点の間って感じ」
「具体的」
「咲希ちゃんは?」
「英語は……まあまあ。
国語は、漢字にやられた」
二人して笑った。
「帰る?」
「うーん……ちょっとだけ図書室寄って、
明日の教科のワークやって帰ろうか」
「賛成」
お昼ごはんは、
コンビニのおにぎりで済ませた。
図書室で広げたのは、
数学のワーク。
「明日、数学だもんね」
「うん。今日のうちに、“わからないゾーン”を炙り出す」
30分だけ集中して問題を解いた。
そして、
30分経ったところで、
そっとノートを閉じる。
「今日は、このへんでやめとく」
「え、いいの?」
「うん。テスト初日くらいは、
ちゃんと休んでおきたい」
一年前の私なら、
ここからさらに詰め込もうとしていたと思う。
でも今は、
“明日の自分のために残しておく”
という考え方が、
少しだけできるようになっていた。
**午後**
久しぶりに、
テスト期間の「昼に家にいる感じ」。
制服をハンガーにかけて、
ジャージに着替える。
時計を見ると、
まだ2時過ぎ。
「……時間ある」
勉強は、
さっきの図書室の分で、ひと区切り。
少しだけ横になろうかと思ったけど、
やっぱり机に向かった。
「10分だけ」
脚本ノートを開く。
『二人の季節』のページ。
今書いているのは、
転校してからちょうど1週間後、
主人公が「この学校の空気に、
まだ馴染めていない」と感じる場面。
自分の今日の気持ちと、
少し重なって見える。
> 「テストって、“今までの自分との対面”だよね」
主人公が言う。
> 「え、敵なの?」
親友役の子が、
笑いながら返す。
> 「ううん。たぶん、“最近あんまり会えてなかった自分”」
その台詞を書いたとき、
自分でも少しハッとした。
(テストって、
“ちゃんとやった自分”と“逃げた自分”の
両方が、答案に映るのかもしれない)
10分だけのつもりが、
気づけば15分経っていた。
「……今日はここまで」
未練を残さない程度に、
ノートを閉じる。
**夕方**
リビングに行くと、
お母さんが夕飯の下ごしらえをしていた。
「早いわね」
「うん。今日は午前だけだったから」
「テストの手応えは?」
「国語はまあまあ。
英語は、“よくやったで賞”くらい」
「それは上出来ね」
ソファに座って、
少しだけテレビを見た。
いつもなら、
「時間がもったいない」と思っていたはず。
でも今日は、
頭を休める時間も、
ちゃんと“勉強の一部”だと思えた。
太一がやってきて、
ゲームのコントローラーを振った。
「お姉ちゃん、一戦だけ!」
「一戦だけね」
本当に一戦だけ。
驚くことに、
ちゃんと一戦だけでやめられた。
「大人になったな、おれ」
「誰目線なのそれ」
笑い合いながら、
気持ちが軽くなっていくのを感じる。
**夜**
夕食のとき、
お父さんが聞いてきた。
「テスト初日、お疲れ」
「ありがとう」
「どうだった?」
「“合格ラインは超えてると信じたい”くらい」
「いいじゃないか。
手応えゼロよりずっといい」
「明日は数学と理科?」
お母さんが予定表を見ながら言う。
「うん。どっちも、
『やればできるけど、やらないと終わる』やつ」
「じゃあ、今日は早めに寝なさい」
「そうする」
部屋に戻って、
今日の勉強量と、
創作10分と、
休憩時間をノートに書き出した。
「今日は……75点くらいかな」
テスト勉強だけ見たら80点。
創作は10分オーバーで、ちょっと減点。
でも、
家族との時間を取れた分、
プラス5点。
合計75点。
「合格」
自分で自分に、
小さくそう告げた。
布団に入る前、
天井を見つめながら思う。
(テストが終わったら、“二人の季節”の二人にも
テスト初日の話を書いてあげよう)
現実の“今日”が、
物語の“いつか”に、
きっとつながっていく。
そう思うと、
少しだけワクワクした。
瞼が重くなってきて、
そのまま眠りに落ちた。
## 後書き
**日記**
**20xx年10月14日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**
今日は、中間テスト初日。
国語と英語。
どちらも、
「手応えゼロ」ではなかった。
完璧ではないけれど、
ちゃんと準備してきた分だけ、
手が動いた。
* “It depends on you.”が出てきたこと。
* 現代文で、「心情」を読む問題に少し自信を持てたこと。
* パニックにならずに、時間配分できたこと。
全部、少しずつだけど、
前の自分より成長している気がした。
テスト期間でも、
創作10分を完全には手放さなかった。
『二人の季節』の中に、
> 「テストって、“最近あんまり会えてなかった自分”だよね
という台詞を書いた。
書いていて、
ちょっとドキッとした。
テストって、
ただ点数を測るものじゃなくて、
“ここまでの自分の過ごし方”が
答案に映るものなのかもしれない。
今日の自分は、
完全じゃないけれど、
「よくやった」と言ってあげられる。
勉強も、創作も、休息も、
全部を「0か100か」で見ない。
60点取れたら合格。
70点取れたら、もっと合格。
そういう考え方が、
少しずつ身についてきた気がする。
明日は数学と理科。
まだ不安はある。
でも、
「今日までの自分」を信じてみたい。
テストが終わったら、
“二人の季節”の二人にも、
この気持ちを分けてあげよう。
どんな時でも笑顔で。
テスト期間でも、
ときどき笑える私でいたい。




