リナ、テスト前の静かな攻防
**20xx年10月7日(月曜日) 高校1年生**
**朝**
中間テストまで、あと1週間。
先週一週間の「60点合格計画」。
結果は――
「……5日できた」
朝食の前に、ノートのチェック欄を見ながらつぶやいた。
勉強+ちょっと創作ができた日、5日。
まったくできなかった日、1日。
勉強だけで終わった日、1日。
『60点合格』どころか、
自分なりには「70点くらい」な気がした。
お母さんがトーストを焼きながら、
横から覗き込む。
「先週はどうだったの?」
「……70点かな」
「いいじゃない。先週の自分、合格ね」
「うん」
口に出してみると、
少し本当にそう思えてくる。
「今週はテスト前ラストスパートね」
「うん。さすがに創作時間は減らす」
「ゼロにはしないの?」
「……10分だけは残す」
即答した私を見て、
お母さんが笑った。
「それがリナらしいわ」
勉強だけで埋めると、
きっとまたカラカラになる。
だから、ほんの少しだけ。
物語のための時間を、残しておく。
「いってきます」
教科書の重さが、
いつもよりずっしりと感じられた。
**午前**
教室の黒板の隅に、
大きく書かれた文字。
「中間テストまで あと7日」
先週は「14日」。
数字が半分になっただけなのに、
プレッシャーは2倍になった気がする。
1時間目の数学。
先生が言った。
「ここ、テストに出します」
チョークが板書を叩くたびに、
クラスの空気が少しずつ重くなる。
ノートを書きながら、
頭の隅で考える。
(『二人の季節』の二人も、
こういう“テスト前の空気”を一緒に味わうのかな)
想像しただけで、
ちょっとだけくすぐったい。
2時間目の国語で、
不意に指名された。
「田中」
「はい」
「この文章の筆者の気持ちを、どう捉えた?」
教科書の一節を見ながら、
少しだけ考える。
「えっと……“自分の弱さを、誰かに見せるのが怖いけど、
それでも一歩踏み出したい”みたいな感じ……です」
先生が軽く頷いた。
「いい読み方だな」
胸の奥が、少し温かくなった。
(脚本を書くって、
こういう“人の心を読む練習”でもあるのかもしれない)
**昼**
お昼休みは、
今週も「勉強+小さな創作」のセット。
今日は教室の隅の方の席を二人で陣取った。
「今日はテスト1週間前スペシャルだから、
勉強40分、創作10分ね」
咲希ちゃんが、
真剣な顔でタイマーをセットする。
「40分って言われると長く感じるね」
「でも“ずっと”よりマシでしょ?」
「……確かに」
英語のワークを開いて、
黙々と問題を解く。
分からないところは、
お互いに教え合う。
「“depend on”って、“~に頼る/依存する”だよね?」
「うん。“It depends on ~”なら『~次第だ』」
「おお、便利フレーズ」
勉強してるのに、
ちょっとだけ楽しいのは、
誰かと一緒だからだと思う。
40分が終わって、
タイマーが鳴った。
「ふう……」
「じゃあ、創作10分!」
ノートを開いて、『二人の季節』のページを出す。
今日書き足したかったのは、
転校して1週間経った後の、
二人のささやかな会話シーン。
「ねえ、最初の1週間どうだった?」
「正直、帰りたかった」
「学校に?」
「地球に」
「それは、相当だね」
咲希ちゃんが、
台詞を追いながら口元を緩める。
「この“地球に帰りたかった”って表現、好き」
「ちょっとオーバーかなって思ったけど」
「いや、分かるよ。
私も中1の最初の1週間、
“この学校、別の世界線じゃない?”って思ってたし」
10分はあっという間に過ぎて、
タイマーが再び鳴る。
「はい、今日はここまで」
「続き書きたい……」
「“物足りないくらいで止める”のが、
明日も頑張れるコツなんだって」
どこで仕入れてきたのか分からない知識を、
どや顔で言う咲希ちゃん。
でも、ちょっと納得してしまった。
**午後**
放課後。
テスト1週間前ということで、
今日から部活は“テスト休み”に入った。
「なんか、静かだね」
演劇部の掲示板の前を通り過ぎながら、
少し寂しい気持ちになる。
(あの賑やかさが、ちょっと恋しい)
けれど、その代わりに、
“ぽっかり空いた時間”ができた。
自習室で残る人、
図書室に行く人、
まっすぐ家に帰る人。
私は咲希ちゃんと一緒に、
図書室で勉強することにした。
「部活がないと、不思議な感じ」
「ね。時間が増えたはずなのに、
ちょっと物足りない」
数学の問題集を開きながら、
つぶやく。
(“二人の季節”の二人も、
こんな風に“いつもの場所がない日”を
寂しく感じたりするのかな)
そう考えると、
また一つ、
物語の種が増えた気がした。
**夕方**
家に帰ると、
いつもより少し明るい時間だった。
「おかえり、早いわね」
「部活休みだから」
「そうだ、中間テスト前だったわね」
制服のままテーブルに座って、
すぐに勉強を始める。
今日は2時間やる、と決めていた。
1時間目:数学。
2時間目:英語。
途中で、
“脚本ノートを開きたい衝動”がやってくる。
でも、そこはぐっと我慢。
「あとで10分だけ」
自分と約束する。
2時間終わったところで、
大きく伸びをした。
「ふー……」
時計を見る。
まだ、夜ごはんまで少し時間がある。
「よし、今だ」
脚本ノートを開いて、
さっき思いついた“いつもの場所がない日”のシーンを
メモだけ書き付けた。
> 二人が、ある日突然、
> 放課後の教室を使えなくなる。
> 別のクラスの準備で占領されてしまったから。
> そのとき、
> 「私たち、どこでも話せるよね」と笑うか、
> 「やっぱり、あの教室が良かった」と寂しがるか。
> その違いで、二人の距離が分かる――
メモだけ。
台詞までは書かない。
「続きは、テストが終わったら」
そう思えるくらいには、
心に余裕があった。
**夜**
夕食の時、
お父さんが聞いてきた。
「テスト前の調子はどうだ」
「……先週は70点くらい」
「お、上出来じゃないか」
「今週は?」
お母さんが笑いながら聞く。
「うーん……80点目指してみたいけど、
60点取れたら、自分で自分を褒める」
「いいね、それ」
「0か100かじゃない方が、
続くわよ」
太一が、もぐもぐしながら言った。
「お姉ちゃん、テスト終わったら遊ぼうね」
「うん。そのためにも頑張る」
部屋に戻って、
今日の計画表に、
ちいさく「◎」を書いた。
完璧じゃないけど、
今日の私には、
ちょっとだけご褒美多めのマル。
布団に入って、
目を閉じる前に、
頭の中で呟いた。
(テストが終わったら、“二人の季節”の二人も、
テストを乗り越えた後の会話を書いてあげよう)
現実の自分と、
物語の彼女たちが、
少しずつ歩調を合わせて進んでいる気がした。
## 後書き
**日記**
**20xx年10月7日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**
中間テストまで、あと1週間。
先週の「60点合格計画」は、
自分なりに言えば「70点」だった。
全部できたわけじゃない。
サボった日もあったし、
勉強だけで終わった日もあった。
でも、できた日もちゃんとあった。
以前の私なら、
「1日でも崩れたら0点」みたいに
極端に考えていた。
今は少しだけ、
「できた分だけ点数をつける」ことが
できるようになってきた。
今日は、
* 授業で「心の読み取り」をして褒められたこと。
* 咲希ちゃんと40分勉強して、10分だけ創作したこと。
* “物足りないところでやめる”というやり方を試してみたこと。
* 部活がなくて寂しかったけど、その時間を勉強に回せたこと。
* 『二人の季節』の新しいシーンの“種”だけメモできたこと。
全部合わせて、
今日は「80点」くらいの気分。
完璧じゃないけど、
前よりちょっと成長している自分が
確かにいる。
テスト前の1週間。
勉強はもちろん大事。
でも、物語も、
私の大事な一部。
10分だけでも、
“創作の火”を消さずに持ち続けたい。
テストが終わったら、
『二人の季節』の二人にも、
テスト明けの空気を味わわせてあげたい。
どんな時でも笑顔で。
テスト前でも、
ちょっとだけ笑っていられる自分でいたい。
来週の自分が、
今日の私に「よくやったね」と言ってくれますように。




