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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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23/93

リナ、「二人の季節」の第一稿

**20xx年9月16日(月曜日) 高校1年生**

**朝**


2学期が始まって、少し落ち着いた月曜日。


窓の外は、少しだけ秋の気配。


「今日、見せようかな」


朝食を食べながら、新しいノートのことを考えていた。


タイトルは「二人の季節」。


転校生の女の子と、明るい女の子の友情の物語。


まだ第一場と第二場までしか書けていない。


でも、誰かに読んでもらいたい気持ちが募っていた。


「リナ、新しいお話、進んでる?」


お母さんが聞いた。


「うん。少しだけ」


「今度も、演劇部の脚本にするの?」


「まだ分からない。でも、いつかそうなったら嬉しい」


お母さんが笑った。


「まずは、自分が好きだと思えるものを書きなさい」


その言葉に、背中を押された気がした。


「いってきます」


今日は、勇気を出す日かもしれない。


**午前**


学校に着くと、廊下には体育祭のポスターが貼られていた。


「もうそんな時期なんだ」


文化祭が終わったと思ったら、次は体育祭。


高校生活って、本当にイベントだらけ。


昇降口で咲希ちゃんに会った。


「おはよう、リナ」


「おはよう」


「そのノート…」


私は思わず、胸に抱えていたノートをぎゅっと握った。


「もしかして、新しい脚本?」


「……うん」


「やっぱり! 今日、読ませてくれる?」


その言葉を待っていた。


「まだ途中だけど、いい?」


「途中だからこそ読みたい」


咲希ちゃんのキラキラした目に、少し照れた。


一時間目の現代文の授業中、先生の説明を聞きながらも、


頭の片隅では「二人の季節」の続きを考えていた。


転校初日の教室。


緊張して俯く主人公。


そこに差し込む、明るい声。


「よろしくね」


その一言で、世界が少し色づく。


「田中、今の問題を読んでくれるか」


「……はいっ」


危ない。


また物語の世界に入り込んでいた。


**昼**


お昼休み、約束通り図書室へ行った。


いつもの窓際の席。


咲希ちゃんが、わくわくした顔で待っていた。


「じゃあ、読むね」


私はノートを差し出した。


胸がどきどきする。


文化祭前に脚本を先輩たちに見せた時と、少し似ている。


でも、あの時より、落ち着いていた。


咲希ちゃんは、真剣な顔でページをめくっていく。


ペンの書き跡。


何度も消しゴムをかけた跡。


私の迷いも、ノートの上に刻まれている。


数分後、咲希ちゃんが顔を上げた。


「……好き」


最初の一言が、それだった。


「え?」


「このお話、私、すごく好き」


胸の奥が、じんわり温かくなった。


「どこが良かった?」


「転校生の子が、勇気出せなくて戸惑ってるところ」


「明るい子も、本当は寂しがり屋なところ」


「まだ始まりなのに、ちゃんと“二人”の話になってる」


細かいところまで見てくれている。


「でもね」


咲希ちゃんが、少し言いづらそうに続けた。


「一つだけ、気になったところがある」


「どこ?」


「最初の自己紹介の場面」


ノートを開きながら、指さしてくれる。


「ここ、ちょっと綺麗すぎるかも」


「綺麗すぎる?」


「うん。最初から、言葉が整いすぎてて」


「もっと噛んだり、言葉に詰まったりしてもいいんじゃないかな」


言われてみれば、その通りだった。


文化祭の脚本の時と同じ。


また、最初から“理想的な人物”を書いてしまっていた。


「……ありがとう。直してみる」


「私でよければ、これからも読むからね」


「うん。絶対読んでほしい」


心強い“第一読者”がいることが、嬉しかった。


**午後**


放課後、演劇部。


今日は軽い基礎練習の日。


発声練習、柔軟、即興劇。


文化祭が終わっても、部活は続いていく。


「田中さん、新作どう?」


片付けの途中で、山口先輩に声をかけられた。


「少しだけ、書きました」


「おお、それは楽しみ」


「まだ、部活で使うとは決めてなくて……」


「うん、それでいいと思うよ」


先輩は笑った。


「最初から“作品にしなきゃ”って思うと、書けなくなるから」


図星だった。


「まずは、自分が書きたいものを書きなさい」


「もし、いつか“みんなでやりたい”って思えたら、その時見せて」


その言葉に、肩の力がふっと抜けた。


「はい」


部室を出る時、ホワイトボードの片隅に、


文化祭の時のタイトル「二つの道」がまだ残っていた。


隣に、小さく「二人の季節」と書き足したくなったけど、やめた。


まだ、心の中だけのタイトル。


それでいい。


**夕方**


帰り道。


空が少しだけ高くなった気がする。


「新学期って、なんだか新しい物語の一章目みたい」


そんなことを考えながら歩いていた。


家に着くと、太一が宿題をしていた。


「お姉ちゃん、新しいお話、見せて」


「まだ秘密」


「えー」


「ちゃんと完成したら、一番に見せてあげる」


「約束だよ?」


小指を出されて、指切りをした。


「じゃあ三番目ね」


「三番目?」


「一番は咲希ちゃん、二番目はお母さん」


太一が頬をふくらませた。


「ずるい」


笑い声が、リビングに広がった。


**夜**


夕食のあと、自分の部屋へ。


机の上に、新しいノート。


ページを開く。


咲希ちゃんに指摘してもらった、自己紹介の場面。


“綺麗すぎる言葉”を、少し崩していく。


「えっと……えっと、その……」


何度も書いては消して、


言いよどむセリフに変えていく。


「私、あまり…その……人と話すのが得意じゃなくて……」


「でも、仲良く……なれたら、その……嬉しいです」


少し不器用な言い回しの方が、あの子らしい。


前よりも、キャラクターが近くに感じられた。


気がつくと、ページが一枚増えていた。


「今日は、このくらいにしておこう」


以前みたいに、夜遅くまで無理をしない。


ペンを置いて、ノートをそっと閉じた。


「二人の季節」


二人の友情の一年間。


その始まりを、今、少しずつ紡いでいる。


いつか、この物語もステージの上で息づくのだろうか。


まだ分からない。


でも、その“いつか”を想像するだけで、胸が高鳴った。


## 後書き


**日記**


**20xx年9月16日(月曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、「二人の季節」の第一稿を、初めて誰かに読んでもらった。


読者第一号は、もちろん咲希ちゃん。


「好き」って言ってもらえて、すごく嬉しかった。


でも、それ以上に嬉しかったのは、

ちゃんと“気になるところ”も言ってくれたこと。


最初の自己紹介のシーン。


「綺麗すぎる」


その一言で、ハッとした。


私はまた、理想的なキャラクターを書こうとしていたんだと思う。


本当の人間は、そんなにうまく話せない。


特に、緊張してる時なんて。


それは、文化祭の脚本の時に痛いほど学んだことだったのに。


でも、今回は違う。


最初から、一人で抱え込んでいない。


咲希ちゃんに見せて、意見をもらって、直していく。


山口先輩も「まずは自分が書きたいものを」と言ってくれた。


前みたいに「絶対に作品にしなきゃ」と自分を追い込まない。


今回は、“書くことそのもの”を楽しみたい。


もちろん、いつか舞台になったら嬉しい。


でも、その前に。


この物語の二人と、ちゃんと向き合いたい。


転校生の子と、明るい子。


二人の一年間の季節を、丁寧に描きたい。


日常は、また普通に戻ってきた。


授業、部活、宿題。


でも、その合間に、物語の時間がある。


それが、今の私にとっての幸せ。


どんな時でも笑顔で。


今日は、ノートを閉じる時に、ふっと笑えた。


少しずつでいい。


また新しい物語を歩き出したリナとして、

一歩、一歩。


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