異界の騎馬隊
この作品はフィクションです。
特に歴史上の人物、時代背景については、演出の都合上、改編を加えたり、筆者の想像で補っている部分が多々あるため、史実とは異なる描写がある事をご了承ください。
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土屋昌恒 戦国~安土桃山期の日本の武将。甲斐国武田家の家臣。主君が無事に最期を遂げる時間を稼ぐため、天目山田野の狭隘な地でただ一人、織田軍を迎え撃つ。高くて危険な場所が好き…か、どうかは分からないがアスレチック且つアクロバティックな青年。
諸葛亮 字は孔明。蜀漢の前丞相…なんだけどハッキリ言って知らない人がいない三国時代のスーパーヒーローですよ、あーた。それを私ごときが、ここにくどくどと書きますかフツー?ま、本作ではスカウトマンとして色んな人が死に損なった瞬間を狙って異世界送りにしてしまうというはた迷惑なお方。
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若武者 恐らく安土桃山期の日本の武将と思われるが詳細は不明。
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馬岱 蜀漢の将。官位は平北将軍。爵位は陳倉侯。長身で細面のイケオジ。ただし肉体は細身に見えて結構鍛えられており幼少時には刺客から武術を学んでいたため身体能力は非常に高い。性格はずぼらでテキトーで意地っ張りだが、一方でかなり策士な一面も持つ。本作の主人公。
呉懿 官位は車騎将軍。役職は漢中都督…であったが何の因果か史実より2年も早くお悔やみを申し上げられる事に…。蜀漢初代皇帝劉備の后である穆皇后の実兄。ハッキリ言って益州の裏番であり、超が付くほどのVIPだが馬岱からは爺さん呼ばわりされる始末。しかしクソ生意気なガキほど可愛く思えてしまうという謎の父性を発揮して死後も馬岱の世話を焼く。
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牛金 魏の将。官位は後将軍。馬岱軍一千を討ち取り、先年奪い取った散関の救援に成功。牛という姓のせいで筋骨隆々で猛牛のような人物像を勝手に想像されがちだが実際には鍛え上げられてはいるものの、それほど武張った外見でもないため初対面の者から拍子抜けされてしまうという悩みを持つ。用兵に関しては手堅く、例え単騎になっても激する事も失望する事もなく得意の長剣を手に淡々と生き残る事を最優先に戦う。冷静沈着を絵に描いたような男。しかし、窮地に陥った者を見捨てることができずに自ら危地に飛び込むような義侠心に厚い一面も持つ。
アンソニー あらゆる属性魔法を使いこなすアークメイジ…に憧れるファンタジーものにありがちな夢を抱く駆け出しの魔法学校卒業生。卒業祝いの飲み会で酔った勢いで友人数名と共に冒険者パーティー「ネクスト・レジェンズ」を結成。その元アイドルの黒歴史のようなパーティー名を嫌ったのか最初のクエストの集合場所に自分以外誰も来ず、別の意味でネクスト・レジェンズになってしまったかわいそうな若者。
落ちて行く…。
どこまでも落ちて行く…。
とにかく眩しくて目を開けられない。
いつまでこれが続くのか分からない。
落ちてから下を流れる日川に叩きつけられるまでが長すぎる。
何かがおかしい。
いつまで経っても、その瞬間が来ない。
何にせよ、こんな死に方は嫌だ。
それとも自覚がないだけで自分は既に死んだのか…。
などと考えている内に遂に衝撃が来た。
「ぐえっ!」
下から声がした。
遂に忌むべき落下が止まった…が、大して痛くもない。
それほど大きな衝撃でもない。
水しぶきも上がらない。
自分が誰かの背中に着地したのは分かった。
途端に自分の周囲が闇に閉ざされた。
実際には光が止んで通常の明るさに戻っただけなのかも知れない。
その反動で視界がやたらと暗く感じているだけなのかも知れない。
昌恒の頭の中に直接声が響いたのは、正にその時だった。
―――土屋昌恒殿。―――
驚愕が昌恒の全身を支配した。
額から冷汗が流れ落ち、指一本動かせない。
「何者!?名乗られよ!!」
そう怒鳴ったつもりだったが、上手く声になったかは自信がない。
―――これは失礼致しました。―――
目の前にぼんやりとした影が現れた。
やがてそれが、はっきりとした人の姿になるまで、そう掛からなかった。
―――幽霊…だと?―――
幽霊の出で立ちは公家の物とは違っているものの、かなり高位の者が身に纏う物であることは何となく分かった。
「私は姓を諸葛、名を亮、字を孔明と申します。以後、お見知りおきを。」
妙に安心感を覚える声だった。
その声のおかげなのか、身体の硬直もいつの間にか解けていた。
金縛りだったのだろうか。
「こ、これはご丁寧に痛み入る。某は甲斐国守護武田家臣、土屋昌恒と申す。」
自分で返事をしておいてなんだが、我ながら間抜けな返しだ、と思った。
「まず、土屋殿の主家である武田家の滅亡についてお悔やみを申し上げます。」
「そうだ!それです!その後、一体どうなったのですか!?」
「当主信勝様、陣代勝頼様とその他の方々皆様が、無事にご最期を遂げられました。誰一人、織田の手にはかかっていません。」
「そう…ですか…。良かった…。」
本当は良くない。
ただ、余人を交えず一族郎党のみで最期の時を迎えられた。
そのことだけは、せめてもの救いだった。
頬を伝う涙がやけに冷たい。
涙を拭い昌恒は覚悟を決めた。
「消息を教えて頂き忝い。ですが某は生き残ってしまった。かくなる上はご主君の後を追いたく存じます故、これにて御免仕る。」
昌恒は太刀を抜いて首筋に当てようとした。
しかし強烈な金縛りが再び昌恒の全身を苛む。
「土屋殿。どうか早まらないでください。」
「くっ…な、何故止める!?」
「どうか落ち着いてください。これでは苦労して助けた甲斐がありません。」
「頼むっ!逝かせてくれっ!」
呪縛に必死に抗う昌恒に諸葛亮と名乗る幽霊は驚くべきことを告げた。
「生きよ…。あなたのご主君である勝頼様は、そう伝えてほしいと言っておられました。ですので、あなたに死なれては困るのです。」
昌恒の体から力が抜けた。
「私の目的のために必ず力になるからと、勝頼様はあなたを強く推薦してくださったのです。」
奔流のように溢れ出る涙もそのままに昌恒は抗うのを止めた。
その気力も無かった。
「目的とは?」
いくらか落ち着きを取り戻して昌恒は目の前の幽霊に聞いた。
「ある勢力との戦いにお力添えを頂きたいのですが…。その前に…。」
幽霊が下を指さす。
「え?あ…。」
「早くどいてあげて頂けませんか?」
黒い具足に身を包んだ男が一人、昌恒の下でうつ伏せにのびていた。
幽霊もばつが悪そうに苦笑していた…。
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総大将の無謀な渡河命令によって始まったこの戦は冬晴れの河畔を…そして大地を赤く染めて、敵方による虐殺が、いつ果てるともなく続いていた。
総大将…と言っても、あくまでもこの先遣部隊の中だけでの話だ。
遅れて進発する予定の本隊も含めた総軍の長に任じられているわけではない。
先遣隊の仕事は前線での拠点構築と維持だ。
こちらから敵に仕掛けることは固く禁じられていた。
はずなのだが…。
昨日のこと。
現地に到着して敵情を見るなり、この総大将は渡河しての決戦を主張した。
当然、諸将は反対し、軍議は紛糾して収拾の付かない状態のまま時が過ぎ去って行った。
そうした中で、せめて陣屋の設営でも進めていられれば良かったのかも知れない。
しかし総大将自らが本来禁じられていた更なる進軍を主張したため、そうした作業でさえ誰も指示が出せず、結果、いつでも進発できるような態勢で待機を続けなければならなかった。
結局、渡河して戦う事になったのは、とある老将が賛同を表明したからだ。
この人物とて最初は渡河に反対していた。
ただ、あまりの軍議の紛糾ぶりに統率が取れないまま前線が崩壊する事を危惧したのかも知れない。
それはそれで非常に危険な事態だ。
一手の大名として参陣している自分の父にとっては仇敵とも言える存在のこの老将を若武者は深く尊敬していた。
老将…と言っても、まだ三十を幾つか過ぎたぐらいの年齢なのだが、その経験は既に老練の域に達しており、それ相応の風格を漂わせている。
幸若舞ではないが人間五十年と考えれば既に人生の折り返し地点を過ぎている。
地元では猛将として名を馳せた父とは何度も名勝負を繰り広げたお人だ。
武運拙く天下人の庇護下に逃げ込む形となってしまったが将帥としての力量は本物だ。
それほどの人物だから、この状況での渡河が如何に危険で無謀な行動なのか、充分に理解しているはずだ。
そんな人物が賛同を表明した以上、渡河して敵と交戦する事はもはや決定事項となった。
父は納得していない表情だったが、それ以上の反論をやめた。
その老将も納得していない…いや、それ以上に無念そうに唇を噛み締めていた。
父もその気持ちが分かったのだろう。
総大将だけが場違いな気勢の上げ方をして軍議は解散した。
軍議の場として最優先で設営された陣幕の外に出ると一人佇んでいた老将と目が合った。
「済まぬな。御曹子殿。」
彼は若武者を見るなり、そう声をかけてきた。
不本意な賛同表明で場を収めた事の謝罪であろう。
「なんの。戦と決まれば腹を括るだけにござる。」
「お見事な覚悟である。しかし、これで我らの敗北は決まった。後は如何にして御大将を無事に逃がすか…。」
「然り。御大将まで討死したとなれば天下人の軍勢としての面目が潰れましょう。」
「そして貴殿と御父上にも。」
「否。父には逃げて頂きますが、某は此処に留まりましょう。この身に代えても御大将と父上には生き延びて頂く所存にござる。」
「それはいかん。御父上も、そして貴殿もこれからの天下に無くてはならぬ人材。ここは、この老骨に散り場所を譲ってくだされ。」
「何と申されましても、こればかりは譲れませぬ。お一人で逝かせる訳には参らぬ。お供仕ります。」
しばらくの沈黙の中、老将と睨み合った。
老将が不意に表情を崩して微笑を浮かべた。
「まったく。頑固な若君だ。まるで御父上のようじゃな。」
「お褒めに預かり恐悦至極。」
「褒めておらぬわ。」
顔を見合わせて二人は大笑した。
それが昨夜までの出来事だった。
その忌まわしき渡河作戦は翌早朝…つまり今朝、実行に移された。
そして、まだ昼にもならないというのに既に大勢は決していた。
現状は交戦という段階を通り越して敵方がこちらに対して掃討作戦を実行している状態だった。
逃げ遅れた者が容赦なく討たれていく。
敵が繰り出す小部隊での奇襲に一々反応したのがまずかった。
それを命じた総大将としては各個撃破を目論んだのだろうが…。
当然どの隊も敵の数に応じて追撃部隊を派遣する。
追ってはいけないと知りながら…。
案の定、敵の予定地点に誘いこまれて包囲される。
救援に動けば更なる大部隊で包囲してくる。
各個撃破されるのは敵ではなくこちら側だった。
敵の戦術は総大将以外の皆が分かっていた。
分断して各個撃破というのは彼我の戦力差で劣る側が勝る側に対抗するための常道だったが、それを総数二万五千ほどという圧倒的大軍の敵方が総数六千ほどのこちらに対して仕掛けてきたのだから堪ったものではない。
その後も敵方は地の利を生かし、巧みな用兵で、こちらの部隊を分断しては各個撃破という流れを地道に繰り返してきたが、その効果は絶大と言わざるを得ない。
敵は結局は同じ手を何度も繰り返しているのに誰も打開できないのだ。
それを率いている大将は戦術の天才と言っていいだろう。
敵ながら天晴れ。
我が生涯を締めくくる相手として不足はない。
首を失った者達が鮮血を噴き出しながら物言わぬ肉塊と化し、累々と横たわっている。
そんな光景に幾度となく出くわした。
遠からず自分もその内の一つになるのだろう。
父や主だった家臣を先行させながら後退を続ける。
そして今、敵を幾らか引き離したこの場で今一度態勢を整え、自身を含めた七百と余名は最後の戦いに臨もうとしている。
例の馬鹿大将は…というと、劣勢と見るやさっさと離脱したらしい。
まあ、護衛の人員を割く手間が省けたと考えれば必ずしも悪い事ばかりとは言い切れない。
やがて、かの老将の討死の報がもたらされた。
いざ負け戦となった時は互いに助け合わない。
その場を堅守して敵の足止めに徹する。
二人はそのように決めていた。
互いに、なるべく狭い所を選んで布陣する事にしていた。
敵に包囲されて、あっと言う間に殲滅されたのでは足止めにならない。
若武者自身も乱戦の中、父とはぐれたという体をとって、この場に落ち着いた。
老将もかなり持ち堪えたが、遂に陣を抜かれてしまった。
「我らもすぐに参りまするぞ。」
そう呟いて全軍に向き直った。
「各々方!敵はこちらに迫っている!今一度、武具を点検せよ!」
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
敵に対してではない。
異論があるなら申してみよ…と言いながら、こちらが発言しようとするところを遮って、無能なる田舎武者の分際で何も考えておらぬのに我が用兵に反対するのか…などとぬかす、口だけは達者なあの馬鹿大将に対して、だ。
無能なる田舎武者とは、そっくりそのまま彼の者に返せる罵詈雑言だった。
聞く耳もないのなら不要な頭の両脇のヒレを削ぎ落してやろうか…と、本気で思ったものだった。
「やることは変わらん!この場を死守!一人でも多く敵を斃し一刻でも長く時を稼ぐ!」
自害などという考えは全く頭をよぎらなかった。
腹を斬る暇があるなら、むしろ斬り死にするまで無心に敵を斬り続ける。
長柄の大長刀を杖に床机から立ち上がったその向こうに人馬の群れが見えた。
集結し態勢を整えながら接近してきていることから敗走してきた老将の配下ではないことは遠目に見ても一目瞭然だった。
全員が最後まで戦い、そして散っていったのだ。
目に熱い物が込み上げてきた。
しかし悲しんでいる暇はない。
その群れは数を増やしながらこちらに向かってきている。
「鉄砲隊第一陣!構え!」
堺で量産された鈍色の銃口が敵勢を睨めつける。
こういう場合、充分に敵を引き付けてから発砲…というのが基本だった。
だが、これは撤退戦であり、自分の役目は敵の足止めだ。
有効射程内ぎりぎりのところで発砲を命じた。
「第一陣後退!第二陣構え!」
一射目が与えた損害は少ないだろう。
だが確実に敵の足は遅くなった。
散発的に撃ち返しながらゆっくりと向かって来ている。
少し慎重になったのが手に取るように分かる。
「放て!」
構わず第二射を命じた。
慎重になったとはいえ第一射の時よりは接近している状態だったので敵の損害は多少は増えただろう。
そのようにして続けて第三射、第四射を浴びせた時点で敵は文字通り眼前にまで接近していた。
次弾を装填している暇はもう無い。
「総員抜刀!」
吶喊を上げ足軽が敵勢に斬り込む。
自身も先頭を駆けて長柄の大長刀を振るった。
六人…七人…。
八人目を斬ったところで刃先が折れた。
残った柄を振りまわして数人を打ち倒し敵勢に向けて投げつけた。
すかさず腰の左文字の太刀を抜く。
周囲の組頭や足軽達も奮戦している。
片腕を切り落とされながらも、なおも太刀を振りまわす者。
方々から槍に貫かれて動きを止められても、なお届かぬ刃を届かせようと足掻く者。
額を銃弾で撃ち抜かれ立ったまま絶命している者。
自身も似たような物だった。
浅い傷を幾つも付けられていた。
袖や草摺は数度に渡る敵兵の斬撃を防いでボロボロになり二枚胴には銃弾で穴を空けられた。
急所からは外れているものの、時折、体を襲う激痛が動きを妨げる。
左文字に持ち替えてから六人を斬ったところまでは覚えている。
そこから何人斬ったかはもはや数えていないが愛刀は着実に死体の山を築いていった。
その左文字も既に刃は毀れ、刀身は歪み、斬っているのか叩いているのか分からない使い心地だったが敵は確実に倒れていった。
それらを一々数えながら戦うのにも飽いた。
ただ無心に刀を振るっている方が性に合っていた。
そんなことを考えている間にも敵兵が血を噴き出しながら次から次へと転がっていく。
敵の誰かに名乗りかけられたようだが、かまっている暇はない。
一騎打ちに興じている暇があるなら一人でも多く敵を道連れにしてくれる。
だが敵兵の方が自分の周りから離れていき自然と一騎打ちの状況に持ち込まれてしまった。
「鬼神の如き凄まじさ!見事なる戦いぶりである!」
どうやら褒めてくれているようだが、耳を貸している場合ではない。
名乗りも上げずに斬りかかった。
二合…、三合…、いつ果てるともなく切り結ぶ。
既に満身創痍でありながら立っていられるのが不思議なほどに打ち合っていられる。
袈裟斬りを摺り上げて躱し、振り下ろした太刀を避けられ、横に薙いでくる刀を受ける。
そうした技の応酬を繰り返している間に周囲で立っている味方は一人も居なくなった。
いや、自分も倒れていた。
二枚胴のほぞが壊れ露出した腹部に突きを食らってしまった。
呻き声を雄叫びに変えながら立ち上がる。
狂ったように斬りかかったが、すぐに片膝を突いてしまった。
「御覚悟を…。」
傍らで一騎打ちの相手を務めた敵将が上段に太刀を構える。
これで終いか…まあ良い…。
自分で腹を斬る手間も省けた上に介錯までやってくれるとは至れり尽くせりだ…。
ここまでやっておけば父も無事逃げおおせたであろう…。
振り下ろされた太刀の動きに逆らうように血飛沫が舞い上がった。
血の海の中に転がった若武者の首はなぜか微笑んでいた。
白い光が静寂と共に辺りを包んだ…。
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薬草採取というのは腰にくる仕事だった。
決してギルドの連中が言うような楽な仕事ではない。
ずっと屈んでいなければならないので腰に負担がかかるが、間違って素手で毒草を掴んだり、叢に隠れた毒蛇に噛まれたりといったことでもない限り生命に関わる事態には、まずならない。
安全にこなせるなら…ということで馬岱は他の冒険者がやりたがらない採取系の依頼を複数引き受けた…のだが…。
これなら討伐系の依頼の方がマシなのではないか?
そう思いながらも人気の依頼は経験豊富な他のパーティが受注していくので、こちらに来てまだ10日ほどでしかなく階位の関係で受注資格のない馬岱は余りの依頼を受注して稼ぐしかない。
おかげで、ギルドからはありがたがられるが、だからといって、報酬に色が付くわけでもない。
呉懿の幽霊にも手伝ってもらってはいるが、実体のない幽霊に草摘みは難しいので、依頼に含まれている種類の薬草を見つけてもらい、自分が摘んでいる間に他の薬草を探してもらうという流れで、少しでも効率良く採取できるようにしながら今日までこなしてきたが、おかげで馬岱はすっかり腰痛持ちの仲間入りを果たしてしまった。
諸葛亮の幽霊はまだ誘いたい者がいるようで、ここ数日間は元の世界に戻っているようだ。
呉懿が示す場所に行っては草を摘み、新たに呉懿が示すところへ再び移動する…という流れで今日もまた作業しているときに、それは起こった。
と言っても正直何が起こったのか馬岱には全く分からなかった。
背後からの衝撃が、ただでさえ痛めている腰を容赦なく苛み、その激痛にすっかり気を失ってしまったようだ。
気が付いた時には誰かが背に乗っており、腰痛も相まって全く体を動かせなかった。
―――背中に乗っている奴は天然か?―――
そして、人の背中を踏みつけにしたままのそいつと呑気に話をしているのは、誰あろう、ここ数日の間、全く姿を見かけなかった諸葛亮だった。
苦痛に表情をしかめながら諸葛亮を睨んだ。
ここで初めて気が付いたのか”その前に…”と言って諸葛亮が自分の顔を指差した。
「え?あ…」
「早くどいてあげて頂けませんか?」
背中に乗っていた奴もさすがに気づいたのか慌てて自分の背中から飛び退いた。
「てめえ!いきなり何しやがる!?」
上げた怒声が自らの腰にとどめを刺した。
「痛ってえ!」
全身が雷に打たれたように痺れた。
「も、申し訳ございません!申し訳ございません!」
背中に乗っていた男が平伏しながら謝罪を繰り返しているが、正直、痛みに耐えることで体力を使い果たしてしまい、それを聞いてやるどころではなかった。
諸葛亮も謝罪してきたが何故か半笑いだ。
「丞相、あんたもあんただ。連れてくるのは良いとして何でわざわざ人の背中に落とすんだよ?せっかく少しは良くなってきたってのによ。」
「まあまあ、そう怒らずに。」
「あのー。」
背中に乗っていた男が話に割り込んできた。
「あん?」
馬岱は男の方に顔を向けた。
痛い腰を庇うため寝返りを打つような動作になってしまった。
若いな…。
それが第一印象だった。
鼻筋が真っ直ぐに通り、何か意を決したようなキツめの眼尻には、細面ながら相当に剛直そうな内面が滲み出ている。
若いがかなりの歴戦なのだろう。
何となく自軍に配属されたばかりの頃の鄧聞の事を思い出した。
「某は甲斐国守護武田家臣の土屋昌恒と申します。」
「そりゃご丁寧にどうも。馬岱だ。よろしくな。」
内心では評価しながらも素っ気ない返事を返すのは自分の通常運転だった。
「ご丁寧に痛み入る。それで馬岱殿。先程、諸葛亮殿の事を丞相と呼んでおられましたが、それは?」
「あー。それはな…。」
「それは私がお答え致します。丞相というのは官位名で、行政府の最高長官です。土屋殿のお国の官位で言うところの太政大臣に相当する、と言えば分かりやすいでしょうか。」
諸葛亮のドヤ顔が鼻につくが、土屋と名乗った男の方は仰天して固まってしまった。
「おい、土屋って言ったか。そんな畏まる事ねえんだぞ。この人なんか、ちっとも偉くなんかねえんだからな。」
「何という事を仰るのですか。廖化将軍ではありませんが、やはり牛乳を飲む習慣を身に付けられては如何ですか?」
「だから結構飲んでる方なんだよ俺は。羊のも牛のも馬のも。」
「と言っても、ほとんど馬乳酒ですよね?いくら乳とはいえ酒である以上、飲み過ぎは体に毒ですよ?」
そんなやり取りをしていると次の採取地点に居た呉懿が戻ってきた。
「孔明殿。それは必ずしもそうとは言い切れんぞ。wikiによれば肉食中心の遊牧民の生活において、貴重な野菜の代わりにビタミンやミネラルを補うものとして大量に飲まれている。酒とは言うもののアルコール度数は1% - 3%程度であり、水分、エネルギー、ビタミンC補給源として…。」
「だから爺さん、有為記って何だよ?美多民って何だよ?未涅羅瑠って何だよ?亜瑠胡汚瑠って何だよ?破亜遷都って何だよ?慧涅瑠義威って何だよ?美多民恣意って何だよ?」
「長いわ!そんなに一遍に答えられぬわ!」
「カタカナは苦手なのに聞き漏らさないのが不思議でなりません。中には美多民などという秀逸な誤変換もありますし。」
「そんな事はねえだろ。ギルドとかパーティーとかはちゃんと言えてるし。」
「それだって最初は義瑠奴とか破亜亭とか仰っていたではありませんか。」
「そうだっけ?」
「そうですよ。」
ここで黙っていた土屋が話の根幹が揺らぐ事を言った。
「いや、それよりも、皆様方は何故、口頭の発音を聞いただけで当てられている漢字が分かるのですか?」
「…。」
「お前は何で分かるんだよ?」
「さあ?何故か頭に浮かぶとしか…。」
諸葛亮は答えを知っているようで先程からほくそ笑んでいる。
「なんだよ?理由知ってんのか?」
そんな諸葛亮に質問を向けると我が意を得たりとばかりにすらすらと答え始めた。
「これは簡単です。我々は世界を渡る際にスキルという秘技を身に着けるからです。その秘技の中に含まれる能力のお陰で違う言語体系で成り立っているこの世界の人とも難無く会話が可能ですし文字を読み取ることもできるのです。」
「須基廬?なんだそりゃ?」
「え?説明したはずですが?」
「いや、聞かされてねえよ?」
「というより人の話を聞いていなかったのでは?」
「そうとも言う。」
「これまた随分はっきりと仰られる。よろしいですか?スキルというのは個人が行使できる技能を瞬時に発動できるように分類し体系化した物です。」
土屋は、ぽかーんとした顔で聞いている。
はっきり言って自分も似たような状態だが顔には出さないように馬岱は努めた。
「これには大きく分けて戦闘系。魔術系、生活系の3つがあります。今回の当て字の件は生活系の言語に関するスキルの話になります。」
あくびをかみ殺している丁度その時に、諸葛亮が言葉を切って全員を見渡したので慌てて聞いている表情を作った。
「このスキルは異国の言語を自国語に翻訳する機能が中心となります。」
「なるほどな。」
「この中には音声を文字に変換する能力も含まれています。ですので土屋殿が仰られた『何故か頭に浮かぶ』という感覚は正常であると言えます。」
「ふむふむ。」
「しかしながら馬岱将軍はこの文字変換の能力の精度が低いように思われます。カタカナ表記の言葉が妙な漢字に変換されるのも、この所為かと。もしかすると、スキルの精度ではなく馬岱将軍ご自身の知能が低いのかも知れません。」
「さらっと悪口放り込んだな。」
「孔明殿、非常に為になった。しかしこやつがその手の事を最初に言うたのはまだ漢中におった時なのだが。」
「それは呉懿将軍が既にスキルを習得しておられた影響で起きた現象かと。」
「なるほどのう。腑に落ちたわ。で、馬岱よ。貴様があまりにも来んから儂が摘んでおいたぞ。」
「おう、悪いな…って、幽霊は実体がねえから物を掴めねえんじゃなかったのか!?」
「何を申すか?貴様の思い込みであろう。こちらの世界は魔素が豊富ゆえ物質化も可能であるぞ。」
そう言うので呉懿の姿に触れてみた。
「あ、ホントだ。」
確かに感触がある。
「まあ肉体を取り戻したのではなく、あくまで疑似的な物ではあるが。」
「俺にゃ良く分かんねえよ。ま、今日の分はこれで充分だろう。戻ろうか?」
そう言うと土屋が困ったようにこちらを見ているのに気が付いた。
「どうした?」
「お聞きしてもよろしゅうござるか?」
「なんでもお聞きください。」
諸葛亮に促され、土屋はまたしても話の根幹が揺らぐ事を言った。
「ここは一体どこなのですか?」
そういえば諸葛亮の話の中には、この世界の事に触れる内容は無かった。
当の諸葛亮も誤魔化すように笑っているだけだった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
郭淮の消息は依然として掴めなかった。
あれから三日は経っている。
自分もこちらに来たばかりなので、まず郭淮の行方以前に、この世界の事を知る必要がある。
幸いにして言葉は通じるし、諸葛亮に聞かされた予備知識もあるので聞き込みの際に困ることは無かった。
それでも人との会話で返答に窮するようなことがあれば素直に分からないと言えば大抵は親切な返事が返ってくる。
そうでなくとも黙って立ち去ってくれるので煩わしさを感じることは無かった。
そして肝心の諸葛亮は郭淮の捜索、元の世界での武将の勧誘など忙しく飛び回っている。
自分より先にこちらに来ていた者達の事も見なければならないようなので、ほとんど顔を合わせる事がない。
郭淮の消息は一先ず後にして、牛金はこの町のギルドに向かった。
到着してすぐに諸葛亮から冒険者として登録を済ませる事を勧められて一昨日から活動を開始している。
食事代と白嵐の餌代、そしてできれば宿代も稼ぎたかった。
いつもの通りを歩き、通り沿いにある広めの建物の扉を開けた。
ギルドの中は酒場のように活気づいてはいるが、当然、酒を出す場所ではない。
魔獣や敵対的な亜人などとの戦闘を生業としている連中ばかりなので男も女も、お世辞にもガラが良いとは言えない。
紙片が何枚も鋲止めされている掲示板の前に立った。
紙片には発注者名と依頼内容と期限が記されている。
その中から受注したい内容の物を選び受付に持っていけば後は登録証の提示だけで受注できる。
登録からまだ日が浅く冒険者としての階位は最下層のEなので受注内容に制限はあるが選り好みしなければその日を食うには困らない。
そうやって数をこなし階位を上げていけば儲けも出る。
それが冒険者の生活だと諸葛亮からは教えられた。
最終目標は絶対神との戦いだが、もちろん、いきなりそんな事ができるわけではない事は理解していた。
今はこの世界の民として世の成り立ちをしっかりと理解しなければならない。
その辺りについては牛金は焦らなかった。
むしろ何年でもかけてじっくりと準備するという心構えで居た。
急ぎたいのはやはり郭淮の事だった。
ただ、あの槍に周芳たちの霊が宿っているのなら必ず生き延びたはずだ。
そんな事を考えながら掲示板を見渡したがEランクで受注可能な依頼はなかった。
一つ上のDランク以上なら受注可能な仕事はあるようだが…。
こうなると他のパーティーの応援や下請けに入る以外に稼ぐ方法がない。
もっとも諸葛亮からはこんな話も聞かされた。
最近は、その場のノリや酔った勢いでパーティーを結成してクエストを受注するものの、後から面倒になったり怖くなったりと、およそ大人の常識では通らない様々な理由でクエストを断る若者の集団が急増して問題になっているというものだ。
生活がかかっているまともな冒険者からすれば甚だ迷惑な話でありギルドの方でも厳しい罰則を設けて対応しているが、あまり減らないというのが実状のようだ。
都市の若年層の人口が多いほど事態は深刻化しやすく、この町…グランフォールも例外ではない。
現に自分もこうして仕事にあぶれている。
まあ、しばらく待っていればそうした連中の差し戻した仕事が再度、貼り出されるかもしれない。
牛金は気長に待つ事にした…。
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この世界について、諸葛亮からは充分な説明を受けた。
昌恒の眼前に広がる草原の緑は眩しく、所々に点在する木々の影が少しだけ伸びている。
昼をいくらか過ぎたぐらいの時間帯のようだ。
「大体は把握できたか?」
馬岱と名乗った男にそう声をかけられたので頷いた。
「じゃあ、帰るか。その籠を持ってくれ。」
馬岱が指を差した先の籠には草がいっぱいに入っている。
全部、薬草なのだろう。
「大した額じゃないが売れば2日分ぐらいの生活費にはなる。大事に運べよ。」
そう言いながら、この馬岱は一向に立ち上がろうともせずに左手を伸ばしてきた。
「お前のせいで、腰やっちまったんだから、肩くらい貸すのは当然だろ。」
そう言われてしまうと一言もない。
昌恒は黙って馬岱が立ち上がるのを手助けし、肩を貸してやった。
「ゆっくりな。」
「はいはい。」
「痛てて…だからゆっくりだって。」
諸葛亮が口を挟む。
「何も無理に歩かなくても…。転移しますのに。」
「城兵が見たら大騒ぎになるだろ。それに明日の採取場も見当をつけておきたいんでな。」
「変なところは真面目なのですね。」
「しょうがねえだろ?食ってかなきゃならねえんだから。というわけで土屋、頼んだ。」
と、馬岱が言っているそばで、諸葛亮が地面に羽扇を翳していた。
足下に方陣のような図柄が現れて光りだした。
「ほら。お入り下さい。」
「いや、いいって。眩しいから嫌なんだよ、それ。」
「これでは土屋殿が可哀想でしょう。」
「つべこべぬかすな。」
今度は呉懿がそう言って嫌がる馬岱を光のなかに押し込んだ。
「痛い痛い!」
「はい。お二人とも目を閉じてください。」
言われるままに目を閉じた。
崖から落ちた時と同じだ。
瞼を閉じていても相当に強い光に包まれているのが分かる。
やがてその光が弱まったところで昌恒はゆっくりと目を開けた。
先程のような平原ではなく緩やかな丘の斜面にいた。
足下には草原が広がっている。
「ああ~、目がチカチカする。だから嫌なんだよ。」
「ボヤかないでください。ここならば、明日の採取場にちょうど良いのではないですか?」
「城は?」
「ここからだと南西の方角になります。徒歩で半日ほどの距離でしょうか。」
「まあ、悪くないか。」
そんなやり取りのそばで、昌恒は微かな悲鳴を聞き取ったような気がした。
「今、悲鳴が聞こえませんでしたか!?」
「いや。」
馬岱が即座に否定した。
本当は聞こえたのだろう。
諸葛亮と呉懿も聞き取ったようで、音源の方角を見た。
「おい。変な気は起こすなよ。こっちは腰痛なんだからな。」
「行きますよ!」
言うが早いか諸葛亮が羽扇を足下に翳す。
光に包まれてから、消えるまでの間、変な事に首を突っ込むな、という馬岱の文句が聞こえてきたが、そんな場合ではない。
光が失せた眼前には、とんでもない光景が広がっていた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
扉が開いて、1人の若い男が入ってきた。
手には依頼書らしき紙片を持っている。
具足ではなく道服姿だったので魔術師か何かなのだろう。
クエストの差し戻しか…。
牛金は何となく、その若者の姿を目で追った。
掲示板のすぐ近くの窓口の一つで若者が受付嬢と話をしているのを聞くと、どうやら人数が揃わなかったようだ。
若者は申し訳なさそうに、しきりに頭を下げている。
受付嬢のやや咎めるような口調に、いつまで待っても集合場所に仲間が来ないというような事をこぼしているし、受付嬢は罰則の規定に則ったペナルティは受けなければならないと言った。
思わず牛金は割って入った。
「ならば某が引き受けよう。彼が受注し、某が下請けに入った。それで良いのではないか?」
言いながら登録証を提示した。
受付嬢がこちらをマジマジと見つめる。
若い男は自分を見て固まってしまっている。
別に自分はそれほど強面という風貌でもないが、こうした反応をされる事は良くあったので慣れていた。
「ギュウキンさん。あなたもEランクですので確かに受注資格はあるのですが、本当によろしいのですか?下請けという形ですと、当ギルドとしてはこの方に達成報酬を支払って、ギュウキンさんの取り分についてはこの方に直接交渉して頂く事になりますよ?」
「それは構わない。最低限、今日の飯代と馬の餌代を稼げれば明日の事はまた明日考える。」
言い終わる前に若者が口を挟んできた。
「そ、それでは申し訳ないので、私はこの仕事をお返ししてギュウキンさん?の方で完全に引き受けて頂いた方が…。」
「君はどうするんだ?」
「僕は冒険者のお仕事から完全に手を引きます。元々魔術師の養成学校を卒業して気が大きくなっていたところはありました。来なかった他のみんなも多分同じだったと思います。まだ子供だったんです、僕らは。」
「クエストの差し戻しには罰則が適用されるのではなかったか?」
「仕方がないです。毒消しの素材の採取なので大した金額でもないのに下請けじゃ、もっと取り分が減ります。それでは申し訳ないので。」
牛金は少し考えて受付嬢に聞いた。
「この場合、どのようなペナルティが課せられるのだ?」
「違約金5ゴールドの支払いと資格取り消し、それに1年間の資格再取得不可。以上になります。」
想像よりも厳しい内容だった。
違約金は仕方がないとしても資格の再取得が1年間禁じられるというのは中々の物だと感じた。
無論、この世には冒険者以外の生活の道も数多くある。
冒険者稼業だけが人生というわけでもない。
ただ、その一方で職を失った者が手軽に始められるのもまた冒険者稼業というものだ。
実質、ギルドに登録するだけで始められるのだから、この稼業に足を踏み入れる者も後を絶たない。
その後、続けていけるかは別として人気職であることに違いはなく、一度、資格停止になってから再開しようとしても、その年度ごとに登録可能枠が決まっているので食い込めるかどうかは分からず、最悪、何年も浪人として過ごす再登録希望の元冒険者も多いと聞く。
食うに困ってそのまま野盗化する者も実際にいるようだ。
「登録は個人だったのか?それともパーティーか?」
「パーティーです。薬草採取でも複数をまとめて引き受ければかなりの稼ぎになると思ったので…。」
受付の上に置いたままの若者の登録章を覗いた。
「君はリーダーだったのだな。だったら来なかった者達を全員解雇して某が新たに加わった形を採ればよいではないか。」
「そんな、いくら現在はEランクとはいえ見るからにAランクオーバーの騎士様が僕なんかのパーティーの一メンバーだなんて。」
正直どうして、ここまで彼にかまったのか牛金自身にも分からない。
ただ、来なかったという典型的な若者たちと、この若者は違う。
それだけは、はっきりと分かった。
「まあ、Aランクとか騎士とかいうのは君の買い被りだ。某は只の剣士に過ぎない。ただ、言い出したからには某も責任を持とう。しばらく待っていれば、君のように依頼を差し戻しに来る者も現れるだろう。そういう依頼をこちらで巻き取れば、そこそこ稼げるはずだ。」
希望で若者の顔が少し明るくなった。
牛金は受付嬢に向き直った。
「勝手に決めてしまったがギルド側に何か問題はありそうか?」
「いえ、特には。ただ特殊な例ですのでギルドマスターにも話を通さないと。あちらの談話スペースでおかけになってお待ちください。」
「承知した。」
若者を促し談話スペースに腰を下ろした。
「ところで、まだ君の名前を聞いていなかったな。」
「あ、申し遅れました。僕はアンソニーと申します。」
「既に名前は知ってもらっているようだが改めて牛金と申す。それで、アンソニー。見たところ君は魔法職のようだが具体的には?」
「僕は大魔導士!…に憧れる駆け出しの魔法学校卒業生です。」
アンソニーはやや自嘲気味に語った。
難しい夢なのだろう。
牛金は頷いた。
かなわぬ夢を抱えたまま若くして逝く者もいれば、夢を馬鹿にして生き長らえる者もいる。
だから若い頃はそれでいい。
それぐらいが丁度いい。
人の死を数多く見てきた牛金にも本当に生き残れる者を見抜く事はできない。
自分がいつ死ぬかさえ分かりはしないのだ。
だからこそ若い内の夢は大きく持っていた方が良い。
「ギュウキンさんは元軍人ですか?」
「そう、見ての通りだ。まあ今は無位無官の平民だがな。」
牛金もアンソニーに倣って自嘲気味に返した。
そんな感じで軽く話し込んでいると受付嬢が一人の男を連れて戻ってきた。
「お待たせした。グランフォール支部のマスター、ダリウス・ヴェインだ。」
中々の巨躯だ。
年齢的には自分より幾らか歳上であろうか。
筋骨隆々を絵にかいたような体躯を執務服で隠しているが隠しきれていない。
「それでパーティメンバーの入れ替えとのことだが?」
実質は只の相談だ。
…なのだが、戦場で敵将と対峙するような感覚を牛金は久しぶりに味わった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この連中には本当に困ったものだ。
痛む腰を摩りながら馬岱は、いささか呆れていた。
余計な事に首を突っ込むな、という警告をまるで理解していない。
危惧した通り目の前には凄惨な光景が広がっている。
街道に横倒しになった2両の馬車。
周囲を染め上げている鮮血。
かつて人体を構成していたはずの部位がバラバラに血の海の中に転がり、馬車の周辺を物色していたであろうガラの悪い男女が驚いて口を開けたままこちらを見ている。
野盗・山賊の類ではない。
トラスト・エッジという、れっきとした冒険者パーティーだ。
状況から言って交戦は避けられない。
連中の実力はC。
それなりに強いといったところだ。
正体不明の商人襲撃犯の調査・討伐依頼はギルドの商工部門からも出ている。
それを誰かが受注したかも知れないし、していないかも知れない。
つまり事後の報告の仕方を間違えれば、こちらが野盗扱いを受けかねない。
正義などという2文字は馬岱の中には存在しない言葉だったが、避けられないのならぶつかるしかない。
そんな思考を巡らせる貴重な時間を邪魔してきたのはトラスト・エッジのリーダー、アルマンだった。
「はあ、バタイさんか。参ったね~。見逃してくんないかな~?」
土屋は自分に肩を貸したまま刀の柄に手を掛けている。
勝手に斬りかかっていかれても困るので馬岱も会話を繋いだ。
「いやあ、難しいよね~。この場は逃れられたとしても商工会が直で依頼出してる事案だからさぁ。大陸全土に手配書回ると思うよ?」
「それなら大丈夫だよ。他の町でもやったことあるけど正体不明のままだったから。お金もたんまり入ったから黙っててくれたら幾らかあげられるし、何なら一緒に来ない?おいしい商売だよ?」
「アルマンさん、それは無理だって~。せっかく食い物がうまい街に腰を落ち着けたんだからさ~。しばらくは動きたくないよね~。」
「やっぱダメ?」
「だね~。申し訳ないけど。」
「そっか~。残念だな~。じゃあ、そろそろ行かないといけないけど、目撃者をそのままにもしておけないから、悪いけどここで死んでくれる?」
アルマンが酷薄な笑みを浮かべ、パーティーが散開する。
「二人じゃ、どうにもできないでしょ?大人しくしてくれれば楽に死なせてやるからさ~。」
その言葉で呉懿と諸葛亮の幽霊二人が姿を消している事に馬岱は初めて気が付いたが、なんとかなりそうなので特に気にはしなかった。
「それとも戦う?この人数相手に?」
アルマンの白々しい問いかけが続く。
「いやあ~、俺は腰やっちゃてるからさ~。代わりにこの土屋が相手してくれるってさ。」
そう言って馬岱は背後の木のそばに腰をおろして背を預けた。
「え!?某一人ですか!?」
「そうだよ?頼んだぞ。」
アルマンとヴォルグの前衛二人は剣の柄に手を掛けている。
その後ろに魔術師のラザールが居て何らかの呪文の詠唱を始めた。
更にその後で弓手のヴィヴィエンヌは矢をつがえて引き絞っている。
回復役のコレットはその隣でいつでも負傷した仲間を回復できるように備えている。
土屋も刀を抜いて正眼に構えていた。
敵全員の意識が土屋に集中している。
馬岱はその隙を逃さず飛刀を放った。
人の隙間を縫って飛んで行ったそれはヴィヴィエンヌの眉間にまっすぐ突き立った。
のけ反りながら倒れる彼女の右手が、つがえた矢から力なく離れ、意図せずに放たれた矢がラザールを背後から貫いた。
一瞬遅れて動いたコレットの首筋に二投目を突き立てたが、前衛二人と土屋は時が止まったかのように動かない。
瞬間的に起こった出来事を把握できずにいたようだが、その均衡もすぐに崩れた。
ロングソードを大上段に構えたヴォルグの突進を躱しながら土屋は体を右へ回し同時にその勢いで降り抜いた刀が盾の死角からヴォルグの首筋を襲った。
ヴォルグの首が宙を舞うのと土屋の突きをアルマンが辛うじて盾で受け止めたのがほぼ同時だった。
そのまま体をぶつけてアルマンを転倒させた土屋が馬乗りになって揉み合い、しばらくの格闘の後、首級を上げた。
「なかなかやるじゃねえか。」
馬岱は素直に称賛した。
「いえ。しかし、ああいう形で助太刀を頂けるとは…。恐ろしい手並みです。」
土屋が頭を下げる。
「まあ、いいさ。じゃあ、体の方はそのままにして全員の首級だけ上げてくれ。これから戻る街で事態を報告するのに必要だ。」
「承知。」
土屋が残り三人分の首を落としに行く。
戦場じゃあ、命が安すぎる…。
馬岱は腰が楽な姿勢を崩さずにその様子を眺めていた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2人の間には目に見えない緊張が満ちている。
その緊張が壁になって高く聳え立っている。
今の自分には到底超えられない高さだ。
アンソニーには、そういう風に見えた。
互いに認め合った者同士の緊張感のあるやり取りだった。
受付のカウンターでのやり取りの整理が取り敢えず優先された。
自分が受注した依頼について、人が集まらず止むなく差し戻しにギルドを訪れた事、差し戻しの旨を受付に話したところ見かねてギュウキンが助け舟を出してくれたこと、その過程で下請けやパーティ加入などの提案があった事を話した。
何故、ただの薬草採取に人数を必要としたのか、という問いに対しては、今後、大量に受注して利益を出したいという思いがあったと答えた。
これは後々ランクが上がった際に難しいクエストを受注するのにも有利になる。
答えているのは主に自分だったが、ギルドマスターの興味は明らかにギュウキンの方に向いていた。
「うーむ。」
話を聞いたダリウスという初老のギルドマスターが低く唸った。
しばらくの沈黙の後、ダリウスが口を開いた。
「ギュウキン殿。Eランクの冒険者というのは、はっきり言えば駆け出しだ。なのに貴殿はギルドの仕組みをよく理解した上で、これらの提案を出し、資格剥奪寸前の若者を救おうとされた。見事と言う他ない。もしかして軍務に携わった経験をお持ちか?」
「ほんの数日前まではそうだった。」
ギュウキンは元軍人らしい簡潔な答えを返した。
「なるほどな。見たところかなり上位の武官だったように思えるが一体どこの王家に仕えておられた?」
「こことは全く違う世界の王朝に仕えていた。今は無位無官の平民に過ぎぬ。」
「官位は?」
「後将軍。それがこの世界に当てはめた時、どの程度の位になるのかは分からぬ。いずれにしても国を追われて、この世界に来た。」
再び沈黙が談話席の周辺を包む。
異世界から来た元将軍。
それが誇り高さを保ったまま、しかし尊大に振る舞うわけでもなく、自分のような坊やと同じ目線で接してくれている。
アンソニーにとっては、あまりにも衝撃的なことだった。
「相分かった。それではマスターの権限でギュウキン殿のランクをB、パーティーのランクをCまで引き上げよう。」
これには側で聞いていた受付嬢の表情にも驚愕の色が浮かんだ。
自分も同じだったろう。
もしかして反応を試されているのだろうか?
ギュウキンの表情は静かなままだった。
「随分と破格な待遇だがよろしいのか?はっきり言えば某など、この世界の人々にとっては何処の馬の骨とも知れぬ存在。こちらに来て僅か数日で一流扱いなど有り得ぬ。」
ダリウスは途端に表情を崩し、そのいかつい風貌にまるで似合わない笑顔を浮かべた。
「思った通りのお人だ。貴殿は腑抜けた貴族と違い、根っからの軍人なのだな。」
なんとなく試されているような雰囲気はギュウキンも既に感じ取っていたのかも知れない。
簡単には乗せられないという雰囲気が隣の自分にも伝わってくる。
「その貴族というのがどういう身分の人々かは知らぬ。いずれにしても、ここはしばらく我らの働きを見て頂きたい。その上で御判断願おう。」
ギュウキンの頑な言葉を聞いてもダリウスは笑顔のままだった。
口角を上げて更に試すようなことを言う。
「無論、タダで引き上げるとは言わん。こうした差し戻し案件は今後も続出するだろう。それを優先的に回す故、貴殿らが一定期間内にこなすこと。それと…。」
「それと?」
「パーティーリーダーの交代。それが条件だ。」
アンソニーにとっては再びの衝撃だった。
もちろん自分がギュウキンと比べて遥かに劣る存在なのは分かっている。
ただ、もう一方では安心した自分も心のどこかにいた。
受付でのやり取りだけでもギュウキンという人物が如何に判断力に優れているかが分かる。
集合場所に来なかった友人だと思っていた誰かさん達にも言いたいことは山ほどあるが、結局のところ自分がリーダーの器ではないから誰も集まらなかったということでもある。
アンソニーは意を決して口を開いた。
「ギュウキンさん!僕からもお願いします!ネクスト・レジェンズなんてカッコつけたパーティー名をつけちゃいましたけど、僕にリーダーは荷が重すぎます!」
ギュウキンが静かな面持ちのまま、こちらを見つめてくる。
「君は本当にそれで良いのか?」
そう言われたが、良いとしか答えようがない。
一つの国で一軍を率いていたギュウキンと自分のような学生上がりなど資質に雲泥の差があるのは誰の目にも明らかだ。
もう一度、聞かれた。
「本当に良いのか?」
一度目の時よりも少し強い圧を感じ、アンソニーは気圧された。
なぜもう一度聞かれたのだろうか。
それが分からないままアンソニーは答えた。
「ええ。」
ギュウキンの表情はどこまでも静かなままだった。
自分も逃げようとしているのだろうか。
集まらなかった彼らと同じように…。
ギュウキンも同じように思っているのかも知れない。
それでもこの場合、リーダーの座を譲った方がいいのは目に見えている。
これは戦術的撤退というやつだ。
「決まりだな。」
僅かに流れた沈黙の時をダリウスが破った。
「良い判断だと思う。少なくとも愚かではない。」
重ねてダリウスが言ったがギュウキンは何も答えない。
「ギュウキン殿はどう思っているのだ?」
「千人を率いるのも一万人を率いるのも、そして一人を率いるのも、某にとっては何の違いもない。」
「ほう?大した自信だな。」
「いや、人の命を背負う事に変わりはない、という話だ。」
ギュウキンの言葉に沈黙が再び訪れる。
話は決まったと思っていいのだろうが、それでも心のどこかに何かしらの引っ掛かりが残る。
それでも、これが一番いい選択なのだ。
アンソニーは、そうやって自分を納得させた。
自分は逃げたのではない。
少し後ろに退いただけだ。
そして、また前に進む。
そのための助走距離を取っただけだ。
ギュウキンとダリウスの間で実務的な話が始まる中、アンソニーは心の引っ掛かりの正体をそれ以上は確かめようともせずに、ただ聞いていた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え?これ全部、某が持つんですか?」
「当たり前だろ。腰痛持ちに荷物持たせる気か?」
「うへえ…。」
並べられた人の首5つを前に大の大人2人が、こんな間抜けなやり取りをしている。
「女と杖の男は良いとして前に居た二人と弓の女は短髪ですよ。どうやって掴むんですか?」
昌恒は嘆きながら馬岱に聞いた。
「何とかしろ。おっと。一つだけ籠に入れようとか考えるなよ。薬草っていう大事な商品が入ってるんだからな。」
そうしようかと考えた瞬間に釘を刺されてしまった。
「土屋殿。そのまま置いていてください。城の前まで転移します。」
諸葛亮が姿を現して、そう言ったので助かったが、馬岱はまた、眩しいから嫌だとか、城兵が身構えるだろ、などと文句を言い始める。
聞いているのか、いないのか、諸葛亮は5つの生首を囲うように地面に光の方陣を描いた。
「はい。準備できましたので入ってください。」
「だから、だめだって…。」
「つべこべぬかすな。」
呉懿が馬岱を無理矢理押し込むのは、もうお定まりの展開だ。
「だから痛えんだって!」
「普段、人を年寄り扱いしておる者が年寄りのようなことをぬかすな!早う入らぬか!」
呉懿が馬岱の背中を足蹴にした。
「ぐわっ!!」
馬岱が苦悶の表情を浮かべながら数歩押される。
そして方陣の中で直立不動のまま固まってしまった。
諸葛亮も呉懿も笑っている。
あまりにもひど過ぎる仕打ちに昌恒も思わず吹き出しそうになった。
「笑い事じゃねえよ。本当に腰が逝っちまったらどうしてくれんだよ?」
「殺しても死なぬような男が何をぬかすか。そこで大人しくしておれ。」
相変わらず、この幽霊たちは馬岱に容赦がない。
方陣の輝きが周囲を呑み込む。
そして光が収まり眼前が開けた。
垂直に立つ高い壁が平原の一部を四角く囲っている。
その周囲は田畑に囲まれている。
巨大な門扉が、それぞれの壁にあり、その正面だけは門と同じ幅の道が通じている。
「ここが我々の滞在するヴァルクール城です。我々は今、城の北東の角にいます。」
諸葛亮の説明に昌恒は驚愕した。
「城!?一つの城がこんな広大な区画を壁で囲っているのですか!?」
「ああ、土屋殿はこの様式は初めてでしたね。これは城塞都市と言いまして、街一つを城壁で囲んでおり、日本国で見られるような城とはまた違った防衛思想で建てられています。」
圧巻だった。
その威容に昌恒は思わず息を呑んだが、諸葛亮に言わせると、これでも小さな部類らしい。
「まあ、この辺は田舎ですから。」
こんなに巨大な城壁で囲われていて、それでも田舎町とは…。
いざ戦となれば田畑を縦横に走る用水路が瞬時に城周辺を泥濘に変えて攻城側の足を止める。
無理に城壁や城門を越えようとすれば相当な被害を覚悟しなければ落とすことはできない。
しかも敵からすれば田舎町だから多大な犠牲を払ってまで攻め取る価値があるかどうかも悩ましいところだろう。
難攻不落。
正にこの城を形容するのにふさわしい言葉だと昌恒は、ほとほと感心した。
「では、騒ぎになるといけませんので私達は姿を消します。」
そう言って幽霊は二人とも姿を消した。
後に残されたのは腰痛持ちと片や荷物持ち、そして一つの薬草籠と五つの生首だった。
「これ、どうするんですか?」
地面の五つの物体を指差しながら、腰を擦る馬岱に聞いた。
すぐそこが目的地とはいえ、さすがにこんな持ちにくい物を持って歩く気にはならない。
「しょうがねえな。おーい。」
歩哨だろうか。
城門の所で立ち番をしている鉄製の全身鎧の兵士数名に向かって馬岱が手を振った。
2名を残して、それ以外の歩哨が全員こちらに向かって歩いてきた。
「バ、バタイさん!?なんですかコレ!?」
全身鎧の集団の隊長格らしき兵士が驚いたような、困ったような何とも言えない表情で叫んだ。
「慌てんなよ。別に故なく斬ったわけじゃねえ。ここ最近、あちこちの街を騒がせてやがった商隊襲撃犯の首だ。軍営で説明するから運ぶの手伝ってくれ。」
「分かりました。おい。」
隊長らしき男が声をかけ兵士5名が一つづつ首を持って城門に向かっていった。
城門へ向かう兵士達の背に向かって馬岱が付け加えた。
「あーそうだ。ついでにママさんも軍営に呼んでくれ。そいつら表向きはCランクの冒険者パーティーだからな。」
口々に、了解です、と返す兵達の背を見やりながら、ママさんって誰だろうなどと疑問に思っていると隊長格の男が苦情を言い始めた。
「しかしバタイさん。困りますよ。ああいうの剥き出しで持って来ちゃダメですって。布に包むとかしないと。」
至極当然の物言いだとは思うが、馬岱も、さすがと言うべきか口が減らない。
「そんな気の利いたもん持ってるわけねえだろ。こっちだって薬草摘みのつもりで動いてたんだからよ。あー腰痛え。」
「腰を痛めたんですか?」
「ああ、あいつのせいでな。」
馬岱の視線が咎めるように昌恒を射抜く。
「こちらの方は?」
「転移者。俺と同じだ。」
二人の視線がこちらを向いたので昌恒は簡単に名乗った。
「土屋昌恒と申す。」
「ツチヤさんですね。東門守備隊のエドモン・フェンリックです。よろしく。」
守備隊なのだから、もっと厳しい態度で接してくるものだろうと身構えていたが、思いのほか人当たりが良く、拍子抜けした。
だからといって油断しているわけでもなく、いざというときには、そのいかめしい風貌に見合った猛々しさを発揮する性質の人物なのかも知れない。
物腰は柔らかいが、弱そうには見えない。
守備の人材としてこれ以上はない人物を充てている。
ここの城主は相当な人物だ、などと考えていると声がかかった。
「それでは軍営に向かいましょう。お願いします。」
昌恒は馬岱に肩を貸し、フェンリックの後に続いて歩き出した…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
グランフォール支部談話席での会談はまだ続いていた。
リーダーの交代を最終的には受け入れることになり、牛金も少し話に飽きてきたところだった。
ダリウスの提案に押されたような感じもしたが結局のところアンソニーは自らリーダーを降りる事を申し出た。
それでアンソニーの人となりは大体掴めた。
若さ故、ある程度仕方のない事でもあるとはいえ、些細な挫折で自分を卑下するようなところがある。
決して良い意味ではない。
一見、謙虚さにも見えるそれは実は全く異なる物だと牛金は思っている。。
卑下は時に逃げにもなるからだ。
逃げて解決できる事などこの世には存在しない。
その時は逃げおおせても、いずれ再び、その問題と向き合わなければならない時が必ず来る。
今のアンソニーには恐らくそれが分からないだろう。
自分も逃げてここに来たのには違いない。
だが、それは戦った上での結果だ。
戦いそのものから逃げるのとは訳が違う。
アンソニーが正直に理由を言って仕事を差し戻した。
そこまでは良い。
だが、その後の振る舞いは、はっきり言って良いとは言えない。
「ところでパーティー名はどうするつもりなのだ?」
ダリウスが問う。
「別に某に拘りはない。新しい名をつけるか、そのままにするか、アンソニーが決めた名前なら彼が、どうしたいかで決めるべきだ。」
牛金は突き放すように言った。
アンソニーは答えずにいた。
何かこだわりがあって迷っているのか新しい名を考えているのか、それは分からない。
牛金も放っておく事にした。
一緒に組む以上は対話が重要なのだが、それ以前に一人前の男に成長するには何もかも教わるのではなく、自分で考える必要がある。
だから自分も教えない。
ギリギリのところに追い詰められるまで相談にも乗らない。
酷なようだが、一人前になるにはそれしかない。
「アンソニー君、パーティー名の件だが、考えていたのなら、君の結論を聞かせてくれたまえ。」
ダリウスの問いかけにアンソニーは名前を捨てると答えた。
せっかく付けた名前が皮肉になって自分に返ってくるのはもう御免だ、ということらしい。
つまり自分と向き合う事から逃げた。
「新しいパーティー名は…ここから始まるという意味も込めてファースト・レイ…なんて、どうでしょう?」
なるほど。
気分を一新したいという考え自体は悪いとは言えない。
ただ、あまりにも簡単に、それまでの自分を捨て去ろうとしている。
牛金には、どうしてもそういう風に見えてしまう。
「ふむ。ではその名称で登録する。ギュウキン殿もそれでよろしいか?」
「構わない。」
薬草採取が主体の内は良いが、いずれ彼も本格的な戦いを経験する事になる。
戦場というのは人の本性を映し出す鏡のようなものだ。
その時に嫌でも己の怯懦を思い知らされることになるだろう…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
軍営内の聴取室には軍法官のロイデン・バークと”ママさん”ことエリスフィール・ノクティアが既に来ていた。
馬岱は土屋の肩から手を離すと着席した。
痛みはまだ多少は残っており、ぎこちない動作になっているのが自分でも分かる。
「あら?バタイさん、腰どうかしたの?」
「ああ、隣のコイツのせいでやっちまったんだわ。というわけで今夜のところは相手してやれねえな。」
「あ~ら、それは残念。今夜と言わず今までも、これからも、お世話になる事は有り得ないけど。」
そう言ってママさんは長い耳を上下に揺らしながら笑う。
長命種のエルフらしく実年齢は280歳を超えるのに、どう見ても20代後半にしか見えない。
親しみやすい雰囲気の美貌と分かりやすい曲線美の持ち主だが、女だてらにこの町のギルドマスターを張っているだけあって、一筋縄では行かない女だ。
今度はバークが軍法官というお堅い役職らしからぬ軽口を叩き始める。
「じゃあ、俺とならどうよ?」
「だから、いっつも言ってるでしょ?私は亭主一筋なのよ。」
そのままバークと一緒になってママさんをからかっていると隣の土屋が口を挟んできた。
「あのー。これから事情聴取が始まるのではなかったのですか?」
ハッと、我に返ったバークが有りもしない威厳を示すように軽く咳払いをし、ママさんも取り繕うように髪を撫で上げた。
「…と言うかバタイさん。このお兄さん誰だよ?」
「ああ、コイツはね…。」
バークに説明しようとしたところで土屋が勢いよく立ち上がった。
場が一瞬にして静まり返る。
「某は甲斐国守護武田家家臣土屋昌恒と申す。」
そう名乗る土屋の目が早くしろと急き立てている。
しかしバークは動じない。
「あ、どうも。ロイデン・バークです。今回の聴取を担当する軍法官でーす。」
「軽っ!」
馬岱は思わず口にした。
「どこで切ればいいの?」
ママさんは独特な命名法の土屋の名乗りに素直な疑問を口にした。
「姓が土屋で名が昌恒なんだってさ。」
「あら、そうなの?じゃ、マー君ね。」
「マ、マー君!?」
土屋は明らかに戸惑っていたが、呆気にとられ過ぎたのか、それ以上は口にしなかった。
「それにしても災難だったね~。5人も相手によく無事だったもんだよ。関心するわ。」
「いや、それほどでもねえけどさ~。先に上手いこと後衛潰せたから良かったけど、ほとんど博打みたいなもんだよ。」
「飛刀で仕留めたんだっけ?」
「そうそう。それで…。」
などと話している傍らで調書を書いている書記官のエドガー・スローンが、発生場所と時間帯、と小声で連呼していた。
先にそれを聞いて欲しいようだが、バークは、これも意に介さず好きなように喋っているし、自分もバークの会話に合わせて答えている方が楽なので聞こえないフリをして会話を続けた。
スローンも諦めたようで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら筆を動かす。
土屋は呆れて声も出ないようだったが、これがロイデン・バークという男の真骨頂だ。
まあ、土屋もいずれ分かるだろう。
「是非お聞かせ願いたいもんだね。元将軍の戦術方針ってヤツを。」
「いやいや、方針も何も行き当たりばったりだって。まあ、俺は腰痛いからって土屋に全部任せるつもりで背後の木の根っこのところに腰かけて、そしたら全員の意識が土屋一人に向いちゃったもんだから、じゃあ飛び道具を先に片付けようと思って、ちょうど前衛二人の隙間からヴィヴィエンヌちゃん見えたから飛刀で仕留めて、で、ヴィヴィエンヌちゃん、矢はつがえてたから、彼女の前にいたラザールに向かって暴発してラザール君、魔法詠唱中に退場。ヴィヴィエンヌちゃんを助けようとしたコレットちゃんに俺の2投目が命中して、後衛は全滅。その間、前の2人と土屋はぽかんとしてたけど、すぐ我に返ってヴォルグが斬り掛かってきたのを土屋が回避しながら反撃してヴォルグ君さようなら〜、とか言ってる間に土屋が突き飛ばしたアルマンさんに馬乗りになっておしまい…っていう流れ。だからとりたてて、どうしようって決めて渡り合った訳じゃなくて、あくまでも偶発的な事だよ。」
「なんかサラッと話してるけど、あんたら何気にすげえよ?あいつらだって曲がりなりにもCランクなんだから普通はそんなに簡単にひねれる相手じゃねえって。」
「ま、そいつは俺が騎馬隊の親分だったからって事で納得してくれ。陣形の攪乱が主な仕事だったみたいなところあるから。」
「なんか納得できるような、できねえような。まあ、いいか。で、ツチヤさんに聞きたいんだけど、あいつらの首の切り口が凄く綺麗だったんだけど、あれは戦ってる中でスパってやっちゃった感じ?それとも、とどめを刺してから?」
「1人目は”戦ってる中で”でした。2人目は馬乗り状態でとどめを刺してから、です。それ以外は戦闘が終わってから首を落としました。」
「あーそういう事ね。にしても凄いわ。武器見せてもらっても良い?」
どうぞ、と土屋が刀を差し出す。
手に取って鞘から刀を抜いたバークが刃紋を眺めながらしきりに感嘆の声を漏らしている。
「うわぁ初めて見た。これがサムライソードってヤツかぁ。波刃の紋様が綺麗でカッコいいよね。」
そう言って刀を返してくるバークに土屋は満更でもなさそうな表情を浮かべた。
ママさんも魅入られるように眺めながら同意して言う。
「こっちの世界にもサムライっていう戦士系の職業の人は居るけど、この大陸には居なくて、他の大陸なんだけど、それもごく狭い地域に少数しか居ないって感じなのよ。だからマー君は、初サムライよ。レアだわ。」
「例亜?なにそれ?」
「じゃなくてレア。珍しいって意味よ。」
「あ、そう?」
「バタイさんだってアーマーの意匠が少し違う感じだけど似た雰囲気があるのよ。もっとも鑑定の結果はサムライじゃなくてアサシンだったけど。」
「アサシンとは?」
土屋がママさんに聞いた。
「暗殺者。殺し屋なんだそうだ、俺は。」
ここで書記官のスローンが苛立ちを隠そうともせずに割って入った。
「そもそも何でこんな事態が起きたのか、まずそれを聞かないとダメでしょう!ただでさえ軍法官殿は聴取の順番がめちゃくちゃなんですから!今のところバタイさんは殺人の容疑者ですよ!?概要!発生場所!発生前の行動!発生場所への移動方法と経路!加害者側、被害者側それぞれの人数と一人一人の氏名!身元確認可能な身分証明書の提示の要請!動機!発生状況と終結までの経緯!使用された凶器!終結後の行動!この際、順番はバラバラでも目を瞑りますから、せめて今言ったことに絞って聴取してください!」
スローンの怒声が聴取室内に響き渡った…が、バークはこれにも全く動じずに答えた。
「それ全部終わってるでしょ。」
「えっ!?」
驚愕したのはスローンだけではなく土屋も同様で、二人同時に声を上げた。
「だってさあ、概要と人数、氏名、身元確認は東門で済んでるし、動機は襲われて身を守るためだし、発生前は薬草摘みだし、足取りはバタイさんに取り憑いてる幽霊さんの転移魔法でそれぞれの地点に真っ直ぐだろうから経路も何もないし、発生状況と経緯は今聞いた通りだし、凶器は見せてもらったし、俺は俺なりに東門からの報告に含まれてない事は全部聞き取ったよ。これ以上バタイさん達に聞くことある?」
「発生場所は!?」
「それも東門からの報告にあったでしょ。もう、巡検官が調査隊連れて確認に向かってるはずだよ。」
「それは分かっていますが念の為、それら全部を本人から聴取した上で、現場の状況と矛盾がないか確認するのが捜査というものでしょう!?」
「今回に限って言えば、それこそ無駄でしょ。バタイさんに嘘つく理由がないんだから。」
「それは分かりませんよ。信用しない訳ではありませんが今のところバタイさん達が商隊を襲った可能性だってあるんですから。」
「ないない。だったらその場で行く方晦ますでしょ。少なくとも生首五つもぶら下げてわざわざ出頭しないって。」
「…分かりました。では清書しておきます。」
「うん。頼むね~。」
あんぐりと口を開けていた土屋がポツリと漏らす。
「まさか、あれで成立していたとは…。」
「な?この人凄えだろ?」
土屋は驚愕が冷めやらぬ様子で黙って頷いた。
「終わり終わり!皆さんお疲れ~。バタイさんメシまだでしょ?この後、非番だから一緒に行かない?」
はしゃいで言うバークにスローンが、酒の席なら一発で酔いが醒めそうな言葉を放った。
「私はまだまだ終わりませんけどね。」
「え?エドガー君どうした?」
「ウチは二人目が生まれたばかりですが上の子はもう喋れるんですよ。それで普段、子供が寝ている時間にしか帰宅できない父親が、たまに早く帰ると『おかえりなさい』の代わりに何て言われるか軍法官殿は分かりますか?」
「い、いや。」
「『このおじさんだ~れ~?』って言われるんですよ!!」
「は…はは…。書類手伝いま~す!」
冬でもないのに木枯らしが表の通りを吹き抜けた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
光の中に滅し、そして闇の中で再び生を得た。
―――一度生を享け、滅せぬもののあるべきか―――
幸若舞の一節が思い浮かんだ。
だが、自分は滅した後に、再びの生を享けて今此処に居る。
やがて闇が晴れ渡り、見渡すと新緑に染まった春の草原に独り、佇んでいた。
まるで見知らぬ光景だった。。
ほぞが壊れ、だらりと垂れ下がっていたはずの二枚胴が元に戻っている。
突きを受けた腹部にも痛みはない。
若武者は最初は自分は死んだのだとも思った。
いわゆる幽霊という存在になったのだろうと。
だが無意識に擦った腹には手が触れた感触があり、手の方にも二枚胴の縅の感触が伝わってくる。
首を刎ねられた事も記憶している。
だから一度死んだのには違いはないのだろう。
ただ人智を超えた何かが起きて生き返った。
そうとしか思えない。
そんな事を考えながら、思わず後頭部に手を伸ばした。
…無い。
自分の頭が…無い。
おかしな表現だが首の天辺には触れられる。
頭の天辺ではなく…だ。
きっと木の切り株のようになっているのだろう。
手の平に血はついていない。
いや、それもおかしな話だ。
頭がない…つまり目も鼻も口もない。
なのに何故見える?
何故聞こえる?
「某は一体…?」
思わず声に出した。
!!
喉笛も無くなっているのに何故声が出る!?
近くを流れている小川に駆け寄り、その水面を覗いた。
水面に映し出されたのは、やはり首から上が無い鎧武者の姿だった。
そこに答えなど無く、ただありのままの今が映し出されているだけだった。
手に触れる感覚も地面を踏みしめる感覚も取り戻した。
だが、首だけは失われたままだった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あら~バタイさん。それにマー君も。いらっしゃい。」
「はいはい。いらっしゃいましたよ~。まだ夕飯時にもなってねえけどな。」
いつものようにギルドの扉を開け、いつものように声をかけられる。
時間帯のせいか、客はまばらだ。
どう見ても酒場にしか見えないと言う土屋に、酒場でも宿屋でもある事を教えて手近な席に腰を掛けた。
「建物の構造としては上から見ると『回』の字になってる。中の小さい四角がママさんたちが居るカウンターだ。で、昔は北半分がギルド、南半分が酒場って分かれてたらしいんだが、前のギルドマスターだった旦那さんが亡くなってからはその境目も無くなったらしい。」
土屋が感心しながら、中を見渡しているところにママさんが書類と小さな革袋を持って近づいてきた。
「はい。まずは薬草の買い取り額の明細ね。」
明細には草の種類ごとに単価と数量、それを掛け算した金額、そして一番下に総額が記されていた。
「5ゴールド?たかが薬草で結構な稼ぎになったな。」
「割に合わない依頼も結構引き受けてもらったし、マー君も加わったからね。パーティー結成の支度金も含まれてるのよ。」
「ええ?」
「あら。嫌なの?」
「当たり前だろ。なんでコイツの面倒まで見なきゃなんねえんだよ?」
「あら、そう?じゃ支度金返して。」
「幾らだよ?」
「3ゴールド。」
ママさんは事もなげに言い放った。
「半分以上じゃねえか。それに明細に書かれてるのは草代だけだ。支度金なんて項目はどこにもねえぞ。」
「そんなものは幾らでも書き直せるのよ?それにマー君は異世界からの転移者。身元の保証がないならパーティーの一員としてしか登録できないわ。」
「そんなワケねえだろ。じゃあ俺はどうなるんだよ?」
「異例中の異例だけどコウメイさんとゴイさんを保証人にして通したわよ。」
なんでもアリかよ…と思いながら更に確認した。
「念のために聞くがコイツの個人登録に誰の保証が必要なんだ?」
「そうねえ。連れてきたコウメイさんか、リーダーのあなた。」
ママさんのこの言葉にはさすがの馬岱も唖然とした。
パーティーの結成すらまだ同意の確認がないのに既に自分がリーダーという前提で話を進めている。
「なるほど。ウチの丞相閣下もグルだって訳か。あんたもあの人も言い出したら聞かねえからな。」
「じゃあ決まりで良いわね?」
「最初から嫌だって言っても無駄な状況じゃねえか。」
「よろしくお願い申し上げます。リーダー殿。」
土屋もニヤケ顔で言う。
想定外の図々しさだった。
この男も諸葛亮からは既に聞かされていたのだろう。
「解せねえな。2人ともいつの間に丞相と話したんだ?」
「いつだってできるわよ。この世には念話っていう便利な手段があるのよ。」
そう言ってママさんは革袋を目の前に差し出した。
「はい。報酬の5ゴールドね。」
「毎度。ところで商隊襲撃犯の件はどうなるんだ?」
「あれは誰も受けてないからバタイさんの受注扱いで良いけど、達成報酬はもう少し待ってね。背後関係の有無とか他にも居ないか、とかの調査結果待ちって事で。」
言いながらママさんがカウンターに向かって手を上げて合図をした。
ママさんと同じエルフの嬢がグラス3つに酒を作っている。
「それよりパーティー名はどうするの?」
「え?考えてねえよ。」
「ダメよー。登録できないじゃない。」
そこにカウンターに居た嬢の1人リュミエラが酒を運んでこちらに来た。
背丈は子供より少し高い程度だが、これでも190歳を超える年齢だ。
つまり今年で54の馬岱の3倍以上生きている事になる。
エルフ恐るべし…。
「お待たせいたしました。こちらラヴァリエ産の黒葡萄蒸留のオーク樽熟成二十年物になります。」
ギルド職員らしく事務的な口調で酒を出すリュミエラの横でママさんのドヤ顔が鬱陶しく輝いた。
服装は酒場の嬢らしく目の保養になりそうな色々と露出が多めのものではあるが…。
「はいはい。バタイさんもマー君もいやらしい目で見てないの。特別に良いお酒出したんだからね。頑張って名前考えてよ。」
「その前に酒だ。はい乾杯。」
ママさんが慣れた手つきでグラスを当て、土屋もぎこちない手つきでそれに倣った。
口に含むと芳醇な果実と樽の香りが広がる。
甘口だが馬乳酒よりはるかに強い。
口の中の香りは静かに引いていくが、その重厚感は胃の腑に染み渡って存在感を確かに残す。
それを見たリュミエラの口調が突然変わるのはいつもの事だった。
「飲んだ?じゃあギルドモードおしまい~。今からお店モードね~。」
「分かった分かった。相変わらず騒がしいな。」
見ると土屋はリュミエラの豹変ぶりに少し引いている。
「お前、このぐらいで引いてたら、後が保たねえぞ。」
この人がマー君?などと馬岱の周りでしつこくするリュミエラをあしらいながら土屋にそう言う。
「はあ。引いたというか呆れたというか、既に保ちそうにないのですが。」
ノリに疲れたのか土屋の反応は薄い。
「慣れろ。それしかない。」
そう言いながら酒に口をつける馬岱に倣って土屋も酒をあおった。
「ふわぁ。これは強い。」
そう言う土屋の顔は既に赤い。
あからさまに上機嫌になった。
ママさんも頬をほんのり染めて長い耳をしきりに上下させている。
「どう?二十年物のお味は。」
「良いねえ。盃を重ねれば話どころじゃなくなるのは確かだ。」
「それは困るわねえ。ひとまずパーティー名を決めちゃいましょう。」
するとリュミエラが体格にそぐわない大きさの乳を揺らしながら”はいはーい”と連呼した。
「おう、リュミエラ君、元気が良いねえ。期待してるぜ。」
「はーい。やっぱりここは”愛と絆の薬草団”!これ一択!」
威勢よく発表したリュミエラの命名の感性が微妙な空気感を生み出す。
彼女の言葉はどんなに高等で複雑な術式の氷結魔法よりも場を冷やした。
「なんで薬草限定なんだよ!」
氷結状態から回復した馬岱は思わずツッコんだ。
「他の娘たちも来てー。」
感情が全く仕事をしていない口調のママさんの呼びかけに他の娘たち…セレフィーナ、ミレイナ、カティアの三人がわらわらと集まってきた。
「この娘、摘まみ出して。」
冷酷なママさんの指示に3人が躊躇なくリュミエラをカウンターへと引きずっていく。
「え~?そんなあ!ひどいよママ~!」
遠ざかる声と共に退場していくリュミエラを見ながら土屋が、ただただ呆気に取られている。
一丁上がりとばかりに3人が戻ってきた。
「じゃ、次はわたしね!」
今度はミレイナが手を上げる。
この娘は人間だが背の低さと胸の大きさ、そして思考の方向性では先程のリュミエラと大差がなかった。
「ホントに大丈夫か?」
馬岱にはもはや疑念しか浮かばなかった。
「失礼ね!あの娘と一緒にしないで!」
口を尖らせるミレイナだったが…。
「バタイさんは元将軍でしょ?だったら『マー君と愉快な仲間たち』これで決まり!」
彼女が自信満々で発した言葉は完全に時の流れを止めた。
時空の檻から辛くも脱出した馬岱のツッコミが轟く。
「元将軍要素どこにもねえだろ!却下!」
ママさんが命じるまでもなくミレイナがカウンターへ引きずられていく。
「どうしてよ〜!?」
いや、考えなくても分かるだろ、と内心思いながら馬岱はママさんに不安を漏らした。
「おいおい、大丈夫か?ママさん自慢の巨乳軍団あと一人で全滅だぞ?」
「あら、聞き捨てならないわね。」
セレフィーナが聞き咎めて言う。
4人の中では最も長身で痩せて見えるが曲線美はしっかりと主張がある。
普通に膨らんではいるが確かに他の3人やママさんと比べると幾らか見劣りする…などとは口が裂けても言えない。
「女の色香は胸の大きさだけで決まるものではなくてよ。」
「いや、色香の話じゃねえんだよ。」
耳元で情感たっぷりに囁いてくるセレフィーナを鬱陶しそうにあしらいながら馬岱は次を促すが、エルフ特有のその長い耳は休業中のようでセレフィーナは全く違う話を始めた。
「それにしても腰の方は大丈夫なの?お仕事に支障が出てるんじゃなくて?昼の方も夜の方も。」
「お前の頭の中はそればっかりか?なんならお前で試してやろうか?」
「あら~。ぜひお願いしたいわ~。機会があれば…ね。」
頬を赤らめるような仕種を見せながらセレフィーナは答えるがあくまでも仕種だけだ。
そういうことを言いながら結局は何もさせないのはお約束というやつだ。
「はいはい。で、パーティー名は?お前も言いたいんだろ?」
「あ、そうそう。じゃ『腰痛騎士団』は?」
液状化した地面の奥底に引きずり込まれるような感覚が場を襲った。
地属性の罠から必死に這い上がった馬岱の反撃が炸裂する。
「そのまんまじゃねえか!」
セレフィーナは空気を読んだのか笑ってごまかしながら自ら退場していった。
「逆に何だったらいいの?」
不貞腐れたように残ったカティアが言う。
「現れたな。巨乳軍団最後の戦士よ。つーか、なんでキレ気味なんだよ?」
最後の戦士カティアは4人の中では中身は一番まともだ。
背丈も肉付きも最も丁度良い。
「だってバタイさん、さっきからワガママ言ってばっかじゃん。そんなんじゃ何も決まんないよ。」
長耳の端を指でピンと跳ね上げるような仕種を見せながらカティアは文句を口にした。
「つったってアレはねえだろ。てか土屋。お前、寝てんじゃねえぞ。」
馬岱は腕を枕にしてテーブルに突っ伏している土屋の兜を引っ叩いた。
「いて。起きてますよ。大丈夫。」
すっかり酔いが回り、ふにゃふにゃの口調で土屋が答える。
「お前、さっきからオネーチャンに見とれては呆れての繰り返しだけだぞ。終いにゃすやすや眠りやがって。」
「いや馬岱殿ね~。某は思ったのですよ~。やっぱり女は自分の妻が最高だって。」
「なんだお前、カミさん居たのか?」
「あ~無事に逃げのびたかな~?」
「あー何があったか知らんが、それは心配だな。いやいや、そうじゃなくて!」
「名前でしょ?ぱっと思い浮かびませんが某も馬岱殿も騎馬隊の大将ですし何々の騎馬隊という名称だったら良いんじゃないですかね~?」
酔いが回ったままの口調ではあったが割とまともな事を土屋が言った。
「馬買えるほど稼げてねえけどな。まあ悪くない。」
そこからはいつの間にかカウンターから脱獄してきた3人も加わって口々に案を出し合う流れになった。
バタイさんのアーマー黒だから、とか、それだったらマー君は赤じゃん、とか何々のの部分について議論している。
そしてまたリュミエラが手を上げた。
「はいはーい!」
「はいリュミエラ君。」
「黒の騎馬隊!」
「だいぶマシになったけどイマイチだな。」
「はーい!」
「はいミレイナ君。」
「赤の騎馬隊!」
「色変えただけじゃねえか!次!セレフィーナ君。」
「腰痛の騎馬隊?」
「腰痛から離れろ!そうじゃなくてさあ。黒にしても赤にしても、なんか他の表現ねえか?」
そしてまた同じ順番で提案が続く。
「真っ黒な騎馬隊!」
「真っ赤な騎馬隊!」
「ギックリ腰の騎馬隊?」
「ダセえよ!どれも却下!」
すると無言で眺めていたカティアが徐に口を開いた。
「漆黒は?」
「は?」
「だから『漆黒の騎馬隊』なんてどう?」
雷に打たれたような衝撃が馬岱の全身を駆け巡った。
思わず大声が出た。
「それだ!それが良い!」
それまで硬かった表情を崩して、やっと笑顔を見せたママさんが言う。
「決まりね。『漆黒の騎馬隊』で登録します。」
広げていた書類の空欄に登録名を書き込むと無記名の会員証にパーティー名と個人名が自動的に書き込まれた。
ママさんが魔力で転載したようだ。
真新しい会員証の左半分に大きく”D”と記されている。
「Dに昇格しといたから。特にマー君はいきなりDランクからの登録だからね。異例中の異例よ。」
「おお!やったな土屋!」
喜びを隠そうともせずに呼びかける馬岱の隣で土屋は夢の中に旅立っていた。
「起きろよ。」
体をゆすったが訳の分からない言葉を呟きながら土屋は眠ってしまう。
「しょうがねえな。」
呆れながら馬岱はカティアの方に向き直った。
「カティア。」
「なに?」
「ありがとな。」
「よしてよ。」
あまり感情を表に出さないカティアが、珍しく少し照れくさそうに微笑んだ…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
明日早朝にギルド前でアンソニーと待ち合わせた。
ギルドからはパーティー活動の仕度金として2ゴールドをもらった。
アンソニーにも同様に2ゴールドの支度金が渡されたが前のパーティーの時の仕度金を返済すると最終的に1ゴールドにまで減ったようだ。
もっともアンソニーは、この町の者なので宿代の心配はしなくて済む。
牛金はアンソニーに自宅へ招待されたが、しっかりと線引きはするべきだと考えてその提案を断った。
安い宿ならギルドの案内担当に教えてもらったので探す手間もない。
採取籠も手道具もギルドから借りることができる。
不意の襲撃に備えて回復薬を少々買い足す以外は何も準備する事が無かったので白嵐を預けていた厩に向かった。
厩の持ち主は隣の商家だ。
そこの店主に謝礼金を支払って白嵐を引き出し、宿へと向かった。
待ちかねたとでも言いたげに白嵐が鼻を鳴らす。
街中での騎乗は軍隊以外は禁じられているので、そのまま引いて歩く。
目的の宿屋はギルドと同じ大通り沿いにあるので来た道を引き返した。
そして大通りに出ると騎兵に護られた馬車の一行が通り過ぎるところだったので止まって通過を待った。
少々華美な造りの馬車が道の端で跪いている人々の目の前を通り過ぎていく。
自分もそれに倣って手綱を握ったまま跪いた。
こういう時に平民に跪かせるのは元々は襲撃を警戒しての事だった。
つまり、それをさせる側の威厳を示すものでも無ければ、それをさせられる側が卑屈になる必要もない。
こんなことで偉そうに見えると思っているのなら、その人物はただの愚か者だ。
そんな事を思いながら人々の話に耳を傾けていると、ここの領主マルコス・ヴァルディン伯爵の馬車だという事が分かった。
このグランフォールという街は王都ほどではないが国内では比較的大きい部類に入るらしい。
そういう面を踏まえると、馬車の造りはそれほど華美なものではないのかも知れない。
聞かされた領主像によると文官としては有能だが軍人としてはあまり評価が高くないようだ。
この王国も色々ときな臭い話があるらしく、即戦乱とは言わないまでも水面下での暗闘が激化しているようで、何かが起きた時にこの領主で大丈夫なのかと不安視している人々の様子が肌に伝わってくる。
あまり長居をしない方が良さそうな街だ。
諸葛亮の霊が姿を現したのはそんな事を考えながら宿で落ち着いた時だった。
「牛金将軍。数日留守にしてしまい申し訳ございません。」
「諸葛公。ご無事で何よりです。して、郭淮殿の行方について何か掴めましたか?」
「いえ…。面目次第もございません。」
「そうですか。どうかお気になされずに。こちらでも探してみたのですが見つかりませんでした。ここに来て色々きな臭いことになっているという話も聞きますし、この街を離れた方が良いかも知れないと考えていたところです。まあ、今すぐどうこうという事はなさそうですが。」
「確かに情勢が不安定になりつつあるようですね。」
「はい。実は、まだ某を含めても2名しかいないのですがパーティーとして活動する事になりましたので、もう一人をそれなりのところまで鍛えたら動こうと思います。」
「そうですか。仲間がいるのは良いことです。もう一人とはどのような方ですか?」
「魔法学校を出たばかりの若者です」
「なるほど。魔術師見習いですか。それは戦術の幅が広がりそうですね。」
「いや、色々と未熟な部分も見受けられます。後は実戦でどのぐらい化けてくれるか…といったところです。」
「それには、やはり経験…ですね?」
「仰る通りです。それに某も魔術というものを全く知りません。魔術そのものを習得するのは難しいとしても、どのような事が可能かぐらいは学んでおかなければ戦術が組み立てられません。」
言いながら牛金は不安を覚えていた。
忍び寄る戦乱の影に追いつかれるまで時間はあまり無いかも知れない。
それまでに、アンソニーはどれだけ経験を積めるだろうか。
自分はどれだけ魔術というものを理解できるだろうか。
「やはり戦術の鬼と呼ばれていただけの事はあります。牛金将軍の目は常に先を見据えておられる。」
「某はそのように呼ばれていたのですか?確かに曹仁閣下からは色々と叩き込まれましたので、そのように呼んでくださった方々がいらっしゃるのなら光栄です。」
「本当に謙虚なお人柄です。それに引き換えウチの特異点殿ときたら…。」
「そんなに酷いのですか?」
さすがの牛金も思わず聞き返した。
「ええ。それはもう。ずぼらでテキトーでワガママで意地っ張りで負けず嫌いで…。」
「文句が尽きませんな。」
聞きながら牛金は笑ってしまった。
言いながら諸葛亮も笑っているので憎んでいるわけではないのだろう。
が…それなりに問題児ではあるようだ。
「いずれ牛金将軍も会うことになりますが、くれぐれも心の準備だけはしておいてください。」
諸葛亮がわざと大げさに言うので牛金もまた笑ってしまった。
「ところで話は変わるのですが…。」
諸葛亮が真顔に戻って話し始めた。
「ここから南のヴァルクールという街との境界付近の丘に首のない武者の幽霊が現れるという噂を耳にした事はございませんか?」
「いえ。初耳です。」
「出で立ちから察するに我々の時代では倭国と呼ばれていた海の向こうの島国の出身と思われるのですが、その近辺を通る冒険者が度々襲われるそうです。牛金将軍もその方面へ行かれる時はくれぐれもご用心ください。」
「もしかして既に死者が出ているのですか?」
「それが…妙なのです。」
「妙…とは?」
「襲われた者は確かに存在するのですが、その内の誰一人として死んではいないのです。」
「と…申しますと?」
「その武者が使う得物はこちらの世界ではサムライ・ソードと呼ばれる片刃の刀なのですが襲ってくるときは必ず刃で斬るのはなく峰で打ち据えるのだそうです。その後、金品を奪うわけでもなく、その場の全員を打ち倒すと姿が消えるのだそうです。この事から霊的な存在であろうと推測されています。」
「分かりました。頭に入れておきます。何から何まで忝ない。」
「いえいえ。私は問題の特異点殿の様子を見に行きます。ゆっくり体を休めてください。」
「御心遣い感謝いたします。諸葛公もお気をつけて。」
「ありがとうございます。それでは。」
そう言って諸葛亮は姿を消した。
「首無し武者…か。」
牛金は具足を身に着けたまま寝具に身を横たえた。
行儀としては良くは無いのだろうが襲われる心配がない状況でも、この習性は抜けない。
そのまま考え事を続ける。
一般市民ならばともかく、冒険者を相手に峰打ちで仕留めるというのは相当な手練れだと思われる。
当然、飛び道具や魔術を駆使する相手に対しても同様に仕留めてきたのだろう。
つまり、それらを相手に手心を加えても勝利できる存在だという事になる。
できれば相手にしたくはないが…。
薬草の種類によっては群生地域が南になる場合も有り得る。
もし出くわすことがあればアンソニーの安全を確保しつつその者を相手にしなければならない。
相手の気が変わらない…刃を向けてこないという保証はどこにもないのだ。
その口ぶりから諸葛亮が連れてきた者ではない事は確かだ。
一体、この世界には自分のような転移者がどのぐらいいるのだろうか。
今は考えても仕方がない事なのかも知れない。
しかし、その仕方がない事が、どうしても頭から離れなかった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕飯時の店内はすっかり混雑していた。
つい先ほどまで静けさの中でパーティー名を考えていたのが既に過去のように、雑談や注文の声で溢れかえっている。
この時間帯には4人のオネーチャン達以外にも料理人が数名出勤してきている。
でないと店を回せないらしい。
「お〜い、土屋〜。いつまで寝てんだよ。」
やっと目を覚ました土屋が大きな欠伸を一つ吐いて、まだ眠そうに目をこする。
その様子を見ながら更に声をかける。
「部屋取っといたから、カウンターで鍵もらって、そっちで寝てろ。ここの地下だ。」
声をかけながら馬岱は腰の痛みがすっかり無くなっている事に気づいた。
まあ、十中八九ママさんの仕業だろう。
それにしても、いつの間に…。
ママさんは様々な魔法の術式を完璧に覚えているようで高等な魔法も無詠唱で発動できる…と聞いたことがある。
その過去までは知らないが、かなり高位の術者である事は間違いの無いところだろう。
そんな事を考えていると土屋が兜を脱いで自身の両頬をパンパンと叩いた。
「いや、すっかり目が覚めましたよ。それより腹が減りました。」
「そうか。じゃ晩飯食いに行くか?」
「ここではダメなのですか?」
「ダメじゃないが、ここで出る食い物はツマミと軽食が中心だ。それでも良いなら俺は構わんが腹いっぱい食いてえなら他所の食堂の方が間違いないぞ。」
「某もここで構いません。要は沢山頼めば同じ事でしょう。」
「まあな。ただし幾らか割高になる事は覚悟しとけよ。」
そう言ってカウンターに声をかけようとしたが、それより早くセレフィーナがお品書きを二冊持ってきた。
「はい。メニュー。」
「おお、いつになく気が利くな。」
「”いつになく”ではなくて”いつも”でしょ?混みあう時間帯だからお早目にね。」
「取り敢えず酒二つだな。さっきの二十年物じゃなくて、いつもの安いやつで。あとはアブラボアで2、3品作って。」
「はーい。」
セレフィーナがカウンターへ戻っていく。
「アブラボアって何です?」
土屋が不思議そうな表情で聞いてくる。
「まあ、巨大イノシシだな。力は強いが動きは単調。突進の圧にビビらなきゃ簡単に狩れるそうだ。」
「なるほど。」
「だからといって侮るなよ。敵としては雑魚かも知れねえが肉の味は絶品だ。特に脂身が旨くてな。油抜きに使った茹で汁もそのまま出汁として使えるぐらい良い味が出る。普通の肉じゃあ臭みが強くてこうはいかねえ。奴ら普段から旨いもんばっか食ってるからな。」
「…と言いますと?」
そこへ丁度、酒が運ばれてきた。
いつもなら、あっちの話で会話に割り込んでくるセレフィーナも、今夜のように忙しい時はさっさと他の席へ行ってしまう。
土屋のグラスに自分のグラスを当てて一口飲むと馬岱は話の先を続けた。
「要は果樹園荒らしの害獣なんだよ。で、脂身が旨いからアブラボア。名前がそのまんま過ぎて俺も最初に聞いた時は笑っちまったがな。さっき飲んだ20年物の酒だって高級黒葡萄を使ってるが、これも奴らの大好物だ。葡萄に限らず、野菜、果物、ウマそうな作物ばっかり狙い撃ちにしたように喰い荒らす。畑は掘り返すわ、果樹は薙ぎ倒すわ、作物の高騰化を招くわの三拍子揃った迷惑極まりない奴らだ。」
「根絶できないのですか?でも、そうすると肉が手に入らなくなるのか。」
「今、根絶って言ったか?」
「え?ええ。」
「そいつは無理ってもんだぜ。」
「ええ?何故ですか?」
「奴ら、年に一度の繁殖期に1頭の母猪から20頭ぐらい出産しやがるらしい。」
「え?そんなに?」
「そうだ。だからある程度数は減らせても根絶には至らねえって事だ。まあ、おかげさんでこの世界は肉には困らねえって事にはなるがな。」
「じゃあ、食い物がうまいから街を動きたくないみたいな事を言ってたのは…。」
「当然、この肉も理由に含まれる。まあこれだけじゃねえがな。旨いもんだらけだぜ、ここは。」
「逆に家畜化は難しいのですか?成功すればわんさか出荷できて良い儲けになりそうですが。」
「おっ?武辺のみかと思ったら意外に商売っ気もあるんだな。良いねえ、土屋君。しかし、そいつも無理だな。」
「やっぱり凶暴過ぎますか?」
「それもあるし、エサ代がかかり過ぎる。下手すりゃ売れば売るほど赤字が嵩む。結局、野生のまま現れたら駆除の繰り返し。そのほうが経費が安く上がる。」
「中々うまい具合には行かんもんですな。」
そこへミレイナが件の肉料理を運んできた。
小鉢より気持ち大き目の器二つそれぞれに塩で味付けした小さめの塊肉の炙りと野菜と一緒に煮込んだ汁物が盛られている。
「この炙り肉は塩だけの味付けだが脂の甘みがかえって際立つ絶品料理だ。ただし一つだけ欠点がある。」
「何です?」
「量が少ねえってことだ。」
「確かに。」
自分達二人のやり取りを聞き咎めたかのようにミレイナが会話に入ってくる。
「それはしょうがないでしょ。ここは食堂じゃなくてBARに近いんだから。」
「婆?ま、確かに年齢だけで言ったら全員婆だな。」
「言うと思った。でも私は人間だから見た目通り若くてピッチピチよん。」
「フツー自分で言うか?」
「あら、いけない?」
「実際いくつになったんだ?」
「フツーそういうこと聞く?まあ20だけど。」
「だよな。さすがに娘みてえな年齢の女にゃ手を出す気にはなれねえな。」
そう言いながら馬岱の目はミレイナの胸元から覗く谷間の奥底をしっかりと観察している。
「ちょっと!やめてよ!」
ミレイナがムッとしながら立ち去るのを笑いながら馬岱は見送った。
「嘆かわしい。武士たるもの…。」
呆れ顔の土屋が皆まで言い終わらない内に遮って、いいから飲めと酒を勧める。
「しかし本当にうまい。」
酒のついでに肉も口に運んだ土屋が目を輝かせて言う。
「何と言うか口の中に広がる肉の風味と脂の甘みが堪りません。米が欲しくなりますな。」
「そいつは諦めろ。米を食いたきゃ、もっと北の内陸に行かねえと手に入らん。」
「ええ?それは残念ですなあ。」
「まあ、そう言うな。汁物の方も食ってみたか?こっちも野菜に肉の味が染みてて旨いぞ。」
「本当だ。」
しみじみと具の味わいの感想を述べながら土屋が椀に口をつける。
「優しい…味だな…。」
噛みしめるように漏らしながら土屋が遠くを見るように視線を上げた。
そして、悲しげに表情を曇らせる。
土屋が時折そうした表情を見せるのには出会ったばかりの今日一日で既に気づいていた。
こいつも命の安さを思い知らされるような目に遭って、ここに来たのかも知れない。
「お前、まさか自分は死に損なった…とか思ってねえか?」
馬岱の問いかけに土屋がビクッとしたように反応する。
しかし、そのまま静かな表情に戻った。
「何があったのか…そこまでは聞かん。過去は人それぞれだからな。ただ…死に損なった己を呪うよりは今生きてる己を祝え。切り替えられなきゃ…。」
馬岱はグラスに残った酒を一息に飲み干して続けた。
「…死ぬぞ。」
周囲の喧騒が店内に響き渡る中、このテーブルだけが、やけに重たい空気を纏っていた。
土屋が静かに語りだす。
「仰る通り…某は死ぬ機を逸して、この世界に落とされたのですよ。」
訥々とした土屋の語り口が酒場の喧騒を搔き消した。
特に集中して聞いていた訳でもなく周りが騒ぐのをやめたわけでもない…が、馬岱は何故かそう感じた。
「某の主君、武田勝頼様は親族衆の一人であったとはいえ嫡子ではありませんでした。しかし嫡子であった義信様が先代の当主であった信玄様と対立して廃嫡され後に自害するなど紆余曲折あって勝頼様が跡目を相続する事になりました。ですが、本来は継承権がないお立場であった故、重臣らの反対もあって陣代という形で当主の座に就かれることになったのです。」
「なんか、他人事とは思えねえな。」
そう言う馬岱も立場としては土屋の主君と同様だった。
「え?馬岱殿もですか?」
「ああ、俺以外の一族がみんな死んじまって、一家臣の扱いだった俺が結局選ばれちまった。」
実際、そうだった。
朝廷に出仕した叔父であり当主でもあった馬騰は、嫡子として留守を預かっていた馬超の反乱の責任を取らされて刑死。
その結果、新当主となった馬超は当時の後漢の丞相曹操が起こした討伐軍に敗退し流浪の末に劉備の下に流れ着いた後に間もなく病死。
他の親族も既に亡く死期を悟った馬超によって馬岱が後継に指名され馬服君趙奢以来の名家を継いだという経緯があった。
父を見殺しにして己の美学という名の野望を優先し流浪の最中にも色々とやらかして妻子をも失った馬超は間違いなく狂人だったが、その父、馬騰も後漢の車騎将軍董承による曹操暗殺計画に乗るふりをして血判書に署名し、その裏で外戚派の大物だった董承一派を曹操に売り渡すなど中々の事をする人物だった。
正直、思い出したくもない連中だったが、自分がやってきた事も似たようなものだろう。
「まあ、俺の話はどうでもいい。話すことで気が紛れるんなら幾らでも付き合ってやるぜ。」
そう言って馬岱はカウンターに向かって酒を注文した。
土屋は酒に弱そうで飲み方はゆっくりとしたものだった。
そして続きを語り出す。
「信玄様亡き後、勝頼様は譜代の重臣達からは何かと先代と比較されるので、やり辛いお立場だったと思います。結果、肯定的な者ばかりを重用し、譜代の臣を少しづつ遠ざけるようになってしまわれました。」
少し声を震わせ気味だった土屋はそこで言葉を止めてグラスに口をつけ、少し気持ちを落ち着かせるようにため息をついた。
馬岱は口を挟まずに聞いていた。
再び語り始めた時、土屋はまた静かな表情に戻っていた。
「とにかく何かしらの成果を上げて先代と比較する者達を黙らせたかったのでしょう。やたらと積極策に打って出るようになり一時は以前よりも領土を増やした事もありました。ですが…。」
馬岱はやはり黙って聞いていた。
他人の過去だ。
容易に触れてはいけない部分もある。
その先を急かさず、黙って運ばれてきたグラスに口をつけた。
「急激な拡大路線の先に待っていたのは歴史的な大敗でした。戦に反対しておられた重臣の皆様方も…そして某の父と兄も…皆、その戦で逝ってしまわれた…。」
土屋の声は再び震え始め、目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
酒を運んできたミレイナも立ち尽くしたまま聞いている。
「その戦に参陣していなかった某は急遽、土屋家を相続し頭領として立つ事となりました。その後、しばらくは武田家も持ち堪えたのですが、家臣団の離反が相次ぎ、滅亡は時間の問題でした。そして敵の大攻勢を受け…本拠を捨てて重臣の小山田家の居城に落ち延びる事になった御主君の一行は、その小山田の裏切りに遭って…。」
声が震え、最後の方は言葉になっていなかったが、土屋は何とか堪えて先を続けようとしている。
「…天目山という山の中のとある寺にて…御一行は最期の時を…御自害される事を決断されました。」
土屋は震える声のままグラスの酒に安らぎを求めた。
ミレイナは声も出さず呆然とした表情のまま両頬を濡らしている。
馬岱も酒を喉に流し込んでグラスを置いた。
「…そうしている間にも追手は押し寄せてきます。某は殿軍として狭い崖路で敵を防いでいました。無事のご最期を見届けたら後を追うか…このまま斬り死にするか…いずれにしても生還を期してはいませんでした…。しかし足を滑らせて崖から転落した某は…。」
「俺の腰にとどめを刺したってワケか。」
「え?…は…。」
「ふん。やっと笑いやがったな死に損ないめ。」
仕事を忘れていたミレイナも泣き笑いながら、台無しだよと文句を言う。
「しかし下らねえな。」
馬岱の言い様に土屋もミレイナも途端に表情を強張らせた。
察した馬岱は誤解を解くために言葉を続けた。
「お前の事じゃねえ。その小山田って野郎の事だ。」
「ああ。」
「主君の身柄を保身の材料にしようって魂胆が見え見えだ。お前のご主君には無礼な言い様になるが、そんな事なら最初からあんたにはついていけねえって宣言して引き籠ってりゃいいんだ。その野郎の事は知らんが、そういう奴はどうせロクな最期を迎えることはねえ。」
「本当にそうですよ!あの野郎!家中でも最強を謳われた郡内衆を率いていた男がなんてザマだよ!次に会う事があったらバラッバラに切り刻んでやりますよ!」
「お、良いねえ。怒れ怒れ。そして忘れちまえ。」
「そうだそうだ~。やっちまえ~。」
泣き腫らした目をこすりながらミレイナも一緒になって煽る。
そして普段のこの娘とはかけ離れた事を言った。
「ねえ、マー君。命って貰いものなんだよ。当たり前だけど親からもらった大切なもの。だから、貰った人の好きにはしていいんだけど、少なくとも粗末にしちゃいけないんだよ。」
この娘にしては良い事を言う。
「意外だな。」
「なによ。変なこと言った?」
「いや。お前にしちゃあ良い事を言うと思っただけだ。」
「なにその言い方?普段、私は名言製造機って呼ばれてるのよ。」
「嘘つけ。迷言しか聞いたことねえぞ。」
じゃれあっていると先程よりはハッキリとした口調を取り戻して土屋が言った。
「ミレイナ殿、忝い。良いお言葉を頂戴した。肝に銘じよう。」
そう言う土屋の表情は晴々としていた。
「そっか~。じゃあ褒めてくれたお礼におっぱい触ってもいいよ~。」
「誠か?それでは失礼して…。」
「お前、カミさん居るんじゃなかったのかよ。」
「ああ!そうだった!やっぱりダメ~。」
ミレイナは、そう言い残してカウンターへと戻っていく。
「ええ?そんな~。」
残念そうに漏らす土屋を見ながら馬岱は言った。
「さっき俺に向かって、嘆かわしいとか武士たるものがどうとか言ってたのはどこのどいつだよ。」
「まあ、それは英雄は色を好むとも言いますし…。」
「自分で英雄とか言ってんじゃねえよ。」
ツッコみながら馬岱は、こいつはどんだけ情緒不安定なんだよ、と内心でまた別のツッコミを入れた。
酒場のノリと共に更けていく夜の中、時を告げるようにグラスの氷が傾いて音を立てた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日は朝から雨だった。
ギルドの談話スペースで寛いでいるとアンソニーが扉から顔を覗かせた。
アンソニーは一旦、扉の外に出て身にまとわりつく滴を払い、再び中に入ってきた。
「おはようございます。」
朝の挨拶をして談話席に歩み寄ってくる。
「すみません。遅くなりました。」
「おはよう。某が着くのが早過ぎただけだ。気にするな。」
牛金はアンソニーに椅子に掛けるように促した。
「それにしてもよく降りますね。」
雨が屋根を叩く音が屋内にも伝わってくるようになった。
雨足が強く…というより激しくなっていく。
「こんな天気だ。午後になっても降りやまないようであれば今日のところは中止するしかあるまい。」
アンソニーがふと、思いついたように尋ねてきた。
「戦の時はこういう場合どうしてたのですか?」
牛金は少し考えて答えた。
「そうだな…。敵の出方にもよるが、奇襲を仕掛けるのには絶好の空模様だ。だから敵も味方も互いに気を抜けない。下手に動くと危険な天候でもあるが、かえってそういう時にこそ仕掛けてくる命知らずな奴もいる。」
こういうことを質問してくること自体は悪くない。
些細な事ではあるが魔術とは関わりのない事も色々と吸収しようという意欲の表れだ。
「自滅する恐れはないのですか?」
「充分有り得る。しかし一方で、そういう状況でも…いや、そういう状況だからこそ奇襲を成功させる化け物も居る。」
本当は戦なら大雨でも関係ないというぐらいの答え方で済む話なのだろうがアンソニーも思ったより食いついてきている。
折角だから思い出した事を何でも話してやろうという気になった。
若い頃に敵中に孤立して曹仁に助けられた事や、その時に何を教えられたかといった実戦での体験に関する話を聞かせた。
「まあ、後で大目玉を食らったがな。その時に教わったのは敵中に孤立した者達を見捨てて逃げろ、という事ではない。感情に流されず冷静に状況を見極めて確実に成し遂げるという事…そして無理はするなという事だった。今でも救助に動いたこと自体は間違っていたとは思っていないし、そこは上司も認めてくれた。ただ、他の部隊との連携や欺瞞行動、遅滞行動を組み合わせるなどの工夫をすっ飛ばして単独で救助に動いた。そこは反省すべき点だった。些細な判断の誤りで全滅していた可能性もある危険な行為だった。まあ、こちらに来る直前にも似たような事をしようとして止められた。クセという奴は中々治らぬものだな。」
そして話は自分がいた世界の政治や魔法が存在しない世界であったことなど多岐に広がった。
「某ばかりの話になってしまったが君はどんな学生だったのだ?」
「僕ですか?僕は来る日も来る日も魔術の習得に明け暮れてました。術式や呪文の暗記、魔力の練成、それらの他に精霊や魔族との契約が必要な魔法もありますし。数ある魔法の中で僕が一番自信があるのが元素系の魔法です。」
「元素…?」
「はい。分かりやすい所で言えば火球を飛ばしたり雷を落としたり凍らせる魔法です。」
「なるほどな…。他には?」
そういう会話で、かなりの時間を過ごした。
ギルドを訪れる人は少ない。
雨は既に上がっていたのだが…。
二人で外に出てみると、地面はかなりぬかるんでいる。
石畳の舗装面の上はかなり泥で汚れていた。
舗装されていない道の端の方は土色に汚れた水が溜まっていたり泥濘と化していた。
「これは無理だな。」
「中止…ですか?」
「そうだな。草摘みには適していない。まあ、こんな日もあるということだろう。」
泥の中で仕事をする農家が聞いたら軟弱だと怒られそうだが、崖地での採取が必要な場合も想定すると危険である事には違いない。
「この後、どうします?」
「…今日のところは解散するしかあるまい。」
「残念です。初仕事だと思って気合入れて家を出てきたのに…。」
「まあ、そう言うな。何もない時には体を休めるのも立派な仕事の内だ。」
「はい。」
こういう素直な面はアンソニーの美点だと牛金は思っている。
色々と現実を突きつけられた時に折れてしまいそうな脆さを感じているのも事実だが鍛えられる事で克服できないことではないのだ。
自分もそうして成長を続けてきた。
若い者たちが自分の目の前で死んでいく様を見せられるのは、もう御免だ。
だからアンソニーには自分の足でしっかりと立って欲しい。
帰路に就くアンソニーの背を見送りながら自分と郭淮を逃がすために散っていった周芳ら三百名の兵達に思いを馳せた。
「郭淮殿と一緒に来ているのならお前たちも見守ってやってくれ。彼の行く道を。」
この願いが空を渡って通じるのかは分からない。
だが願わずにはいられなかった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あのオッサンは大人しくしてるか?」
「ああ。静かなもんだよ。相変わらず態度はでけえがな。」
同僚のロドルフに尋ねられてドレイクは、そう答えた。
王都サン=ヴェルンと、その東隣りの都市クラヴィエールの中間に位置するこのボーモン砦では数日前に救助した年配の男の事で、話題が持ちきりになっていた。
異世界からの転移者らしかった。
本人もそう言っているし発見当時の状況もそれを物語っている。
砦の西側に広がる森で起きた発光現象を巡回中の小隊が目撃したのが四日前。
その小隊がすぐさま光源付近に急行したところ既に現象は治まっていて、代わりにそのオッサンを発見し保護したという経緯があった。
オッサンの開口一番の台詞は「腹減った。」
続いて発したのは「何か食わせろ。」
普通ならコソコソと逃げ隠れするか、怪しい者ではありませんと弁解するかのどちらかなのだろうが、そうした素振りすらなく堂々とふんぞり返っていたという。
連れ帰った小隊の面々も皆一様に呆れ返っていた。
不審な点は見当たらないが不審者として扱う以外ないので空いている独房に入れたところ、まあ当然だが文句を言いだしたので、寝台付きの部屋で空いているのはここだけだという事にして納得してもらった。
メシ付きで寝るところも用意してやったのだから礼の一つも言って良さそうなものだが、そういう素振りもない。
自分達のとはかなり違った意匠だが立派な具足を身に着けているので、かなり上位の武官だったのは分かるが、だとしても普通はもっと有難そうに振る舞うものだろう。
そんな事を考えていると、おい番兵!などと件のオッサンが騒ぐ声が聞こえてきた。
面倒だが相手にしなければしないで更に面倒な事になる。
「悪いなロドルフ。ちょっと行ってくるわ。」
「良いってことよ。お前も苦労するなぁ。」
「お前もな。こんな雨の中ご苦労な事だぜ。」
そんなやり取りで巡回に出るロドルフと別れオッサンの元へと向かうドレイクの足取りは重い。
距離にすれば本当にすぐそこなのだが通常の行軍訓練よりもはるかに長い道のりを歩かされている気分だった。
「はいはい。朝飯ですね?今、巡回に出る連中に携行食を配ってるみたいですから、もうちょっと待ってくださいね。」
やや投げやりにそう声をかけると寝台に横たわっていたオッサンが不機嫌そうな顔をこちらへ向けた。
その腕には身に着けている具足とは全く釣り合いが取れていない槍を大事そうに抱えている。
柄が途中から切断されていて元はどのぐらいの長さだったか分からないが数打ちの安物であることは一目で分かる。
治安の問題もあり預かろうとしたら、触るなと怒鳴られる始末で規則には反するが誰もその槍の事には触れなくなっていた。
「あんなマズいメシの事など誰も待っとらん。それよりもこの砦の責任者に会わせろ。今すぐにだ。」
「ええ?呼びに行くんですか?勘弁してくださいよ。」
思っていたのとは違ったがやはり面倒を言い出した。
しかし何と言うか…食わせてもらってる立場でここまでハッキリとメシがマズいと言う人間は初めてでドレイクは腹が立つというよりは寧ろ可笑しくなってきた。
正直なところ、ここのメシがマズいのは事実だ。
炊事方だって努力しているのは分かっているが、それ以前に支給される食糧の質が悪過ぎる。
味付けをやたらと濃くして誤魔化すという手法もあるが、そのための調味料だって足りていない。
塩だけのスープと硬いパンの3食。
まあ、多少の山菜や獣肉は自分達でなんとかできるが…。
とはいえ、これが見捨てられたボーモン砦の現実だ。
せめてこのオッサンというトラブルメーカーを日常のスパイス代わりに期待するぐらいなら神もお許しになるだろう。
「別に俺の方から会いに行っても良いんだぞ。」
「じゃあ案内しますからついてきてくださいよ。それから物騒だから、その槍は置いていってくださいね。」
「断る。」
「…分かりましたよ。じゃあせめて何でそんなに大事そうに抱えてるのかぐらいは聞かせてください。」
「聞いてどうする?」
「いや…どうするってワケでもないけど気になるじゃないですか。」
オッサンは少し考えるように沈黙し、そして語り出した。
「…こいつは追われていた俺を逃がすために死んでいった兵士がくれた物だ。まあ、形見ってやつだな。」
「それで…。柄が途中で切れてるのは?」
「馬上じゃ扱い辛かろうって事で、その兵士が剣で切断して寄越してくれたんだ。」
「そう…だったんですね。すいません。悪い事を言いました。」
「そんなのは些細な事だ。気にしなくていい。それより馬の事だ!俺が拾われた付近で栗鹿毛を1頭見かけなかったか?あいつだって俺の逃避行の大事な相棒だったんだ。」
「ああ、それなら確かに栗鹿毛の迷い馬が居て、保護したって報告が入ってましたよ。厩舎に居る筈ですから許可が下りたら会いに行ってやってくださいよ。」
「そうか!!良かった!!こいつはめでたい!!めでたいぞ!!」
オッサンの仏頂面が一気にほぐれた。
ここの連中と壁を作らずに言ってくれれば、すぐに再会できたろうに。
今まで見せたことがないはしゃぎっぷりを見せるオッサンを微笑ましく見ながらドレイクは付け加えた。
「外出許可の申請書を後で持ってきますから署名だけください。」
「分かった。忝い。」
「いえ。」
このオッサンの口から礼を聞くのも初めての事だ。
ドレイクはますます可笑しくなってきたが表情には出さないように努めた。
「では、これで。」
「あ、待ってくれ。」
「え?まだ何か?」
「責任者でなくてお前さんでもいいんだが、ここでは何か獣でも飼ってるのか?夜になると鳴き声がうるさくて寝れんのだが。」
「ああ…。あれですか…。」
ドレイクの心に冷たく重い物がのしかかった。
普通こういう事は余計な不安を煽るので部外者には詳細を聞かせない方が良い類いの話なのだが…。
「この砦…どうやら翼竜に目を付けられちまったみたいで…。」
この話を何故このオッサンに聞かせたのか自分にも分からない。
たが話さずにはいられなかった。
日が昇る前に翼竜は何処かへ帰っていく。
だから明るい内は忘れていられる。
だが本当は全員が夜を恐れている。
血に飢えた翼竜の宴を…。
その始まりを…。
「昨晩だけでもう…3人食われちまいました…。」
誰でも良いから助けて欲しかったのかも知れない。
そうでもしなければ…いずれ全員…。
相手は矢を射かけようが、槍を投げつけようが、まるで歯が立たないのだ。
自分は泣いているのか。
やけに冷たく細いものが頬を伝って落ちていく。
時折、窓から閃光が差し込み、やや遅れて遠くで雷鳴が轟く。
そういえば翼竜は雷が苦手みたいだって術官長が言ってたな…。
そんな事を考えていると思案するようにして黙っていたオッサンが口を開いた。
「その翼竜とやらが現れるのは決まって夜だけなのか?」
「え?ええ…。」
「他には?何か特徴はないのか?」
「そうですね…。まあ、翼竜という名の通り空を飛んでるでっかいトカゲ…ワイバーンっていう竜種の中では下の方の部類に入る奴ですが、人間にとっては充分過ぎるくらい脅威的な存在です。後は…上位の龍みたいな鱗はありませんが、それなりに皮膚は硬くて攻撃が通りにくいのと…。」
答えながら、まるで戦場で斥侯の報告を聞いている将官のようだと思った。
最初は、誰でも良いから聞いて欲しい…ただそれだけの想いで聞かせていた話だった。
しかしこのオッサンは一瞬でその空気を変えた。
まさか…アレを倒すつもりなのだろうか。
そのままドレイクは肝心な事を付け加えた。
「どうも雷が苦手なようです。」
「雷だと?他にないのか?自然現象以外で、だ。」
「いや、人為的に雷を起こす事はできますよ。魔術科隊の連中なら…。と言っても指揮官含め3名しか居ませんが…。」
オッサンが再び思案の檻に閉じ籠もる。
「…やはり一度、責任者に会わせろ。」
「案内しましょうか?」
「頼む。」
そう言って立ち上がるオッサンは、やはり槍を置かない。
ドレイクも槍についてはもはや咎めるつもりもない。
傲岸不遜ながらどこか憎めないこのオッサンの話に少し耳を傾けても良いんじゃないのか。
そんな気になっていた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝から雨だ。
遠くで雷も鳴っている。
気圧の変化のせいか、それとも今抱えている悩みの為か砦長バルド・グレイヴァーは軽い頭痛に苛まれていた。
ただでさえ口やかましいのを一人抱えているところに、新たな転移者を発見したという報告を受けたのが、つい先程。
この迷子はオークでもオーガでもなく人間である事に間違いはないが身長2mを超える巨漢であり、気性も荒そうなので捕縛は最初から諦めて説得に終始しているが中々首を縦に振らないとのことだった。
理由は疲れたから歩きたくないという単純明快なものだった。
どういった状況でこちらに飛ばされてきたのかは知らないが疲れているのはウチの兵士達も同じだ。
まあ、迷子に八つ当たりしても仕方がない事だが…。
このボーモン砦を任されて以来、ロクなことがない。
砦自体はクラヴィエール方面への中継点の一つに過ぎない小規模拠点だ。
日々の仕事など周辺の巡回と街道の検問、そして砦自体の各所の点検及び修繕ぐらいのものだった。
どう控えめに言っても、ほとんど報告を聞くだけの楽な仕事のはずだった。
すべての元凶は翼竜の出現だった。
翼竜のおかげで周辺一帯は通行禁止となり補給も援軍もない。
軍管区としては王都に含まれてはいるが王都そのものとは距離が離れている上に政治が混乱しているため、こんなちっぽけな拠点からの支援要請など恐らく無視されているのだろう。
「終わったな…。」
思わず声に出した呟きが、自分以外に誰も居ない執務室の中でこだまする。
兵士達のに比べれば幾分かマシな朝食を口に運んでいるとノックの音に続いて声が掛かった。
「守衛士長ドレイクです。入ります。」
食事の手を止めて許可の旨を伝えるとドレイクに続いて要監視対象の転移者までもが入室してきた。
呆気に取られた反動でバルドは思わずドレイクを怒鳴りつけた。
「何で連れてきた!?」
「…そ…その…このオッサ…この方が砦長にどうしても会わせてほしいそうで…。」
ドレイクが返事するのを聞きながら不遜な表情でこちらを見ていた転移者のオッサンが口を開いた。
「兵隊達には不味いメシを食わせておいて自分は豪盛な朝食か?パンとかいうのは同じだが汁物は山菜と猪肉入りとは優雅なもんだな。」
これにはさすがにバルドも堪りかねて強い口調で言い返した。
「うるさい!あんたに何が分かる!俺も兵士達も翼竜が現れてからここ数日間はロクに眠れてもいないんだ!」
朝食のスープを指差しながら更に捲し立てる。
「この具材だって自分達も腹が減ってるだろうに指揮官が倒れたら誰が守備隊の指揮を執るんだって事で俺に優先的に寄越してくれたんだ!そんな気の良い連中が通算でもう20人近くも食われちまってるんだぞ!普通なら正気じゃ居られねえよ!それでも!せめて俺だけでも!しっかりしてねえとここを守り切れん!だから俺は逝ってしまった奴らの想いを噛み締めながら!有り難く食わせてもらってるんだ!それの何が悪い!?」
一気に捲し立てたせいで肩で息をつく。
黙って聞いていたオッサンの目つきが不意に鋭くなった。
気圧されそうになりながらもバルドは視線を外さずに睨み返す。
「砦長。あんた…。」
「な、何だよ?」
「すげえ良い奴だな。」
尋常ではない目つきと言葉の落差にバルドは卓上に置いた手を滑らせて蹌踉めいた。
要はズッコケた。
「まあ、あんたの食事ぶりはどうでもいい。話し合いたいのは、さっきあんたが言った空飛ぶトカゲ野郎の事だ。もし今夜も来るようなら、その様子を見せてくれ。」
「何だと?」
あれだけ強烈な皮肉をかましておきながら、それについてはどうでもいいという言い様には腹が立ったが、見たいというのはどういう事なのか。
それで何かが分かるのだろうか。
「おっと、期待はするなよ。どうにもできんという事が分かるだけかも知れんからな。」
こちらの内心を見透かしたような物言いに少しカチンと来たがバルドは許可した。
「良いだろう。あんたが食われてもこちらの預かり知るところではないが、それで良いなら好きにすれば良い。」
「決まりだな。」
オッサンが異常な目つきのまま、口角を上げた。
勝利も敗北も知り尽くしたようなその表情が、このオッサンの戦歴の豊富さを物語っているようだった。
今度はドレイクに向かってオッサンが話しかけた。
「おい、番兵。」
「何ですか?」
「お前…名前何だっけ?」
今度はドレイクがズッコケる番だった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ボーモン砦を取り巻く状況は徐々に悪化していた。
最初は5人居た部下の魔術師も既に2人に減っている。
自室の窓から雨天の景色を眺めていると何とも言えない虚しさに囚われた。
ザイファーはこの守備隊の術官長として赴任して以来、やれるだけのことはやってきたつもりだった。
なのに翼竜には全く通じない。
火魔法。
全く効かない。
火球程度では少し熱がるくらいでダメージを与えられず、爆発が起きるような強力な物はいくらか効き目はあるものの、相手の数に応じて連発すれば、あっという間にこちらが魔力切れだ。
実際それでへたり込んでいるところを食われてしまった者が1名…。
対物結界を展張すれば食われるところを阻止できたかも知れないが維持に必要な魔力を考えると夜通しそれを続けられる訳ではなく歩兵が護衛しても一緒に食われるだけで全く意味がない。
氷魔法も効かない。
理由は火魔法と同様で、かなり強力な物しか効かず、連発も不可能。
唯一、雷系にはやや期待できたが、それとて実際に弱点たり得るのか、それとも単に音や閃光が苦手なだけなのか分からない。
発動した直後に蜘蛛の子を散らしたように逃げ去ってしまうし、後に遺棄死体が発見されたという報告もなく結局のところ効果の確かめようがない。
案外、強力な攻撃魔法であれば何でも効きそうではある。
もっともそんな術式を気兼ねなしに操れるのは王室親衛隊付きの魔術師団長になれるような高位の術師ぐらいなものだろう。
自分など術官長などと呼ばれてはいるが所詮は小部隊がお似合いの凡百術師でしかない。
術官長…。
正式には魔術技官長だが、軍では省略してそう呼ぶ者がほとんどだ。
名称と供に魔力の方まで省略されちまったか…。
そんな自虐が、ふと思い浮かんだ。
ドアがノックされる音で我に返った。
ノックの主は砦長バルドだった。
「術官長。新たな転移者を保護した巡回の連中がもうすぐ戻る。尋問を手伝ってくれ。」
「了解しました。」
扉を開けて部屋から出てみると砦長の他に守衛士長のドレイクと数日前に保護された転移者が一緒に居た。
「尋問に立ち会いたいんだとよ。別に罪人って訳じゃないから自由にさせる事にした。」
怪訝な表情を浮かべるザイファーに砦長が説明した。
「は…はあ。」
気のない返事をしながらザイファーは促されるままに歩き出した。
一行は小会議室の扉の前で足を止めた。
室内では壁を震わすほどの怒声が響いている。
「おい!こんな所に人を押し込んで大勢で取り囲みやがって一体なんなんだよ!!」
周囲が必死に宥めているような声も聞こえてくる。
バルドは溜息を漏らして扉を開けるのを躊躇っていた。
「入るならさっさと入れよ。」
転移者がそう言うと苦虫を噛み潰したような表情でバルドは渋々と扉を開けた。
「おうおう今度はなんだよ!?」
今度は入室した自分達に怒声が向けられ、砦長以下全員が固まってしまった。
…いや、例外が一人いた。
一緒に来た方の転移者だ。
不遜な表情を崩さず、ボロ槍を抱えたまま腕組みしている。
「まあまあ落ち着いてくれ。見て分かったと思うが、この砦は今、問題を抱えていてバタバタしている。」
砦長の宥めるような口調に怒声の主は少し落ち着いた様子を見せた。
「ふん。そうかよ。で、何の用だ?」
言葉の選び方を間違えればすぐにでも嚙みついてきそうな表情のこの男は、聞いていた通り身の丈は2mを悠に超えている。
右腕よりもやや長い左腕に身の丈を遥かに超える弓を抱え、矢筒にはほとんど槍と言っても良さそうな巨大な矢がそこから生えるように収められている。
雨の中を帰ってきたせいで、小会議室内に居た者は巨漢を含め全員ずぶ濡れだった。
ザイファーはある魔法を仕掛けて尋問の手伝いとした。
「ここが俺が元々居た世界じゃねえってのは既に知ってるぜ。諸葛何とかっていうオッサンの幽霊にそう聞いたからな。まったく…。人がゆっくり最期を遂げようかって時にこんな所に飛ばしやがって。」
「おう。デカいの。威勢がいいな。某と同じか。」
それまで腕組みをしながら黙っていた転移者のオッサンが急に口を開いたので全員に緊張が走った。
砦長が思わずオッサンの袖を引くのが見えた。
そして小声で煽るような事を言うなよなどと窘めている。
このオッサンには場の空気を読むという感覚が決定的に不足しているらしい。
仕掛けを施しておいたのが役に立った…などとは間違っても口に出来ない。
「あん?何だ?あんたもかよ。これが威勢良く見えるってえなら、あんたの目は相当悪いと言わざるを得んな。」
「ほう?面白い事を言う。どこか具合でも悪いのか?」
「何か知らんが、さっきから全身が怠い。したがって今の俺には威勢の良さなんざ、これっぽっちもねえよ。」
何か知らんが…と、この巨漢が言う全身の怠さの理由をザイファーは知っている。
何ならザイファーの仕掛け…拘束魔法こそが、この巨漢の全身の怠さの正体だった。
同じ拘束魔法でも物理系のバインドだと、どんなに弱めに掛けても人為的な物だとバレてしまうが、神経系のパラライズなら弱めに掛ける分には、その心配もない。
相手の動きを鈍らせる上に気勢を削ぐ事もできる。
ザイファー自身の全力でも翼竜には全く効かなかったが、この手の荒くれ者の尋問には大いに役立つのだ。
もっとも、そんな事を知らないこの転移者のオッサンは更にズレた事を言う。
「そんなバカでっかい弓なんかを抱えてるからではないのか?」
「ぬかせ。あんたのボロ槍よりゃマシだろ。」
「ふん。確かにボロだが、コイツは命を捨ててまで俺を逃がしてくれた兵士の形見なんでな。誰が何と言おうが、手放す気はないぜ。」
「へえ?そりゃ悪かったな。だが、思い入れって事なら俺も同じだ。散々悪戯をして腕の腱を切られても、この五人張りの重藤だけは手放せなかったんだ。今じゃもう引けねえってのによ。その後、三人張りを引けるまでには回復したが、そこまでが限界だったよ。でも、だからって五人張りを諦めちまったら俺自身の事も諦めちまうみたいで…。」
「待て待て。頭が混乱してきた。五人張りだと?で、全盛期の力を失っても三人張りなら引けるってのか?お前さん、見た目通りの化け物だな。」
「そりゃ、お褒めに預かり光栄だがな。今の俺は過去に縋るだけの役立たずでしかねえ。」
砦長もドレイクも、保護して連れてきた兵士達も目を丸くしたまま黙ってやり取りを聞いている。
「三人張りを引ける腕力がある奴のどこが役立たずだ。丁度いい。お前さんも手伝え。」
「正気か?来たばっかりで疲れてるんだが?体だって怠いって言ったろう?一体何をさせようってんだ?」
すると砦長が口を開いた。
「術官長。彼の腕を治せるか?」
「!!」
ザイファーは耳を疑った。
―――砦長は正気なのか?こんな狂暴そうな奴の腕を治して、もし暴れでもしたら誰が止めるんだ?―――
少し考えてからザイファーは答えた。
「治せない…事もないですが、よろしいのですか?」
「構わん。このままじゃ一人残らず食われるのを待つだけだ。」
「…了解いたしました。」
「おい。何をしようってんだ?」
巨漢の表情に不安の色がありありと現れた。
「聞いた通りだ。あんたの腕の具合を解析して可能なら治す。」
「だから具体的にどう治療するんだよ?」
「良いからじっとしててくれ。」
ザイファーは、それ以上口を開かず巨漢の腕に右手をかざした。
確かに腕の腱が一度切られている。
「誰かに腱を繋ぎ直してもらったか?」
「まあな。いきなり縛りつけられて傷に酒をぶっかけられて沁みるったらなかったぜ。痛えけど腕がぷらんぷらんだったから暴れる事もできねえ。なすがままよ。結んどいたって言ってたな。」
「なるほどな。確かに良い処置だが、これじゃダメだ。結び目が癒着しきれてないから、力が逃げてしまうんだ。それでも三人張りを引けるのは相当な物だが。」
「治るのかよ。」
「まあ五分五分といったところだ。どうする?」
「失敗したらどうなるんだ?」
「そのまま…だな。今より悪くなることは無いとは言える。ただ、今のままでは、いずれ結び目が解ける…もしくは切れる。」
巨漢は少し考えこんでもう一人の転移者のオッサンに視線を向けた。
「三人張りしか使えなくてもあんたらの役には立つんだよな?」
「無論だ。」
オッサンの答えを聞いて、この巨漢は即答した。
「だったらやってくれ。成功すりゃ誇りを…失敗してもやる気を取り戻せるんなら言う事はねえぜ。」
「承知した。」
ザイファーは生き残りの…たった2人の魔術科隊員に医務室の確保を命じた。
部下が慌ただしく退室していく中、オッサンと巨漢が会話を続けているのをザイファーは横目で見ていた。
この二人には何やら通じ合うものがあったようだ。
「おうオッサン。あんた、おもしれえ人だな。名前を教えてくれ。」
「おいおい。他人に名前を聞く時は先ず自分から名乗るもんだろうが。」
「おっと。俺としたことがこいつはご無礼仕ったぜ。為朝。源為朝だ。よろしくな。」
「為朝か。じゃあタメって呼ばせてもらうぜ。某は郭淮だ。」
「郭淮さん…か。じゃあ俺はオッサンって呼ばせてもらう。」
「名前関係ねえ呼び方じゃねえか。」
カクワイと名乗ったオッサンがそう言いタメトモという巨漢と二人して大笑いした。
笑い声が治まるのを待ってザイファーは告げた。
「医務室の確保が確認でき次第、彼に野戦治療術を施術します。軍医長への応援要請は私の方でやっておきます。」
「了解した。宜しく頼む。」
砦長の返答に敬礼を返しザイファーはタメトモと共に医務室へ向かう。
パラライズの呪文は解除していない。
しかし施術後はそれも自動的に解ける。
いっそスリープの呪文で眠らせたままにしておくか。
どうせ施術中は両方の呪文を重ね掛けしておかなければならない。
そんな事を考えながらザイファーは足を速めた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「軍医長。施術の流れの説明をお願いします。」
「うむ。」
術官長のザイファーに促され軍医長グスタフは説明を始めた。
「まず腱の結び目付近を切開し腱を露出させる。一旦、結び目を解き手で両端を合わせる。その状態で治癒魔法をピンポイントに掛けて腱を接合、その際、どの治癒魔法が効くか分からんから複数試す事になるだろう。接合部の癒着具合から目を離すな。試した中で最も効果の高い魔法を以て完全に接合する。施術中は腕部の腐敗を防ぐため弱めの氷結魔法を常に掛けて低温を保つ必要がある。これは術官長に頼もう。パラライズとスリープでの麻痺状態を保つのは2人のどちらでも良いが…。」
「アンリにやらせましょう。」
「分かった。ではアンリ。よろしく頼む。そして腱の両端を持つのはマルセルがやれ。」
魔術科のアンリと医務科衛生兵のマルセルが同時に頷く。
「治癒魔法の試しと最後の切開部の接合は儂とグレンでやる。」
グレンは魔術科隊員…すなわちザイファーの部下だ。
よりによって一番まともな奴と一番の問題児だけが生き残ったなどとザイファーは漏らしていたが回復術師であり医師でもあるグスタフは、この砦に居る若い術師の中では一番の問題児ことグレンの能力を最も高く評価していた。
魔術師としてはザイファーの次点といったところだが、自分を諦めてしまっているザイファーと違って若いグレンには伸び代がある。
少々ひねくれてはいるが腕は悪くないのだ。
ドワーフの身に生まれて三百年。
患者も医師も色んな者を見てきた。
軍人か、でなければ技術職に進む者が多いこの種族の中で医療の道に進んだ自分はかなりの変わり種だとよく言われる。
しかし外科治療などは正に技術職の仕事だと言える。
はっきり言って職人技が要求される分野だ。
そういう意味ではドワーフ向きの仕事であるとも言えるのだ。
一つだけ難点があるとすれば人間や同じ亜人のエルフと比べて背丈が低い事だった。
そのおかげで診療台で施術するには箱馬か何かの上に立たなければならない。
現に今も箱馬に乗って患者を前にしている。
その患者が不意に口を開いた。
「良く分からなかったが要するに痛えのか?」
図体はデカいが気は小さい患者のようだ。
「眠らせた上で全身を麻痺させるから痛みは心配せんで良い。目が覚める頃にはすっかり治っとる。」
「そ、そうか。」
患者は納得はしたものの不安を拭いきれない表情でいる。
「ではアンリ。始めてくれ。」
「はっ。」
返事を返してアンリがスリープの呪文の詠唱を始めた。
他の者は全員、呪文の効果範囲から一旦距離を取る。
患者の表情には不安が貼り付いて強張ったままだったが、それも長くは続かず、やがて表情から力が抜けて鼾を搔き始めた。
グスタフは右手を翳して患者の脳波と心拍を確認した。
どちらも睡眠状態にある事を示している。
「よし。今度は麻痺状態だ。」
アンリがパラライズの呪文を詠唱しグスタフが手術用のナイフを手にしながらザイファーに目で合図を送った。
切開部の腐敗防止と出血抑制のため、先に患者の腕を凍らせる。
ザイファーの凍結作業と併行してグスタフは結び目の位置を特定し皮膚を切開した。
愛用のミスリルナイフは切れ味抜群だ。
凍っていても皮膚を切る事など造作もない。
「よし。開口部以外は解凍してくれ。腱もだ。」
「了解です。」
ザイファーが腕と腱を同時に解凍する。
こうした器用さがありながらザイファーは何故か自身を低く評価している。
もっと自信を持っても良さそうなものなのだが…。
グスタフは常々そう思っていた。
「どうだ?解けそうか?」
解凍された腱の結び目に手こずっているマルセルに声をかけた。
「いえ。手作業では難しそうです。どなたかに代わってほしいです。」
「グレン。代わってやれ。」
「…ったく。しょうがねえな。」
吐き捨てるようなグレンの口ぶりにマルセルはムッとしている様子だったが大人しく交代した。
グレンは何らかの呪文の詠唱を始めた。
まあ、十中八九念動系だろう。
きつく結わえられていた腱が嘘のようにするすると解けた。
「じゃあ。右腕に取りかかりますんで左腕の方は頼みましたよ。」
言ってグレンは右腕側に回り同じように腱の結び目を解いた。
そして自ら腱の切れ端同士を手で合わせて治癒魔法の試しを始めた。
「相変わらずせっかちじゃな。まあ良い。マルセル、しっかり持ってろよ。」
そのまま左腕の治療を続けていると、やたらと確信に満ちた口ぶりでグレンが言った。
「キュアポイズンっすね。一番くっつく感じがあります。」
「なに?ヒールでもコアキュレイトでもなく、か?」
「ええ。なんなら試してみてくださいよ。」
周囲は呆気に取られている。
それはそうだろう。
純然たる回復魔法や治癒魔法よりも毒消しの方が患部の癒着が早いと、通常なら有り得ない事をこの男は言っているのだ。
しかも僅かな時間で、それを見極めている。
傍目には、いい加減な仕事をしているように見えているかも知れない
堪りかねたのか直属の上司であるザイファーが会話に割り込んできた。
「いくらなんでも有り得ん!見間違いではないのか!?もう一度確認しろ!」
「何べんやっても同じですって!じゃあ冷却役代わりますから術官長もやってみたらいいじゃないすか!」
「貴様!その口の利き方はなんだ!立派な上官反抗だぞ!」
「静かにせんかっ!!」
グスタフの一喝に薬臭い処置室が一瞬にして静まり返った。
「術官長。他とアプローチは異なるがキュアポイズンにも治癒と回復の術式自体は組み込まれておる。患者の固有の体質や損傷部位など諸条件によって、たまたまこちらの方が相性が良かったなどという事は充分に有り得る。医学の世界とはそういうものだ。固定観念に囚われるな。グレンはそのまま腱を完全に接合しろ。儂の方も同様にやる。終わったら両腕の切開部を解凍し縫合の後、魔法に拠って接合。癒着の確認後、抜糸する。アンリは引き続き患者の睡眠と麻痺を維持。もう少しの辛抱だ。」
グスタフもグレンを真似てキュアポイズンの呪文を唱えた。
確かに癒着具合が良好だ。
本来、キュアポイズンの呪文は解毒が主目的だ。
一緒に組み込まれている回復と治癒の術式は刺激性の毒に対して体組織の壊死を防いだり回復したりするためのもの…つまり補助的なものに過ぎない。
自分ならまず思いつかなかっただろう。
神聖魔法でなければ治らん、とか、王都の寺院へ運べ、などと騒ぎ出していたかも知れない。
「グレン。」
グスタフの呼びかけに接合を終えたグレンがやや疲労感の滲む表情をこちらに向けた。
「良くやった。」
「いや。たまたまっすよ。」
傲岸不遜を絵に描いたようなこの若者の口から出たとは思えない言葉に、グスタフも厳めしい顔つきに不似合いな温かい視線を返していた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タメトモと名乗った巨漢が目を覚ましたのは陽も落ちようかという時間帯になってからの事だった。
砦長の命令で、ずっと付き添っていたドレイクは、ともすれば重力に負けそうになる瞼を叱咤激励しながらその時をただただ待っていた。
「起きたか?」
「あ…ああ。」
目覚めたばかりのせいかタメトモの反応は鈍い。
タメトモはしばらく天井を見つめ、そしてふうっと息を吐いた。
「俺はどのぐらい眠ってたんだ?」
「昼頃からずっとだな。そろそろ夕暮れ時だから、まあまあ眠れたんじゃないか?」
言いながらドレイクは皆が凶暴だと恐れるこの男と穏やかに話せている自分を不思議に感じていた。
「その間、ずっと付いててくれたのか?」
「命令だったからな。この後、軍議が開かれる。タメトモさんにも参加して欲しい。いけるか?」
「それで俺が起きるのを待ってたってワケか。そういやバタバタしてるとか言ってた気がするが戦でもおっ始まるのか?」
「ああ。しかも相手は人間じゃない。」
「ああん?」
「ここで俺がくどくど説明するより軍議を聞いてもらった方が早い。」
「そうか。なら早速行こうぜ。」
タメトモは寝台から飛び起きると例の強弓を担いで名を尋ねてきた。
「ここの守衛士長を務めているドレイクという。」
「そうか。よろしくな、ドレイク。」
「こちらこそ。」
軽い挨拶を交わしタメトモと共に小会議室へと向かう。
扉を開けると既に主だった人員十数名が着席している。
二人は後方の空席に腰を下ろした。
「よし。始めるぞ。」
砦長が口を開き、いつもの軍議が今日もまた始まった。
「翼竜は全部で5匹。これまでの傾向から襲来は決まって夜半、但し雷雨の時には現れない事が判明している。この事から雷が弱点ではないかと推察されているが、現状、効果は不明だ。これについてはザイファー魔術技官長から説明してもらう。術官長。」
砦長に促されて術官長が説明を始める。
「先程の砦長の説明にもあったように翼竜は雷が苦手なのは分かっている…が、効果は確認されていない。具体的には電撃系の攻撃魔法を明らかに嫌がる反応を見せるが、それが相手への損害に繋がるものなのか、音と光を嫌がっただけなのかは、まだ判明していないという事だ。ただし魔術科の方針としては今後も電撃系を推す事で一致している。普通科隊の諸君には引き続き術師の護衛で世話になる。宜しく頼む。私からは以上だ。」
「他に意見はないか?」
砦長の呼びかけに一人、手を上げる者が居た。
ドレイクの隣で難しい顔で聞いていた巨漢ことタメトモだった。
「根本的な事を聞くぜ。あんたらが言う翼竜ってのは一体何なんだ?」
「そうか、貴殿には説明がまだだったな。空飛ぶ巨大なトカゲ。これが最も的確な表現だろうな。」
「それが人間を食っちまうってのか?」
「そうだ。もう20人近く食われている。通常の矢では歯が立たない。貴殿の強弓ならば或いは効くかも知れんと正直期待している。」
聞いてタメトモは考え込むように黙って座った。
入れ替わるようにオッサンことカクワイが立ち上がった。
「某からも良いか?」
「どうぞ。」
「話を聞く限り屋内に居れば安全なようにも思えるが、それをせんのは何故だ?」
オッサンの場の空気を読まない質問に周囲の視線が一気に集まる。
その目は明らかに、今さら何を…と言っていたがドレイクにはカクワイの意図が分かった。
質問とその答えには恐らく意味など求めていない。
要はこの場に居る全員の覚悟を試しているのだろう。
オッサンは恐らくこの場に居る誰よりも実戦での場数を踏んでいる。
何の意図も無く軍議の場でこの様な質問をするとは到底思えない。
砦長も察しているようで、分かりきっている答を敢えて返した。
「そうしたいのはやまやまだが俺たちが屋内に引っ込めば被害が他の都市にいく。敵さんがこちらをご指名である以上、受けて立つしかない。」
全員、視線を向けたまま砦長の言葉に頷く。
カクワイも、ふっと表情を崩した。
「聞くまでもなかったな。砦長。あんた…。」
「な、何だよ。」
「やっぱ、すげえ良い奴だな。」
「ああ。よく言われるよ。」
「ふん。よく言うぜ。」
カクワイがそう返し、やがて二人して大笑いを始めた。
ドレイクにとっては既視感のあるこのやり取りに全員が釣られて堅苦しい軍議の場である小会議室が笑いに包まれた。
今、笑い合っている内の何人かが明日にはもう居なくなっているかも知れない。
自分でさえ今夜を無事に生き残れるか分からない。
だからこそ今、笑っておく。
今にも消えて無くなりそうな明日への希望を繫ぎとめておくために。
ドレイクも場の空気に心を委ねた。
「おっと、そうだった。」
笑っていたタメトモが急に我に返ったように真顔になった。
「どうしたんだ?」
ドレイクが聞き返すとタメトモはこれまた急に腕の治療に対する礼を述べ始めた。
「先生。それに他のみんなも。今なら分かるが俺の腕はすっかり元通りになった。本当にありがてえ。」
そう言ってタメトモは深々と頭を下げた。
「貴軍の御厚情に、この源為朝!心より御礼申し上げる!」
2mを超える巨躯から繰り出される所作は凄みというか迫力というか、とにかく身に迫る圧があり、全員が息を吞んでいた。
その静寂を破るかのようにオッサンことカクワイがゆっくりと拍手を始める。
そして割れんばかりの歓声と拍手が場の空気を一気に塗り替えた。
「タメトモさん、良かったな。」
照れくさそうに頭を上げるタメトモに声を掛けながらドレイクは思った。
荒々しくはあるが根は素直な人物なのかも知れない。
サムライ…。
海の向こうの別の大陸にそう呼ばれる戦士達がいるという。
もしかしたらタメトモのような人たちなのかも知れない。
見捨てられた小砦の番兵でしかない自分が見た事もない世界に思いを馳せている。
心のどこかで旅を求めている自分に気が付き、ドレイクは驚いていた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「嘘…だろ?」
人の姿が無ければ廃砦と見間違えそうなボーモン砦の城壁の上で、微かに曇った上空を見ながら砦長が言葉を漏らした。
無理もない。
これまで確認されていた翼竜は5匹。
しかし今夜飛来したのは、ざっと見ても10匹は居る。
割と低めの高度でぐるぐると旋回を続けている5匹が恐らくいつもの奴らだろう。
そして、それよりは少し高い所に居て同様に旋回している4匹はいつもの奴らより少し大きい。
一番高い所を飛んでいる一匹は他よりも更に大きく、夜間でもはっきりと視認できる。
恐らくこの群れのボスだろう。
「真打ち登場か。」
虚空を這い回る翼竜の影を目で追いながら術官長がやけに冷静な口調で呟いた。
術官長はこの砦の実質的な副官だ。
それはグレンも認めている。
ただ、自らを過小評価する余り、凡手に留まる様なところは、どうしても尊敬できなかった。
態度が正直過ぎて隊内の雰囲気を悪くしてしまうのは自分の悪い癖だとはグレン自身も認めている。
だが上司なら時には部下に死んでこいと言える覚悟も必要だ。
術官長にはそれができない。
いつものように効きもしない低威力の魔法を乱射しても何も打開できはしないのだ。
それよりは…。
魔力切れで食われてしまったフレデリックのように我が身と引き換えにしてでも敵を倒すという気概を持たなければ、いずれ全員仲良く翼竜の糞になってお終いだ。
もっとも、それをやるには、今となってはもう遅すぎた。
というより元々5人しか居なかった事を考えれば最初から無理だったと言えなくもない。
それでも諦めずに挑んだフレデリックは立派だ。
これまで特に仲が良かった訳でもないが同じく戦場に立つ者として、その最期は確かに惨たらしくもあったが同時に見事だとも思った。
そんな彼の渾身の一撃を浴びても翼竜を倒すには至らなかったが…。
いつもの5匹は旋回を続けながら徐々に高度を下げてきている。
いよいよ…か。
おかしな事には既に気づいていた。
フレデリックが「ファイアーボール」を意図的に暴走させて放った最後にして最大の一撃「バーン・アウト」が与えた傷が、いつもの5匹の中のどの個体にも見られない。
戦場で化け物の個体差など見極めようもないが、あの内のどれか一匹に彼の遺した爪痕があるはずなのだ。
翼竜が仲間の傷を回復させるなど習性として有り得ない。
そんな知能は持ち合わせていないのだ。
これが意味するところは…。
おかしなことは目の前で更に続いた。
城壁上に整然と並んだ弓列が上空を睨む。
その時、中段の4匹が雲間から覗いていた月を遮るような軌道で飛び始めた。
夜間の対空戦闘では目を潰されたのに等しい。
篝火も焚かれてはいるが圧倒的に光量が不足している。
どう見ても意図的な動きにしか見えない。
まるで人間…それもかなり喧嘩慣れした奴を相手にしているようだ。
そして唐突に視界を奪われた守備兵を餌に、今夜の宴が開催された。
「応射しろ!!魔術科はなるべく滞空時間の長い発光する攻撃魔法を使え!!攻撃よりも照明の確保が目的だ!!急げ!!タメトモ殿、いけるか!?」
自ら大楯を携え護衛班に加わった砦長が矢継ぎ早に指示を出す。
「おうよ!!」
グレンの隣に居たタメトモが応じ、虚空を切り裂くような弓鳴りの音と共に巨大な矢が放たれた。
直後、金切声のような雄叫びが小砦の城壁を震わせた。
呑気に弓兵を啄ばもうとしていた個体がのけ反った後、弱々しく羽ばたいたが、やがて少し飛んだ先で力尽きて落ちていった。
「あいつ、光ってなかったか?」
隣で訝し気に訊いてくるタメトモにグレンは雑に答えを教えた。
「俺の悪戯だ。気にすんな。」
「あん?」
「あんたの矢に暗所用の照明魔法を仕込んだのさ。気にせず撃ちまくれ。」
「魔法ってのはそんな事が出来るのか?たまげたぜ。」
この砦で初の撃墜記録に喜ぶ間もなくタメトモが2矢目をつがえる。
「まあ、数に限りがある物をバカスカ撃ちまくるって訳にもいかねえが…。」
引き絞りながら語りかけてくるタメトモの眼は既に次の獲物を捉えているようだ。
「これで役に立ってるってえなら…本っ!望っ!!だっ!!!」
限界まで引き絞られ、掛け声のような語尾と共に放たれた2矢目が、弓兵の群れに向かって急降下を始めた個体の首を貫く。
命中時の衝撃で体勢を崩した2匹目は弓兵達から大きく外れて城外へと墜ちていった。
照明魔法のお陰でその様子がハッキリと視認できた。
効果を確認したグレンは今度は翼竜自体に照明魔法を仕込んで回った。
魔力を持った生物に仕込むのだから、その維持に術者が魔力を消費する必要もない。
意図に気が付いた術官長とアンリも照明を仕込んでいく。
さすがにボスの居る高度までは届かないが、それ以外の全ての翼竜が小砦周辺を照らし始めた。
「おお!こいつぁありがてえ!」
タメトモが、すかさず3矢目を放ち、3匹目の翼竜が、自らが撒き散らした血と光に追われるようにして墜ちていく。
中段の少しデカい4匹が月を隠すのをやめて高度を下げ始めた…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
城壁の上の巻上機から降ろされたロープに矢束50本分を括りつけ合図を送る。
矢束が無事に上まで上がったのを見届けたら、その足でまた武器庫に矢束を取りに走る。
ロドルフと他10名は城壁の上で戦っている連中のために必死でその往復を繰り返していた。
城壁の上から時折、歓声が上がる。
”タメトモがやったぞ!"
”タメトモがまた一匹仕留めたぞ!”
”またやりやがった!”
「あっという間に3匹かよ。すげえな。」
走りながらロドルフは呟いた。
しかし、次に聞こえてきたのは歓声ではなかった。
”残った2匹がタメトモさんを邪魔してやがる!”
”あれじゃ避けるので精いっぱいだ!
”中段の4匹が来るぞ!”
”畜生!建屋を破壊しやがった!隠れる場所がねえ!”
”北側の巻上機もだ!”
”北側だけじゃねえ!他も狙われてるぞ!”
”クソっ!もう矢がねえよ!”
”北側の人員は退避!東西それぞれに合流せよ!”
どうやら状況が悪化し始めたらしい。
武器庫に着いたロドルフは持てるだけの矢束を持って西側の巻上機へ向かって駆け出した。
しかし頼みの綱の巻上機は無情にも残骸と化してロドルフの目の前に姿を表した。
2名ほど矢束を抱えたまま呆然と立ち尽くしている。
「馬鹿野郎!外階段を使え!足で運ぶぞ!」
ロドルフの怒声に2名が我に返り階段へ向かって駆けだした。
その後を追ってロドルフも駆ける。
息を切らしながら登り切ると全員がこの西側を放棄して更に南側に向けて後退しているところだった。
最後尾にドレイクとカクワイの姿があった。
大盾を前に翳しながら後退している。
カクワイが張り上げた大声が耳に飛び込んでくる。
「番兵!盾など捨てて走れ!殺られるぞ!」
しかしドレイクは盾を捨てない。
コイツ…先行している連中を安全に逃がすために盾と一緒に身も捨てる気だ。
一匹が大口を開けて急降下を始めた。
ロドルフは咄嗟に矢束を放り捨てて駆けだした。
「ドレイク危ねえっ!!」
肩からドレイクの身を突き飛ばし、そのまま転倒した。
カクワイ他数名がドレイクを引きずるようにして下がる。
「お前も早く来い!!」
カクワイらの怒鳴り声に急き立てられて身を起こした瞬間、ふっと身体が軽くなった。
大声で自分の名を叫ぶドレイク達の姿が急速に下へ遠ざかっていく。
それが最後に聞いた人の声だった。
鉄製の全身鎧が激しく軋んでいる。
今から自分の身に何が起こるか、ロドルフは完全に理解した…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ロドル―――――フッ!!!!」
絶叫が虚空に響き渡る。
「何やってんだ!早く来い!!おい!!コイツを引っ張るのを手伝ってくれ!!」
カクワイと他の兵士数名に肩や腕を掴まれ強く引っ張られた。。
激しく揉み合っていたその時、頭上から人の頭ほどの物体が落下してきた。
いや…。
金属特有の騒音を立てて足元に転がったそれは兜を被った人の頭そのものだった。
時が止まったかのように周囲が静まり返る。
ドレイクがひしゃげたバイザーをずらすと血塗れのロドルフが虚ろな目で空を見ていた。
「ロドルフ…。」
とめどなく涙が溢れる。
頬を伝って流れ落ちた涙が石造りの目地に染み込んでいくのを見た時、どうしようにもなく激しい怒りと虚しさに襲われ、ドレイクはロドルフの首を抱きかかえ吠えるように絶叫した。
「早く来い!!」
またしてもカクワイらに掴まれて絶叫を続けたまま後に引きずられる。
一匹がこちらに狙いをつけた、と誰かが叫んだが知ったことではない。
食いたければ食えばいい。
そう怒鳴ったつもりだったが、言葉にはなっていないのかも知れない。
「カクワイさん行こう!!もう無理だ!!あんたまで食われちまう!!」
他の兵士たちの呼び掛けにも応じずカクワイは自分を引き摺ろうとする力を緩めない。
「番兵!!馬鹿野郎!!身を盾にしてまでお前を救ったそいつの気持ちが分からぬか!!お前はまだ死ぬ事を許されておらん!!」
カクワイの力がより一層強くなった。
だがそれでも自分は動く気はない。
目の前に降り立った翼竜が大口を開けて迫る。
「カ…カクワイさん…。」
絶望…。
諦念…。
そんなような物が入り混じった声が兵士たちの口から漏れている。
二人を一気に啄もうとする翼竜の動きがやけにゆっくりと感じられた。
周囲を流れる時間そのものがゆっくりとしている。
「殺るならさっさと殺れ!!」
そう怒鳴った瞬間、突風が背後から自分の左耳を吹き過ぎた。
突風の正体は一本の巨大な矢だった。
それを喉の奥に突き立てられた翼竜が断末魔の叫びと共にどす黒い血を吐いて倒れていく。
「間に合わなかった…。済まぬ…。」
振り返ると巨躯を折り畳むようにして頭を下げるタメトモがそこに居た。
唐突に閃光が夜空を裂き雷鳴が轟いた。
半数を失った翼竜の群れが雷雨の空に掻き消えていく。
全身鎧を叩く雨粒の音がやけにうるさい。
今夜の宴はこれで終いのようだ…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「長い付き合いだったのか?」
「ああ…。」
タメトモが打ちひしがれているドレイクとそんなやり取りを交わしている。
ロドルフの首を抱えて座り込んだまま動かないドレイクに付き添っているタメトモが時折、声を掛けていた。
グレンも何故か兵舎に戻る気にはなれず雨の中を城壁上で過ごしていた。
「あんたのせいじゃないさ…。俺が…俺がカッコつけて変な意地を張らなければ…。」
タメトモは黙って聞いている。
グレンは戦況を振り返ってみた。
ひとしきりタメトモへの妨害を続けていた二匹をやっとの思いで追い払った後、カクワイのオッサンが一番高いところを飛んでいたボスを指差して言った。
「タメ、あいつだ。あいつがこの群れの眼だ。狙えるか?」
「無茶言いやがるぜ。まあ、やってみるけどな。」
そんなやり取りから放たれた矢は一直線にボスの影姿に吸い込まれていったがボスはただ悠然と飛行を続けるのみだった。
「駄目だな。当てるには当てたが完全に威力が減衰しちまってる。ぶち抜くのは不可能だ。」
「そうか…。眼さえ潰せればいけると思ったが…。」
あの時オッサンは眼とは言ったが指示役とか指揮官とは言わなかった。
もしかして俺と同じ結論に辿り着いたのか。
オッサンに聞こうと思ったが、あの後、西側に集中し過ぎた兵員を安全に後退させるためオッサンは自ら指揮役を買って出て慌ただしく行ってしまった。
そのオッサンが少し離れたところに立っているのに気付いた。
「そんなとこ居て風邪ひかねえか?」
声をかけ近寄る。
オッサンはじっと城下の景色に目を向けている。
雷光が閃き夜闇を照らした。
遠く離れた巨木に落雷し、巨木が左右に裂けて倒れた。
やや遅れて響いた雷鳴が消えるのを待ってオッサンが口を開いた。
「あれだけの衝撃が起きるなら矢弾に当てて飛ばせばとんでもねえ威力になりそうだな。」
「なんだよ。まだ親玉を狙う気か?」
「当然だ。もっとも、あれはただの眼だと某は思っているがな。」
「俺が話をしたかったのもそれだ。あれがただの眼だとすると、指示役が別に居ることになるが。」
「そうだ。某はこの世界の生物の事を全く知らんが少なくとも設備を優先的に潰すってのはトカゲが考える事じゃないってのは分かる。」
「翼竜じゃねえなら何だと思う?」
「ありゃ人間…それも攻城戦の経験が豊富な軍人の考える事だ。」
「同意するぜ。あの翼竜ってのは竜種の中でも最下層の存在だ。習性から言っても捕食以上の行動は見たことも聞いたこともねえ。」
「だが、そう仮定すると一つ問題がある。」
「問題?」
「あんな化け物を操れる人間なぞ本当に存在するのか?…という問題だ。」
「ああ、それなら問題ないぜ。魔物を使役する職種の人間は確かに居るからな。」
「なんだと?なら、そういう奴が近くに居るのは間違いなさそうだな。」
「ああ。そいつさえ討ち取れれば…。」
「まあ、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれまいな。」
「となると…やはり先に眼を潰すべきか。だが、今夜のでタメさんの弓の射程は向こうにもバレちまった。次は更に高度を上げてくるぞ。」
「それについては某にも考えがある。」
まさか、さっきの雷だろうか。
カクワイは自信ありげな笑みを浮かべている。
ただ雷の衝撃に矢が耐えられるという保証さえあれば、それは必ずしも荒唐無稽な案とは言い難い。
そして、その保証についてはグレンには心当たりがある。
「軍議の時に聞かせてもらえるんだよな?楽しみに取っておくから長居して風邪ひくなよ。」
笑みを返すカクワイに手を振り、グレンはその場を後にした。
そして外階段へ向かう道すがら沈んだ空気を漂わせている二人にも声をかけた。
「あんたらも早く戻りなよ。風邪ひくぞ。」
「…ああ。」
そう答えたもののドレイクは動く気配も見せない。
「なあドレイク。不快に思うかも知れんがロドルフは首だけになっても、あんたという親友の元に戻って来れたんだ。それだけは幸せな事だと思う。」
何を言い出すんだという顔でドレイクがこちらを見た…が、すぐに理解したのか視線を戻した。
「そう…だったな。フレデリック達の時は髪一本すら戻って来やしなかった。」
「ああ。明るくなったら埋めてやろうぜ。このまま雨曝しじゃ可哀想だろ。」
「俺もグレンに同意するぜ。彼を休ませてやろう。」
タメトモも頷きながら、そう言った。
「…そうだな。」
ドレイクがようやく重い腰を上げた。
「オッサン!アンタも早く戻らねえと風邪引くぞ!」
まだ落雷を眺めているカクワイにも大声で呼び掛ける。
兵舎に戻ったら、まず風呂に入ってゆっくりしよう。
明日は炊事方以外は全員非番で良いと砦長が言っていた。
今夜はタメトモのおかげで、これまでで最大の戦果を上げることができた。
だが同時に、一晩当りで最大の被害が発生した日にもなった…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「エルフェリアよ。汝に任せておる世界は転移者の流入によって中々面白い事になりそうであるな。」
「はっ。恐れ入ります。」
「それに引き換えメルケオンよ。汝に命じた特異点の消去はいつになれば朗報が聞けるのだ?」
「誠に申し訳ございません。現在、死者を一人、転生させて送り込んでおります。その者が特異点と遭遇すれば必ずや仕留める事でしょう。」
「それがいつになるのかを聞いておる。」
「エルフェリアの世界に影響が出ないよう偶発的に事を行なう必要があり…。」
「つまり分からぬと?」
「恐れながら…。」
「そのような不確定要素に頼らず汝が直接手を下そうとは考えぬのか?」
「それが…一度試した限りではありますが、彼の者に手を下すことはできませんでした。」
「なに?」
「彼の者は恐らく違う世界に於いても特異点のままです。」
「…メルケオンよ。分かっておろうな?我はこのままではいつ消滅するやも知れぬ。故に早急に代わりの器を見つけ出さねばならぬ。かつて熾天使の地位にありながら、謀叛を起こして我をこのような姿に変えた魔王ゼルアスと酷似した力を持つ彼の特異点は早急に消去せねばならぬ。それに、かつて滅ぼしてきた地母神アマリアのような異端の神々がいつまた復活せぬとも限らん。」
「はっ。」
「祈りがそうした者らに力を与える。我とて例外ではない。故に我のみを崇める者らを選別して他を滅ぼすような世界を作ってみたりもしたのだ。神は世界を創造した我のみ。これこそが世界のあるべき姿だ。この真理を忘れてはならぬ。良いな?」
「はっ。重々承知しております。」
「…ならば良い。朗報を待っておる。それ以外の報告は聞かぬ。」
「ははっ!」
4 配信の傍観者
アキヤマ「はい、どーもぉ!アキヤマでっす!」
カンネイ「カンネイです!」
ヘイゲン「ヘイゲンです!」
アキヤマ「はいっ!!いつものように始まりましたけどもww」
カンネイ「はーい。」
ヘイゲン「今日はまず、ご報告との事でしたが?」
アキヤマ「はいはい。まずは、お二人が所有しておられた水晶玉ですが、えー、つい先日、旅立ちました。」
カンネイ「おいおい。訃報みたいになっとるよww」
ヘイゲン「前日までは何事もなかったかのように我々とも会話を交わしたのですが…。」
カンネイ「お前もやめいww違うでしょ?そうじゃなくて『この世界の情勢を調査するために飛び立っていった』でしょ。」
アキヤマ「はははwwそーなんです!という訳で企画実行前の調査という事で最強ツールである水晶玉くんが不在という事でして、今回はまた動画実況の回になるんですが…。あれ?」
カンネイ「ピンポン鳴ってるね。一旦止める?」
アキヤマ「いやいや、このまま回しちゃいましょう。とにかく出ますね。は~い。…って、ええっ!?」
ヘイゲン「どうしました〜?…って、ギャル?」
アキヤマ「ええ〜と、どちら様ですか?」
ギャル「ちわ〜っす!コラボ募集って言ってたから来たんだけど?」
カンネイ「え?誰?」
ギャル「え?分かんない!?前々回あーしの動画見て『馬岱って馬鹿なの?』とか『最後ヒドかったね』とか散々言ってたじゃ〜ん。」
アキヤマ「ちょ、ちょっと待ってください?もしかして…もしかしてもしかするかも知れない今日このごろですが、ひょっとしてハルコさんっすか!?」
ハルコ「ピンポーン!てか、もしかしてとかひょっとしてとか単語被り過ぎでマジウケるんですけどーww」
ヘイゲン「てか、PC持参でご来訪ってマジコラボすか?」
ハルコ「マジマジ。」
ヘイゲン「てかアキヤマくんのPCとかあるし手ぶらで良かったんすよ?」
ハルコ「いやいや、あーし此処に住むから。」
アキヤマ「ええ!?」
ハルコ「てか帰れねーし。ここマジ異世界だよ。」
アキヤマ「…ま、住む住まないの話は後ほどにゆっくり、という事で!まずは、この度はコラボのお申し出を頂き!誠にありがとうございますっ!!実は今、回ってるんですよ。ささ、汚いところですがどうぞ上がってください。」
ハルコ「いや、ホント汚いし!靴で上がっても良いのー?」
アキヤマ「もう靴でも下駄でも足袋でもなんでも履いたままで構いませんっ!!どうぞお上がりくださいっ!!ささ!リビングの方へ!」
ヘイゲン「あ、待って。ハルコさん、顔出しは大丈夫なんですか?」
ハルコ「全然おけまる〜。あ、リビングだけは綺麗にしてんじゃん。やっぱ写るから〜?」
アキヤマ「まあ、それは配信者あるあるという事でww」
ハルコ「了解〜。」
アキヤマ「それでは皆さん!改めまして!ハルコちゃんネルの主様であらせられるハルコさんです!!」
ハルコ「ども〜。ハルコですぅ〜。」
カンネイ「いやいや、俺、さっきから固まっちゃってるんですけど?え?これマジ?」
ヘイゲン「マジレスするとマジなんですよ。」
カンネイ「うるせーよwwあービックリした〜!初めまして!カンネイです!」
ハルコ「どもども〜。で、今回は何やるの?」
アキヤマ「はいっ!!良いパスを頂きましたので発表致しますが!じゃじゃ~ん!!どぅるるるるるるるるるるる…」
カンネイ「いやドラムロールいいからww」
ヘイゲン「早くしてww」
ハルコ「ww」
アキヤマ「題しまして!緊急企画!果たして動画実況はPVを稼げるのか~~~~~~~~~~~~~~っ!!です。」
カンネイ「いや、だから動画視聴の回でしょww普通に言おうよww」
アキヤマ4「いえいえ、それだけではアリマセン!!スペシャルトーク企画!ハルコ様に突撃インタヴューっ!!」
ヘイゲン「いやいや突撃されてるのこっち側だからww」
ハルコ「マジウケるwwえ?普段からこういうノリ?」
ヘイゲン「いや。普段はめっちゃ仲悪いんですよ。」
ハルコ「ww」
カンネイ「こら~~~ww見てる人が不安になる事言うんじゃないよwwいや全然仲悪くないですからね。安心してくださいwwまあ今よりはテンション低めですけどねww」
アキヤマ「すみませ~んwwヘイゲンさん、いっつもこんな事ばっか言うんですよww」
カンネイ「ヘイゲンの話ばっかになってんじゃん。ハルコさんにお話を伺わないと。」
アキヤマ「そうでした!立て直していきましょう!!というワケで…って、どういうワケだかワケ分カンネイ!というヤツですが…。」
カンネイ「しれっと人のギャグ取んないでww」
アキヤマ「早速、再生してみましょう!」
カンネイ「あ、スルーしたww」
アキヤマ「ハルコさん、動画タイトルをお願いします!」
ハルコ「はい!タイトルは『終焉』で〜す。」
アキヤマ「おお〜、意味深ですね〜。さっそく回しましょう!ポチッとな!」
カンネイ「黒バックの画面に何か出てきたね〜。ああ、武田の割菱に織田の木瓜か。」
ナレーション「1582年。甲斐国天目山。重臣小山田信茂の裏切りによって遂に進退極まった武田勝頼主従一行は田野の地にて自害を決断。主君の最期の時を稼ぐため武田家中随一の剛の者、土屋昌恒が隘路に殺到する織田軍の前に立ちはだかった。」
アキヤマ「おお!土屋昌恒と言えば!!」
カンネイ「片手千人斬りの人?」
ヘイゲン「素肌攻めの人?」
カンネイ「お前が言うと下ネタにしか聞こえんわww」
ハルコ「ww」
ヘイゲン「あ、忘れてた。げえっ土屋昌恒!」
カンネイ「なんか長いな~ww」
ヘイゲン「げえっ土昌!」
カンネイ「どんな縮め方だよww」
ヘイゲン「げえっ屋恒!」
カンネイ「ヤカンて!!ww」
ヘイゲン「げえっ土恒!」
カンネイ「ドカンて!!wwお前、凄いよww一人の名前でここまで遊べるやつ初めて見たわww」
ハルコ「全然進まないんだけど~ww」
アキヤマ「これが彼らの平常運転ですwwさあ続き見ますよ~。崖道の上空から撮ってますね~。これは、やはり水晶玉をドローンのように使って…?」
ハルコ「そうそう。使ってってか、水晶玉の方で勝手にやってくれんだよね~。」
アキヤマ「やっぱ凄いですよね~。色んな機能が単体で完結してるって。さあ、そして…画が崖路に降りていきますね~。おお~。沢山の鎧武者が崖路を進んでますね~。その頭上を舐めるように水平飛行に移って…先頭集団の背後を追いつつ少し上から撮ってますね~。そしてその少し先にこちらを見ている鎧武者が!画面が止まって彼のドアップだ~~!」
ヘイゲン「げえっ屋恒!」
カンネイ「もう良いからww」
アキヤマ「もう武田家中随一の勇将がすっかりヤカン認定されちゃってますね~wwさあ再び画が動きましたよ~。しかし彼の立っている手前あたりから少し道が細くなっているぞ~!」
ヘイゲン「これは一人づつじゃないと無理だね~。」
アキヤマ「先頭の足軽が三間半の槍を繰り出した~っ!!突くだけでなく上下させて牽制!しかし土屋殿はどれも躱す!…おっと!身を捻って槍を脇に挟み込んだぞ!!そのまま強引に右側の崖下に落とした~~っ!!レッ〇フォールだ~~っ!!」
カンネイ「赤いアイツじゃないんだからwwピー入れといたからねww」
ハルコ「でも鎧は赤だから間違ってはないし~ww」
【鋭意執筆中!!】




