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アビスウォーカーズ  作者: 大野 タカシ
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第78話 スケイル・バスター

■A・W遊撃艦隊、旗艦エンタープライズ、艦橋


 タイタン・フットの防衛戦から一夜明け、グアム本島での補給を受けたA・W遊撃艦隊は、A・W-4が潜伏する海域へと向かっていた。

 その途上、旗艦エンタープライズの艦橋で、ウェルズ司令はタブレット端末の画面に見入っていた。表示されているのは、先刻受領した対A・W-4用の特殊兵装の諸元である。


 添付されている設計図と完成品の画像を見る限り、それは『ひっくり返した鍋』と形容するのが相応しい見た目をしていた。


 この兵器の構造は単純で明快だ。構成パーツは大きく分けて2つ、両脇に持ち手がついたリングと、その中心にはまっているドーム状に膨らんだ部品……10人が目にすれば、その全員が『鍋』と答えるだろう。

 ただし、その大きさは鍋の比ではない。リングの直径は80センチ、中心のドーム状パーツの高さはその倍に達する。鍋は鍋でも、業務用の大型鍋に匹敵するサイズだ。


 そして、この兵装の使用方法も単純明快だった。これを対象物に押し付けると、外周部分のリングから水中用接着剤が噴出し瞬時に凝固、対象にガッチリと張り付く。張り付き、固定されたことが確認出来たら、DSCVから起爆信号を送ってやれば、ドーム状パーツ内に詰め込まれた成形炸薬が爆発する。

 爆発のエネルギーは、モンロー・ノイマン効果によって一点に集中し、絶大な貫徹力を生み出すのだ。


 要は、戦車同士の戦闘で使用される成形炸薬弾を拡大・再設計したものだ。戦車砲の砲弾サイズの物でも、強固な装甲を貫通する威力があるのだ。それを大型化し、相手に貼り付けて――――つまりはゼロ距離で使用すれば、更なる破壊力を期待できる。


「成程な……。この兵装を多数搭載し、敵水中施設に破壊工作を仕掛けるDSCVを潜水工作員(フロッグマン)に見立てて『カエルの産卵作戦』か。よく言ったものだな」


 資料を見つつウェルズ司令が呟く。すると、傍らに立つジョンソン艦長がそれに答えた。


「スプラトリー海戦の初期、マディガン大尉はその作戦に従事したと記録があります。この水中用バンカー・バスターを装備したDSCV隊は、スプラトリー諸島の中国軍基地を急襲。海上に張り出す形で建設されていた滑走路の橋脚を破壊、敵航空戦力の封じ込めに成功。多大な戦果をあげています」


 ウェルズ司令は無言で頷く。


「ああ……強化コンクリート製の橋脚を破壊できるのであれば、A・W-4の鱗にも通用するだろう。『地下壕潰し(バンカー・バスター)』ならぬ、『鱗通し(スケイル・バスター)』という訳だ」


 そこまで言うと、ウェルズ司令は苦笑を浮かべつつジョンソン艦長を見やる。


「まあ、こいつが通用しなければ打つ手が無くなるからな。これで終わって欲しいと言うのが本音だが……」


「もし、スケイル・バスターが効かなかったらどうしますか?」


 ジョンソン艦長が問う。ウェルズ司令は深く息を吐き出し、答えた。


「悪足掻きはしてやるさ。コケにされたまま引き下がれるほど、物分かりは良くないのでね……。さあ、是非はどうあれ時はきた、間もなく目標海域だ、TFCCに移る。それと、準備出来次第DSCV隊を発艦させろッ!」


「アイ・サーッ!! 全艦水雷戦用意ッ! DSCV隊順次発艦、急げッ!!」


 ジョンソン艦長が復唱する。同時に、けたたましい武鍾が鳴り響いた。



■同海域、深度30メートル


 エンタープライズ、及び駿河より発艦した6機のDSCVが編隊を組み、海中を進んでゆく。海水は透明度が高く、海中に差し込む太陽光だけで十分な光量があり、ノーマルカメラだけでも周囲の状況を見ることが出来る。

 恭司は八式のサブカメラを動かして周囲を確認するが、魚影一つなく、不気味なほどに静かだ。やはりA・W-4が潜伏している為、他の生物は逃げたのだろう。


 周囲の確認を続ける恭司の耳に、無線から声が響いた。


『こちら021、瀬戸だ。間もなくA・W-4と接触すると思われる、全機警戒を厳にせよ。……023、真道三尉、それとイヴ君、体調は問題無いな?』


 南二尉の穴を埋める補充要員が来るまで、第1戦闘艇小隊の瀬戸二尉が臨時で『021』として編成されることになっている。現在の第2戦闘艇小隊は瀬戸二尉、宗像三尉、そして恭司の3名で編成されているのだ。


『こちら023。自分もイヴも体調は万全です、問題ありません』


 そう答えながら恭司は後部座席を振り返る。すると、補助座席に座るイヴが『ニコリ』と笑って応えた。

 南二尉の遺書と津川艦長の言葉に触発され、A・W-4との戦闘に備えて十分に食事をとり、十分に休んだのだ。その顔から疲労の色は消えていた。


 恭司もつられて口元が緩む。すると、今度は別の声が無線から聞こえて来た。


『こちらガーフィッシュ1。そいつは大いに結構だ! A・W戦には人魚姫の歌声が欠かせないんだ。昨日の事は気にするなよ、人魚姫には景気よく歌ってもらう、俺達は俺達の仕事をこなす。そうすりゃ今度こそ勝てるさ』


 いつもと変わらず、明るい声で語りかけてくるマディガン大尉に、恭司は謝罪の言葉を伝える。


「大尉、昨日はその……申し訳ありませんでした。取り乱してしまって……」


 南二尉がA・W-4に喰われた時、マディガン大尉は取り乱した恭司の八式を殴りつけて止めてくれた。その際、彼のハンマーヘッドはマニピュレーターを損傷していた(勿論、フレームの腕部パーツを交換し、今は問題なく稼働するようになっている)。


 すると、変わらない調子でマディガン大尉が答えた。


『気にするなと言っただろう。まあ、作戦行動中に取り乱すようなのは軍人としてどうかと思うが……俺個人としては、そう言う奴は嫌いじゃない。俺もスプラトリーで仲間を失った時には散々ブチ切れてな、周りに迷惑かけまくったもんさ』


「は、はあ……その、すみません。以後気をつけます」


 何と答えれば良いのか分らない恭司は、どもりながらもそう答えた。


『ハッハッハ! お前さんは昔の俺より物分かりが良いんだ、同じ間違いをしでかさなきゃそれでいい。さて、無駄口はこれで終いだな。ソナー感有り! 12時方向! UAVの情報通りだ、全機戦闘用意ッ!!』


 マディガン大尉の声が急に鋭く、緊張を帯びたものになる。同時に、恭司達のソナー画面にも巨大な影が映り込む。間違いない、この海域に潜伏していたA・W-4だ。


 恭司は背後を振り返り、叫ぶ。


「イヴ! 今度こそケリをつけるぞッ!!」


「うんッ!」


 褐色の少女は力強く頷いた。


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