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第五十話:死の谷

久しぶりに小説書いたら書き方がわからなくなりかなり迷走してしまいました(-_-;)汗


 ゲアンたち一行はマニトゥスと同伴することになった。養成所を後にするとバドの隣にぴったりとくっつくように並んで歩くマニトゥス。バドのもともと上がっている口角は下がることがないものの、こころなしか表情が曇って見える。彼は何かに警戒しているようであった。

「あなた達、“何で”養成所(ここ)に来たの?」

「船だ」

 愛想のいいバドが相手マニトゥスの顔を見ずに答える。

「へぇ~、そうなんだぁ」

 マニトゥスはなぜかうれしそうに、クスクスと貴婦人のように微笑した。

「なんかあの二人、距離が近くない?」

 訝るようにアークが、こっそりレミアに言った。

「……」

 沈黙で返すレミア。彼女の胸中も彼と同じであることが窺える。

 マ二トゥスははっきり言って美人だった。レミアとは真逆のタイプである。少女のように華奢ではなく背も高めだが、しなやかな身のこなしが大人の女性の色気を感じさせる。ヒールの高いニーハイブーツを穿いてちょうどバドと並ぶ背丈が、良い按配に見えてしまう。そこにちょっとした嫉妬を覚えてレミアは唇を噛んだ。マニトゥスは装飾品が多く派手でもあった。指輪やブレスレットを嵌め、耳には大振りなピアスをぶら下げ、首にはネックレスをかけている。背中の辺りまである長い髪は、豊かで艶がよい栗毛で、所々にメッシュが入っている。そこにゆるいウェーブもかかっているという凝りようだ。それだけでも美意識の高さが窺える。化粧も色彩の鮮やかなものを使用し、ぷっくりとした唇に塗った紅い口紅、くっきりとした目元の描き方が、ショーモデルのような印象を与える。ケバいとも言えるが、レミアはその華やかさに圧倒されつつ、警戒もしていた。

 しかし当のマニトゥスが興味を抱いたのは彼女ではなかった。

「こちらは?」

 もう一人の長身の男性を見てマニトゥスはバドに尋ねた。

「親友のゲアンだ」とバドが答える。

「どうも」とゲアンはマニトゥスに向かって柔和に微笑した。余所行きの顔だ。この微笑にドチュール王室務めの女たちがよく嬌声を上げている。

「はじめまして~」

 マニトゥスが目の色を変え、手で手をぎゅっと包み込むようにゲアンと握手する。

「かわいい子ね?」

 耳元でそう囁かれ沈黙するバドに、マニトゥスが付け足す。

「大丈夫よ、“あの子”には手を出さないから」

「……っっ」

 必要以上にバドに近付くその様子に、レミアはますます嫉妬の炎を燃やした。

「あの~オレたちの紹介は」

存在を忘れられていると思ったのかーー実際それに近いが、アークが気まずそうに、少しふて腐れた顔でバドに物申す。するとバドははっとしたように「すまん」と言って、まだ紹介していなかった仲間を紹介した。

「彼がアーク、彼女がレミア。ともに旅をしている仲間たちだ」

 簡素だが、ここでレミアとの関係性を明かす必要もないだろう。いろいろとややこしくなる。

「そう……」とマニトゥスは一応二人とも握手を交わすが、露骨に無関心な表情だった。すぐに彼らから視線が移動する。

「彼は“死に神”の件で同行することになったカザルだ」

「はじめまして~」と声色と表情を変えるマニトゥス。露骨すぎるその態度の変貌ぶりに戸惑うレミアとアークだった。何、この差……? とは二人の心の声である。

 カザルは「どうも」といたってクールな目で微笑し、マニトゥスに握手した。その手もマニトゥスがまた反対の手で包み込む。

「ふふふふっ」

「はははは……」

 まったりと長い握手に不吉なものが過るカザルだった。ようやく手を離すと、マニトゥスはまたバドの耳元でそっと囁く。

「“彼”もハンサムね?」

「……」

 その報告に再び沈黙するバド。

 マニトゥスがさらに接近する。

「でも、あなたが一番タイプよっ♥」とキスしそうな距離で言う。

「っ!?……」

 レミアの顔がまた引き攣った。今度は嫉妬で泣きそうになる。

 気付いたバドがすっとその場を離れて彼女(レミア)のもとへ向かう。

 そして彼から語られる衝撃の事実に、レミアは驚愕した。


「心配するな。マニトゥス(あれ)は“男だ”」

「え!?」

 口元に手を当てて目を瞠るレミアと、その横で話を聞いていて思わず叫ぶアーク。

「え~~!? どおりで女の人にしてはでかいと思ったぁ……」

 後半は口元に手を当てて、相手のことを尻目に窺いながら、声の音量を絞るアークだったが

「ちょっと。何話してるの、バド!?」

 マニトゥスの耳には届いていた。彼女(♂)はヒステリックに叫んでバドを見据える。

「……」

「嘘ついても駄目よ」

 黙り込むバドにずいずいと迫り寄るマニトゥス。

「まだ何も言ってないぞ」

 後退るバド。

「じゃあ“何を”話してたのよ、今」

 マニトゥスはバドの肩に腕を回して絡んだ。まるでしばかれているようなバドの図に、アークだけぷぷっと吹き出した。バドが白状する。

「マニトゥス(先生)が“男”だって……」

「っ……」

 途端発狂して顔面が崩壊するマニトゥス。

「ひっっどぉぉぉぉ~~い!! 何でそんなこと言うの~!?? あたしは“見た目”も心も完璧な女なんだから~~っ!!?」


 レミアとアークがポカンとする。顔芸のごとく変わるマニトゥスの表情と喜怒哀楽の激しさに付いていけなかった。


「何かもめてるな」

 少し離れた位置でそれを傍観し、事情を知らないカザルはそう呑気な感想を言う。

「……」

 その横にいて首を傾げるゲアンも同様のことを思っていた。


 バドが謝罪する。

「ごめん、悪気があったわけじゃないんだ……」

「じゃあなんでよ?」

「オレと先生の関係を皆に誤解されないためだ」

 マニトゥスの表情が固まった。かと思うとすぐ瞳が嬉々として輝き出す。

「って、やだぁ~それって誤解されちゃうくらいあたしが“女らしい”ってことでしょぉ?」と今度はご機嫌になった。

「見えるよな、“女”に?」とバドが真剣な顔で仲間に同意を求める。

「うん、見える見える超綺麗~、スーパーモデルみたい!」とアークが同意。その回答にマニトゥスは「うふっ」と満足げだった。

「じゃあ、あなたは?」とレミアにも期待を寄せたキラキラした瞳で尋ねる。するとレミアは半信半疑の眼差しで言った。

「本当に女の人じゃないの……?」

「キャー!」

 マニトゥスは甲高くない悲鳴を上げた。

「それって最高の誉め言葉じゃなぁい~♥♥ それってあたしが“女”にしか見えないってことでしょ? 嬉しィィ~~!」

 どさくさに紛れて、横にいたバドをギューッと抱き締める。なぜオレなんだ? とはバドの心の声。

 なかなかの締め付け感に

「……よかったな」と少しげっそりして苦笑いするバド。

「ありがとう~バド、大好きィ!」

 ついでにバドの頬にぶちゅっと接吻までするマニトゥス。

「……」

 彼女(♂)の正体を知っても尚、複雑なレミアであった。

「“パルファム2号”」(※第八話参照)

 アークはマニトゥスーー彼女(♂)にそう命名した。

 第二撃(接吻)を回避して、さっと顔を背けるバドに「そんなに警戒しないでよ。ただのスキンシップじゃな~い」とマニトゥスはニヤリ。バドの表情が雲って見えたのはどうやらこのせいだろうと仲間一同は悟った。





 死の谷は、先に立ち寄った魔物ハンター養成所と同じ大陸の秘境にあった。人も立ち寄らないような所で、徒歩で行くには距離があるので、一行は途中、貸し馬車屋で借りた馬で移動した。マニトゥスは愛馬、カザルは一人乗り、ゲアンとアークは相乗り、バドとレミアも相乗りである。年少の二人は普段馬に乗らないためそうなった。

 切り立つ岩山を越えるにはかなりの技術が必要だ。それを四人の騎手は巧みな手綱裁きで乗り越えて行った。その際後ろに乗っていたアークやレミアは恐怖との闘いであった。アークは半ばそのスリルを楽しんでもいたが、レミアは必至でバドの体にしがみついていた。普段なら彼に抱き付くことさえまだ恥ずかしい彼女だったが、この時ばかりはそんなことも気にしてはいられない。下手をすれば落下して命を落とす。そんな状況に置かれた彼女の心臓は終始躍動しっぱなしで、もはや何にドキドキしているのかさえわからなくなっていた。まだ続くの、この段差っ……!? その泣き言を胸中で何度も繰り返してから、ようやく先陣を切っていたマニトゥスが馬足を止めたことに安堵する。馬上で伏せていた顔を上げて前方を見ると森林の帳がそこにあった。

「北へ×××歩……」

 マニトゥスが何やら呟く。彼女もまたバドと同じく“絶対方角感知能力”の持ち主であった。目的地の地図はなく、彼女は方角と歩数で場所を暗記していた。マニトゥスがそこで下馬し、皆にも馬をそこで降りるよう促す。そこからは馬を引いて徒歩で進むことになった。

「“死の谷”はこの森の奥にあるわ」

「うわあ~すごい霧!?」

 アークがはしゃいで馬から飛び降り、森に足を踏み入れようとすると

「待って!」

「!?」

 マニトゥスが鋭い声で制止した。その声にアークはびっくりして足を止めた。すみませ~ん、と肩を竦めて引き返す。

「この森は一旦入ると、霧で目の前にあるものですら見えなくなってしまうの。方角察知能力のある魔物ハンターでなければ二度と出て来られなくなるわ」

「……そ、そうなんだ? じゃあみんな、バドにくっついてたほうがいいね」

 言ってバドの腕に掴まる。バドがそれでは歩きにくいということで、手に握り変えるアーク。その反対の手をレミアが握りたかったが、バドは馬を引くのに使っていた。そのためレミアは仕方なくアークと手を繋いだ。

「あなたたちはあたしにくっついてて?」

 マニトゥスがそう言ってゲアンとカザルの手を取った。

「離れちゃダメよ」と二人に自分の真横を歩くよう促す。

「じゃっ、行きましょうか」

 先程までの緊張感はどこへやら、両手に花と言わんばかりに、美男子に挟まれて上機嫌になるマニトゥス。三人は各自馬を引きながら仲良く(?)整列して歩き出した。

「××♪~」

 マニトゥスは唄うように歩数を数えながら進んでいく。これから“死に神 (じいさん)”に会いに行くとはとて思えない奇妙な光景だ。ツッコミどころ満載なマニトゥスであった。

 バンッ!

「ここだわ」

 体が跳ね返された衝撃を感知してマニトゥスはそこで足を止めた。それも魔物ハンターの能力の一つで、講師である彼女も習得している。卓越した者は敵の接近を感知したりすることもできる。今彼女が感知したのは、魔術師が空間に付けた印だった。微弱な磁気を発する魔力が流れていて、能力が低い者には察知できない。

「ここが死の谷よ」

「どこ?」

 アークが困惑して首を傾げる。そこには地面以外何もなかった。あえて言うなら地面にできた傷のような跡だろうか。草もろくに生えていない。

「死の谷は目視できないの」

 マニトゥス曰く、死の谷とは肉眼では目視できない場所らしい。それで存在しない場所、とバドは言ったのか。と一瞬だけ納得したアークだったが

「でもじゃあ、見えないのにどうやって行くの?」と即首を捻った。

 するとマニトゥスは不敵に微笑した。

「大丈夫。一歩足を踏み入れたら、そこが“死の谷 (いりぐち)”よ」

文中に名前が出た「パルファム」は、覚えている方もいるかもしれませんが、第八話で初登場したオネエキャラです。うふっ♥


あの人は今、、、

元気でやってると思います。多分w

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