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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
南の国『オキナ』
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くっ、殺せ

 アリゼは感じ取っていた。目の前の男が放つ膨大な魔力、圧倒的な迫力。それは今まで対峙してきたどんな相手よりも強く、重い。

 気を抜けばやられる。アリゼは一旦距離を空け、剣を握る手に力を込めた。


「ほら、かかって来いよ。怖気づいたか?」

「……安い挑発だ」


 二人は睨み合いを続けたまま動かない。互いの実力は未知数だ。どちらが先に隙を見せるか……しかしその我慢比べはすぐに終わりを迎えた。。


「じれってえ!」


 元々辛抱強い方ではない、雄介が先に動く。一歩で相手との距離をゼロにし、小手調べのジャブを放った。

 

「……あれ?」


 目の前からアリゼの姿が消え、戸惑いを覚える。アリッサの全速力でさえ目で追えた自分が、他の誰かの動きを見逃すわけがない。何かの魔法を使われたのか、と考えたその時。

 雄介の装甲が音を立てながら崩れ落ちた。


「あれれ?」

「……拍子抜けだ」


 背後から雄介の首元に刃が突きつけられる。いつの間にか後ろに回っていたアリゼは、冷たい声で淡々と語りかけた。


「素晴らしい力を持っている。この私が身震いするほどだ。それは誇っていい。しかし……力に溺れ、注意力や動きが緩慢になっている。私の刃を受け止めた時のキレが、今はまるでない」


 最強の力を手に入れたにも関わらず、あまりにもあっけない。雄介が思っていた以上に、アリゼはやり手のようだった。首筋の刃がギラリと光る。


「ガッカリだ。さあ……何か言い遺すことはあるか?」


 約束通り、本当に雄介の命を奪うつもりなのだろう。決闘で相手の命を奪うというのはさすがに前例がないことなのか、周りの騎士達が息を呑んだ。


「いいのかよ? 町民の命を奪ったりして」

「訓練中の事故、ということでカタが着く。それにしても……ここで私を揺さぶろうなど、情けないやつめ」

 

 アリゼは変わらず無表情のまま、最後の言葉を言い渡した。


「それじゃあ……逝け」


 わずか一瞬の間に刃は振りかぶられ、そのまま雄介の首元に吸い込まれてゆく。

 その場にいる誰もが、すぐ起こるであろう惨劇に備え、気を張っていた。しかし、それが訪れることはない。


「ふっふっふ」

「……な!?」


 珍しくアリゼが目を丸くし、驚いたような声を上げた。目の前に広がっているのは信じ難い光景。

 ……刀身がドロドロに溶けている。


「そりゃそうだろ。目の前で金属操ってるの見てなかったのか? 最初から俺がそうしなかったから、自分の剣は大丈夫とでも思ったか?」


 普通に考えれば誰でもわかることだった。金属を操る相手に剣で挑むなど、最強の騎士団長たらぬ失態だ。おまけに動揺からか、敵の間近でかなりの隙を見せてしまっている。


「俺みたいなトリッキーな相手と戦ったこと、なかったんだろ? ま、良い経験になったじゃねえか」


 アリゼの四方から液体状の金属が襲う。いくら機動力に優れていても、これは回避することができない。


「武装して攻撃するだけが能じゃねえのさ」


 金属はアリゼを覆い包み、カプセルのような形状で固まる。これにより、拘束は完了した。


「もしもし? 聞こえますか?」


 コンコン、と金属のカプセルを叩き、問いかける。中からはくぐもった声が聞こえてくるが、いかんせん何を言っているのか聞き取れない。


「んー、ならこんな感じでどうかな?」


 金属を操作し、アリゼの顔付近だけに丸い穴を開けた。中からアリゼが、屈辱に歪んだ表情で顔を覗かせた。


「窒息死と圧死。どっちがいい?」

「……っ!」


 雄介がそんな物騒なことを言い出した瞬間、周りの騎士達が剣を抜き、怒声のようなものを浴びせてくる。


「貴様! 団長を放せ!」

「うっせえ」


 雄介の手にかかれば剣はおろか、身につけている甲冑も思いのままだ。簡易的に周囲の騎士達を拘束、口元をハンダ付けするように塞いだ後、話を続けた。


「貴様……汚い真似を……もっと正々堂々と勝負しろ!」

「俺にとっては充分正々堂々なんだが? ……で? 俺の勝ちでいいな?」

「くっ! こんなもの!」


 中で必死に暴れるアリゼ。しかし所詮は素手、しかもほとんど身動きが取れない状態では力など入るはずもない。おまけに雄介の操る金属は、魔力によって強化されており、ビクともしない。


「くそ……先ほどより明らかに強度が上がっている……」

「まあこの方法が俺にとっては本命だったから。さっきのは一種のこけおどしってやつ?」


 雄介の表情が悪人のそれに変わる。


「で? 負けを認めんの? 認めないの? ……認めねえならあの騎士達、皆殺しにすっけどね」


 最近の雄介はだいぶ悪人が板に着いていた。何の躊躇いもなくそう言い放つと、アリゼの顔はますます苦悶に歪んだ。

 騎士団長としてのプライド、仲間達の命の狭間で揺れる。葛藤した末、アリゼは結論を出した。


「私の……負けだ!」

「ほう? なら、騎士達の命と引き換えに、お前の命は俺が預かるってことで問題はないよな?」

「くっ……殺せ……!」

「あ、今のもっかいお願いしまーす」

「……は?」


 まさか女騎士から実際にその台詞を聞くことができるとは……雄介は若干感動を覚えながらアリゼの拘束を解いた。


「ま、冗談はここまでにしとこうか。けっこうスリルあっただろ?」

「……何の真似だ」

「何の真似って……元々殺すつもりなんてなかったしな」


 雄介はアリゼに背を向け、出口に向かおうとする。納得の行かないアリゼはその肩を掴み、引き止めた。


「情けをかけられるのは騎士にとって最大の屈辱だ。互いの命を賭けた闘いに、私は負けた。このままでは私の気が済まない」

「じゃあ何? 俺が抱かせろって言ったら……大人しく股を開くのかい?」

「……っ、不本意だが、構わない」


 目の前の少女を好きにできると思うと、魅力的ではある。しかし雄介はフッと笑い飛ばし、肩を掴む手を振り解いた。


「遠慮しとくわ。お前を連れ帰ったら、うちの女どもが怖そうだ。特にソフィア」


 ふとソフィアの怒った姿がフラッシュバックし、雄介は苦笑いを浮かべる。そして去り際、アリゼに一言言い残した。


「もう勝負とかは受けねえからな! んじゃ!」

「待て!」


 再び追おうとするも、足が動かない。アリゼの足は雄介の操る金属により、縫い付けられるように地面に固定されていた。


「待て! まだ話は……」


 雄介が振り返ることはなかった。その後ろ姿はどんどん遠ざかり、やがて消える。


「ふざけるな……くそっ!」


 アリゼが騎士団に入ってから、初めて敗北を味わった瞬間だった。




 雄介は騎士団の訓練場を後にし、宿屋の仲間達の所に戻るべく街中を歩く。


「んー……そうだ!」


 問題も片付いたことだし、今日か明日中にはお別れする街だ。何か掘り出し物でもないだろうか、そう思い、雄介は少しばかり遠回りをすることにした。


「お、このお面良いじゃん……でも、なんかやたらいっぱいあるな……」


 途中立ち寄った店で気になったものがあり、足を止めてまじまじと眺める。太陽を模ったお面だ。相当の数があるが、これがこの店の名物というわけでもないだろう。雄介が不思議に思っていると、店主らしき老人が声をかけてきた。


「もしかしてあんた、他所から来た人かい?」

「ん? ああ、そうだけど」

「へぇー、珍しいね。ならぜひ、明日の太陽祭には参加してってくれよ」

「太陽祭?」

「そう。この街のお祭りでね。その昔、この街を襲った大魔獣を倒し、封印した伝説の英雄がいたんだ」


 雄介は「あ、これは長くなるな」と確信しながらも、話を聞くことにした。


「その名は、ヴィクトル。太陽から生まれ落ちたとされる、この国に伝わる伝説の宝剣『ゾルド』を使って魔獣を倒したことから、彼は太陽の騎士と呼ばれるようになったんだ。残念ながら彼はその時に命を落としてしまったが、そんな彼を称えるために、彼が魔獣を倒した日に祭りが開かれるようになった。それが太陽祭ってわけさ」

「へー」

「そのお面は祭りの締めくくりにみんなで踊る時に着けるもんなんだ。良かったら買っていってくれ。ああ、そうそう。似たような話で十年前にい起きた太陽の悲劇て話が……」

「金はここに置いておく。そんじゃ!」

「あ、ちょっと!」


 雄介は話が長引く前に、逃げるようにその場から立ち去った。

 走りながら先ほど聞いた太陽祭のことを考える。


(面白そうだな……出発は明後日でいいか)


 元々祭り好きの男だ。参加することは決定していた。






 雄介が去ってから数十分、ようやく拘束の解けたアリゼは、もやもやとした気持ちを抱えながら宿舎の廊下を歩いていた。


「くそ……あの男」


 雄介が鉱の魔石で地面をめちゃくちゃにしてしまったので、他の騎士達は本日、訓練場の整備ということで落ち着いていた。

 無論、団長であるアリゼには他の仕事もあるため、整備には加わっていない。

 

「……屈辱だ」


 ともかく、このままでは仕事など捗りそうにない。シャワーでも浴びて気分を切り替えようと、自室に向かった。

 脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入る。服装とは真逆の白い肌、スラリと伸びた脚、胸は……意外と着痩せするタイプだったようだ。


「はあ……」


 溜め息を吐きながら、シャワーの水栓を捻る。しかし……水は出て来ない。


「ん?」


 首を傾げながらキュッキュッ、と何度も繰り返すが、水はチョロチョロと垂れるばかり。これではシャワーなど浴びれそうもない。


「断水……? そんな報せは届いていないが……」


 一体なぜ水は出ないのか……少し落ち着いた今なら、答えを導き出せる。あの少年はどこから金属を出していたか。

 この近辺には鉄鉱の採れる場所など存在しない。砂鉄を利用したのか、とも考えたが、今のこの状況とは結びつかない。行き当たる答えは一つだけだった。


「水道管……」


 アリゼはわなわなと震えながら、声を絞り出すように呟く。


「あの野郎……」



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