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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
南の国『オキナ』
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騎士団長

 雄介が騎士達の前に立ちはだかり、道を塞いでいる。十数の鋭い視線に晒されても、一切その場を動く気配はない。


「邪魔だ! 道を空けろ!」

「は? ここは俺が通るんだよ。お前らが退けよ、群れて歩きやがって。シロアリかなにかですか?」


 皮肉をたっぷりと織り交ぜながら騎士を煽る。周りから悲鳴に似たような声が上がっているが、雄介は気にしない。予想通りこの騎士達の沸点はかなり低かったようで、先頭の二人が剣を抜いた。


「跪いて詫びろ、今ならまだ許してやる。さもなくば……騎士団への侮辱の罪で、切る」

「とりあえず雑魚は引っ込んでろ。勝負ならそうだな……そこのお嬢ちゃんを出してもらおうか」


 雄介は列の中央に控えている少女を指差し、そう言った。その瞬間、周りの騎士達がざわめき始める。

 やがて、先頭の一人が声を荒げながら雄介に迫ってきた。


「貴様! この方を誰だと思っている!」

「俺の予想だと、偉い人?」

「そうだ! この方は……」


 騎士が答えを言う前に、さらなるどよめきが起こり、意識はそちらの方へ。

 見れば、少女が列を抜け、雄介と話していた騎士のすぐ後ろまで来ていた。


「あ、あの……」

「退いてくれ」

「しかし……」

「いいから」

「は、はい!」


 少女と雄介の視線が交差する。


(空っぽ……だな)


 雄介の頭にたった一言、そんな言葉が浮かんできた。冷たく、どこか無機質な印象を受けるそれは、まるでガラス玉のようで。

 

「オキナ王国騎士団、団長のアリゼ・バスティードだ」

「え? あ、ああ」

「……貴様の名はなんだ?」

「ん? おっと……そうだったな、俺は雄介だ」

「……妙な名だな」


 アリゼの言葉で我に返った雄介は、アリゼの観察を始める。背丈は思っていたより小さく、およそ百六十センチほどだろう。筋肉の付き方は、腕を見る限りではそこまででもなさそうだ。

 ただしその佇まいは……。


「っ!? ……危ねえな。何すんだよいきなり」

「……ほう」


 達人そのものだ。たった今不意打ちで放たれた剣筋も、常人ならば反応することもできなかっただろう。

 しかし雄介はあまつさえ見切ったどころか、首筋に飛んできた刀身を人差し指と中指の二本で受け止めた。それには周りの騎士も驚いたのだろう、ガヤガヤと騒がしくなり始めた。


「問答無用で殺すつもりだったか?」

「貴様なら致命傷は避けると踏んでいた。まあ死んだなら……それはそれで構わないがな」

「さすが団長さんだ。人を見る目はありそうだな」


 二人の睨み合いが始まる。とは言っても、どちらも表情などは全く変わっていない。ただ発する空気だけが変わっていき、次第に周囲の人間に怯えが見え始めた。

 少しずつ雰囲気が重く、色濃くなってゆく。どちらも死線を潜り抜けてきたのであろう重圧。

 互いに引くことはなく、そのまま数十秒が流れる。


「……このままでは引き下がれん。貴様もそうだろう?」

「いーや? 俺は別に?」

「……食えんヤツだ。こっちはそういうわけにはいかない」


 アリゼは相変わらず無表情のまま、しかし心なしか不愉快そうに剣を引いた。緊迫した空気感は依然、続いているが、騎士達の何人かがなぜか胸を撫で下ろしているのが見える。

 しかし次の一言でさらに場の空気が沈み込んだ。


「貴様に決闘を申し込む」


 放たれる殺気が尋常じゃなく増し、雄介はさすがにたじろいだ。目を逸らせば殺される……そんな危機感を、この世界に来てから初めて覚える。

 しかし、虚勢、ハッタリはお手のもの。雄介はポーカーフェイスを貫き、それに答えた。


「俺が勝ったら何くれる?」

「……初めてだよ」

「ん?」


 こんな時だというのに「初めて……まさか処女という意味か?」などと馬鹿な考えが頭にチラつく。しかしすぐにそれは勘違いだということがわかった。


「私に決闘を申し込まれて、笑っていられた人間は」

「いや? これでもかなりビビってるよ? これは作り笑顔さ」

「抜かせ。その余裕で何を言うか」

「必死にカッコつけてんだよ。男の子だからな」


 そう言って再びニコリと笑ってみせる。すると、アリゼは通常時よりさらに平坦な声で言った。


「それで、勝負の話だが」

「おっとスルーですか? もしかしてちょっとイラっと来てる?」


 雄介の言葉をさらに無視し、アリゼは話を進め始める。どうやら図星のようなので、雄介は少し満足げだった。


「私に用意できるものなら、なんでも」

「へえ? そんじゃ」


 雄介は何の躊躇いもなく、とんでもないことを口にした。


「お前を貰う」


 その一言で空気が完全に凍った。どよめいていた騎士達や民衆はもはや完全に押し黙り、息を呑んでいる。

 それもそのはず。


「……私に対する最大の侮辱、と見てもいいな?」


 表情や声のトーンはそのままで、完全に憤怒していた。おそらく錯覚だろうが、地さえ揺らいでいるような感覚が雄介やその他の群集を包む。


「いや? 単純にお前が良い女だから、ちょっとな」


 全くフォローになっていない。次々と火に油をぶち込んでいく雄介。先ほどまででも多少の恐れはあったが、なぜ今この状況でここまで物怖じせずに話すことができるのか。

 内心ではもうどうにでもなれと思っているから? 違う。恐怖が一周回って逆に平気になった? ……普段ならありえる話だが、違う。


(あー、ソフィアにどんな服着せようかなー)


 考えること自体を完全に放棄し、現実逃避を始めていた。

 もう本能に身を任せるしかない。思考を放棄する寸前、そう考えたのだった。


 ――大見得切ったはいいけど……勝てなくね?――


 まさかの史上最大のピンチ到来。おそらく確率から考えてアリゼは加護持ちではないだろうが、普通の人間でディエゴより強そうな者がいるとは。

 大誤算を悔やんでいるうちにも話は進んでゆく。


「私が勝ったら当然、貴様の命は貰えるんだろうな……?」

「ん? おう」

「それじゃあ明日……正午、騎士団の訓練場にて待つ……必ず来い。来なければ草の根分けても探し出す」

「ん? おう」


 







 結局決闘は決まってしまった。最後の方はもはや「ん? おう」しか言っていない上に、雄介が我に返った時には目の前に誰もいなくなっていた。

 ……仲間達に格好悪いところを見られなくてよかった、とホッとしながら、雄介は人気のない路地に入る。


「ふう、よし……怖えなぁ」


 そして……。


「痛っっっっっっっっっっっああああああああああああ!!」


 アリゼから剣を放たれる数秒前、危険を感じてかけておいた『武芸極突』を解く。

 相変わらずこの技は反動が凄く、雄介は地面を転がりながら悶絶する。

 無闇に利用すれば間違いなく後遺症の残る諸刃の剣。これからも冒険を続けるのならばこの技は使えない。

 かと言って、これまでのようなだまし打ちが通じる相手でもなかった。


「ぬああああああああ!! どうすんだ俺ぇぇぇぇ!!」




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