雄介のディザスター
雄介はこの街の中心部であり、象徴でもある噴水広場にて一人佇んでいた。広場の四方と中央の五ヵ所から吹き上がる噴水が、太陽の光を受けて爛々と輝く。
マウルの西欧風の街並みに似合うその噴水も、見るものがいなければただの吹き上がる水。妙な虚しさを感じながら、雄介は晴れわたる空を見上げる。
「なんだろなー、この感じ……」
仲間と離れ、一人になることはこれが初めてではない。ならばなぜこんなにも胸がザワつくというのか、雄介はたまらなくもどかしかった。
「何していいかわかんねえ」
今まではただはぐれただけ……探しに行けばいつかまた会える、そんな希望が心のどこかにあった。しかし今回はその保証もなく、本当にこのまま戻って来ないかもしれない。
おまけにこれから自分はどう動けばいいかわからない。雄介は珍しく参っていた。
「つまらん!」
そう言ってゴロリと地面に寝そべる。こんな気持ちになったのは、そう……両親がいなくなった時以来だ。
その当時、事態がよく飲み込めていなかった雄介は泣くことはなかった。しかし幼心に物寂しさを感じていたものだ。
――じいちゃん! 父ちゃんと母ちゃん、いつ帰って来るんだ?
――んー……えとー……明後日?
「ごまかし方適当じゃねえか!」
昔のことを思い出し、思わず一人でツッコミを入れる雄介。クスリと笑いながら「ったくあのジジイは……」と呟く。
『両親はいつか帰って来る』。それが……『もう会えないかも知れない』に変わっていったのはいつの頃だったか、よく覚えてはいない。
「……あいつらと会ってから、まだそんなに時間経ってないんだよなー」
雄介は仲間達と出会った時のことを思い返した。
「ゴンちゃんが……この世界に来た直後で……ソフィアが……」
異世界に来てからの思い出が頭を巡る。日本より不自由なことも多いが、刺激的な毎日。
「ってこれ……つい最近似たようなこと考えてたっけな」
昨日のことだ。仮想の世界に飛ばされ、こうして異世界に思いを馳せていた。
「……ああー……」
完全に良くない循環に陥っている。同じ様なことがグルグルと頭を回り、前に進めない。
「ああ……」
前に進めない。
「あああ」
前に……。
「……」
――俺は前に進めない――
「ああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァ!!」
絶叫。雄介は飛び起き、全力で叫び続ける。
「ふっざけんなああああああああああああああああああああ!!」
雄介の口からミサイルが飛び出す。
「いええああああああああああああああああああああああ!!」
連射、連射、連射……。崩壊する噴水広場。
『虚空大爆殺』をこれまでにないほど連発し、瞬く間に噴水広場を焼け野原に変える。
ガコッと自らの顎をはめ、雄介は走り出した。
「くそがああああああああああ!! 返せええええええええええええ!! ゴンちゃぁぁぁぁぁん!! ソフィアァァァァァァ!! あとついでにアリッサァァァァァァ!!」
次いで、雄介の体が光輝く。『明滅破陣烈閃光』が周囲の建物を蒸発させてゆく。
「幽霊かなんか知らねえが!! 街ごと消し去ってやらあああああああああああ!!」
『助け……て……』
何か聞こえた気がするが、雄介は無視した。
「ぬあああああああああああああああああああ!!」
『たす……あの……』
聞こえない。
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
『あの……やめ……』
「聞こえるかぼけええええええええええええ!!」
『ええっ!? 聞こえてますよね!? やめてください!!』
完全に頭のネジが飛んでいる。ここ最近はやたらとまともだったが、ここに来て本来の自分を取り戻したようだ。取り戻した、というよりは人間的に成長していたのが再退行した、と言うべきか。
そもそもこの男は周りのことを考えて動くタイプの人間ではなかった。
この街の住人や仲間が消えてしまった原因は、おそらくこの声の主と関係あるのだろう。ならばこの声に耳を傾け、少しずつ問題を解決してゆくのが正攻法だ。
しかし……もう面倒になってしまった。
全部消せばなんとかなる。雄介お得意の『臭い物には蓋』理論だ。
「これで……」
テンション最高潮でのフルパワー。正しく雄介の最高火力。体は既にボロボロだが、そんなことは構わない。
空に浮かぶ太陽の様に、雄介の体を光が包んだ。
「最後だ!!」
全エネルギーが解放される。
「『究極・明滅破陣烈閃光』!!」
『い、いやあああああああ!! 誰か、助け……』
それは一瞬の瞬き。
結果として仲間達や街の住人は帰って来た。あの断末魔からして、亡霊も消え去ったのだろう。何かこの世に未練でもあったのかも知れないが、今となっては知る術も無い。
雄介は、話を聞いてあげるべきだったか、ほんの少しだけ後悔した。しかしそれも後の祭り。そんなことは十秒ほどで頭の隅に追いやり、雄介は行動に出る。
「……ねえ……ユースケ……?」
「ん? どうしたソフィア……ゴンちゃんとアリッサも、なんか言いたげだな?」
「……街が完全に焦土と化してたんだけど……あれって……」
「焦土と化す、か……そんな言い回しするなんて、ソフィアちょっと賢くなったんじゃないか? はっはっは」
「ごまかさないでよ!! そうなんだよね!? だからこうやって超特急で街から離れてるんだよね!?」
全力で逃げ出していた。さすがに罪悪感その他もろもろに耐えられなくなったのだった。
「まあ……街の人も無事戻って来たし? プラマイ……ゼロです!!」
「何勝手に完結させて……あっ、ちょ、ボクからも逃げようとするなぁー!!」
「はっはっは!! 捕まえてごらぁーん!!」
彼は、ヒーローにはなり切れそうにない。




