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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
南の国『オキナ』
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欲望と好々爺

「雄介! あんたはどんだけ寝れば気が済むの!」

「んーもう五分……あれ、デジャブだこれ」


 雄介が目を覚ますと、朝と同じように目の前に幸が立っていた。窓の外に目をやると、既に日は落ちており、真っ暗だ。

 時刻は午後六時半。鼻から息を吸い込むと、何やら食欲を誘う香りが鼻腔をくすぐり、雄介の腹の虫が大きく音を立てた。


「あー、そういや朝からなんも食ってねえや」

「ほら、冷めちゃうからさっさと下りて来なさい」


 そう言って背を向ける幸の後に続き、雄介は居間に向かう。するとそこで、またしても懐かしい人物と顔を合わせた。


「おお、雄介。お前今日学校サボッて警察に補導されたんだって? バッカだなぁ、父ちゃんならそんなヘマはしないぞ」

「ちょっとお父さん! あんたがそんなことばっか言ってるから雄介は……」

「はっはっはっは!」


 雄介の父親、俊介しゅんすけだった。中肉中背の、これといった特徴のない中年。昔と何も変わっていないことに少し安堵を覚えるが、やはりそれはおかしなことだ。

 この両親はおそらく本物ではない。加えてこの世界もまがい物だと確信しながら、雄介は食卓に着いた。


 


 

 

 翌日、雄介は朝ギリギリの時間に目を覚まし、学校へ向かう支度を整える。周囲の人間からすれば雄介が学校に行くのはいつものことだが、本人からすれば久しぶりのことだ。

 元より緊張とは無縁の人間だったが、気だるさは隠せない。冒険の日々から一気に現実に引き戻され、雄介は辟易していた。


「性に合わねえ……旅がしたい……」


 ブツブツと嘆きながら家を出る。制服からして、通っている高校は以前と変わっていないようだ。祖父の家から通うのと比べてだいぶ距離はあるが、バスに揺られながらゆったりと登校する。


「うぃーっす!」


 学校に到着し、雄介はいつもやっていたように自分の教室へと入っていった。教室内に見えるのは見知った顔ぶれ、異世界に飛ぶ前の『日常』。


 何事もなくその日は終わり、また次の日が来る。

 その次の日も、また次の日も……。


「雄介ー! 今日カラオケ行かね?」

「雄介くん、プリント運ぶの手伝って!」

「こら猿飛! お前掃除当番だろうが!」

「雄介、帰りに買い物お願い」

「雄介、学校はどうだ? 父ちゃんは今日な……」


 雄介、雄介、ゆうすけ、ゆーすけ、……ユースケ……。


 そして……二週間の時が流れた。


 手がかりや情報は一切掴めぬまま、この世界がまるで、あるべき現実かのようにさえ思えてきたその頃。

 代わり映えしない日々に、再び慣れ始めてきた時、とある衝動が雄介を襲った。


「金髪の美少女とイチャイチャしたい」


 そう呟いたのは金曜の夜、自室のベッドの上。

 いつだって少年を突き動かすのはちっぽけな欲望だ。雄介はソフィアの顔と、あの抱き心地の良い体を思い返し悶々としていた。


「あぁーソフィアとイチャイチャしたい。ゴンちゃんとボケツッコミがしたい。アリッサをからかって遊びたい」


 ゴロゴロと転がりながら己の欲望を吐き出してゆく。ここの生活も悪くはなかったが、いかんせん雄介には刺激が足りなかったようだ。


「帰る方法探してはいたものの……俺けっこうあの世界好きだったんだなぁ……行かなきゃ」


 気分を少しでも変えるために、雄介は今一度窓から飛び下りて外へ出た。警察に見つかったら間違いなく補導される時間帯であるが、そんなことは気にせずに夜の街を歩き出す。

 こんなこともあろうかと部屋に靴を常備していたため、今度は裸足ではないが、部屋着のまま飛び出したせいで若干の肌寒さを覚えた。

 それがむしろ思考をクリアにさせ、雄介の頭はいつにない速度で回転する。


「この世界が現実じゃないことは間違いないんだ……この世界は確かに何不自由ない……家族も友達もみんないる。でも俺の現実は間違いなくこんなんじゃない」


 パン、と自らの両頬を張り、雄介は気合を入れ直す。


「夢から覚めねえと。逃避はもう終わりなんだよ」


 今まで様々なことを試し、散々ダメだったが、雄介にはまだ一つだけ策があった。なぜそれを実行しなかったのか、それは、なぜかそれだけがポッカリと頭の中から抜け落ちていたから。

 

 辿り着いた先は、古びた一軒家だった。しかし雄介にとっては小奇麗な今の家よりも、こちらの方が馴染みがあった。

 裏口に回り、強引にドアノブを引っ張る。扉自体が老朽化しているせいか、裏口はたとえ鍵を閉めていたとしてもこうして無理やり開けることができる。それを知っているのは長く住んでいた雄介と……。


「爺ちゃん!」


 大声で呼びかけると、奥からドタドタと足音を立て、その人物は姿を現す。


「おお、やっぱり雄介か! 元気しとったか?」


 雄介の祖父、変わり者で有名な自称イケメン好々爺、正蔵しょうぞうだった。

 イケメンを自称しているにしては頭髪はツルツルに禿げ上がり、腰もだいぶ曲がっている。しかし元気だけはそこら辺の老人の三倍はあるだろう。


「爺ちゃん! 俺異世界に行って来たんだよ!」

「なに!? それは本当か!! 金髪の美女はおったんか!? エルフは!? 女騎士は!? 『くっ、殺せ』って本当に言うんかいの!?」


 このようにノリもかなり雄介に近い。見た目も中身もいつも通りの祖父に安堵し、異世界の土産話で場を盛り上げる雄介。

 いつの間にか日付も変わり、少しばかり落ち着いて来たところで本題を切り出した。


「ってわけでここはたぶん偽の世界なんだよ。だから早く仲間の所に帰りてえんだが……」

「ふーむ……難しい話じゃのぉ……」


 そんなことを言われたところで、正蔵も自分が偽の存在などとは思ってもいない。自分が現実だと思っているこの世界から抜け出す方法など、思いつきもしなかった。


 しかしそこで終わらないのがこの男である。


「雄介、確かお前、この世界に来る直前のことだけが思い出せないんじゃったな?」

「ああ、そうだ」

「なら……良い方法がある!」

「まじか! さすが爺ちゃんだ! で? それってどんな?」


 フフン、と不敵に笑い、正蔵は口を開く。


「それは……」






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