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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
南の国『オキナ』
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帰還?

「雄介! 早く起きなさい! 学校遅刻するでしょ!」

「んー……あと五分だけ……ん?」


 雄介は心地良い眠りから目覚めた。しかしすぐさま、それ自体がおかしいことに気が付く。

 昨日も野宿をしていたはずだ……こんなに寝床がフカフカなのは妙だ。

 しかも隣で眠っていたのはアリッサ一人。声の主は明らかに彼女ではなかった。


「学校……?」


 雄介が特に気になったのはその単語だ。この世界にも学校というものは存在するが、雄介に登校を促す者などいない。

 眠い目を擦り、ゆっくりと瞼を開ける。こちらを覗き込んでいる者は誰なのか……次第に焦点が合い、その姿がハッキリと雄介の瞳に映る。


「母ちゃん……?」


 その人物はやたら若々しく、高校生と言われても疑う者のいないであろうルックス。艶のある黒い長髪が目に付く、雄介がまだ5歳の頃に行方不明になった彼の母親、幸(サチ)その人であった。しかしそれに強烈な違和感を感じ、雄介はすぐさま飛び上がって辺りを見回す。

 そこは見たこともない部屋だった。しかしどこか懐かしい匂いを感じ、不思議な心地良さを覚える。

 雄介が先ほどまで寝ていたのは真っ白なシーツのモダンなベッド。自らの服装を確認すると、下は黒いジャージ、上は白い無地のTシャツ……自分の世界に居た頃、いつも寝る時に着ていたものだ。

 

 部屋にはテレビなどの家電が配置されており、この時点で雄介はある可能性に辿り着いていた。


「まさか、日本……か?」

「なーにわけわかんないこと言ってんの」


 目覚めてから挙動が明らかにおかしい息子を、呆れたような眼差しで見つめている幸。大方、寝ぼけているとでも思っているのだろう。

 チラリと時計の方に目配せをしてから、幸は雄介の腕を掴み、強引にベッドの上から引きずり下ろした。


「ほら! 朝ご飯できてるんだからさっさと来なさい!」

「いやいやいや! あんた一体誰なんだよ!?」


 雄介は引かれる腕を振り解き、叫んだ。母親は今も尚、行方不明のはず……目の前の女は、まるで毎朝そうしてるかのように雄介を起こしに来たが、そんなことはありえない。

 第一、自分は異世界で仲間とともに旅をしていた。再び魔方陣に飛ばされた覚えもなければ、次元の扉をくぐった覚えもない。自分が日本にいるのはおかしいことだ。


 その時、これは夢なのではないか、と考え付く。以前、異世界に召喚された時もその可能性を疑ったものだ。結局は全て現実の出来事であったが……。

 

 思考の最中、何気なく幸らしき人物を見やると、その表情が呆れから心配へと変わっていた。

 一体どうしたというのか、様子を窺っていると、彼女は躊躇いがちに雄介に一歩近づき、口を開く。


「どうしたの? まさか頭でも打った?」

「おっと、そこまでだ」


 雄介はそれを手で制し、ジリジリと後退りながら探るように話し始めた。


「質問に答えてもらおう。お前は誰だ? スクランの誰かか?」

「……ねえ、雄介……ホントにあんた、大丈夫?」


 目の前の女に問いかけても、オロオロと不安そうにしているだけで要領を得ない。


「埒が明かねえな」

「え? あ、ちょっと!」


 こうなったら自分で調べるしかない。そう判断した雄介は窓を開け、外へと飛び出した。部屋は二階、靴が無くとも着地の衝撃はそれほどでもない。

 ズザッと音を立てながらも無事に地面に降り立ち、その場から走り去る雄介。

 周りを注意深く確認しながら駆け回る。


「この感じ……夢じゃない……」


 走っていると息苦しさも感じる。あの時のように……夢という線はなさそうだった。

 

「しかもこの風景……」


 それは雄介が昔、家族三人で住んでいた家の近所の景色によく似ており、魔物もいなければ馬だって走ってはいなかった。

 試しに忍法を発動させようとしてみるも、何も起こる気配がない。


「どうなってんだよ……」


 まさか本当に異世界から帰って来たというのか。そうだとしたら仲間達に別れも告げていないではないか。

 頭にソフィア、ゴンザレス、アリッサの顔が浮かび、胸がズキリと痛んだ。


「ちょっと、そこの君」

「……ん?」


 そこで背後から突然声をかけられ、ゆっくりと振り返る。するとそこには、中年の警察官が怪訝な表情で立っていた。


「どうしたのこんなところで。靴も履かずに」

「あー、なんつうかその……」

「君、見たところだいぶ若いけど高校生? 学校はどうした?」


 完全に家出少年か何かだと勘違い……ではないのだが、この警官はどうもこのまま帰してはくれなさそうだ。

 情報を集めるため、流れに沿って生活してみるのも一つの手だと判断し、雄介はその後、警官の言う通りに警察署に連れられていった。






「本当にすみません! うちのバカ息子が……」

「ああいえ……息子さんも多感な時期でしょうから……」


 先ほどの警官と幸の会話を聞き流し、雄介は家に帰ることとなった。

 居間のテーブルの前に、雄介と幸は対面で座る。席に着くなり説教が始まったが、雄介はその全てを聞き流し、まず何を問うべきか考えていた。


「ちょっと! 聞いてるの!?」

「なあ、ちょっと真面目に質問していいか?」

「質問? そんなものは話の後にしなさい!」


 取り付く島もない……そもそも今からしようとしている質問は、普通の人間にとっては妙なものばかりだ。まともな返答が得られるとは思えない。


(面倒だけどやっぱり……自分で探るしかねえのか……)


 長い説教から解放され、雄介は自分の部屋に戻った。自分の部屋とは言っても、馴染みなど全くない見知らぬ部屋だ。

 ベッドに転がりながら、少しばかり現在の状況について考えてみる雄介。


「まず……眠りに就く前、俺は何をしてたんだ? よく考えたらそこらへんの記憶が曖昧だな……普通に、アリッサと一緒に野営の支度を……した、かな?」


 思い出せない。違うことについて考えることにした。


「この部屋はなんだ? ……もしあのまま父ちゃんと母ちゃんが行方不明にならなかったら、俺はこの家で育ってたわけだ。そしたらいつかは自分の部屋くらい持つ……その、『もしもの部屋』か?」


 どの道こうやって仮定していくしかない。雄介は母親である幸の姿を思い返し、とあることに気が付いた。

 先ほどまでは気が動転して気にならなかったが、容姿が昔と全く変わっていない。

 もしここが両親が行方不明になっていないIFの世界だとしても、それは明らかにおかしなことだった。


「んー……単に若作りの可能性も……これだから女はわかんねえよなぁ……」


 しかしそれも、父親を見ればハッキリするだろう。いくらなんでも父親まで十年以上姿が変わらないということはないはずだ。

 少しばかり頭を使ったためか、そこが柔らかいベッドの上だからか、自然に雄介の意識はそこで途絶えた。







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