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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
東の国『キオ』
47/59

雄介の企み

「グフッ……アリッサごときに一撃食らうとは……なんたる屈辱……」

「うう……もうお嫁に行けない……」

「心配しなくても、元から……」

「ああん?」

「なんでもない」


 調子に乗った結果、見事にアリッサに一撃を食らった雄介は、地面に転がりながら呻いていた。

 寸前で身を引いてダメージを軽減させたからこの程度で済んだものの、加護の力の恐ろしさを身を持って経験し、内心でアリッサの扱いを改めようかと考える。


「……とりあえず、この後どうすんのよ?」

「うーん……」


 アリッサの問いかけに、雄介はそのままの体勢で頭を捻る。話題は逸脱してしまったが、結局のところ話は進んでいない。

 するとそこでエマが二人に対し、おずおずと口を開く。


「あの……私のことは大丈夫ですから……お二人は旅の途中なんですよね? なら、もうここを出てください。これ以上留まっているとややこしいことになりますよ?」


 アリッサはエマを見つめ、真剣な表情で言葉を返した。雄介も服の埃を払って立ち上がる。


「そういうわけにはいかないわ」

「よし、そうしよう」

「「……ん?」」

 

 全く相反する言葉を発した二人は、互いの顔を見つめながら呆けた。しかし、一歩早くアリッサが我に返り、雄介に掴みかかる。


「アンタなに言ってんのよ!? エマのこと放っておくつもり!?」

「まあまあまあ落ち着いて」

「落ち着けるか!」

「正直なところ、もう考えんのめんどくなってきた」

「出たわねクズ発言!! またエマが狙われたりしたらどうすんのよ!?」


 そう言いつつもわかっていた。自分達の目的だってある上に、はぐれた仲間も探さなくてはならない。ここでエマを守り続けることは不可能だ。


「あはは……言っておきますが……私はここを離れるつもりはありませんから。あと……私のことについては、周りの人に説明しなくても平気ですから」

「エマ……」


 アリッサが気にしていたことについて、ことごとく先回りするエマ。 


「だいたい、説明しようがないじゃないですか。精霊になりました、で信じる人なんかいませんよ? ……周りの皆さんには心配をかけてしまうかもしれませんが、このままいなくなったことにするのが一番納まりが良いんですよ」

「……でも……」


 エマは必死に説得するも、アリッサは尚も煮え切らない。


「やっぱり……心配よ……」

「スクランの連中のことか?」

「ええ……あいつらにエマのこと知られたのはアタシ達のせいみたいなもんだし……」

「まあな。でもそれに関しては俺に考えがある」

「え?」


 雄介は辺りをキョロキョロと見回すなり、ポツリと一言呟いた。


「……そこだ」


 そしてほんの一瞬だけ『武芸極突』を発動させ、地面に拳を突き立てた。ズズンという大きな音を立て、地が割れる。


「痛つつ……やっぱりダメージでかいなこの技……」

『ちょ、いきなりなんてことを!』


 アリッサとエマが目を丸くして驚いていると、少し離れた場所からくぐもった声が聞こえてきた。どこか聞き覚えのある声にアリッサは顔を歪める。


「さっさと出て来い変態ドM女」

『私はえ、Mなんかじゃ……』


 やがて少し離れた場所で地面が盛り上がり、一人の女が姿を現した。


「久しぶりだな! マイダーリンよ!」


 ゴンザレスに風の魔法で吹き飛ばされていたはずの魔道士、ケイラだった。相変わらずの神出鬼没加減にうんざりしながらも、雄介は口を開いた。


「こいつにエマの護衛をさせる!」

「「ええ!?」」


 アリッサはおろか、エマまでも大声で驚きを露わにする。なんだか少し嫌そうなあたり、早くもケイラの変態性を見抜いたのだろう。


「ってわけでお前、この町に残ってもらうから」

「なに? ふざけるな! せっかくここまで追いついて来たというのに!」

「アリッサ、エマ、俺ちょっとこいつを説得してくるわ」

「え? いや、待て、そんな無理やり引っ張るな! ちょ!」


 雄介はズルズルと物陰にケイラを引っ張ってゆく。そしてエマとアリッサから完全に姿が見えなくなった所で、行動に移した。


「ちょっと待て……! こんな所で!? 私はその、初めて……あ、あ、いやっ、そんな……らめぇえええ!!」


 ――数分後――


「お待たせ」

「アンタ……何したの?」

「一線は越えていない……ギリで。だからセーフだ」

「アウトよバカ! 何したらこうなんのよ!?」


 アリッサの指した先には、ゼェゼェと荒く息を吐くケイラが横たわっている。

 着衣は乱れ、髪は汗でグショリと濡れていた。頬も赤く、目は虚ろで、言うなれば女の顔をしている。


「とりあえずこれで問題はない。さあ行こう」

「ありまくりよ! こんなので護衛が務まるわけ……あれ? でもなんか大丈夫な気も……」

「まあ今はこんなんだけど普段のこいつはなかなか強い。だから大丈夫!」

「はあ……」


 雄介はアリッサを強引に言いくるめた後、戸惑っているエマに向かってにこやかに笑いかけた。


「ってわけだから! エマちゃんもこいつと仲良くな!」

「あ、えっと……そもそもその人、私のこと見えないのでは……?」

「それに関しての対策はバッチリさ!」


 グッと親指を立てて胸を張る雄介。するとそこでアリッサがジトっとした視線を送ってきた。


「ねえ……そう言えば今気付いたけど……なんかアンタスッキリした顔してない?」

「ギクッ!」


 その顔はいつもよりどこかツヤツヤとしており、なんだか調子が良さそうに見える。

 目ざとくその変化に気付いたアリッサは雄介に歩み寄り、問い詰めた。


「一線云々って言ってたけど……その線決めってアンタのさじ加減一つじゃない?」

「いやーそれは……」

「説得にかこつけてアンタ……一体どんなことしたのかしら……?」

「……あー」


 旗色が悪くなってきた雄介の取るべき行動は一つだった。


「よし!」

「おっと! 逃げようったってそうは……」

「素直に話そうじゃないか!」

「え、あれ? 予想外だわ……てっきりアンタのことだから逃げ出すかと……」

「毎度それじゃワンパターンだろ? 趣向を変えることにした」


 いつもと違う反応になんだか嫌な予感を覚えたアリッサは身構えるが、雄介は何かを仕掛けてくる様子はなかった。

 しかし、その顔には含みのある笑みが浮かんでおり、何かを企んでいるのは明白だった。


「しかしいいのかな?」

「……なにがよ?」

「エマちゃんもいるというのに、俺が先程まで何をしていたのか語っても」

「な!?」


 こういう時はとことん下衆な男である。既に雄介は事の詳細をどうやって卑猥に伝えようかと頭をフル回転させていた。


「まず抵抗するケイラの口に……」

「ワーワー!! 喋んなバカァ!!」

「……っと、これ以上お喋りしてる暇は無さそうだ」

「え?」


 その時、雄介は遠くの方から聞こえてきた物音に気が付き、アリッサを黙らせた。どうやら頃合いを見計らって住人が様子を窺いに来たようだ。


「可愛い我が娘よ、お父さんはもう行くよ。また必ずどっかで会おう」

「もうっ! 最後まで子ども扱いして! ……ふふっ、はい。お待ちしてます」

「ああ、こいつが起きたら話を聞いてやってくれ。プレゼントを託した」

「え? はい。わかりました」


 雄介はエマと別れの挨拶を交わし、歩き出した。


「あ、えと……」


 アリッサも後に続こうとエマの前に立つが、上手く言葉が出てこない。しばらくオドオドしていると、エマの方からアリッサに話しかけた。


「アリッサさん。あんまり無茶はしないでくださいね? 体の具合が悪くなったら、すぐに私の診療所へどうぞ!」

「え? ああ、どうも……」

「いえいえ! アフターケアも医者のお仕事ですから!」

「……ふふっ」


 互いの顔に笑みが溢れる。それからは、アリッサも自然に言葉を紡いでいた。


「……アタシ、アンタのおかげでちょっと変われたわ。ケガ、治してくれてありがとう」

「どういたしまして! それでは……お大事に!」

「うん、バイバイ」


 笑顔で手を振るエマに見送られながら、雄介とアリッサは町から出る。

 遠ざかる街並みを時々振り返りながらも、一歩ずつ進んでゆく。

 二人の表情は対照的なものであった。雄介は次の目的地に思いを馳せ、晴れやかな表情をしていたが、アリッサは先程と打って変わって沈んだ顔で俯いていた。


「どうしたんだよ? 盛り上がってないのは胸だけにしろよ」

「……うっさい」


 ツッコミにキレがまるでない。いったいどうしたのかと首を傾げていると、アリッサが雄介の方を鋭い目付きで見上げてきた。


「……なんでアンタはそんなケロっとしてんのよ?」

「なんでって?」

「さっきはエマの手前、無理してるのかと思ったけど……エマはもう誰とも話せなくなったのよ!? 街だってメチャクチャにしちゃったし、罪悪感とかないわけ!?」


 アリッサは内心でずっと気に病んでいた。結局何もせずに放り投げてしまった現状、かと言ってどうにかできる力も知恵もない己の不甲斐なさ。それらを感情のまま雄介にぶつける。


「街に関しては……そうだな、申し訳ないと思う。でも誰が悪いかって言ったらスクランのアホどもだしなぁ……」

「街に関してはって、じゃあ……エマについてはどう思ってんのよ!!」

「そうだなぁ……これからちょっと不便だろうが……あの子ならなんとかすんだろ!」


 雄介の無責任な物言いに、アリッサの堪忍袋の緒が切れた。グッと脚に力が籠り、本気で怒鳴ろうと口を開く。


「っざけんじゃ……」

「ちゃんと精霊の力を抑えるアイテムも渡して来たしな」

「……は?」


 雄介がエマに託したプレゼント。それはケイラの手に握られた一つのネックレスだった。

 その効果は、以前ギャビンが持っていた精霊が目視できるようになるペンダントと対になるもので、精霊を強制的に人間の状態に戻すというものだ。

 エマが万が一精霊化した時の捕縛用としてディエゴがノアに持たされていた物を、雄介が強奪していた。


「ま、ホントになんとなく奪っただけなんだがな! 結果オーライ!」

「あ、アンタ最初の方ちょっと悩んでたじゃない! あれはなんだったの!?」

「いや、だから壊れた街のこととか……一応エマちゃんが精霊になったこととか皆に説明した方がいいよなーとか……まあ実際にはほとんど人間と変わらない状態で過ごせるんだけども」

「そう、だったんだ……」


 呆気に取られるアリッサを無視して、雄介は風船をポケットから取り出した。


「次はどこ行こうかねー……決めた! 南だ!」


 ワクワクしながら風船を膨らませる雄介をボンヤリと見つめながら、アリッサは口を開く。


「なんで南なの?」

「あったけえからだ!」

「……ふふっ、なにその理由?」


 雄介はいつだって単純な男だ。難しいことなど何一つ考えてはいない。

 

「読めないなぁ……ホントに」

「なんか言ったか?」

「んーん? 別に? 南だったわね、早く準備しないと置いて行くわよ? ユースケ!」

「あ、おい待て! ちくしょう上等だ! お前の全力疾走くらい、俺の忍法にかかれば余裕で……」


 アリッサが先を走り、雄介が追いかける。

 いつもと真逆なその光景、異なっているのは二人の表情も然り。



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